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22話


「副隊長、クリスが戻りました」

「わかった」


 知らせに来たアーロンと共に、部屋を出た。



 書類作成後、クリスの戻りを待っているうちに朝になった。

 なかなか戻らないクリスに、ジリジリとしながらも、迂闊に動くとクリスを危険に晒してしまう恐れがある為、動くに動けないまま、待つしかなかった。


 連絡ができるなら、連絡してくるだろうし、無いということは、出来ない状態にあるということだ。

 だが、もし生死に関わる事態になったとしても、その時は王太子ライアット殿下に瞬時に分かるようになっている。

 その連絡がないということは、大丈夫ということだ。


 これは、隊員にならなければ知らされないことだが、特務隊員になるとライアット殿下から魔力を分け与えられる。


 特殊な任務につくことが多い特務隊は、命が危険に晒される機会が多い。

 その為、命尽きる時があれば、分け与えられた殿下の魔力も消える為、殿下に、すぐに分かるというわけだ。

 膨大な魔力を持つ殿下ならではの業だが、あまりいい気をしない隊員もいる。

 だが、これは手足となって働く俺達への、殿下のせめてもの気持ちだろうと、俺は思っている。


 ジッとしていられなくて、集められた来訪者の資料や過去に現れた来訪者についての資料を、改めて読み直していると、アーロンが知らせに来た。

 急いで、執務室に行くと、疲れた顔をしているが、無事な姿のクリスが椅子に座り、水を飲んでいた。


「遅くなって、すみません」


 俺を見ると、すぐに立ち上がろうとした。


「いや、そのままでいい。大変な任務、ご苦労だったな。悪いが、すぐに話を聞かせてもらえるか」

「はい」


 ラーネス隊長も呼び、作戦会議となった。



「まず、来訪者ナツの行き先ですが、ユースフェルト公爵の別邸でした」


 クリスの言葉に、誰もが押し黙った。

 ユースフェルト公爵といえば、王族からの降嫁を受け入れている、王族との繋がりが強い貴族だ。


「銀髪のジークの影に潜んで別邸まで行きましたが、王宮並みの強い結界魔法の為、屋敷内には入れませんでした」


「公爵邸に、王宮並みの結界魔法だと?」


 王族との繋がりが強い公爵であったとしても、それはあり得ない、と驚いた。


「はい。報告の為、一旦、本部へ戻ろうと思いましたが、塀にも同じ結界魔法がかかっており、外に出られず、身を潜めておりました。 

見回りの兵の数も少なく、警備は一見、手薄そうに見えましたが、恐らく強い結界魔法で守られている為ではないかと思われます」


「逆に、物々しいと怪しまれるだろうからな。それで?」


 ラーネス隊長が、相槌を打つように、続きを促した。


「はい、次に外出する者を待ちつつ、外作業に出てきた庭師やメイドの影に潜り、情報収集した結果、来訪者ナツは、明日にも王宮へ連れて行かれるようです」


「王宮に!?」


 思わず声が出た。

 一番、危惧していたことが、現実になろうとしている。


「はい、マレージア様の王宮に行かれるようです」


「何故だ、行くならば、国王であるロベール王のところだろう」


俺の強い口調にクリスは、驚いた顔をみせた。


「そこまでは、分かりませんでした。ただ、マレージア様が来訪者ナツの力を必要としている、というような話を聞きました」


「ルイス、ナツは、何か力を持っていたのか?」


 隊長の問いに、


「いいえ、彼女は全く魔力を持っていません。俗に言う英知も、特別なものは持っていません」


 瞬時に答えながら、思った。

(いったいナツに、何をさせる気だ)

 不意に、先程まで読んでいた資料が頭に浮かび、嫌な想像が膨らんだ。


「あと、ジークとイゴについてですが、どちらも魔力的には軽微なようです。ジークの面倒な魔法も、対策を立てれば、十分に勝てる相手だと思われます」


「それについては、こちらでも考えている」


 隊長の言葉に、クリスは力強く頷いた。


「それと、彼らについて気になることがあります」


「なんだ」


急に歯切れが悪くなったクリスに、隊長が聞いた。


「2人は頻繁に別邸に出入りしているようで、屋敷の者達と気さくに話をしていました。 

赤い蜘蛛では、人の運搬に関わっていた2人なので、自分は、もっと凶悪なイメージを持っていましたが、どちらかといえば、真っ当な人間のようです。

自分達が行っている、赤い蜘蛛としての行動は、人助けなんだ、と思っている節がありました。

どんな人にもチャンスは平等にあるべきだ、と言って、」


「バカな」


「はい。自分もそう思います。ですが、」


 クリスの話に呆れたように言葉を吐いたラーネス隊長は、その場全員の顔を見るように見渡した。


「彼らがどのように考えていようと、行っていることは違法であり、犯罪だ。要らぬ考えは、持つべきではない。己の本分を忘れるな。

今後の捜索は、ユースフェルト公爵の屋敷、別邸の他、関わりのある者、建物を重点的に行う。 

相手は王族と繋がりがある公爵だか、気後れする必要はない。くれぐれも慎重に、無理だけはするな。

何かあれば、すぐに報告しろ。

来訪者ナツについては、彼女が王宮へ向かうとなれば、彼女の立場が大きく変わってくるだろう。 

そうなれば、我々の範疇外となる。 

今後のことは、ライアット殿下のご指示を仰ぎ決定する。

以上だ」


 そういうと、隊員達は一斉に大きく返事をした後、おのおの部屋を出て行った。


「殿下に伝達を、これから王宮へ向かう」


 事務方に指示を出している、隊長の背を目で追っていると、


「アルヴァンは、大丈夫でしたか?」


 クリスが、傍に来た。


「あぁ、かなり負傷していたが、口だけは、元気だったな」


「ハハ、そこは怪我しなかったんですね」


 クリスは、薄く笑い、真顔になった。


「宵闇市で、自分が囮になるからジークの影に潜れ、とアルヴァンが言うんで、奴の影に滑り込んだんですけど、相手に魔法が効かなくて。それをいいことに、アイツ、執拗に殴りやがって」


 ハッ、と怒りを逃すようにクリスは、息を吐いた。


「よく耐えたな」


「いえ、でも副隊長は、やはりスゴかったです。 

笑ってましたけどアイツ、かなり焦ってましたよ」


 そう言われても、ナツを奪われていては、意味がない。

 答える言葉も見つからず、視線を外すと、隣にラーネス隊長が来た。


「今回は、よくやってくれたな、クリス。 

これまで赤い蜘蛛の動きがなかなか探れなかった理由が分かった。 どこまで根が深いか分からないが、これからが正念場になるだろう。 

今日は休んで、明日から探索に加わってくれ」


「はい」


 クリスは、踵を鳴らして姿勢を正し、頭を下げた後、部屋を出て行った。


「どうした、ルイス。 お前も、探索に行け」


 ジッと佇む俺に、ラーネス隊長はそう言ったが、動けずにいた。


「今は、どうしようもない。殿下からの指示を待て」


「わかっています。わかっていますが、私も、同行させてもらえないでしょうか」


 これ以上、待っているだけは、ダメだ。

 耐えられそうにない。

 ダメ元で言った。


 ラーネス隊長は、ジッと俺の顔を見て、腕を組んだ。


「お前も知っての通り、特務隊は少数精鋭だ。 

アルヴァンがぬけて、クリスもすぐにはムリだ。 

新しい情報を得た今、すぐにでも部隊を編成し探索に行け、と言いたいところだが・・・、お前、今、自分がどんな顔をしているか、わかっているのか?」


 グッと、歯を食い縛った。


 何を言われようと、どう思われようと、どうでもよかった。

 今は、少しでもナツの元へ、ナツに関することに関わっていないと、頭がおかしくなりそうだ。


 はぁ、とラーネス隊長は、息を吐いた。


「わかった。 お前を連れて行く」


 バッと顔を上げると、


「ダメだと言っても、勝手についてきそうだからな」


 片方の口角をあげて、ラーネス隊長が言った。


「すぐに向かう」

「はっ」


 カッと踵を鳴らして姿勢を正し、敬礼した。


いつも読んで頂き、ありがとうございます

次の投稿は、来週になるかな(>_<)

早めに投稿できるよう、頑張ります

また、よろしくお願い致します


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