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21話


 かなり歩いた。

 流石は、王城というべきか、階段を上がったり、曲がったり、もうどうやってここまで来たのか分からないくらいだ。

 庭園が見える長い廊下を歩き、ようやく目的の部屋までやってきたようだ。


「私達はここまでです。中で第二王妃マレージア様がお待ちです」


 そういうと名残惜しそうに男性は私を見た。


「私も、来訪者様の護衛につけたこと誇りに思います」


 と後ろにいた男性が言った。

 居たたまれないくらい2人の熱い視線に、


「あ、ありがとうございます」


 とりあえず笑顔を作ってお礼を言うと、2人は崇拝する信者のように、私に恭しく頭を下げた。


 大きな観音開きのドアをノックした後、メイドによって室内に招き入れられた。

 大きな部屋の奥にまたドアがあり、


「マレージア様。参られました」


 案内のメイドがそういうと、中から別のメイドが現れ、ドアを開けた。

 中に入ると、藍色の長い髪が艶やかな美しい人が立っていた。


「待っていました、来訪者ナツ」


 アメジストのような澄んだ瞳に、柔らかい笑みをのせて、今にも抱きつかれそうな勢いで出迎えられた。


「大変でしたね。よく来てくれました。さぁ、どうぞ、中へ」


 明るい日差しが差し込む広い室内に置かれた大きなソファに、マレージア自らが案内してくれた。


 ここに着いてからの人の反応が想像していたものと、あまりにも違い過ぎていて、どんな態度でいればいいのか分からない。

 促されるまま、ソファに座った。


「わたくしは、第二王妃マレージアです。来訪者ナツ、大変な目に合われていたと聞きました。よく無事で、本当によかった」


 アメジストの大きな瞳が細められ、本当に心配していたというように見られた。

 公爵は、いったいどんな風に伝えたのかと疑ってしまうほどで、ちゃんと答えようと言いかけると、メイドが紅茶を持ってきた。


「ユースフェルト公爵から、来訪者ナツのことを聞いた時は、また新たな来訪者が、この国に来てくれたのだと本当にうれしく思いました」


 今度はニッコリとほほ笑まれた。


(美人の笑顔ってスゴイ、眩し過ぎるっ)


 でも、さっきの男性達といい、私への歓迎ぶりに正直、困惑しかない。


「さぁ、どうぞ、暖かいうちに。カモミールはリラックス効果があるんですよ」


 ドギマギする私を促すようにマレージアが紅茶を飲んだ。

 カップを持ちあげて飲む、その仕草はとても洗練されていて身分の違いをまざまざと見せつけられたような感じがした。


(やっぱり、お貴族様と私では、違うのね)


「カモミールの紅茶はお好き? 来訪者ナツのおられた世界はこちらと違って、随分と文明が進んでいるのでしょう。この紅茶はあるのかしら?」


 身分の差というものに戸惑いを感じていると、マレージアに話しかけられた。


「わたくし、この紅茶が好きで、毎日、飲んでおりますのよ。気持ちが、すごく落ち着いて。そう、リラックスする効果があるんですのよ」


返事をする間もなく会話が流れていく。


「急にこちらへ来られて、驚かれたでしょう。来訪者ナツのおられた世界と同じようにとは参りませんが、これからは、この王宮でゆっくりと過ごされるといいですわ。

必要なものがあれば、すぐに用意させるので、」

「あ、あの、マレージア様」


 口を挟むのは気が引けたけれど、黙っていたらこのまま勝手に話が進んでいきそうで、声を上げてしまった。


「お話し中に、申し訳ございません」

「・・・かまいません。どうしましたか?」

「あの、まず、来訪者ナツではなく、ナツと呼んでください。それと、お伝えしなければいけないことが、ございます」


 そんな大層な人間じゃないのに、マレージアが何度も、来訪者ナツと言うので、むずがゆくなってきた。

 それに、ここに来てからの歓迎ぶりやマレージアの対応は、偏に、私が英知を持つ来訪者だからだと思っているから。

 それなら、早く本当のことを言っておかないと、大変なことになってしまいそうだ。


「マレージア様のお気持ちは有り難いのですが、私は、ここでは暮らせません」

「なぜ?」


 マレージアは、理解できない、といった顔で聞いた。


「私は来訪者ですが、英知を持っていないんです。こちらでお世話になる資格を持ってないんです」


 マレージアは、呆気にとられたように目をパチパチと瞬かせ、そして、笑い出した。


「・・・クッ、フフ、フフフ」


 でも、その笑い方は、流石は高貴な人、と思わせるほど上品な笑い方だった。


「心配しなくても大丈夫ですよ、ナツ。あなたは十分に、資格を持っていますから」

「えっ?」


 青天の霹靂のような話に、今度は私が目をパチパチと瞬かせることになった。


「そうですね。もう少し落ち着いてからと、考えていましたが。実は、貴方にしかない特殊な力を、わたくし共に貸してほしいと思っているのです」

「特殊な力?」

「はい、魔力を抑制する、もしくは、魔力を吸い取る?、そのような力です」

「・・・そんな力、持ってません」


 私の言葉に、マレージアは、嬉しそうに笑った。


「使ったことがないのね。それは、よかったわ」


 すでに持ってることになってる。


(そんな力、あるわけ無い。あったら私自身が知ってるはずだもん)


「その力で、どうか、私の息子、ライアンを救ってもらいたいのです」

「救う?」


 いきなりの力の話に、いきなり救ってほしいなんて、意味が分からない。


「私の息子、ライアンは幼いころより、ずっと強すぎる魔力に苦しめられているのです。どうか、ナツ。ライアンを救うのに力を貸してほしい」


 マレージアは潤んだ瞳で、じっと私を見つめて懇願してくる。


「わ、私、そんな話、今、聞いたばっかりで、とても信じられません」

「それは、そうかもしれないわね。でも、持っているのは間違いないわ。あなたは来訪者なのだから」

「来訪者なら誰でも持っているんですか?前にいた来訪者の人、みんな持っていたんですか?」

「・・・、そのはずよ」


(今、間があったけど。えー、ナニそれ、眉唾すぎるよ)


「だったら、先に、私にその力があるかどうか、調べてもらえますか?」

「・・・えぇ、いいわ」


先程と変わらない素敵な微笑み。

だけど、信じられない。


「もし、私に、そんな力があるんだったらお力になります」

「そう、ナツありがとう」


 マレージアは、眩い笑みと共に潤む瞳をさりげにハンカチで抑えた。

 すごい温度差を感じるけど、とりあえずはホッとした。


「その、強すぎる魔力で、そんなに苦しくなるものなんですか?」


 疑問を、そのまま聞いてみた。

 ルイも魔力が強かったけど、苦しんだりしていなかった。


「王族が、王族である由縁を知っていますか? ナツ」


 急に、マレージアが真剣な顔で言った。


「いいえ」


 首を振って答えると、マレージアはひどく真剣なかおになった。


「王族は、他の貴族達と比べて圧倒的に魔力が強いのです。その強い魔力があるからこそ最たる物として、この国を長く治めてきたのです。ですが、強すぎる魔力には弊害があります」

「弊害?」


 私の言葉に、マレージアは深く頷き、重大な話をするように淡々とした口調で言った。


「強すぎる魔力は、人体に影響します」

「えぇ、人体!」


 流石に、これには驚いて、声が大きくなった。


「己自身だけでなく、周りの者にも影響があります。

ですから、強い魔力に耐性のある者しかライアンの側におれません。それでも、ずっとは無理なので、所用のある時だけ。ライアンは、常に1人なのです」


 常に1人、その言葉にグッときた。

 ずっと1人でいることが、どれほどの孤独か、それを思うと、出来れば力になろうと思った。


(本当にあるかわからないけど。自分的には無いと思うけど。でももし、あるなら知りたいな)


「ナツ、よければ。これから、ライアンに会ってくれないかしら」

「え?」


 マレージアが名案を思いついたとばかりに、両手を胸の前で合わせて言った。


「見舞うだけ。短時間なら大丈夫よ。きっとライアンも喜ぶと思うの」


(今、魔力耐性のある人じゃダメって話じゃなかった?)


「でも・・・」

「普通の人でも短時間なら大丈夫なのよ。そういえば、来訪者はもともと魔力を持っていないんだったわね。だったら初めから影響ないんじゃないかしら。ね」


 軽く首を傾げて、私に向けられた満面の笑み。

否定はありえない、と言わんばかりの顔。

 仕方なく私が頷くと、マレージアはまた眩い笑みを浮かべた。


いつも読んで頂きありがとうございます

次の投稿は、来週になります

また、よろしくお願いします

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