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19話


「ここは?」


 目を開けた時、目に飛び込んできたのは、天蓋に散りばめられた、金銀の星々の模様。

 自分の部屋の薄茶けた天井と違って、豪華すぎる天蓋に、すぐに知らない場所だと分かった。

 起き上がって周りを見渡すと、薄暗い室内は驚くほど広く、とても静かだった。


(私、どうしたんだっけ? あ、ルイは。ルイと一緒にいたのに)


 不安から胸がドキドキしてきた。


 厚いカーテンがひかれた大きな窓が3つあり、外を見ようと、ベッドから降りようとした。

 でも、スプリングがきいたベッドは、大き過ぎて、体をずらすようにして降りた。


 ゆっくりと窓に近づく。

 置かれている大きく長いソファや、1人掛の大きなソファ。

 重厚感のある大理石のテーブルや、厚みのあるフカフカな絨毯に、チェストには色々な調度品が飾られ、どれを見ても超一流品だろうと思われた。


(いったい、ここはどこなの?)


 自分には、場違いな場所過ぎて、家に帰りたくてたまらない。

 恐る恐るカーテンの隙間から外を覗くと、眼下に庭園が広がっていた。


 太陽の光に照らされ、青々とした緑に、色とりどりの花々が咲いている。

 蝶がヒラヒラと舞い、鳥が気持ちよさそうに飛んでいった。


 穏やかに流れる時間の流れに、今の自分とのギャップが恐怖感を煽ってくる。

 よくわからない状況に、叫び出したいような衝動に駆られた。


 コン、コン、コン


 ノック音がして、心臓が飛び上がった。

 カーテンにしがみつくようにして、振り向くと、ドアが開いて、水色の髪の1人の女性が入ってきた。


「お目覚めですか? お嬢様」


 お嬢様? と思って目だけを動かして、周りを見た。

 当然だけど、私以外、誰もいない。

 女性を見ると、私を見ていたので、私の事を言っているのだと、分かった。


 普段、中年女性の姿をしているから、おばさん、と呼ばれる事はあっても、お嬢さん、と呼ばれる事はない。

 そして、気がついた。

 姿が、黒髪の本来の姿になっている!

咄嗟に、自身に魔法をかけようと胸に手を持っていって、魔石がなかったことに、激しく動揺した。


「お嬢様、ご入浴のご用意が出来ております。よろしければ、ご使用くださいませ」


 水色の髪の女性は、私に驚くことも、奇異な目をむけることもなく、淡々と言った。

 私はただ、コクコクと頷くしかなかった。


「どうぞ、こちらへ」


 私の空返事の頷きを、了承ととらえたのか、私を案内し出した。

 全然、そんなつもりはなかったけど、断って刺激してしまう方が怖くて、案内に従うことにした。


 洗面室に、脱衣室にと、どの部屋もすごく豪華で1人で使うにはかなりの広さがある。

 気後れして佇む私の服に、女性が触れたので驚いて振り向くと、


「お手伝い致します」


 と言われた。


「い、いえ、あの、それより、聞きたいんですけど。私と一緒にいた人がいたと思うんです。その人は、今どこにいるか知ってますか?」


 今、一番知りたいことを聞いてみた。

 ただ、よく分からない状況に、ルイの名前を出すのは、どうかと思って、そこは避けた。


「ジークとイゴのことですか?」


(ジーク? イゴ? って。 えっ? 宵闇市で声をかけてきた人達が、そんな名前だったような)


思いもよらない名前が出てきて、混乱して黙ってしまった。


「先ほど、来ておりました。今は、ご主人様の部屋におられると思います」

「ご主人様?」

「はい、ユースフェルト公爵様です」

「こ、公爵っ?」


 知らない人の名前に、しかも、とんでもない爵位の人で、開いた口が塞がらない。


(なんで、こんなところに、私いるの??)


「わ、私は、どうやってここへ? ど、どうなっちゃうの? 私」


 訳が分からなくて、思わず叫んでしまった。


「あの、ジークとイゴの2人が、昨夜、来訪者であられるお嬢様を保護されて、ここへお連れしたと伺っております」

「保護?」

「はい。市街で、大変な目に遭っておられたとか。それで、すぐ、ご主人様が王宮にご連絡されたと、聞いております」

「えぇ! 王宮? なんで、そんな。ひ、必要ないわ。私、すぐに、家に帰ります」


 私の言葉に、彼女は、困惑した顔をした。


「申し訳ございません、お嬢様。私は、これ以上、詳しいことは存じ上げておりません」

「うぅ・・・そんな~・・・、あ、それじゃぁ、そのご主人様に、公爵様に、会わせてもらえませんか?」

「それならば、ご入浴くださいませ」

「お風呂なんかより、先に、」

「そのままでは、無理かと思われます」


 彼女は、私の姿を上から下まで見た。

(あぁ、昨日のままだもんなー)

 ガックリきた。


「・・・分かりました、入ります。でも、自分で脱ぎます、自分でしますんで」


 断固拒否すると、


「こちらに控えております。ご用の際は、いつでもお声をかけて下さいませ」


 やんわりと言われた。

 この状況で、お風呂って、どうなのって感じだけど、仕方なく入ることにした。

 とはいえ、魔力がないから、色々使えるか気になったけど、浴室は大浴場並みに広いし、灯りは付いているし、浴槽も並々なお湯で、心配する必要は全くなかった。




「なんだ、余裕じゃん」


 不本意ではあったけど、入浴するとサッパリして、すごく気持ちがよかった。

 水色の髪の女性、マーラに髪を乾かしてもらい、綺麗なドレスに着替えさせてもらった。

 流石にドレスは、1人では着れなかった。

で、紅茶を飲んでいると、ジークとイゴがやって来た。


「あなた達、」


 イゴの第一声に、立ち上がって声をあげたけど、言いたいこと、聞きたいことが山のようにあり過ぎて、高ぶった感情にワナワナとなり言葉が詰まってしまった。


「へぇー、アンタ、やっぱ黒子だったんだなぁ。本当に目が黒いや」


 イゴが、珍しそうに私の目を覗き込むように見てきた。


「やめてよ。 あなた達、なんで、私をここに連れてきたの。家に帰してよっ」


 避けるように顔を背けて、苛立ちをそのまま、ぶつけると、2人は、私の言葉が意外だというような顔をした。


「どうしたんだよ。これからは王宮で暮らせるんだぜ。いいじゃん。働かなくていいし、食うに困らないし、ドレスだって選び放題、着放題なんだぜ」

「なんで王宮になんか。私は、行きたくないの、家に帰りたいのっ」


 イゴの言葉に反論して、大きな声で叫んでしまった。

 穏やかなお店での日々が、脳裏に蘇る。


(店に、家に帰りたい。私の大好きな、大切な場所に帰りたい。早く帰って、ルイに、会いたいよ。あぁ、ルイは、あれからどうなってしまったんだろう)


 胸が熱くなって、涙が滲んできた。

 でも、グッと我慢した。


「来訪者は、この国では、とても特別な存在だ。だから、保護されて、王宮で暮らせるんだ」


ジークは、勝手知ったる場所だというように向かい側のソファにドカッと座った。


「特別って何? 私の意思は、尊重してもらえないの?」

「来訪者は、英知を持っている。その英知で、この国は大きく発展してきたんだ。だから、特別なのさ。アンタも、持っているんだろう」


(英知??)


 その言葉を聞いて、思い出した。

 初めてこの世界に来た時に、セデルグレーン伯爵に聞かれた言葉だ。

 この国、フロルス国の医療の発展、ランプやライトなどの機器の発展は、過去に現れた来訪者達の功績によるもの。

 だけど、私にはそんな英知はなくて、それで放置されたんだった。


「・・・・・私、持ってない」

「 「 えっ 」 」


 2人とも、馬鹿みたいに口を開けて驚いた顔をした。


「マジで?」

「そんなこと、ないだろう」


 口々に言うけど、


「本当よ」


 キッパリ、ハッキリ、言ってやった。

 同じ轍は踏まない。


(どうせ放置されるんだもん。それなら、こっちからお断りよ)


「私は、医療の知識も器具の知識も、なーんにも持ってないわ。だから、王宮に行っても、特別扱いなんかしてもらえない」

「いや、そんなハズはない。アンタ、侯爵と一緒にいたじゃないか。それが証拠だ。絶対に何かあるはずだ」

「侯爵?」

「あぁ。 ルイス・バーリエル次期侯爵、だよ」

「ルイ・・・ス、」


 ズキンっと、胸に痛みが走った。

 いつも私に優しく笑いかけてくれる、金髪碧眼のルイの笑顔が頭に浮かんだ。

 私の大好きな笑顔。

 でも、あれがルイの本当の姿で。

 そのルイの本当の名前が、ルイス・バーリエル次期侯爵⁈


(あぁ、なんて仰々しい響きだろう。昨日、私の手を力強く握り、繋いで歩いてくれていた人と同じなの? 

薄暗闇の中、一番安心する腕の中で頬に触れた、あの胸が熱くなるような感触は幻だった?)


 昨日のことなのに、とても遠くに感じる。

 彼の本当の名前を聞いて反論する気持ちよりも、ひどく納得してしまっている自分がいる。

 パズルのピースがハマったように、彼の本当の姿と本当の名前がピタリと合わさったような、そんな感覚があった。


(私は、ルイの何を見ていたんだろう)


 ギリッと締めつけるような胸の痛みに、あるはずのない魔石の入った小袋を握りしめようと、胸元をギュッと握りしめた。


いつも、読んで頂き、ありがとうございます

次の投稿は、5月31日を予定しております

もう少し早めに投稿できれば、とは思っていますが…

すみません、また、よろしくお願い致します

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