18話
「イテテテ」
「大丈夫か?」
「ダメだ、痛いとこだらけで。 アイツ、馬鹿力で殴りやがって」
「すぐに医療班がくる」
時間が遅いとは言え、これだけやり合っていれば、人目につく。
店の者に警備隊と医療班へ、連絡を頼んだ。
「すまない、ルイス」
「いや、相手が悪い。魔法が使えないんじゃ、対抗出来ない」
「何だよ、アレ。あんな魔法、反則だよな」
「なかなか稀有な魔法だ。俺も、初めて遭遇した。アルヴァン、辛いだろうが、彼らと接触の経緯を教えてくれ」
アルヴァンを医療班に引き渡した後、あの2人を探しに宵闇市へ行こうと逡巡していると、
「あぁ。だけど、クリスが後をつけているから、大丈夫だ」
腹を押さえ、起き上がりながら、アルヴァンが言った。
「無理するな」
手を貸しながら言うと、
「俺だって、無駄に殴られてた訳じゃねーよ。アイツらが、俺を殴るのに夢中になってる間に、クリスが影魔法で、アイツの影に入り込んだんだ」
いつもの優男の顔でヘラリと笑ったが、流石に痛みには勝てないのか、すぐに顔を歪めた。
「クリスも来てたのか」
「いや、あっちは赤い蜘蛛の探索で、市に来てたんだ。たまたま、一緒になったんだよ。よくわかんねー奴らだから、欲は出すな、って言っといたから、おいおい戻ってくると思う」
「そうか」
自分でも驚くほど、安堵の吐息がでた。
行方が分かれば、対策も立て易いし、すぐにナツを助けに行ける。
「うわ、なんだ、なんだ」
アルヴァンを抱き上げて、立ち上がった。
「大人しくしていろ、運ぶだけだ」
警備隊が到着した。
医療班もすぐに来るだろう。
「やめろ、降ろしてくれ。男に抱き上げられるなんて、屈辱しかない」
「黙って抱かれてろ」
「うー、わー、やめてくれ。 そんな言い方すんな、気色悪い、気色悪すぎるっ」
「大袈裟だな」
「自覚なしかよ。 わーっ、お前ら、こっちくんなー」
医療班も到着し、担架を持って、数人が走り寄ってきた。
ジタバタする、アルヴァンを見て、怪我が大した事ないようで、ホッと胸を撫で下ろした。
本部へ戻り、特務隊の執務室へ向かうと、すぐにアーロンがやってきた。
「副隊長、指示のあった無効魔法を使う者を調べましたが、特務隊含め、魔法騎士内では、過去から現在に至るまでいませんでした」
「そうか」
「あと、戻られたら、すぐに隊長室に来るようにと、ラーネス隊長が」
「わかった」
そのまま、すぐに隊長室に向かい、ノックをし、入室すると、
「報告義務違反だな、ルイス」
ラーネス隊長が、デスクで書簡を見ながら、重々しく言った。
「申し訳ございません」
すぐに、言わんとすることを察し、姿勢を正して、サッと頭を下げた。
ラーネス隊長は、顔を上げて、
「探索の絡みがあったにせよ。髪が黒く、瞳が黒い時点で、ナツが来訪者だとみなすべきだろう。王族の方々の耳にも届いたようだ。お怒りの書状が届いている」
手にしていた書簡を、こちらに見えるように広げた。
「あちらは、久々に現れた来訪者に、浮き足だっておられるようだな」
“赤い蜘蛛”探索と称して、ナツの存在をひた隠しにしていたのが、最悪の形で公のものになってしまった。
苦虫を噛み潰したような気分になった。
「だが、お前にしては、珍しく慎重だな」
「申し訳ございません」
深々と頭を下げると、隊長はフッと薄く笑った。
「が、こちらとしても、赤い蜘蛛の探索は重要案件だ。ここは情報を開示して、温情を頂く。ナツに関しての報告書と始末書を作成しろ。それで、今回のことは不問に付す。早急に作成するように」
「はい」
「で、アルヴァンがやられたという、その2人組について、お前の見解を聞かせてくれ」
デスクに両肘をつき、組んだ両手の上に顎をのせて、ラーネス隊長は聞いてきた。
「はい。 クリスが戻れば、さらに詳しく分かると思いますが、1人は、銀色短髪の男ジーク、もう1人は、藤色長髪の男イゴ、という者です。
ジークには魔法が効かず、恐らく、無効魔法の使い手だと思われます。 魔法を使う際には、霧のような薄いモヤが発生します。
それと、腕力、蹴力、共にかなり破壊力があるので、魔法が効かない状態で相手にするのは、かなり困難だと思われます」
「なるほど。 それで、アルヴァンが、あそこまでヤラれた、ということか」
椅子の背にもたれ、納得するようにラーネス隊長は言った。
「はい」
アルヴァンは、病院に向かう間も、アレコレと喋って誤魔化していたが、かなりの重症だった。
「あと、イゴについてですが、異空間に物を出し入れする、保管魔法を使っていました。
アルヴァンを引き出した後、ナツを取り込んだところから、取り込む容量はあまり多くないと思われます」
「2人とも魔法の使い手か」
「はい」
「一応、無効魔法について、そういう者が過去にいなかったか、調べさせましたが、隊員及び、全ての魔法騎士において、該当する者はいませんでした」
「そうか」
「無効魔法とは、また厄介だな。とはいえ、来訪者ナツの保護は急務だ。クリスが戻り次第、作戦会議の上、班を編成する」
「了解です」
グッと、拳に力が入った。
「ところで、ルイス。 カフェ アルバでの滞在中は、ナツの恋人役として生活していると報告があったが、その真意は、何だ」
「・・・ナツの内情を調べる為です」
「来訪者の処遇について、内々で調べているのも、その一環か?」
「はい」
グッと、奥歯を噛み締めた。
「王族の方々が、過敏になっている。 あまり刺激するようなことは、控えろ」
「わかっております」
「これは老婆心だが、叶わぬ慕情など、抱くものじゃないぞ。ルイス」
踵を合わせ敬礼し、隊長室をでた。
まんじりともしない思いで、デスクにつく。
未だ、クリスからの連絡はなく、ナツの捜索に動くことも出来ない。
逸る気持ちを落ち着けようと、深い溜息を吐いた。
(叶わぬ慕情、か・・・)
隊長の思わぬ言葉に、楔を打たれたような思いがした。
王族にもナツの存在が知れてしまった今、彼女が無事に戻れば、正式に来訪者だと認定されるだろう。
そうなれば、俺はこの先、もしかすると一生、彼女に会えなくなるかもしれない。
この国において、来訪者は特別な存在で、認定されれば、王族と同等に扱われるからだ。
彼女を救いたい、その思いに偽りはない。
今、どんな辛い目に遭っているのかと思うと、胸が焼けるようだ。
すぐにでも助けに行きたい。
だが、
胸にわだかまる思い。
心を無にして、書類作成に取り掛かった。
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1週間後となりますが、また、よろしくお願い致します




