17話
肩を震わせて涙を流すナツが儚げで、抱きしめてしまいたい衝動を抑えるのに、出しかけた手を、ぐっと握りしめた。
ナツに、こんな悲しい思いを自分がさせているのかと思うと、胸が押しつぶされそうだ。
やはり言うべきではなかったと、後悔しかない。
だか、ナツに本当の俺を受け入れて欲しい、という思いがあったのは否めない。
「ナツ、俺は」
フッと霧のような薄いモヤが、急にまわりに広がった。
ハッとして顔をあげると、目の前に拳が迫っていた。
瞬時に両手で顔をガードをして、すぐさまナツを保護しようと、魔法陣を展開した。
「グッ」
だが、衝撃がきた瞬間、魔法陣が消えた。
「っ!?」
かなりの衝動に、ザッと両足が後ろに下がった。
ナツを見ると、彼女の姿は、そこになかった。
薄い霧が消え、目線を先にやると、藤色の長髪を後ろで束ねた男の腕の中で、ナツは気を失っていた。
しかも、姿が黒髪に戻っている。
「わおっ、スッゲー。 ジーク、この子、マジで黒髪だ」
藤色の長髪男が、ナツの髪を掴んで、声をあげた。
グッと眉間に力が入る。
と、先の2人の姿に被せるように、銀色短髪の男が前に立ち塞がった。
「さっきは、どうも」
「彼女を離せ」
「嫌だと言ったら? ルイス・バーリエル次期侯爵殿。 クククッ、なんで知ってるのかって顔だなぁ。アンタ、結構有名なんだぜ。 こっちの界隈では、なっ」
蹴りが飛んできた。
左手の脛をたて、顔の横でとめたが、すぐにパンチが次々と繰り出されてきた。
スピードある拳は重たく、上手くかわさないと致命傷になりかねない威力がある。
「ハハッ、防いでばっかじゃ、ヤラレるぜ」
渾身の一発が飛んできた。
魔法陣を展開して、こちらからも一発、繰り出した。
が、また魔法陣が消えた。
ハッとして、我前の相手の拳を交わそうと顔を背け、その分、腕を前に力いっぱい繰り出した。
互いの拳は、空を切った。
「クククッ、ハハハ、アハハハハハハ、」
拳を下ろすと、相手は急に笑い出した。
「やっぱ、スッゲーわ、アンタ。 めちゃめちゃ面白い」
「おーい、ジーク。早く、帰ろうぜ」
「いいや、まだだ」
藤色の長髪の男が声をかけたが、目の前の、ジークという男は、再び殴りかかってきた。
スキのない攻撃の連続に、また防御に徹するしかない。
「クソッ」
重たくスピードのあるパンチに、攻撃に切り替えるタイミングがとれない。
ジリジリと後退していく。
再び、魔法陣を展開した。
だが、また陣が消えた。
「無駄だ」
ジークが、薄笑いを浮かべて言った。
それならと、藤色の長髪男とナツに魔法陣を展開した。
今度は消えず、ナツを空間移動させる瞬間、ジークは間合いを取って離れ、片手を2人の方へ向けると魔法陣が手のひらに現れ、その瞬間、陣がまた消えた。
「チッ」
もう少しだったのに、思わず舌打ちが出た。
「侮れねーなぁ、ホント」
「彼女、黒子だろ? 目が、黒かったもんなぁ。黒目は、黒子の印なんだろう」
ジークが、楽しそうに笑いながら言った。
「ホントに、ホントなのか? ジーク。 黒目なんて、お目にかかったことねーけど」
反応したのは、藤色の長髪男で、ナツの目を指で無理やり開けようとした。
瞬時に、両足に魔力を溜めて飛び上がり、長髪男の目の前に降り立ち、その腕を掴んだ。
本当は、蹴りを入れて、吹っ飛ばしたかったが、魔法が使えない状況では、ナツにケガをさせてしまう恐れがある。
長髪男が、おわっ、と驚きの声を上げるのと同時に、ジークの拳が、右頬めがけて飛んできた。
流石に、片手でのガードは厳しすぎる。
間合いを取って、後退した。
「ビビった〜」
「イゴ、早く取り込め」
「あ、あぁ」
イゴと言う男が、空中に手をかざすと手のひらに魔法陣が現れ、そこから何か、大きなモノを引き出し、落とした。
その後、ナツに陣をかざすと、ナツの姿が、その中に吸い込まれた。
「っ!?」
すぐに対抗しようとしたが、またジークのパンチの応酬に防御するしかなく、ナツは囚われてしまった。
「コイツ、アンタの仲間だろ。 張り合いなくて、アクビが出たぜ」
間合いを取るように、イゴのそばまで退いたジークは、そう言って、落とされたモノを蹴った。
グッタリと横たわった、そのモノを見ると、アルヴァンだった。
激しく殴られたのか、顔が腫れ上がっている。
驚く俺に、ジークは、アルヴァンを掴んで投げつけてきた。
「コレ、返しとくわ。 それじゃ」
アルヴァンを抱き止めるのと同時に、霧のような薄いモヤがまわりに広がり、霧が晴れた時には、彼らの姿は消えていた。
すぐに、消えた場所に駆け寄り、探索魔法をかけたが、痕跡は綺麗に消されていた。
「クソッ」
叩きつけるように殴る地面に、ナツの涙の跡だけが、薄く残されていた。




