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15話


 まるで耳元で鳴ってるみたいに、自分の、心臓の激しい鼓動が聞こえた。

 足も震えて、今にも、しゃがみ込んでしまいそう。


「て、手を、離して、下さい」


 出た声が、自分でビックリするくらい弱々しく、震えている。


(なんで、この人、魔力がないって分かったの? 魔法を使う人?)


 ジークに掴まれた手を、反対の手で剥がそうとしたけど、逆に、ぐいっと引っ張られた。


「なに、なに、どーしたのさ、ジーク」

「彼女、まったく魔力がねーんだ」

「は? マジで!?」


 2人して、覗き込むように私を見る、好奇の目。


(怖い・・・嫌、見ないで、イヤッ)


「手を離してっ、離してよっ」


 びくともしない男の手から逃れようと、力一杯引っ張った。

 私が逃れようと、もがけば、もがくほど、周りから珍事を見るように視線が集まってくる。

 焦って、見上げたら、


「あっ」


 ジークと目があった。

 ズレたメガネの隙間から見えた彼の目が、大きく見開かれた。

 その瞬間、視界が真っ暗になった。




 自分の浅い呼吸が、耳につく。

 誰かに、強い力で拘束されているようで、身動きが出来なくて、握りしめた手に汗が滲んだ。


(どうなってしまったの?)


 暗闇の中、恐怖に体が震える。


(なんとか、何とかしないと)


 そう思うと、こんな危機的状況なのに、どうしてか、ルイの顔が、頭に浮かんだ。


(ルイのところに戻らなきゃ)


 沸き上がった思い。

 それだけを頼りに、なんとか気持ちを奮い立たせた。


「ナツ」


 聞き慣れた優しい声音が聞こえた。

 聞いた瞬間、恐怖が消えた。


「ルイ、なの?」


 すぐに、声の主が誰なのか分かった。

けれど、本当にそうなのか確かめたくて、相手の顔を見上げた。


 薄暗く、はっきり見えないけれど、逆に感覚が研ぎ澄まされて、息遣いや、顔の輪郭、背中に触れる暖かな手が、誰のモノなのかを強く感じた。

 つい先ほどまで、自分を拘束していた恐ろしかった腕が、一瞬で一番安心する腕の中に変わった。


(ルイだ。ルイが来てくれた)


「何も言わずに出かけたら、心配するだろう」


 ルイの指先が、頬に触れた。

 いつも私を優しく見つめる、あの青い瞳が、そこにあった。


「あぁ、ルイ」


 心の底からの安堵の吐息と共に、名前を呼ぶと、目頭が熱くなった。


「ごめん、なさい」

「無事でよかった」


 ルイのホッとした声に、心配をかけてしまったという、申し訳ない気持ちと、心配して来てくれたという、嬉しい気持ちが胸中で交錯する。


(迷惑かけたのに嬉しいって、なんなの、私)


 そう思うけれど気持ちは止められなくて、ルイが来てくれた、そのことが嬉しくて堪らない。


「さっきの、奴らに何かされたのか?」

「どこか、痛めたのか?」

「どうした、大丈夫か?」


 ルイがいろいろと、私を心配して、聞いてきた。

 違うと伝えたくて首を振るけれど、胸がいっぱいになって上手く喋れない。


「ルイ。私、嬉しくて・・・」


 言葉と一緒に、ぽろりと涙が零れた。


 先の事を考えて、これからはどんな事も1人で何とかしようと決めたばかりだったのに、ルイの声を聞いたら、そんな決心なんて、どこかに飛んで行ってしまった。


(ルイが心配して来てくれた)

 

 湧き上がる思い。


「ありがとう、来てくれて」


(私は1人ぼっちじゃない)


 初めて感じる思いに、胸が熱くなった。

 ルイの大きな手が両頬に触れた。

見上げると、ルイの顔が近づいて、流れ落ちる涙を拭うように、暖かいものが頬に触れた。


「っ!」


 声にならない、驚きが口から飛び出た。


(い、今のって、今のって・・・エェッ! 今、触れたよね。ルイの、ルイの、く、唇っ)


「ナツ、家に帰ろう」


 あまりにもフツーに話してくるルイに、私もフツーに頷いた。

 でも、顔が熱くなってくるのが分かる。


(だって、顔、熱いもん)


 今、明るくなくて良かった、と心から思った。

 ルイが、いつもの恋人繋ぎをするから、また心臓が跳ねあがった。


(ヘンな手汗が出てる気がする。意識し過ぎて、心臓が可笑しなことになってるっ)


と、ルイが、私をジッと見るから


「なーに?」


 またまた、表面上はフツーを装って首を傾げて見た。


「髪が」

「あ、変装のつもりで」


 ルイに髪のことを言われて、自分がどんな格好をしていたのか思い出し、恥ずかしくなった。

 似合っていないだろう、と思って、頭に手をやって気がついた。


(メガネがない)


 さっきのごたごたで落としたのかもしれない。

 と、スルリとカツラを取られた。


「あの、ルイ」


 驚いてルイを見上げると、足元に魔法陣が広がった。


「これで、大丈夫」

「え、どうなったの? 金髪?」


 握った黒髪が、金髪に変わっていた。


「あぁ、俺と同じ、青い瞳に金髪だ」


 自分が、金髪に碧眼だなんて想像できないし、絶対似合ってないと思うけど、ルイが満足そうな顔で私を見るから、これで良い事にした。


 すぐに、ルイが歩き出すので、私も一緒に歩く。

 市の中は通らずに、裏手を歩いて行くので、少し戸惑ったけど、ルイと一緒なら、ぜんぜん怖くなかった。

 怖そうな男達とすれ違っても、際どい恰好の女達に何度となく呼び止められても、ルイの歩みは揺るぎなく、しっかりと私の手を握って進んで行く。


 宵闇市を抜けて、大通りまで来た。

 ここまで来れば、いつもの見知った場所だ。

 ホッとして、肩の力が抜けた。

 大通りに並ぶショーウィンドウの前を歩いていると、金髪の自分が映っているのが気になって、足を止めて見た。

 見慣れない女性が、そこに立っている。

 ルイが隣に立って私を見てくるから、私も見返したら目が合って、お互いに自然に笑みが浮かんで、笑い合った。


「本当の兄妹みたい」

「えっ、うぅ」


 驚いて返事に困っているルイ。


(やっぱり、イヤよね、こんな私が妹だ、なんて)


 ちょっと残念に思いながら、


「ごめんね、ヘンなこと言っちゃった」

「いや、そういうことじゃない。金髪も素敵だ、よく、似合っている」


 謝ると、余計に苦しい言い訳を言わせてるみたいで、必死な顔も可笑しくてクスクス笑いながら、また歩き出すと、ルイの大きくて力強い手が、私の手をしっかりと握ってきた。


(こういう感覚なのかな、仲間、って)


 月に照らされ、石畳に落ちる2つの影。

 繋がれた手の影、そこだけが1つになっていて、この上もない安心感に満たされる。


 こんな時間に外に出たのは、アルバに住むようになって初めてで、怖いはずの薄暗い通りも、すれ違う人の目も、まったく怖くないし、楽しいとすら感じている。

 明日の店の事を考えると、早く帰って眠らなきゃ、と思うのに、穏やかで楽しい今の時間がいつまでも続いたらいいのに、と思ってしまった。


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