14話
探索を続けていると、人の苛立ちを感じた。
小競り合い、というには、小さ過ぎるごたごた。
が、そこにナツの気配。
「見つけたっ」
思わず、声が出た。
出来るなら、全力で走り出したいところだが、人が多くて無理だ。
それでも、人をかき分けて急ぐ。
人々の喧騒の中、途切れ途切れに聞こえてきたナツの声に、少しホッとしながらも、気持ちは逸ってくる。
「手を離してっ、離してよっ」
彼女の悲鳴にも似た叫びに、アルヴァンに目配せすると、アルヴァンは路地に身を隠した。
すぐに魔法陣を展開すると、その刹那、再びアルヴァンが同化魔法をかけてきた。
と同時に、時間魔法でここ一帯の時間を止めた。
時間にして、数秒。
ナツが陣内に入った瞬間、アルヴァンのいる路地へと空間移動した。
薄暗い路地の中。
腕の中に感じるナツの体温と彼女の匂いに、彼女を取り戻せた、という強い安堵感で胸がいっぱいになった。
そして、もう決して離さない、という強い思いが、胸に渦巻く。
「ナツ」
熱くなる胸の内を吐き出すように、名前を呼んだ。
「ルイ、なの?」
身を固くしていたナツだったが、俺の声を聞くと、すぐに体の緊張を解いて、確かめるように顔を上げ、俺を見上げてきた。
「何も言わずに出かけたら、心配するだろう」
堪らず、頬に触れると、薄暗さにも目が慣れ、大きな黒い瞳と、目が合った。
「あぁ、ルイ。ごめん、なさい」
「無事でよかった」
ナツの瞳には、今にも涙が溢れそうなほど潤んでいた。
「さっきの、奴らに何かされたのか?」
「どこか、痛めたのか?」
「どうした、大丈夫か?」
俺の言葉に、ナツは、フルフルと首を振るばかりで、内心では、さっきの奴らがナニかしていたなら、どう制裁してやろうかと、策略を巡らせていた。
だが、さっきの奴ら。
(偶然か? それとも、何かに勘付いての接触だったのか・・・)
「ルイ。私、嬉しくて・・・」
ナツが瞳を閉じると、涙が溢れ、流れ落ちた。
「ありがとう、来てくれて」
俺の腕の中で、静かに涙を流すナツ。
どうしようないくらいの熱い思いが、胸に込み上げてくる。
(あぁ、ナツ)
力の限り、彼女を抱きしめたい。
でも、そんなことをしたら、彼女を怖がらせてしまうだろうか。
ナツの両頬を包むように、優しく触れる。
見上げてくるナツが愛おしくて、彼女の涙を拭うように、頬にキスを落とした。
(ナツの匂い。どこか、甘く感じる)
数分前には、思いもよらなかった今の状況に、本当に大事に至らなくて良かったと、心底思った。
彼女を取り巻く全ての状況から、守りたい、と強く思わずにはいられない。
(もう、いっそのこと誰の目にも触れないように、閉じ込めてしまおうか)
そんな幼稚な思いが、頭をもたげてくる。
つい今しがたまで、伸びやかに、自由に生きて欲しいと願っていたはずなのに。
こんな自分が、笑えてくる。
「ウオッ、ホン」
咳払いが聞こえた。
すぐに、アルヴァンだとわかった。
顔を向けると、
「お前、今の状況、分かってんの? 早く、」
路地の入口付近にいるアルヴァンの声が、魔力で俺にだけ聞こえるように送られてきた。
だが、すぐにかき消した。
声は聞こえないが、大仰に文句を言っているのが身振りで分かった。
(仕方ないだろう。今は、ナツとの大切な時間だ。邪魔するな)
アルヴァンに一瞥を送っておいて、
「ナツ、家に帰ろう」
声をかけると、彼女は大きく頷いた。
いつものように手を繋ぎ、歩き出そうとして、彼女を見た。
「なーに?」
泣いたせいか、少し舌足らずのような話し方になっているのが、可愛い。
「髪が」
「あ、変装のつもりで」
恥ずかしがるように笑う、ナツ。
少し強く引っ張ると、カツラがスルリと落ちた。
露わになった、黒髪。
艶やかな、その出立ちに見惚れてしまいそうになる。
「あの、ルイ」
ナツは、自分の黒髪を嫌っているようだが、俺は好きだ。
何者にも染まらない、しっかり者のナツにピッタリで、よく似合っていると思う。
ナツに魔法をかける。
足元に魔法陣が広がり、姿が変わった。
「これで、大丈夫」
「え、どうなったの? 金髪?」
自分では変化が分からないナツは、自分の髪を見て、驚いていた。
「あぁ、俺と同じ、青い瞳に金髪だ」
金髪のナツも悪くない、と思っていると、
「うわー、独占欲丸出しー」
アルヴァンの声が聞こえてきた。
が、無視し、代わりに俺の声を届けた。
「俺たちは、このままアルバに戻る。悪いが、さっきの奴ら、ちょっと調べといてくれ」
「なんかあった?」
「いや、俺が気になっただけだ」
「過保護だねー、りょーかい」
アルヴァンの姿が、路地から出ていくのを見て、俺はナツを連れて、その場を離れた。




