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12話


 ドアを開けて、一歩、外に出た。

 丸い月が、空高く輝いていて、石畳の上に自分の影が落ちた。

 店の前の通りには、行き交う人が疎らにいて、でも、誰も私に気をとめる人はいなかった。

 ホッとして、軽く俯いて、歩き出した。


 店を出るまでは、心臓が破裂するんじゃないかと思うくらいドキドキしていたけど、今は、ムズムズするような、高揚感でいっぱいだ。


 少し歩きにくいけど、厚底ブーツのお陰で、周りの人と、背の高さはそれほど遜色ない。

少し小さい、といった感じだ。

 体つきは、大差ありまくりだけど。



 市場の広場まできた。

 いつもは、明るい日差しの中、ルイと一緒に来る場所。

 でも今は、夜で、しかも1人。


 すれ違う人は、誰も私を見ないし、気にも留めない。

 こそばゆいような、ウキウキするような気持ちになって、まるで悪戯がうまくいった子供のような心持ち。


 居酒屋やカフェバーなどの店の灯りが石畳を明るく照らし、いくつも広がった店のパラソルには、テーブルのランタンの灯りが反射して、まるでお祭りのような賑やかさだ。

 誰も彼もが、飲んで食べて、楽しそうにおしゃべりしている。


 噴水の周りには、カップルが何組も座っていて、そんなに近くて大丈夫? とこっちが気になるくらい甘い雰囲気を振りまいていて、目のやり場に困ってしまった。

 色彩は違うけど、元の世界にあった、見慣れた光景ばかり。


(だけど・・・)


 足を止めて、思う。


(私は、絶対にその中に交じれない)


 鮮やかな色彩の中に落とされた黒いシミのように、黒は、どこまでも黒いまま。


 サーッと風が吹き、ピンクの髪が舞うと、石畳に落ちていた影もなびいた。

 本当の私の姿が、ここのあったとしたら、彼らはどうするのだろう。

 私を捕えようと、躍起になって、手を伸ばしてくるんだろうか。

 そんなことを考えていると、鮮やかな色彩の人達の楽しい時間を、自分が乱す厄介者のように思えた。


 踵を返して、宵闇市へと向かう。

 どんなに思っても、現実が変わることはない。

 私は一生、姿を変え続けなければ、ここで平穏に暮らせない。

 それを守るためには、絶対に魔石が必要なんだ。

 厚底ブーツで走れないけど、早歩きで宵闇市へ向かった。



 宵闇市まできた。

といっても、屋台のような店が狭い通りの両サイドに所狭しと並んでいるだけで、前情報から、もっと薄暗くて、怪しい人達の集まりのように思っていたけれど、想像より普通だった。


 1軒1軒、覗きながら歩く。

 青い大きな壺ばかり売っている店や、金糸で織られた絵を売っている店、乾燥した怪しそうな薬を売っている店などがあった。

 そうかと思えば、古着を売っている店や髪留めや帽子ばかり売っている店、アクセサリーを売っている店など、見ているだけで楽しくなってくる店もたくさんあった。


(偽物を売ってるって言ってたけど、こんな古着なら、ぜんぜんイケる)


 うろうろと見て歩いている中で、石ばかり売っている店があった。

 ゆっくりと店の前を歩いて、商品を伺い見る。

 ここは、ライムストーンばかり扱っているところのようだ。

 次に、天然石のアクセサリーの店を見つけて、覗いてみた。

 色とりどりのアクセサリーが飾られていて、


「お嬢さん、これはどうだい? ピンクの髪によく映えるよ」


 突然、ヴァイオレットのネックレスを差し出された。

 パッと後ろに引き、急いでその場を離れた。

 胸がドキドキして、心臓が口から飛び出そうなくらい驚いた。


(バッカみたい、私ったら。ちょっと声かけられたくらいで)


 息を大きく吸って、吐き出し、気持ちを落ち着けた。


「どうしたんだ? アンタ」


 突然、2人組の男が、声をかけてきた。

見ると、銀色の短髪の男性と、その男性と肩を組むように、藤色の長髪を後ろで編み込んで束ねた男性が私を見ていた。

 そのままスルーして歩き出だそうとすると、藤色の長髪男性が、私の前に立ち塞がった。


「ムシすることねーじゃん」

「急いでるんで、どいて下さい」


 メガネをしっかりと、かけ直して言った。


「どの店に行くんだ? 案内してやるよ」


 銀髪男性は、こっちの話など聞いていないのか、そう言ってきた。


「いいえ、結構です」


 銀髪男性の鋭い目つきには、他者を圧倒するような強さがあり、怖くて目を伏せてしまいそうになった。

でも、


(ここで下を向いちゃ、ダメ)


 強い思いが胸に沸き上がった。


(魔石を手に入れる為に、ここまで1人でやって来たんだもん。これから、どんなことだって1人でやっていかなきゃいけないんだから。こんなことで、引き下がってちゃ、ダメだわ)


「つれないねー。せーっかく、俺達が聞いてやってんのに。なぁ、ジーク」


 藤色の長髪男性が話す言葉に、誰も頼んでないっ、と心の中で言い返した。


「俺ら、ここら辺のモンだから、店も良く知ってる。1人で無駄に探すより、早いだろ」


 それは確かに、と思った。

 でも、よく分からない人達に関わったら、それこそ面倒なことに巻き込まれてしまう。

 これまでの自分の経験から、それはよく分かっている。


「別に、俺ら、アンタをどうこうしようってワケじゃねーし。 ん? んんん?」


 どうやって上手く断ろうかと思案していると、急に藤色の長髪男性が顔を近づけてきた。


「ちょっと、ちょっとー、君、めっちゃ、可愛い顔してんじゃないの?メガネ取って、メガネ取って、見せてー」


 メガネを取られそうになって、


「や、やめて下さい」


 メガネを押さえて、顔をそむけた。


「おい、イゴ。やめろよ」

「えっ、見たくないの? ジーク」

「どうでもいい。それより、どうなんだよ」


 イゴと呼ばれた藤色の長髪男性が、ジークという銀髪男性に言い寄るも、軽くいなして、また私に聞いてきた。

 しかも、なんで上から?


「・・・いえ、あの、」

「は? 聞こえねー」


 俺様な圧のある言い方に、ムリに断ったら面倒そうだ、と直感した。


「おっ、お願いします」

「おぅ。んで、どの店に行きたいんだ?」


 仕方なく、軽く頭を下げると、ジークは口角を上げて、薄く笑った。

 ものすごく気は進まないけど、このまま1人で探すのも、やっぱり無理がある。

 それに、時間も遅くなれば、前の様な危険度も上がってくるだろうし、今日のところは店を確認するだけにしよう、そう考えなおした。


「原石の魔石を探しています」

「 「 魔石? 」 」


 2人同時に、ジークとイゴは声をあげた。


「エライまた、変わったもん、探してるんだなぁ」

「もっと、レアな服とか宝石とか、想像してたわ」


 そんな反応をされるとは思っていなくて、黙ってしまった。


(それも、そうよね。ここの人達には、必要ないんだもん)


「んー、それなら、グレッグの店に行こう。あそこなら、あるかもしれないな」

「あぁ。石集め、趣味だもんなぁ」


 行こうと言って、私が来た方向へ向かい出した。


「そっちは、もう一通り見ましたけど」


 私が、不満を言うと、


「商品なんて、店頭に並んでるもんばっかじゃねーよ」


 とジークに言い返された。


「そうなんですか?」

「そう、そ。レアなやつとか、高価のもんは、別に保管されているもんさ」


 私の疑問に、イゴが説明してくれた。


「なるほど」

「魔石も、質のいいやつなら、宝飾品として売られてるしな」

「へぇ」

「アンタ、なーんも知らないんだな。もしかして、どこぞのお嬢様、だったりして?」


 ジークの話に感心していると、イゴがニヤリとイヤな笑みを浮かべて、私を見た。


「ははは、違うけど。 イッ、タ」


 どこぞのお嬢様ではないけれど、バレると困るのは同じで、乾いた笑いで返した。

 と、人に押され、ジークの肩に顔があたってしまった。

 往来の真ん中で立ち止まっていたから、周りからは、邪魔だ、といった顔で睨まれた。

 肩に顔が当たった軽い衝撃で、メガネがずれたところを、サッと戻し、ホッとするのも束の間、


「危なっかしいな、アンタ」


 ジークが、私の手首を掴んだ。

 その瞬間、少し汗ばんだ湿った手の感触に、すごく嫌な感じがした。

 すぐに、手を離してもらいたくてジークを見た。

 すると、ジークも私を見ていて、


「・・・・・アンタ、魔力、ぜんぜんねーの?」


 驚いて、見開かれた瞳の中に、好奇の色が見えた。


いつも読んで頂き、ありがとうございます

次は、5月10日(金)に投稿致します

少し先になりますが、また、よろしくお願いします


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