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ユキ10歳?  作者: みぃ
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ユキ・鹿島君・最終話(もう一個のパターン)


★ 鹿島君を迎えに行ったら由貴さんが先に迎えに来てたパターン。


「ホテル街をゆっくり流してみて。騒ぎがありそうな場所を捜してるの」

「騒ぎがあるって分かってるんですか?」

「うん、そうなの・・・」

「・・そりゃきな臭い・・・」

運ちゃんは何かを察しそれ以上は突き詰めてこず、ユキの言ったとおりホテル街の細い路地に入るとゆっくりゆっくり走行してくれた。

「あっ」見付けた。

「おじさん、この辺で・・・」止めてと言いかけて、ユキは言葉を飲んだ。赤色灯だけを回転させたパトカーが停まっている、そのすぐ前に鹿島君の愛車、ナンバーも彼の物で間違いない。二台の車が縦列駐車してるのは建設中の囲われた敷地の白い幕の前。

「おじさん、あのパトカーの隣を出来るだけゆっくり流して貰えます?」

「はいよ」

ユキは眩しいみたいに手で庇を作り自分の顔は隠しつつ、車窓外を流れる風景を凝視した。

パトカーの後部座席、奥に鹿島君。こちら側に顔見知りの警部。二人は何か缶コーヒーのような物を手にし、チビチビ飲みながら俯いて話している。もう鹿島君はだいぶ落ち着いてるようだ。髪を掻き毟ったのかちょっと前髪が乱れてはいるが。

そして登場人物がもう一名。由貴さんだ。

パトカーの後ろに停まったポルシェから、彼女はちょうど降りて歩み寄っていくところだった。パトカーの後部座席の開いた窓から鹿島君の顔を確認し、外に立つ若い警官と話し出した。

重心を右足にかけ、相変わらずバレリーナの待機中みたいなツンと澄ました素晴らしく良い姿勢。ピタリと体に沿うニットを押し上げる豊かな胸の丸みの下で腕を組み、小首を傾げ、若い警官と二言三言短く話しコクンコクンと頷いている。

「通り過ぎちゃいますよ」と運転手さん。

「停まって!あのパトカーが見える位置で・・・お願いします」ユキを乗せたタクシーはちょっと通り過ぎてから路肩に寄せて停まった。

(・・・何故ここに彼女が?誰がどんな経路であの人に連絡を付けたのか?

ともかく、自分の車に乗って由貴さんが鹿島君を迎えに来た。私よりも一足早く。彼が彼女に電話をかけたのか?彼女がたまたま彼に電話をかけたのか?それとも・・・?)


ユキはほんの少し離れた場所に停めて貰ったタクシーの中、携帯を出しアイ君に直接電話をかけた。

「もしもし?」

「はい?」

「日本橋へ来たわ」

「・・・はい」彼のその、はい、の言い方は、で?と言う意味だった。

「由貴さんが迎えに来てる」

「は・・・ゆきさん。・・・ええ・・・え?」

「由貴さんよ!あなたが彼女に連絡したの?」

「えっ?・・・いいえ、え・・・ユキさんて、姐さんの事じゃなく?」

アイ君は軽いパニックに陥ったようだ。

「嗚呼、あなたじゃないのね?」

「僕は・・・ただ、府警で働いてる友人に連絡を入れただけですよ」

「なんて?」

「ホテル街で叫んで騒いでる男がいると思うが、同年代の女が自分が妻だと名乗って引き取りに行くから穏便に帰らせてやって下さい、と」

なるほど。由貴さんがその役を今やってるのだ。

「・・・私が行く前に彼の女友達が来てて今ちょうど・・・」ちょうどユキの見ている前で由貴さんの車の助手席に鹿島君が乗り込み由貴さんが頭を下げてポルシェを発進させた。

「・・・ちょうど、彼を連れて帰ってるわ」

「ふむ。なるほど。・・・良かったですね」

「え?」

「え?」

ユキはボンヤリと走り去るポルシェを見送りかけていた。携帯電話を耳から離し、まだ通話が続いてるかを目で見て確認した。

「騒いでいた御友人は姐さんの女友達に安全に引き取られたんですよね?違うんですか?」

「嗚呼・・・そうね・・・」

ユキは頷き、それからもう一度頷き、頷く事によって自分を心から納得させようと、ずっと頷き続けた。

「事務所に戻ってこられます?今夜は?」

「・・・ええ、そうね・・・」

「お待ちしておりますよ」

「待ってなくても良いわよ」

「いえ。直接お伝えしたいこともあるんで」

「そう?じゃできるだけ早く帰る」

「待ってます」

「はい」

「では」

ユキは通話を切った。まだ遠く細い路地の向こうの方で、白のポルシェは角を曲がりきっていなかった。赤信号に引っかかっているらしい。

「運転手さん、あのポルシェがどこに行くのかだけ見届けさせて」

「あいよ」

ポルシェはどんどん街を離れ、迷いない運転で、鹿島君の社宅の彼の駐車場に入っていった。

「・・・どうします?」

「・・・もう一度日本橋へ、戻って下さい。」


 ホテル街のパトカーが停まっていた場所でタクシーを降りた。ユキはそこからはトボトボ歩いて自宅に帰った。

金曜の夜から始まり、今日は火曜日の夜。もうすぐ日が変わる。四泊も私用で自宅へ戻らなかった。事務所の上階が住処だから、従業員皆にこのことはバレバレである。親元へノコノコ帰って行く家出に挫けた少女の気分。アイ君も話があるって、その事を注意するつもりだろうか?トモヤ君が居ない今、あなたがシャンとしてないと下の者に示しがつかないのですが、とか・・・?


 エレベーターで四階に上がる。ポーンと暗い廊下に到着を告げる鐘が鳴り、光が溢れる半開きのドアを開け、事務所の中を覗いてみる。

アイ君が一人で作業を続けていた。

「お疲れ」

「お疲れ様です。遅かったですね」

(嫌味かなぁ、)とユキは考えた。それとも何も考えずに頭に浮かんだことをスパスパ言っちゃってるだけなのか。時々この子が分らなくなる。働き過ぎなのだけは分りすぎるほど分ってるけれども。

「何してるの・・・?」

開いているノートパソコンの作業中の画面を覗いてみようとしたら、パタンと閉じられてしまった。しかし一瞬垣間見えた。入りたてのキャストの宣材写真を綺麗に加工してあげてるところみたいだった。

「そんな仕事他の子に回してあなたももうちょっと休みなさいな」

「僕のことは良いんですよ、それより」アイ君は回転椅子の背を回してユキに座りやすい角度に持って来た。自分の真正面。座面をトントン叩き、

「ちょっと、ここへ座って貰えませんか?」

「なぁに?」

ユキは一応自分の方が役職は上なんだぞと唇を尖らせながらも、これからお灸を据えられるのが分っていて仕方なく椅子に腰を下ろした。こういうときに限って事務所にはガールもキャストも他の従業員も誰も居ない。アイ君が事前に人払いをしておいたのか。

「姐さん。弟さんの事は忘れたんですか?」

「え?」

「僕はトモヤさんから託されたんですよ。『頼むぞ、』って。あの日。二年前の・・・」

「嗚呼、うん。あの日ね」一緒に行きますと言い張って弟について行こうとしていたアイ君の姿をユキもこの事務所に居て見ていた。

「僕は、それはこの会社のこともだし、姐さんの事も含めて頼まれたんだと、思ってるんです」

「ハハ」それでか、嗚呼、納得、とユキは思わず明るく笑ってしまった。

「抱え込みすぎよ、本当に、あなた・・・」

「笑い事じゃないんですよ!」アイ君の声には抑えきれない怒気が入り交じりちょっと怖くてザワッと鳥肌が立った。

「トモヤさんが戻ってきたときにこの店や系列店が傾いてたらどう思われるでしょう?全て僕の責任だ・・・!」

「違うわよ・・・」この子ヒリヒリしてるなぁとユキは心配になってきた。

「あなた、彼女でも作ったら・・・」

「・・・」

「・・・」

あんまり凄味のある目で睨み付けられ、ユキは唾を飲み込んだ。何か一言でも口答えをすればブン殴られそうな気迫だった。何も言えない。

「姐さん、自分の立場をよくよくお考え下さい。あなたはこれまで素晴らしかった。仕事人でしたよ。愛情深く下の子を励まし、人間らしい温かさもありながら、キッチリ仕事は抜からない。プロでしたよ。誰がどこから見ても。僕は尊敬してました。さすが、ご兄姉。トモヤさんが選んだお方だと。

しかしこの四日で、僕は考えを変えざるを得なかった。

あんたは浮ついた阿呆な尻軽女だ。みっともない。昔の男とよりを戻してイチャつくために全部の仕事をほっぽり出して、挙げ句は警察沙汰にまでなって。尻拭いは部下に押し付け、で、しまいには、男を横取りされたからって、ノコノコ帰って来やがって!

トモヤさんが戻ってこられたとき、どの面下げて出迎えるんだ?」

ユキはポカンとしかけ、それから思考を回し始めた。

(弟との関係性は書類上は夫婦だが、しかし血も繋がってるし自分達同士の間では明確なルールなど何も取り決めしていない。弟に別のパートナーが出来れば姉として当然自分は喜べるし、またこちらに相手が出来た場合にも、弟も別段何とも思わないだろう。いや、タイミングはあるかも知れないが・・・例えばこちらが孤独で相手にだけ相手が出来てしまった場合、ちょっと一時的に落ち込んだり恨むこともあるかも知れぬが、それはほんの一時のことだろう。すぐこちらでも相手を見付ければ済む話ではないか。・・・?)

ユキは珍しく鼻息を荒くしているアイ君に、ソロソロと小さな声で、先述の旨を言って聞かせた。

「メンツって物があるんですよ、男には。分ってないなぁ、姐さんは!やっぱり!」

ユキは首を傾げた。自分には、アイ君が弟をよく分かっていないように見受けられた。それこそ弟はそんなどうでも良いことでとやかく言う男ではない。

 弟が二年前の最後の日にいきり立つアイ君の両肩に両手をかけて語りかけ、この場に留めたのを思い出し、自分もそれをそのまま真似てみた。そっと相手の両肩に両方の手を置いて。

「アイ君。重く考えないで。こんな店、潰れても別に良いのよ。誰も路頭に迷うことなんかない。そこら中に別の経営者が出してる別の良いお店があるんだし、みんな働き口はあってそこそこなんとかやっていけるもんよ。どうってことない。経営が上手くいかなくなっても、解散して、友達同士、また一からやっていけば良いの。」

「あなたはどうなるんです?」

「私?・・・そうねぇ、そうなったら仕方ない、私ももう一度一から・・・」

「イチからって言うお歳ですか?」

ユキはさすがにムッときた。人間、どうしようも無いことを突つかれるとムッと来るもんだ。

「何よ?今だって一応まだ体張って・・・」

「選び抜かれた上客とせいぜいがディナー食べて一晩何もせずに贅沢に夜景見て過ごすくらいなもんでしょう?」

「・・・」

「この牙城あっての暮らしなんですよ、今の姐さんの生活があるのは。全部トモヤさんのお陰なんですよ。店が潰れてごらんなさい、他の子達は他の働き口を見付けられても、姐さんは他所へは移ってはいけない。それはトモヤさんの顔を潰すことになる。かと言って、若い頃のようにそこらで立ちんぼをされても困る。そんなわけにいくかよ!それこそ面汚しだ!」

「一体、あなた、何を背負ってるつもりなの?」

笑い飛ばしたかったが、相手が命懸けで必死で本気なので、ユキはたまらずこの一人で空回りな子を抱き締めてやりたかった。

「本当にあなた、恋人を作った方が良いわよ」真剣な助言のつもりだった。

「仕事だけに生きるのはやめて・・・」

急に飛び上がるように椅子から立ち上がり、アイ君が胸ぐらを掴んでユキを立ち上がらせた。いきなりのことに止めようもなく、ヒッと喉から声が漏れ出て、とうとうついにブン殴られると覚悟して目を閉じた。ギュッと。するといつの間にやら、ヒシと抱きすくめられていた。何が起きてるのか分らず、ユキは締め付けるアイ君の腕と体の隙間から目をキョロキョロさせた。

事務所の半開きのままのドアの隙間からこちらを見ているニコ(6歳女子)と目が合った。

「俺がどんな気持ちでこの二年を過ごしてきたか分りますか、姐さんに?!」アイ君の独白が始まった。

「尊敬するトモヤさん!!僕はあの人だけは裏切りたくない!あの人が築き上げたこの店と・・・そしてそれが何のための店なのか、姐さんに何故分らないんですか?!あの方は姐さんの安全な安楽な生活を守り維持するため、この店を・・・!それを僕に・・・!!

そして敬愛する姐さん・・・!トモヤさんとの、お二人の禁じられた関係をも突破する深いただならぬ結びつき・・・!!・・・しかし僕は・・・僕は・・・姐さん・・・姉さんの事が・・・!!!」

(おっ・・・と・・・これは・・・展開・・・こう来たかぁぁぁ・・・)ユキは呻き声しかあげられぬ強さできつく抱き締められており、アイ君の武者震いに揺さ振られながら、目だけで、ニコに合図した。

(上階に上がって姉さん達と寝てなさい!早く!行きなさい!!)

ニコがそっと後退って姿を消し、ユキはやっと放して貰えた。ゼエゼエ詰まっていた息を吐き出し、新鮮な空気を吸い込んだ。

「・・・アイ君・・・」

「いや、何も言わないで下さい、すみません。」アイ君は震える指で眼鏡を鼻にかけ直していた。「今言ったことは無かったことに・・・」

「そうね。私ももう若くないし、そんな情熱は・・・と言うか・・・何も聞いてないし、何も起こらなかったことにしたいわ。今夜は。・・・とにかく、ほどほどにね、仕事は。あなたも他の趣味を・・・いや、なんでもない。とにかく今日は・・・もう寝るわ・・・」

「お休みなさい、眠って忘れて下さい、今言ったことは・・・あなたが四日も戻ってこないから・・・」よく見るとアイ君の目の下には黒い隈が出来ている。

「あなたも人に振れる仕事なんかほどほどにして寝なさいね、おやすみ」

ユキは乱された髪を撫で付け、アイ君とはもう目を合わさずに、すぐにその場を離れた。

(嗚呼、疲れた、今日は本当に色々と、疲れた・・・もうウンザリ、男の人には・・・)

上階へ上がると、団子のようにくっつき合って眠っている可愛い育て子達と同じ布団に入り込み、女の子だけの甘い匂いがするいつもの自分の部屋のいつものベッドで、ホッとして、すぐに慣れ親しんだ眠りに落ちた。

鹿島君のこともアイ君のことも火曜日の紳士のことも、世界中のどんなオスのことも頭に上らず、左右の頬を、柔らかい育ちかけの花の蕾のような少女達の素肌に触れて。


(別パターンバージョン)


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