ユキ13歳頃・ウラ君と別れてから
ウラ君と別れてからセリナはまた別の名前を貰って呼ばれていた。
ミミちゃん。
ウラ君を待つ間、ベンチの傍まで猫を探しに来ていたおばさんが居た。その猫の名がミミちゃんだった。
「ミミちゃ~ん、ミミちゃ~ん・・・」あまり大きな声で呼ぶと怖がって出て来ないと思うからか、囁き声でおばさんは自販機の裏や溝の中へも声をかけて回っていた。手にはコンビニの膨らんだビニール袋を持ち、何か猫界の事情ですぐには帰って来られなくてもお腹を空かさず飢え死にしないようにと、あちこちに餌をばら撒いていた。
地域の関係無い野良猫達が寄ってたかってこれを食べ、おばさんに付いて回って、ニャーニャー懐き、おばさんの足音や、自転車で近付いてくる車輪の音を聞き分けて大集合して、まるで全員がミミちゃんみたいだった。
しかしおばさんは猫集団の新入りのボロボロな三毛をちょっと見詰めてから、
「あら、可愛いけど。あんたもミミちゃんじゃないわね」と溜息を吐いた。
セリナはこのおばさんを見かけた初日は、迷子になった子猫か孫でも探しているのかと思った。
おばさんの方でも、パチンコ屋の裏口にもほど近い駐車場のベンチにポツンと座って人待ち顔のセリナを、(ギャンブル狂の親が景品を手に出てくるのでも待たされてるんだろう)と思ってるようだった。
二日目も三日目も二人は同じ場所で大体同じ時刻に顔を合わせた。
横目でチラリと相手の存在を確認し合うだけ、口も効かない関係。
四日目の夜には雨が降り出したので、セリナはひさしのある自転車置き場に避難していた。ミミちゃん捜しのおばさんはその日は現れなかった。先にウラ君が迎えに来てくれ、セリナは1本しか無い大人用の傘にウラ君と一緒に入り、早い時刻に家に引き上げた。
(あのお婆さん、後から来たんだろうか、・・・この雨の中でも・・・?)いつもヘトヘトに疲れていてすぐグッタリとしてグーグー眠ってしまうウラ君の腕の中、ポカポカと温かく、窓を打つ冷たい雨音を聞きながら、お婆ちゃんが猫を探す丸まった侘しい背中を想った。
翌日は早い時刻におばさんが現れた。
「あんたあんた!」お婆ちゃんは手にいつもよりもパンパンな包みを持っていた。
「あんた昨日はどこに居たんだい?」
「え・・・」セリナは自分に真っ直ぐ向かって来て話しかけてきたお婆さんの勢いにちょっと気圧され、口籠もった。
「昨日はうちの人と車であんたの事探し回ったんだよ!雨に濡れなかったかいね?」
「ああ、・・・大丈夫でした・・・」
「そう!まあ良かった良かった。野良猫ちゃんなら自販機の裏とか軒下とか車やら室外機の下とか、どっか狭い隅っこに雨の当たらない居場所を確保して縄張り持ってるもんだけどさ、あんたは人間の子だもんねぇ、・・・でもさすがに帰る家はあったんだね?」
このお婆ちゃんはこのお婆ちゃんで、私を心配してくれていたのだとセリナは気付いた。
「ほれ、これ着て」いつも猫の餌でパンパンに膨らんでいる包みをもっとはち切れんばかりに膨らませていた物の正体がこの時、露わになった。それはレインコートだった。もともとはムラの無いヒヨコ色だったものが、日に焼けて色が薄まったり、端の方が黴びたり、経年による黄ばみが加わったり、裾がグルリと縫ってあったりと、どこにも売られていない一品に仕上がっていた。頭から被せて着せかけられると、そこはかとなくキャットフードの匂いがした。
「大人用だったんだけど、あんたに合うように昨日、縁を縢ったんだよ」
「ああ・・・」セリナはどう感じどう反応して良いかまだよく分らなくて、お婆さんに「ちょっと、回って見せて」と言われるまま、肩を掴んでクルリと回された。
「うん、まあまあだね。大人用だから袖と縁を縢っても胴の太さはどうにもならなんだけんど・・・」
一周させてセリナの顔を見詰めると、お婆ちゃんがニッコリ笑った。
「それ、あげる」
「あ、・・・ありがとうございます・・・」
ベンチでウラ君を待っていると、見知らない大人が何か物をくれたり、まだ食べられる物や使える物を多分わざと置き忘れて行ったり、必ず挨拶はするような顔見知りになったりした。
このお婆ちゃんはその内の一人となった。
(今日は雨降ってないけどなぁ・・・)と思いながら、セリナはお婆ちゃんの好意を無下にしないよう、愛想良くニコニコしてレインコートを脱がずに着続けていた。雨が降っていなくても保温にはなり、一度着てしまうと、着てる方が温かかった。脱ぐともう寒い気がするだろう。
「まあベンチに座ろうよ」セリナにレインコートが渡せてホッと今日の一仕事を終えたようにお婆ちゃんが言った。二人は他にする事も無いのでとりあえずベンチに隣り合って座った。
「ミミちゃんには昨日会えたんですか?」今日はもうミミちゃんを捜す気がなさそうに見えるお婆ちゃんにセリナは聞いてみた。
「いんや。」
「ミミちゃんはいつから居なくなっちゃったの?」
「何十年も前だよ。」
(・・・それじゃあもう死んじゃってるんじゃないの・・・?猫って寿命何年なんだろう・・・?)セリナはそう思ったけれど、口に出しては言わずにおいた。
「それよか、あんたちゃんとご飯は食べさせて貰ってんの?」
お婆ちゃんがヒョイとセリナの手首を掴んで自分の目の前に持ち上げた。
「細いがねぇぇ」
お腹は減っていた。ウラ君が一緒に居る時にお腹いっぱいにはさせてくれるのだけれど、それはその時だけで、あんまり一度にそんなにも沢山食べられるわけでも無い。それでも一日に二度は満腹になれたし、これでも急に成長期が始まりそうなくらい、太ってきていて、肌艶は良くなり、背も伸び始めたような気がするのだ・・・
「あんたぐらいの歳の子は巣立ち前の雛みたいなもんなんだからグングン育つためにずっと何かモリモリ食べてても良いくらいなのに・・・何か食べさしてやろか?」
セリナはお婆ちゃんの目を見た。ひたすらに優しいだけの慈しみ深い表情をしていた。セリナを哀れに想い、可愛くも見始めてくれているのが分った。自分と同じか自分よりももっと、このお婆ちゃんは昨日の雨の間、私の身を案じてくれていたんだろうと気付いた。
・・・本当の事を言えば、ウラ君が持たせてくれているお金がセリナの毛糸の腹巻きの中には隠されている。それを使えばレインコートだってもっと上等な新品が買えるのである。それでも、セリナの身丈に合わせて既に鋏を入れ、裾を縫って作り替えてきてくれたこのお婆ちゃんの手作りのレインコートは金では買えない値打ちが有り、また、このお婆ちゃんが自分のために食べさせてくれるという料理、それを振る舞ってくれる場所がもしかしてこのお婆ちゃんの自宅だと言うなら、興味津々、感慨もひとしおだ。
(実はお金なら持ってるのだ、と言ったら、このお婆ちゃんはむしろガッカリするだろうか・・・)とセリナは思った。
実際、金なら持っていて、お腹が減って死にそうなら好きな物を買って食べられるのだ。ただ、あまり不用意に誰にでもその事を言わず、身なりもそんなに新品の物を身に付けてるわけでも無いから、きっと浮浪児的な者に見られているのだろう。
しかしセリナの目から見ればこのお婆さんの方が自分よりよっぽど貧乏人に見えた。ただ、金の有無を超えて、この人には他者に施そうとする心の豊かさがありありと見える。
ウラ君と一緒の時にしか金を使わないと決めていなければ、別に自分で好きに何でも食べたい物は買って食べられる。しかしこのお婆ちゃんという人そのものがセリナは欲しくなった。この心の綺麗な人にもっと好かれたい。何故ならこの人のことを自分も昨日は心配だったし、もっとよく知りたいし、自分ももう既にこの人を好きだからだ。そしてもっともっと好きになっても良いと思える。この人は間違いなく良い人だ、と信じられた。良い人を信じたかった。心の綺麗な優しい人を。
「猫が集まってきたね・・・」
お婆ちゃんはベンチから立ち上がり、自転車を押して駐車場の隅の方へ行ってから、キャットフードをブロックの上にまき、草むらに隠して置いている皿を空け、ペットボトルの綺麗な水でまた満たした。
「シー、だよ」お婆ちゃんは唇の前に人差し指を1本立てて、秘密の仕草をした。
「あんまり野良猫に餌をやるのを良く思わない人達もいるから・・・」
「どうして?」
「野良ちゃんが増えちゃうから」
「増えちゃダメなの?」
「増えすぎると良くないよ、そりゃあ。世界中猫だらけになっちゃう」
セリナは猫だらけの世界を想像してみて、悪くなさそうだけどなぁと思ったが、お婆ちゃんは首を振った。
「数が多くなりすぎるのは私もダメだと思うよ。もっと増えるために、人間が出したゴミ袋を散らかしたり、あっちこっちでウンコしたりオシッコしたり、ミャーミャーそこら中で盛ったりしてね。一度餌をくれた家に、また餌をくれって集団で押しかけたり。
そんなことにならないためには、餌をやらないのが一番。餌が無きゃ、今生きてる子達、親猫も子猫も、飢え死にして育たないから、その次の世代の子猫も増えないわけ。・・・でも、可哀想じゃんねぇぇ・・・せっかく生まれてきた、今生きてる子達が死んじゃうのは・・・死ぬまで飢えるのは苦しい死に方だしねぇ・・・あたしはどうしても放っておけない・・・
・・・だけんど、餌をやると、まぁた、可愛い子猫を産んじゃうんだよねぇぇ・・・」
「どうしたら良いの?」
「どうするもこうするも・・・」お婆さんは眉を八の字にして、首を振り振り、自転車を押し、餌をまき、水を新しく交換し続けた。
「あの子をごらん。耳の先が二股になってる子、居るだろ、あのニャン助・・・」
お婆さんは一匹のトラ猫を指差した。
「あの子は取っ捕まって避妊手術されてからまた野放しにされた元雄かね?多分・・・」
「避妊・・・」セリナは太って食い意地の張った虎猫の耳に注目した。虎ちゃんは片手で別の猫の鼻面を押さえ付けつつ自分ばっかりガツガツ餌にありついていた。
「性欲が取り上げられると楽しみが食べることだけになっちゃって、運動しないし、食い意地が張ってポテポテ太っちゃうんだよ。気性は穏やかになるはずなんだけどねぇ・・・」
「ふぅん・・・」
「昔は避妊されてない雄猫は後ろから見るとよく分かったんだけどね、タマタマの有り無しで・・・
今じゃあたしにゃ顔を見た方が分る。女らしい顔してるのはやっぱし女の子だし、雄はふてこい雄らしい顔してるわ。図々しくてすぐに懐いて来て餌ねだるのが雄、女の子はちょっと遠くに居てすぐ逃げられる場所からジッとこっちを見てるよ。」
「ふぅん・・・」
「さあ、人間もご飯を食べよう」
セリナはチラッとベンチを振り返った。まだウラ君と別れて間もない時刻。時計は持っていなかったが、その分体内に勘が鋭く働いた。
(昨日早めに帰ってきてくれたから、その分今日は残業するんだろう・・・)
セリナはお婆さんちについて行った。
「あんたがもう少し小さかったら猫ちゃんみたいに前籠に乗せてやれるが、後ろの荷台に積まれるかい?」
「走れますよ」セリナは走れるところを見せようと通りの角まで走って行き、駆け戻って来た。どっちに曲がるか、直進かが分らなかったから。
「まぁ、自転車押してボチボチ行こうか。」
お婆さんのお家は本人が近いという割には遠かった。途中の商店街でコロッケを四つ買い、自転車を代わり番こに押したり、セリナを荷台に乗せてみたり、やっぱりセリナは走りお婆ちゃんは出来るだけゆっくり自転車を漕いでみたりしながら、川を越え、住宅街にどんどん入っていった。
「ここだよ」
途中からセリナは(きっともう帰り道が分らない・・・)と不安で胃がキリキリ痛みだしていた。それなのに自分でそれに気付かないフリをして楽しそうにはしゃぎ続けていた。お婆さんが自転車を傾いて倒れそうなガレージに停めだして、「ここがあたしの家」と言い、玄関の扉を開けて入って行ってしまうと、不意に取り残されたような気がして、ポツンとその場に佇んだ。今来た道を振り返ってみた。
「何してんの、お入りよ」
お婆さんが再び玄関を開け、手招きした。
「おいでおいで」
「お邪魔します」いそいそとセリナはお婆さん宅に上がり込んだ。
そこはいかにもお婆さんの趣味に溢れたお宅の入り口だった。キャットフードの香り、子猫たちが戯れるカレンダー、ドライフラワーを飾った壺、多分お婆さんお手製のレース編みの壺の下敷き。今被ってるのと良く似たニットの帽子、杖がもう一本壁に定位置を占めている。本人からしたら違うのだろう。これを一日おきに変えたり、特別な日とそうじゃない日とで持ち替えたりすることによって気分が違うのかも知れない。
「おいで。こっちだよ」猫を呼ぶのと同じ優しい呼びかけ。台所の暖簾の向こうにお婆さんの分厚い靴下を履いた細い足首が見えていた。
セリナは靴を脱ぎながら気付いた。
玄関にはお婆さんの紫色の花模様のスニーカー、白い小さなスリッポンの他に、男物のぶっきらぼうに大きな靴、大足用のサンダルもあった。
「・・・お家にも猫がいるのかと思ってた・・・」
セリナは出刃包丁で魚の尻尾を叩き切るお婆さんの背後からそっと声をかけた。
「じいさんが飼わせてくれないの。お家の中じゃあ・・・毛が散らかる、猫は懐かんから好かん、目が気色悪い、とか何とか言ってね・・・」
お婆さんはセリナも食べるための夕食を急いでこしらえてやろうとして一生懸命になり、料理に集中しだしていて、ちょっとセリナ本人に対して無愛想になった。
「あっちで何か絵本でも見ていなさい」
しかしこの家の中に子供向けの絵本があるとも思えなかった。食台の上には特売の米に印を付けたチラシと赤ペン。補聴器とレンタル電動車椅子のパンフレット、冊子が折り重なっている。庭へ続く窓際の床には寒そうな葉牡丹の鉢。卓上には周りから萎れ、真ん中にはまだ蕾がいっぱいの真っ白なシクラメン。日中。眩しいほど陽当たりが良い居間だ。燦めく埃が舞っている。
四脚ある椅子のうち、使われているのは二脚らしい。後の二脚にはお婆さんの買い物鞄と誰かもう一人のダンボールの包みがずっと置かれているみたいだ。こちら側をお婆さんが動かすと怒られるのか、ずっと掃除がされず、埃が積もっている。使われてる両方の椅子の背にお薬カレンダーがぶら下がっている。
両方とも、今日の日付の昼までは中身が空になっている。
セリナは、外から見て小さかった家の中をちょっと探検させて貰うことにした。玄関からすぐ台所に入ってきたセリナは、居間を抜けて、もう一度玄関に出、それから二階へ上がる急な階段をジッと用心深く見詰めていてから、トイレと浴室へ続くドアの前まで行って耳をそばだててみた。
トン、とノックしてみた。ソロリとノブを回し、「開けますよぅ」と小さい声で聞きながらドアを開けた。お爺さんが便座に座りこちらを睨み付けていた。
「誰じゃオメェ?」
セリナは黙ってドアを閉めた。お爺さんの顔があまりに陰険に醜悪に歪み、敵意丸出しで黄色い歯を剥き出していたから、とりあえず。
「お邪魔してます。セリナと言います。奥様に連れてきて頂きました。失礼しました。」早口でドアに向かって自己紹介した。もう二度とこのドアを開けて顔と顔とを突き合せたくなかったのである。それに彼は臭かった。今だかつて嗅いだことが無いくらいの異臭を放っていた。地獄の門を開けてしまったかのようだった。鼻を摘ままずに顔を見て話す自信がない。
トイレのドアの向こうからは何やら威嚇的な唸り声が響いてきたが、一歩下がって逃走経路を確認し待ち構えたけれども爺さんは出て来ない。
セリナはトイレの奥の風呂場にチラッと目をやり、脱衣室の洗面台をその場から目視点検し、忍び足の後ろ歩きでそっとそこを離れた。
浴室の両隣にドアがあり、これはキチンと閉っているのでもうノブを回して開けてみる気にはならなかった。またまた怖いお爺ちゃんと目が合ったら嫌だ。ドアに耳を当てて聞き耳を立ててみても中に人が居て動いてる気配はない。それにきっと一人のお婆さんと暮らしてるお爺さんは一人だろう、多分・・・
一番安全そうな玄関前に戻ってきた。
一階の造りはほぼ把握できた。台所にお婆さん、お手洗いにお爺さん、・・・後は二階。こんな風なこぢんまりした住居に招かれることは珍しく、全部見て回りたかった。興味津々。が、そこまで踏み込んで良いのかどうか、そこまで招かれているのかどうか。
昔、あれはもっと大きなお家だったけれども、双子のお爺さん達の農場で過ごした日々があった。楽しかったり、時には退屈で詰まらなかったりもしたが、概ね良い思い出として思い出される。この木で出来た階段をこうして下から眺め上げていると、特定の人々に愛された落ち着いたあの日々が思い出される。民家の中に差し込む日光には同じ匂いがするのだろうか、それともこの家の造りとあの家の造りに似ているところがあるのだろうか・・・
台所から聞こえてくる物音の推移で料理工程が次の段階に進んでいるのを聞き取って、またお婆さんの様子を見に行ってみた。後ろから近付き、声をかけるでも無くその場に佇んで、萎びたレタスを毟りながら鍋に放り込んでいく腰の曲がった後ろ姿を見守った。
「もうすぐ出来上がるからね」
後ろにセリナが戻った事に振り返りもせずいつの間に気付いていたのか。お婆ちゃんの勘にビックリした。
(やっぱり二階に忍び上がらなくて良かった、階段の軋みとかで気付かれたに違いない。泥棒だとは思われたくない)セリナは思った。それから、後で、あながち、このお婆さんは、私を試したのかも知れないなとジンワリ感じた。優しくてお人好しなのは持って生まれた性質だろうが、伊達に歳を取ってるのではない、付け込まれ過ぎないよう用心することもちゃんと心得てるのだ。こちらで心配してあげていたが、そこまで馬鹿のお人好しではなかったようだ。
(セリナの分だけ大盛りの)ご飯、(セリナの分だけ具沢山の)お味噌汁、魚と根菜の煮物、お漬物・・・等を食卓に並べるのを手伝った。
「まだ食後のデザートもあるからね」とお婆ちゃん。冷蔵庫を細く開け素早く閉めて林檎とオレンジを取り出した。
人の家の冷蔵庫の中って興味を引かれるものだ。特にお腹が減ってるときには。セリナはあまりジロジロ見てしまわないよう俯いた。
「さぁ食べよう」そう言いながらお婆ちゃんはセリナだけ椅子に座らせておいて「爺さんを呼びに行っちゃらんと」と呟き立ち上がった。忙しなく動き回って常に何かしら働いている人だ。自分以外の人のために。
セリナも家主を差し置いて自分一人で一番に食べ出すわけにもいかず、良い香りの湯気の立つ煮魚を流し目に見て唾を飲み込み、椅子を降りてお婆ちゃんの後ろからついていった。
「上かねぇ」お婆ちゃんはチラッと上階を見やった。が、階段を上るのは億劫なのか、それともお爺さんも下の階に居るに違いないとふんだのか、階段の手摺りをペンと一発叩いて、一階から探し始めた。
「お昼ご飯だよぅ」爺さん爺さん、「できたよぅご飯ばぁい」お婆ちゃんの呼ぶ声は独特の節がついていて何だか短い歌のようだった。長年お爺ちゃんをこうして呼びながら家の一階を一巡りしてきていて年期を感じさせるコブシが効いていた。
(後で分ったことだけれども、この家に住む老夫婦はともに膝が痛くて、二階にはもう上がらなくなっていた。)
「やぁ爺さんこんなとこにおったとー」お婆ちゃんはトイレのドアを開けて便座にまだ座ってるお爺さんを発見した。明るく笑い可愛いとも思ってちょっとからかってるような声音、そしてジロジロ見物しだした。
「閉めんかぁぁ」
「ご飯ばい」
お爺さんは老いた猛獣みたいな唸り声で返答した。(グルルァァァァみたいな。)お婆さんの背後に隠れながら覗き見るセリナにもガンを飛ばしながらドアを閉めようとシミ皺だらけのミイラみたいな腕を伸ばした。
「はいはい」お婆さんはドアを閉めてあげた。
「さぁもう食べようね」セリナに向き直り、お婆ちゃんがニヤリと笑った。
二人が食卓につき、食べ始めていると、お爺さんがノッソリ居間に入ってきた。異臭を伴って。セリナは煮魚の皿にグッと顔を近付け、お爺さんの体臭に気付かないフリをした。お爺さんは出会った最初から不機嫌そうだったが今も機嫌は直ってないみたいだ。へし曲がった唇、文句しかないような目付き。セリナをジーッとジロジロ睨め付けながら、自分の側の椅子にどっかりと腰を落とした。バサッと新聞をわざと一度持ち上げてから食卓に投げ出した。
「今日の飯は何か」
「見たら分るやろもん」お婆ちゃんはこのお爺ちゃんのドスの利いた声になかなか負けてない。お爺ちゃんは鼻がむず痒いみたいにちょっと薄ら笑いそうになりかかった。
「こら何か?」気を取り直し、眉間に皺を寄せ直して、今度はセリナに顎をしゃくった。
「おんなん子」
「そら見たら分る」爺さんがやり返した。
「呆け婆ぁめ。糞、子猫拾ってきたんじゃのうて、今度は人間の子ぉ拾ってきたとか。どげする気か?」
「どげもせん。食べたら帰るち」
「どこん子ぉか?」
「さぁ」お婆ちゃんはこんなやり取りをする羽目になるだろうとは予測していたらしく、突っ込みどころを与えないよう簡潔に答え続けた。
仕方がなくなってお爺さんは最初無視するつもりだったらしいセリナに直接口をきこうかどうか迷いだしたらしい。気に食わないと言いたげな目でジロジロセリナを見だした。人の粗探ししかしない目付きだ。このお爺さんが一目で気に入る物などこの世にあるのかどうか疑わしい。
「あのパチンコ屋の裏の猫ベンチから来たんか?」いきなりお爺さんが言い当てた。そう言えばお婆さんが言ってたな、とセリナは気付いた。『昨日爺さんに車出してもろてあんたを捜し回ったんだよ』と。
「用心せぇよ、この婆ぁ呆けちょうぞ!何十年前におらんなった猫ば探して毎晩そこら行っきようが、とうに死んじょるわ、猫がそげん何年も生きると思っちょっとか?何十年も昔の話ばい。生きちょったら化け猫たい!」
セリナがせっかく言わないでおいた猫の寿命の話をして爺さんは自分の嫁を馬鹿にするようセリナにもけしかけた。
「なぁんがこの呆け爺ぃめ」お婆ちゃんも応戦しだした。
「あんたこそ、あたしがあんたん薬やらご飯やら洗濯掃除買物から何やらかやら全部イチイチ世話しちゃらな、今頃とっくに死んじょっとよ!」
日頃の鬱憤の溜まり具合はお婆ちゃんの方がだいぶ蓄積されてたらしく、お爺さんがちょっとからかっただけでお婆ちゃんの方が今や叫び声を裏返して履いていたスリッパを振り上げお爺ちゃんの禿げ頭をひっぱたこうとし、興奮していた。
セリナは埃が舞う中、これ以上塵が降ってくる前にと急いで自分に注がれた食べ物を食べきり、いつでも退散できる準備を構えた。
歯茎が真っ黒で歯がないお爺さんがナメクジのように食べるのに手間取ってる間、同じ居間に居るとやり合いになるので、お婆さんがお仏壇のある部屋でセリナに男物の毛糸のセーターを解くのを手伝わせ、これで今度かわりにあんたのセーターを編み直してやるね、と古いカタログ本からどれが良いかを選ばせた。
セリナはその本の中にあんまり欲しいと思う品はなかったがともかくまたここに来て良いとかまたお婆ちゃんに会える口実になるのが嬉しかった。
この日からセリナはパチンコ屋の駐車場でウラ君にバイバイした後は毎日猫のミミちゃん捜しのお婆ちゃんと猫を愛でた後お婆ちゃんにくっついてこの家に来るようになった。
お婆ちゃんは最初の内セリナちゃんとかセリちゃんと呼んでくれていたが、爺さんはその名前を「覚えにくい」、「呼びにくい」と言ってミミと呼んだ。何度かお婆ちゃんが注意したものの
(『この子ん名前はセリナちゃんやで、何回も間違えんと!』『勝手に変えたらいかんばい』)、
爺さんはかえって意固地になり、
「婆ぁが飼ってた猫の生まれ変わりじゃ」と勝手に決めつけ、いよいよミミとしか呼ばなくなった。するとお婆さんまでがいつの間にかセリナを
「ミミ」、「ミミちゃんよ」、と呼ぶようになった。本人は別にどっちでも構わなかった。自分を呼んでるのが分りさえすれば。呼ばれること自体が大事なので。
呼んでくれる人にとって愛着のある名を借りられるなら、そうすることで長年この老夫婦が探し続けて来た愛猫の面影を纏えるならば、むしろその方がありがたいかも知れないとすら思われた。
(「ミミ、ミミち、こげなこつばっかり言いようが、爺さん、生きちょる間には猫を可愛がってなかったとよ。そっき懐かれもしてなかったとにね・・・」)
意地悪なことばかり言うお爺さんの言葉の裏側に見えにくい愛情表現が隠されていてそれを嗅ぎ取る事がミミにはできた。
お婆ちゃんもそんな彼女の気質に気が付いたのかも知れない。
ある日アルバムを見せて貰った。お婆ちゃんには手塩にかけて育て上げたエリートの一人息子が居た。「小さいときから賢い子でねぇ、誰に似たんか知らんが・・・」おくるみに包まれた可愛い赤ちゃんだった男の子は四角い写真の中でスクスクと成長を遂げた。進学校の特進クラスを卒業する晴れやかな顔。若いときの可愛らしいおばちゃんの隣に立つ大学生・・・
「イケメンね」ミミはお上手を言ったがこれは言いやすいお上手だった。と言うのも、本当にそう思ったからである。
お婆ちゃんも、言われ慣れてるお世辞を頂戴したという澄まし顔で受け取った。
「ありがと。そうでしょ、この子はあたし似だね」そしてイヒヒと笑った。
「でも顔が良くて勉強まで出来過ぎて、アメリカかどっか行っちゃったまんま帰っては来ないんだよ・・・」
お婆ちゃんが寂しそうな表情を浮かべ、しんみりとなってしまったので、ミミは可哀想で悲しくなった。
「今何してるの?」
「さぁねぇ、最初は商社。その次が証券会社だったかなぁ。華々しい就職に華麗な転職をして。鼻が高かったが。やっぱり国際弁護士になりたいって言ってちょっと間、この家に出戻りして勉強やり直してた時期もあったんだけどねぇ、その後またどっか行っちまって、そっからは行方知れず・・・金だけは送ってくるんだわ・・・」
「へぇぇ」勉強かぁぁ、とミミは思った。何だか知らぬが途方もなく自分には関わりのないこと、でもキラキラして聞こえる話だなぁと思っていた。
「そういやあんた、学校は?10歳なら普通は小学校の5年生?」
「・・・」前に何歳かと問われ十歳と答えたんだったかな、とミミは焦った。
「・・・」お婆ちゃんはお婆ちゃんで、この半浮浪児にどこまで関与して良いものか、内心葛藤があるみたいだった、「・・・この子が使ってたテキストがあるよ。二階に。あんたにあげようか?ちょっと、二階へ上がって、取ってきてごらん。階段の右手のドアを開けたら正面に勉強机とその隣に本棚があるよ。その本棚にある物どれでも一冊あげよう。ちょっと、ミミちゃんのその元気な足で、ピュ~ッと、階段上がって、選んでおいでな。おばちゃんはここで待ってるから」
許可を得てこのとき初めてセリナは二階に上がった。タッタッタッと軽快に段を踏み。一番上の段まで来て、二階に立つと、耳をそばだて、息を潜めて、グルリ見回す。
階段を囲む廊下。4つのドア。壁に立てかけられ廊下を塞ぐ屋根裏への梯子。踊り場には健康ぶら下がり機。傘に埃が分厚く被った安っぽいシャンデリア。カラフルなステンドグラス風の昭和窓から斜めに差し込んでくる陽光も積もった埃の膜を通過して経年の影を帯びている。大正ロマンよりは近代?昭和レトロ?ミミの目にはシンと静かな二階はセピア色で真昼に見ても哀愁を感じさせ逆に斬新だった。ドキドキワクワクした。
膝の悪い老夫婦が最後にここへ上がって来たのはいつなんだろう。何年も前?
全部の扉を開けて片っ端から見て回りたい衝動をどうにか堪え、言われたとおり階段右手のドアをソッと開けた。
その途端、野生の血がザワッと全身の毛を逆立てた。
人の気配があった。ハッキリと色濃く。
ヒラリと何かが視界の端に動き、サッとそっちを向くと、新鮮な風がカーテンを揺らしていた。窓が開いている。ミミは霊感について考えてみた。しかしこの部屋に居る何者かは息を潜めてこちらを窺っている。生きている動物だという感じがした。半分開けたドアの裏側に居る。小さな生き物ではない。大きい。人間の大人くらいの大きさ。それも大柄な人間の大人ほどの大きさ。気配で分る。
「お婆ちゃんが・・・」ミミはカラカラな喉を唾を飲んで潤し、言い訳を小さい声で呟いた。「お婆ちゃんが本を一冊取っておいでって言ったから来たの・・・。入ります・・・」
ソロリと一歩。背中に油汗をかきながら、更にもう一歩、進む。部屋の中に踏み込んだ。ドアの裏に当たる位置にはロフトベッドがあるようだった。ミミは黒目だけを際まで動かしてそれを目の端に確認したが、振り返ったり見上げたりはしなかった。
本棚から本を一冊抜き出し、部屋の中を見回さないで、壁の方へ回れ左して、ドアの外へ出た。黙礼しつつドアを閉める。
ホーッと息をつく。何者かがずうっとロフトベッドの上から見下ろしてきていた。首の後ろで視線を感じた。
(誰か居るなら言ってくれれば良いものを)ミミはお婆ちゃんを恨みかけ、(いや・・・でも、)と考え直した。(誰かが居るなんてお婆ちゃんは知らないのではないか・・・?まさか自分の家の二階に誰かが住み着いてるなんて・・・老夫婦はともに耳も良くない・・・)
一階のお婆ちゃんの元へ戻ると、ミミは取ってきた本を見せた。
「世界名作こどもの書シリーズ・・・なんで15から取ってきたの?”ジプシーの少女”・・・これが読んでみたかったの?」
ミミは考え事をしていてちょっと上の空に頷いた。(二階に誰か居るとお婆ちゃんに告げ口したものか?これまでは二階の人間は一階の老夫妻に危害を与えて来なかった。しかし自分が存在を知ってしまったことで、今夜このお婆ちゃんとお爺ちゃんが惨殺されるとか言うことにはならないか・・・?)
二階の気配に耳を研ぎ澄ませる。こっちを見詰めてるお婆ちゃんの優しい顔を見返す。
(この気の毒な老婦人に怖い思いをさせるべきか?階段の上を見に行ってみてと言うべき?その場で、目の前でこのお婆ちゃんが殺されたりとか最悪そんな事件に発展する可能性も・・・)
その時、屋外、ガレージの方でガタガタと音がした。勘と耳の良いミミには聞こえた。二階に潜んでいた者がガレージの屋根伝いに下へ降り、逃げようとしている。この部屋の窓の外を早足に歩み去る。パッと窓を振り返ると、カーテンの向こう、背を屈めて窓の下を通り過ぎた人影が表の通りを駆けていく後ろ姿が一瞬だけ見えた。ペンキで塗ったような発色の濃ピンクの寒椿の向こうに、人影は消えた。
「見た?!」
ミミはお婆ちゃんを振り返った。
「?」お婆ちゃんは懐かしそうに裏返して見ていた本の背表紙から驚いて目を上げた。「何を?」
もう一度窓の外を見、指差すも、咲き誇る山茶花の生け垣の枝が少し揺れているだけだった。
次の日、ミミはお婆ちゃんにベンチで会えた瞬間、ホッとした。
「何もお変わりはないですか?」
「お変わりないって、ここんとこ毎日会ってるのにね」子供はたまに変なこと言うねぇとおばあちゃんが笑って、ミミも笑った。
「もう読んじゃったよ。次の本また借りてもいい?」昨日借りて帰った本を掲げてみせる。また二階に上がり、昨日の不審者が舞い戻ってないかを確認するつもりだった。そして今度は窓を施錠するのだ。
「もう読んだの?本当に?あんた、読むの速いんだねぇ」お婆ちゃんが目を丸くした後、嬉しそうに顔を綻ばせた。読むのが速いのは良いことだと思うみたいだった。「面白かった?」
「めっちゃ。早く次の本が読みたい」読み終わったというのも感想も嘘ではなかった。ウラ君と違って一晩中時間があるミミは暇人で退屈していた。新品のスポンジみたいに吸収する物を欲していた。前に居た農家で読み書きも教わっていた。1ページ目は、思い出すのにちょっとだけ苦労したけど、すぐにまた読めるようになったのが楽しくもあった。
「ちょっと待ってね、猫ちゃん達に餌をやってから・・・」帰り道、自転車のハンドルに置いたお婆ちゃんの手にミミは自分の手を乗せた。きっともうこの人の家の二階に居た不審者は正体を暴かれるのが怖くて尻尾を巻いてどこか別のねぐらを探しに消え失せただろうと思った。小春日和の朝日燦めく暖かい日にそう暗く考えることはできなかった。ミミの根っこは平和な楽観主義者なのである。
「何冊でも持って帰って良いよ」
「一冊ずつ借りるよ」
「重たいかね?何冊も持って歩くのは?」
「もっと早く読めるようになって、おばちゃんちに居る間にもう一冊読んで帰ろうかな、じゃあ」
「うん、それが良い。頭の中に入れちゃえば重くないからね」お婆ちゃんはその考えが大いに気に入ってうんうんと頷いた。頭に色々沢山入れるのはとても良いことだと思ってるみたいだった。
「あんたみたいな小っちゃいうちは何でもドンドン覚えられるんだよ。本当は学校に行った方が良いんだけどねぇ、親とか兄ちゃんに言うて。そうして貰えるんならそうして貰うた方があんたのためには一番良いんだけど、あたしは、日曜日しか会えんくなったら寂しいけんど・・・」
それからお婆ちゃんは自分が小学生の時に全然勉強させて貰えず家の手伝いばかりさせられて学校では友達が分ることがどんどん分らなくなっていって悲しかったこと、しまいには頭悪いんだから進学せんでええと父兄に言われ義務教育以上受けさせて貰えず悔しかったこと、お爺さんもそれと似たような育ちだったから仲良くなったんだけど、大人になってからも学歴が低いと劣等感があったり色々苦労するよ等ととうとうと話した。
ミミは真面目な顔をして聞いていた。お婆ちゃんがその話をするのは結構もう何十回目か、何百回めかだったが。それでも神妙な顔をしてウン、ウン、と相槌を打ち耳を傾けていた。ミミだけに。
家に着くとミミは真っ先に読み終わった本を持って二階へ駆け上がった。トトトトトと軽やかに。右手のドアをよく考えもせずパッと開けた。霊感は昨日で全部使い果たしてしまっていた。
ドアの向こうにはたった今跳ね起きた美女が床の上で、こちらを向いて硬直していた。酒の匂い。寒くて窓を閉めたのか、吐息から漂い出す酒の匂いが部屋に滞留している。どれだけ飲んだのやら。
「嗚呼、バレちゃったか・・・」綺麗な人は寝起きののんきな声を出した。別に声を潜めるでもない。酒焼けか、低い声。
「飲み過ぎて、床で寝てた・・・頭・・・腰、背中、嗚呼全身・・・あ痛たたた・・・」
誰かに言い訳するようにそう言うと、大口を開けて(か、か、か、か、・・・かふぅぅぅぅぅぅ・・・)と大アクビした。
メデュウサの一睨みで剥製にされたような硬直したままのミミをおいでおいで、と床に座ったまま呼びつけ、何かと思って恐る恐る近寄って行ってみると、頭に敷いて簡易枕にしていたコンビニのビニール袋をホイ、と、くれた。中に酒のつまみのお菓子がゴチャゴチャと沢山、半分潰れて入っていた。
「今日もあんたが来るかと思って。それ賄賂だから。受け取ったんだから爺婆にはあたしがここに居ることシー、ね?内緒にしといて・・・」
美女はそう言いながらゆっくり床に倒れ、ぐぅぅ・・・と寝始めた。寝乱れて縺れた髪、とれかけの付け睫毛、ちょっと滲んだ濃い化粧の綺麗な顔の脇にしゃがみ込み、寝息に耳を澄ませてみたが、驚く事に、この状況下で、寝たふりではなく本当に眠ってしまっている。
昨夜は相当深酒をしたようだ。半分は暴力的濃度のアルコールによる昏倒かも知れない。ミミは(どうしよう・・・)と考えた。
菓子を受け取ってしまったが約束はしていない。しかしこんな物を二階から持って降りたらお婆ちゃんに「何それ?」と上階で不審人物から賄賂を受け取ったことに気付かれてしまいそうなものでは無いか?
(この人、酔っ払って脳味噌がちゃんと働いていなくて自分の思惑と矛盾する支離滅裂なことをやってるんだ・・・)とミミは思った。どうもそんなに凶悪な極悪人には見えなくなってきた。昨日も、下の階の者に危害を加えるよりも自分が遁走する方を選んだ。一家惨殺とかそんな大それたことはこの人はしないだろう。とにかく眠たすぎて人を馬鹿にしたようなひしゃげた菓子で子供を手懐けようとしてる間に自分が眠り込んじゃったようなオトボケな人だ。寝かせといてやろう。ひとまず今日のところは・・・
ミミは菓子の袋を美女の枕元に置いた。賄賂としてではなく好意を受け取った印として袋からラムネの小袋を一つ取りその場で頬張った。
部屋を見回し、これから日が昇り温かくなるから風邪を引くことはなかろうと見積もり、とりあえず糸のように細く窓を開けて換気した。美女はコートを脱がずにフードを被り手はポケットに突っ込んでそのまま外を歩けそうな格好で床に寝ていた。枕が足の上に置いてある。頭の下に位置を変えてやろうと枕を取り上げて、ストッキングしか履いてない足首をクロスさせ寒そうにモゾモゾするのを見て(そうか)、と気が付いた。ブーツは揃えて窓の外に置いてあった。頭の下が硬いのよりも足の寒さの方が辛くて枕を足の上に載せていたのだ。ミミは枕を元に戻してあげた。
読み終わった児童書を本棚に戻し、新しく次の本を棚から抜き出して、もう一度眠れる美女の寝顔を確認してみる。目の際から眉の下まで、青から紫色へグラデーションして、熱帯魚の鱗みたいにキラキラしている。口紅の色も珍しい。見る角度によって光沢が変わるオレンジ色。きっと遠い外国から来たんだ・・・酒の匂いがマシになるとこのお姉さんが付けている香水の薔薇の香りを感じた。
舌で頬の内側を触るとラムネは溶け、冷たいような爽やかな濃い甘味だけが頬の内側に張り付いていた。ミミは本を持って下の階へ降りて行った。
・二階に居るのは綺麗な女の人。(口は悪い)(金持ち)スイレンさん。
・一階の夫婦は息子の話しかしない。(この夫婦、自慢の息子の話ばかりで娘が居ることを忘れてるんじゃないのか、小さいときから優秀な兄ばかり取り沙汰して出来が良くない妹は居ないみたいに扱われてきて、それでスイレンさんも居ない振りする事に慣れ、階下の親に会いたくないんじゃ無いのか?等々と想像。)
・スイレンさんの経営するバーに連れてって貰う。
・ある時、気付く。いや、本当は最初の瞬間から気付いていたのかも知れない事に、ついに真正面から目を向ける。「リキヤさんって、・・・?」「嗚呼、あたしの古い名だよ」
・お婆ちゃんの死に目にも、お爺ちゃんの死に目にも、スイレンのかわりにセリナが花を届け、看取る。
・「爺ちゃんのこと、ありがと。婆ちゃんのことも」
「うん」
「・・・ん」
「・・・」
「・・・あんた、これからどうすんの?」
分らなくて首を傾げた。
「・・・ま、とりあえずウチの店来る?」この家もゆくゆくは売りに出さなくちゃ。
・そこで知り合う。雑居ビルの中空の中庭。背の高いビルに囲まれた背の低いビルの平らな屋根の上。猫とカラスと子供達の遊び場。
隣の隣のビルの非常階段を伝って窓から中に入り長い廊下を抜け、もう一つ向こうの窓の中に友達が出来る。その友達の兄の知り合いの先輩に騙され変な車に乗せられロリコン相手の商売をやらされ逃走、ママの知人の車にぶつかり拾われ、伝を辿って、ママの妹分の元に。
「ミドリさん・・・」ミミを連れてきた男は戸口に立って部屋の中にいる女に呼びかけた。豊かな黒髪を半分巻き上げ半分は巻き下ろした女はこちらに背を向けて鏡台に座っていた。豪華な装飾に溢れた部屋だ。廊下と窓辺は大輪の白百合、鏡台の上の鉢にはアネモネ。窓の外の街灯に明かりが点り始める夕暮れ、シャンデリアにも小さなオレンジの光が灯っている。女は下着姿だった。肩に薄物を羽織っていたが、その下の肌の線が光に縁取られるかの如く透けて見えていた。
「何よ?もう迎えに来たの?ちょっと早いじゃない」
ピンクゴールドの細い鎖の腕時計を腕から外しながら、彼女が言った。チラリとこちらに横顔を見せ、男を、ミミを見、それからミミをジィッと二度見してから、鏡に向き直った。
「サコちゃんの子?可愛いわね。子どもがいたなんてね、知らなかったわ」
ミドリさんと呼ばれた女はこちらに背を向け鏡に向かい、顎にできたニキビを点検すると見せかけてミミを再三ジィィッと見詰めていた。
「それが・・・」言いにくそうに男がモジモジしてると、
「何?」ピンセットを持ったミドリが椅子の中で今度はお尻からこちらに向けて振り返った。「何よ?何なの?ハッキリ言ってご覧なさい」
耳障りの悪い錐のように声が尖った。
「その子どっかから拾ってきたって言うんじゃないでしょうね?うちの前に落ちてたの?あ?どうなの?うちは野良猫保護センターじゃないのよ、ガキ置いてく女には不自由してないの、ママが今何人抱えてるか知ってるでしょ?ボランティアじゃねぇんだから!ただでさえ・・・」
「それが・・・」
「何?!」
ミドリは目の光を強くしますます唇を引き結んで聞く構え。「言ってごらんよ。聞いてやるから」
眩いような凄い美人だが、この時の表情はかなりキツく見えた。嘘や誤魔化しは通用しないよと言わんばかりの厳しい眼光。
「僕は・・・僕はちゃんと交通規定を守って走ってたんですが、この女の子がいきなり飛び出してきて、フロントコーナーにぶつかって、転んだんです。」
男は最初から順を追って話すことにしたようだ。
「バン、ドタッと、音がしました。急ブレーキ。轢いた感じはしなかった。しかしこの子が転けた後は見えなくなった。よく見ようとするには車から降りなくちゃいけなかった。それで、ドアを開けたところ、いきなり乗って来ようとしたんです。この子が。」
女は眉を釣り上げ、ミミに向かって何か言いかけたが、男が話を続けた。
「どうやら隠れようとしたらしい。この子が飛び出してきた同じ路地裏から、少年どもが次々飛び出してきて、僕とこの子を見ると、立ち止まり、こちらを指差した。一人の少年は『おっさん、その子返してよ。これから用事があるから』『その子俺等の妹なんだよ』でも顔立ちは全然似ていない。この子は必死になって俺の影に隠れ、怯えて、絶対に向こうへは戻りたくないらしいし、どうも様子がおかしい。
で、僕は言ったんです。
『おっちゃんなぁ、この子をちょっと轢いちまったから病院に連れてかなきゃ。きみらこの子の兄さん達なら一緒に来い。110番へ通報したり保険証持って来て貰ったりしなきゃ・・・』すると、逃げてったんです。男の子達は。一人残らず」
「ふぅん?どれ・・・」女が優しく手招きし男は背を押すので、ミミは前へ進んだ。女の手が呼ぶ方へ。おいでおいでと。彼女に近付くほどに甘い芳しい花の良い香りに包まれた。「綺麗な子ね・・・ちょっと怪我してるけど」
腕をそっと持ち上げられ、傷をなぞられて初めて、肘に血が流れてるのに気付いた。きっとフェンスをよじ登って飛び降りたときに引っ掛けた、あの時に引っ掻いてできた傷だ。
「ここは痛む?ここも・・・ここも・・・うわぁ・・・(ミドリがミミの髪を額からそっとかき上げながら囁いた)・・・殴られたんだね・・・」
自分の顔は自分では見ることができなかった。あの嫌な車の中では様々な虫唾が走る出来事が起きた。全て覚えているわけでは無いが、ソロソロと指でなぞられると唇や頬や目尻や額が切れたり腫れたりしてるのが分った。
「嗚呼、痛そう・・・可哀想にね・・・」
相手の切れ長な大きな目が潤み目尻に綺麗な雫が集まってきた。もっとよく調べようと柔らかい手が耳の後ろにかかり、ミミの顔をもっと自分の顔に近寄せた。温かい息が顔にかかるくらいまで。
サコちゃんが戸口から付け加えた。
「病院へ連れてったけど見ての通り、この子、持ち物無しで、身分証も何も持ってないし、名前聞いても一言も喋らないんですよ」
「ふぅん?レントゲンは?」
「撮りましたよ。健康体です。喋らないこと以外、問題なし。」
「親は?」
「居るなら帰りたがるでしょう。居ないか、居ても居ない方が良いような親か・・・。もとの場所に戻したらまたあの少年達に見付かって捕まえられ危険な目に遭うかもと・・・ここへ・・・」
「サコちゃんから見て危険を感じさせる雰囲気があったのね?そこに居たその男の子達には?」
「不良少年どもです。上は高校生ぐらい、下はこの子と同じくらいの歳に見える子も居たけど、なんせ物騒でしたよ。凹んだ金属バットやらガムテやら手に手に持ってる品々もね」
ミドリの指がさっきからずっとミミの髪から離れず、梳き撫で続けてくれていた。車で髪を鷲掴みにし頭を固定し硬いシートにゴリゴリ押さえ付け続けたあの荒々しい手との違い。労りの籠もったその柔らかい手の温もりに強張っていた心が解きほぐされていく。
「嫌な目に遭ったね、あんたも・・・」女のキツい目が閉じ、ミミの頭を両腕に包み込んで自分の柔らかい胸に引き寄せた。次に目を開いてミミを見詰めた女の表情は女神のように優しげだった。「そのうち声も聞かせてよね」
そしてサコちゃんと呼んだ男の方を見た。
「ま、預かろうか。あたしが。とりあえず風呂に入れてみるわ。ママは今夜帰ってくるから、綺麗にしてからお披露目しよう。この子をどうするかはママの意向にかかってくるし・・・ちょうどこれから私もお風呂なの」
そう言えばさっきから水音がしていた。続き部屋のクリスタルガラスのカーテンで隠された向こうが、透かし見ると浴室になっていて、金の猫足バスタブに薔薇色の泡風呂が縁まで溜まって溢れかけていた。むせそうな花々の香りの蒸気もモクモクとこちらの部屋まで漂ってきた。
サコちゃんと呼ばれた男は赤面し「では僕は出直して一時間後にまた・・・」とか何とかモゴモゴ言いながら戸口から後退り、観音開きのドアを閉めた。
扉が閉ると、香りも閉じ込められて、より一段と花々の茂みの香りが深まった。
「おいで。こっち」
女が椅子から立ち上がった。と同時に肩から薄い羽織が滑り落ちる。腰に赤い引っ掻き傷。ブラは付けてるのに下は裸だったことに改めて気付いた。プルンと形の良いお尻。首筋から踵まで、全てむっちりとして形が良い。
「その泥がついた服を脱いでごらん。後で洗濯するし綺麗なガウンを貸してあげるから。恥ずかしがらずに。女同士、ほら、あたしも裸だよ」
女はミミの着ている物に指1本触れなかった。どんなに汚くて破けていてもそれが今のミミの唯一の持ち物であり尊厳なのだと理解している。無理に脱がせようとせず、慌てず騒がず、自分の長い黒髪を頭の上にまとめ上げた。石鹸を湯に浸して陰毛で泡立て、いつもそうしてるんだという風に顔を逸らして喉から濡れた石鹸を肌に滑らせ、自分の体を洗い始めながら、時折こちらを向いてニコッと誘った。
ミミはしばらく立ち尽くしてボーッと見蕩れていた。目の前に広がる光景があまりにも甘美だったので、情景全てが視野に収まる位置にいて邪魔をしたくなかった。しかしミドリさんが片足ずつバスタブに入り身を沈めてしまうと、ザーッと湯が溢れモウモウと湯気が上がり、綺麗な姿態が隠れてしまったので、その時点で服を脱ぎ捨て、浴槽に近寄っていった。
「おぅ、来たか来たか。よしよし」ミドリさんはバスタブから腕を伸ばしてミミの頭に石鹸を擦り付けた。「あたしに洗って貰いたい?自分でやる?」
ミミは自分でやる方を選んだ。(この時は。後からその事をずっと悔やんでいた。ミドリさんに洗って貰ってるお客のおじさんが天にも昇りそうな気持ち良さそうな顔してるのを覗き見てしまい、その事を言うと、仲間に入れて貰った後でも、一緒にお風呂に入って洗いっこして貰えるようになった。稼ぎ頭、ママの右腕、立場はかなり上の人と知った後も。そうなるとこちらは畏れ多かったが、でもずっと目をかけて貰え続けた。)
・ミドリさんは当時17歳、一本立ちを控えた高級娼婦だった。18歳から合法。新店で看板を張り派手に売り出すことが決まっていた。二月の誕生日から、正々堂々胸を張って商売ができるようになる、そのかわり、値崩れを起こす可能性もある。違法というのは裏を返せば高値をとれるという事。これまではある意味法律に追い風を授かっていた。ここからが正真正銘、真剣勝負、培ってきた手練手管、腕の見せ所という大事な局面だった。
既に抱える養女が3人いて渋るママには
「あたしが面倒見ても良いよ。メグと一緒に助手をやらせながら仕込む」と仲間に加える方に推薦してくれる。(メグはもっと前からここで育った子。15歳)
・四つの鏡台。廊下を挟んでドアを開ければ互いの顔が鏡越しに写し合える。
メグ、ミミ、ミドリ、ママ。四人で海外旅行へ行ったりもする。
(ミドリは仕事がどんなに忙しくても新店に自分の持ち部屋は持たない。絶対寝るときは今まで通り妹たちとママと一緒に寝たい、ここが私のホームで、仕事場とは建築を分けたい、と言って必ず帰ってくる。)
・姉御肌、皆大好きミド姉ちゃん。ママもミドリの助言には重きを置いてる。
・メグの陰謀でミドリ死ぬ。
・ママは不信感からメグ共々ミミまで放り出す。(新店で闇営業、こっそり未成年者を働かせてると通報した?店ごと従業員もライバル店のものになる?そんなことある?)
・ミミ、一時、芸能事務所に所属する条件で客の一人と契約、糊口を凌ぐ。
・ママから放り出されても恩義を忘れずママや下の子達の味方で居続けようとする。それがミドリ姉さんへのできなかった恩返しにもなると思って。
・ママの信頼回復。
「戻っておいで。話があるの。あなたにしか頼めないことよ・・・」
産業スパイを頼まれる。「あなたの客にいるわよね、○○さん。あの人から聞き出して欲しいの・・・」
それからも数々ハニートラップを仕掛ける要員として仕事を任される。
「懐かしいこのママの店でまた働きたい、」と申し出てみる。「ママの傍に居たい、親しい人の傍に・・・」今ならあの時のミドリ姉さんの気持ちが分る。
「いいえ、抱えてる子が今4人に増えて空き部屋もないし手一杯なのよ。それにね、私があなたを弾き出したのを下の子達も見ていて知ってる子が多い。あなたに外で働いて貰うことは私にとって好都合なの。内にいては見えない内の者達の不審な動き、他所の店との結託、私達を潰そうと巡らせる策略等があれば、目を光らせておいて教えて欲しいの。これもあなたにしか頼めないことなのよ。うちの店から永久追放したことになってるあなたにしか」
「・・・」確かに。それが一番都合が良いのは分る。しかし寂しい。抱き締め合って体温を分け合い一緒に寝た人ともう二度と一緒に寝ることはないと突き放されるのは。
・
とても小さい家。家に居るときのお婆ちゃんからは古い箪笥の匂いがする。そうでないときは煮物の匂い。小さいかわり日が燦々と当たる居間でお婆ちゃんは日中を編み物ばかりして過ごしている。
煙草ばかりふかしてる気難し爺さん。ジロッとセリナを見やり、口をへの字に曲げ、お婆さんを睨む。
お爺さんのことは好きになれないなとセリナは直感した。
・お婆さんとはちょくちょく会い、死期が迫るのを悲しく寄り添い、最後は看取れない。
・お爺さんの介護は嫌嫌ながら何故か責任を感じ、最後まで看取る。
・お婆さんの介護中くらいに、ウラ君と別れ、お爺さんの介護中に、”ママ”に拾われ、三人部屋に一室を与えられる。
★お婆さん入院中の病院で顔見知りになる?看護師
★爺さんに連れられ、風俗街とラブホテル街をウロついて立ちんぼ?売りつけ?みたいなことされてるとき、(誰も相手にしてくれず、帰りかける)爺さんについて歩いてると、後ろからそっと肘を掴まれ、「おいで、ちょっと」と囁いて、脇道に手招きされる。良く見ればあの優しかった看護師だ。
「パフェ食べる?それともパンケーキが良い?」
セリナはどっちか決めきれなくてうんうん、と二度頷いた。
「お、良いねぇ、欲張りちゃん。嫌いじゃないよ」看護師はセリナの頭をポンポンと撫で、ちょっと首を伸ばして爺さんの様子を伺った。(爺さんはだいぶ行ってからやっとセリナが後ろからついてきてないのに気が付いたらしく、『ガキ、おぉい、ガキが・・・』と呼ぶ声が引き返し近付いてくるのをセリナも聞いた。)目隠しをするように看護師がコートの裾を広げ、セリナの肩をクルリと回し、
「さぁ行こう。ここから離れちゃおう」先へ進むよう急かした。
「あんたの爺ちゃん、痴呆が始まってるんじゃない?
・三人娘。怠け者のA、家出少女B、亡命者C。与えられた鏡台の位置を互いが映り合うように移動して、ずっと一緒に居た。客の悪口も、客からのプレゼントも、マスカラも共有して。
・クリスマスツリーに飾り付けていく求愛の品々。ツリーの足元に積み重ね、たまに転がり落ちるプレゼントの箱の山。
・片方が裏切り、片方が死に、もう腹を割って親友を作ることはこの人生では出来そうに無いと思い知った。
・何に心を置けば良いんだろう?と分らなくなった14歳。
「勉強しなさい」と言ってたお婆ちゃんの言葉が蘇る。
勉強しなさいしなさいと言い過ぎて嫌われたらしい、死に目にも会いに来てくれなかったお婆ちゃんの一人息子。「でもそれでも良いんだよ、どっかで元気に暮らしてるって証拠。親の死に目さえどうでも良いって言うくらい今の自分のやってることに忙しいって言うのは、集中力だよ。願わくは、しょうもない女に捕まって不幸な事になってなけりゃ良いけどね・・・」
勉強は裏切らない。この先やっていかねばならない本業はもう定められてしまっているが、逃げ道もいくらあっても良い。手に職。でもまず、学びたい。同じ年頃の学生達がお昼間に学校へ行って教わってるようなことを、自分も・・・




