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夙夜夢寐   作者: 神崎 悠斗
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もう一度高校生活を送りたいと思ったことはあるだろうか。

同じ高校であの頃の仲間に会いたい。華やかな青春を送った物ならば誰だって思うだろう。

だが僕は、違った高校で、奏と・・


「ねえねえお父さん」

「この制服どう?似合ってる?」


今年から高校生になる一人娘の愛優は、僕の前で制服を見せびらかすように1回転する。

その回転が至軽風起こしてセーラー服のリボンが揺れる。子供は大きくなるのが早い。魔女の宅急便のお父さんもこんな感じだったんだろうかと思う。


「あぁ似合っているよ」

「卒アルで見た母さんにそっくりだ」

「髪はちょっと短いけどな」


「そうかな~でもねこれくらいが涼しくて良いの」


「そうかそうか」


今日は入学式であり愛優の誕生日であり、母の・・・。

愛優の母、そして僕の妻である本田 奏の命日である。


「お父さんそろそろ時間!」

「急がないと入学式始まっちゃうよ!」


「そうだな、忘れ物はないかい?」


「もー中学生じゃなんだよ?高校生なんだからもう大人だよ?忘れ物なんてしませーんよーだ」


「そういう所が子供っぽいんだぞ、高校生か・・早いものだな」

「行く前に母さんにも挨拶するぞ」


二人で仏壇の前で手をそろえ目を閉じる


おはよう奏、あれから16年たったぞ

もう愛優は高校生だ。後ろ姿がどんど奏に似てきて、最近思い出してよく泣いてしまうよ。

奏と同じ高校にはいるんだよ。僕も君と一緒に過ごしたかったよもっと。


「・・・・・じゃあ行ってきます」


「じゃあお父さん行こっか」

「そうだな」


第二章  帰還?


日本一海が近い高校として有名な平夏高校。それが娘がこれから通う学校であり奏の母校でもある。ついでだが僕が通いたかった高校でもある。

僕の出身は海なし県の田舎だが祖父母の家が高校の近くにあり夏休みにはよく遊びに行った。

海を眺めながら電車に乗って通学し、授業中は窓から見える海の潮風を浴び、放課後は友達や彼女なんかと夜の浜辺で遊んだり。特に将来働きたい仕事も夢という夢も無かった僕の唯一の夢と呼べる物だった。両親は祖父母の家から通えるならと受験を許してくれたが、中学2年生の時事故で他界してしまい、私のかすかに宿った夢への道は途だたれてしまった。

地元での高校生活は最悪だったとかでもなく普通に楽しかった。ただ、海はなく通学は自転車、授業中窓の外を見れば山。通学路は周り1面は田んぼが広がっていてまさに田舎という風景の中の3年間だった。思い描いていた高校生活とは真反対に等しかった。だから私は大学で、私は憧れだった海の近くの大学へと進学した。選べなかった道、失った青春を求めて。


やはり思っていたとうり素晴らしいものだった。アルバイトしてサークルにも入って合コンもたくさんした。今までで一番楽しい時間だった。私も含めて田舎から出てきた友人は今が最高似楽しいと言っていたが、都会育ちの子や平夏高校からでてきた友人は口々に、


「高校生にもどりてぇ」


という。卒アルやビデオに写真たくさん見してもらった。そこには別格の輝きがあった。

自分も、ここで過ごせたなら・・など何度考えたものか。しかし、高校生というブランドは人生で一度きりのもので再び得られるものではない。だから私は今という時間を大切にし大学生活を楽しむことにした。そして大学2年の夏、奏に出会った。私たちはすぐに意気投合し、付き合い、大学を卒業して1年で結婚した。そこから3年が経ち1つの命を授かった。それが娘の彩花である。そして私は命の誕生と死滅を同時に経験した。彩花を男手ひとつで今日まで育ててきた。平夏高校までは電車で1駅ほどしかない。しかし通勤時間であり入学式でもあったので電車は混むだろうと予想して、今日は歩きで向かっている。まだそんなに高くない太陽が私たちを照らす。道端に咲いていた梅の花はすこし緑の葉が混じり春の訪れを巻いた。


「お父さん!遅いよー早くー」


私が歩くすこし前から後ろを向きながら声をかけてくる。その無邪気な後ろ姿はよく奏に似ていた。


「はいはい」


そう返事をし、すこし小走りで彩花に追いつく。すこし長い上り坂を登り切るとその高校は姿を現した。校門には満開の桜が咲いていた。


「すこし着くのが早かったな」

「まだ人も少ないし、写真撮るか?」


「うん!」


無邪気な笑顔をもちらに見せうなずく彩花。写真を撮り、入学式が行われる体育館に向かう。入り口の受付で彩花と別れ、案内された体育館後ろの保護者席に座る。


「大山君?」


ふと横から声をかけられた。


「佐藤君?久しぶりだな」

「奏の葬式以来かな?」


「そう・・ですね」

「16年ですか・・早いものですね」

「あの頃のことは昨日のことのように思い出せますよ」


彼の名前は、佐藤 瞬。奏の幼なじみであり、同じ大学の同級生である。大学時代はたまに遊んだが、奏が亡くなってからは年賀状を2~3年送り合ったくらいでそれっきりだった。


「彩花ちゃん同じ高校だったんですね、元気ですか?」


「はい・・とても元気で元気すぎるくらいで」

「後ろ姿とか無邪気な感じは奏によく似ていて・・・」


「そうですか・・うちの馬鹿息子は俺に似たんでしょうね、自分の高校時代を思い出して恥ずかしくなります」

「それにしてもこの高校は昔のまんまですよ・・全然変わってない」

「あそこにいる教頭も私のときと一緒ですよ」


横に座る佐藤 瞬。彼もまた、この学校の卒業生であり、私が選べなかったこの学校で高校生というブランドを謳歌した者だ。私は彼の高校時代も奏の孤高時代も卒アルと数枚の写真でしか知らない。どんな高校生時代だったのだろうか。


「新入生入場」


いつの間にか時間も過ぎマイクから拾われた低めの声がスピーカーを通して体育館に響き渡る。

威風堂々が流れ総勢120人の新入生が入場し終え、再び低めの声をマイクが拾う。


「これより令和23年平夏高校入学式を始めます」

「一同ご起立ください」


膝に手をあて、歳とともに重くなる腰を持ち上げた。


「あれ・・・?」


急な立ちくらみが体を襲い、視界を奪う。歳なんてとりたく無いものだ。

“俺だって”

ここで青春を送りたかった。高校生というブランドをここで過ごしたかった。そしてもう一度奏に会いたいなぁ・・


急な立ちくらみのせいで思わず座ってしまったらしい。みっともない。

急いで立ち上がった。


「大丈夫?君」


横から耳元に小さな声でささやかれる。


「あぁ大丈夫大丈夫佐藤君」


「佐藤君?てか何で俺の名前知ってんの?」

「さっきのホームルームで名簿で覚えたんか?」


さっきの教室・・?何言ってんだか。それにしてもさっきより体育館のステージが近い・・。入学式は新入生が前で後ろが保護者だったはず・・というかこの服・・学ラン?さっき聞いた声とは違い若々しい声をマイクが拾う。


「えーと・・君たちは平成最後の入学生でもあり、令和最初の新入生でもある。昔の文化をしっかり重んじ、新たなる時代への道を進んで欲しい。」


平成最後・・令和最初・・??

ま・・・まさか高校生に戻った???


んんんん??

これはどういうことだ?

時間が戻った?

というか何でこの学校の生徒に??

俺は地元の高校に進学したはずなのに・・というか彩花は?大丈夫なのか?

座りながらだがとっさに周りを確認する。斜め後ろに彩花がいた。

彩花に声をかけようとして思わず息をのんだ。

それは彩花ではなく奏だった。

間違いない。顔立ちは彩花にそっくりだ。

当たり前か、だって母親なのだから。しかし、このままだとまだ彩花は生まれないし・・それに奏と結婚することさえまだわからないのか・・。


「もしかしてお前もあいつに惚れたか?」


再び横から話しかけられた。


「実はさ、あいつ家が近所で幼稚園からの幼なじみでさ結構モテるんだけど、未だに彼氏の一人もいないんだぜ」


「そ、そうなんだ・・」


確か奏は俺が初めての彼氏っていってたが本当だったぽいな。というか佐藤ちょっと、チャラィなそれにしても奏かわいいなーというか同じクラスなんだな。というかこれからどうなるんだろう。入学式での大人たちの会話は俺の耳から耳へと抜けていった。

そしていつの間にか退場の時間で、前の生徒を追いかけるうちに教室へと帰っていった。



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