枯れ草
朝6:00、日課のウォーキングに出かけようと思って、毛糸のカーディガンを羽織った時…、左の袖の中ほどに、何やら長い紐のようなものがついているのを見つけた。
何だこれはと思いながら、とりあえず家を出る事にする。
ぼやぼやしていては、6:30から始まる公園のラジオ体操に間に合わなくなってしまうのだ。
玄関の階段を降り…歩道に入ったあたりで歩きながら袖を確認すると、長い枯草のようなものがついている。
こんな長い草がある場所に入ったかな…、そんなことを思いながら、袖を払いつつ歩みを進める。
細長い草はニットの編み目に食い込んでいて、軽く払ったぐらいでは落ちてはくれないようだ…。
ならばと指先で枯れ草をつまむのだが、ブチブチとちぎれてしまってなかなか取る事ができない。
……立ち止まって一気に抜いた方が早いかな。
ちょうど信号に差し掛かったので、歩みを止め、カーディガンを脱ぎ、草の除去を試みる。
思いのほか長い草で、 引っ張っても引っ張っても出てくる。
こんなに長い草がどうして…、なんかおかしくないか…。
明らかな違和感に疑問が浮かんだ、その瞬間。
ドゥガ―――――っ!!!
ゴオッ!!!!!!!!!
ものすごい勢いで、トラックが通り抜けていった。
圧力のある風が、早朝の未セットの髪を激しく揺らす。
危ない運転するなあ、早朝だから誰もいないと思って無茶しやがる…そんなことを思って、騒音を撒き散らしたトラックを見やり、信号を確認すると。
……黄色信号?
あの猛スピードは、信号が変わりそうだったからアクセルを踏み込んだ結果、出たものだと。
だから、そろそろ自分が渡る信号が青になるはずだと。
………。
草の事が無ければ、私は青信号を渡れていたはずだ。
青信号を渡っていたら、私は、もしかして。
草が、袖についていて……本当に良かった。
見知らぬ長い枯草に、感謝しなければなるまい。
しみじみ、そう思った私だったが。
何度思い返しても。
どれほど家族に聞いてみても。
私が、あのカーディガンが、草の生い茂るような場所に行った事実は……どこにも見つからなかったのだった。