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ショートショート11月〜4回目

枯れ草

作者: たかさば

 朝6:00、日課のウォーキングに出かけようと思って、毛糸のカーディガンを羽織った時…、左の袖の中ほどに、何やら長い紐のようなものがついているのを見つけた。


 何だこれはと思いながら、とりあえず家を出る事にする。

 ぼやぼやしていては、6:30から始まる公園のラジオ体操に間に合わなくなってしまうのだ。


 玄関の階段を降り…歩道に入ったあたりで歩きながら袖を確認すると、長い枯草のようなものがついている。


 こんな長い草がある場所に入ったかな…、そんなことを思いながら、袖を払いつつ歩みを進める。

 細長い草はニットの編み目に食い込んでいて、軽く払ったぐらいでは落ちてはくれないようだ…。

 ならばと指先で枯れ草をつまむのだが、ブチブチとちぎれてしまってなかなか取る事ができない。


 ……立ち止まって一気に抜いた方が早いかな。


 ちょうど信号に差し掛かったので、歩みを止め、カーディガンを脱ぎ、草の除去を試みる。

 思いのほか長い草で、 引っ張っても引っ張っても出てくる。


 こんなに長い草がどうして…、なんかおかしくないか…。


 明らかな違和感に疑問が浮かんだ、その瞬間。


 ドゥガ―――――っ!!!

 ゴオッ!!!!!!!!!


 ものすごい勢いで、トラックが通り抜けていった。

 圧力のある風が、早朝の未セットの髪を激しく揺らす。


 危ない運転するなあ、早朝だから誰もいないと思って無茶しやがる…そんなことを思って、騒音を撒き散らしたトラックを見やり、信号を確認すると。


 ……黄色信号?


 あの猛スピードは、信号が変わりそうだったからアクセルを踏み込んだ結果、出たものだと。

 だから、そろそろ自分が渡る信号が青になるはずだと。


 ………。


 草の事が無ければ、私は青信号を渡れていたはずだ。

 青信号を渡っていたら、私は、もしかして。


 草が、袖についていて……本当に良かった。

 見知らぬ長い枯草に、感謝しなければなるまい。


 しみじみ、そう思った私だったが。


 何度思い返しても。

 どれほど家族に聞いてみても。


 私が、あのカーディガンが、草の生い茂るような場所に行った事実は……どこにも見つからなかったのだった。




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