夜会 3
赤髪の王太子は赤い騎士服をまとっていた。赤い生地を金モールで飾った服は、筋肉質で日焼けした肌のペドロによく似合っている。
元男爵令嬢で現王太子婚約者であるミラもまとっているのは赤だ。豊満な胸に引き締まった腰、体のラインを引き立てるデザインのドレスはミラによく似合っていた。
そしてふたりは並んで立つ姿はバランスが良い。
シャンデリアの光を浴びてキラキラと輝いていた。
(どちらも非常識さを政略的で強引な手法を用いてカバーするタイプですもの。性格も含めてバッチリ相性が良いのでしょうね。わたしが傷付く必要もないほど、完璧なバランスではなくて?)
アリシアは皮肉っぽく思ったりしたが口には出さない。
代わりに丁寧なお辞儀をしてみせた。
その隣でレアンも感情の分からない貴族の笑みを浮かべて礼をとる。
「来てくれて嬉しいよ、アリシア・ダナン侯爵令嬢」
「お久しぶりです、アリシアさま。お元気そうでなによりです」
言葉は丁寧でも、その目は侮蔑をもって射抜くような冷酷さを秘めていた。
他人の心のささくれを絶妙に刺激する術を心得ていて、その点においてもペドロとミラはお似合いだ。
「お美しいアリシアさまのことですもの、すぐに次の婚約者は決まると思っていましたけれど。こんなに早いとは意外でしたわ」
笑顔でミラがそう言えば、
「ああ。そうだなミラ。こんなに早く次の婚約がまとまるとは私も思っていなかったよ」
と、ペドロが言う。
「そちらが新しい婚約者の方でしょう? 確か、伯爵さまでしたわよね?」
「伯爵……」
爵位を持ちだして笑顔でこちらを馬鹿にするミラの手法にペドロも乗ろうとした次の瞬間、ある事に気付いた。
「金の……瞳?」
昨今では金の髪に金の瞳で生まれてくる王家の子どもは少ない。
実際、ペドロも金の瞳は持っているが髪は赤い。
(側室の子どものなかには、どちらも持たずに生まれてくる者すらいるのに……伯爵如きが金の髪に金の瞳だと?)
そこまで考えてはたと気付く。
「スタイツ……伯爵?」
「はい。スタイツ伯爵家の現当主を務めているレアンと申します。以後、お見知りおきを」
わざとらしいまでに仰々しく礼をとるレアン。
「あっ……」
この時、ようやくペドロは全てを悟った。
いま目前にするのが前国王ヘンドリックと前国王のレティシア王妃の息子であること。
その息子が自分よりも国王にふさわしい金の髪と金の瞳を持つ若者であること。
前国王夫妻の息子が、絶大な力を持つ貴族であるダナン侯爵家を後ろ盾に得たこと。
そこに依然として前国王派は存在していることを考慮に入れれば、ペドロの地盤が盤石ではないことは明白だ。
加えて、アリシアが自分の婚約者であった理由を瞬時に理解した。
説明は受けたような気がする。
しかし、実感はしていなかった。
だが今は違う。
金の髪に金の瞳を持つレアンを目にした今は、違う。
(私は自分で自分の首を絞めたのか? ミラの後ろ盾であるシェリダン侯爵家の力を得れば、ダナン侯爵家の力など必要ないと思っていたが……それは……間違い?)
「ペドロさま? どうかなさいましたか?」
呆然とレアンを見つめているペドロの姿に、ミラも異変を感じ取った。
(王族といっても臣籍降下で貴族の仲間入りする方は少なくないのよ。だから金の瞳に金の髪を持つ者が貴族にいても不思議ではないわ。なぜペドロさまはあんなにも動揺していらっしゃるのかしら?)
事情を知らないミラには、全く危機感はない。
だが危機感などなくても危機は勝手に降ってくることを、この後ミラは知ることになる。




