第二話 アユミちゃん①
私はちびっ子に案内されて部室、いや同好会室?
言いにくいから部室でいいや。に入った。
「あの・・・申し遅れました。1年2組の松澤アユミと申します。
それで念のため確認なんですが、本当に、その、音ゲー同好会に入ってくれるんですか?」
あぁあああああぁあああ!押しが私に話しかけてくれるううううぅぅぅうう!
声も可愛いなぁおい!
「もちろんです」
いかんいかん、このままでは自我が保てない。
いったん落ち着こう、そうしよう。
とりあえず自己紹介だ。
「3組のナギサさんですね、よろしくお願いします」
推しが私の名前を呼んでくれたことに感激したが、キリがないのでもうやめよう。
部室の中は、小さなモニターと家庭用ゲーム機とゲームセンターで見たことがあるようなコントローラーだけで他は何も無い。そしてアユミちゃんと私以外の誰もいない。
「えっと・・・他の部員はいるのかな?」
「・・・」
やばい気まずい
「・・・」
「まだ2人だけです・・・」
ごめんねえええええええええ!!
答えにくい質問してごめんねえええええええええええ!!
「大丈夫だよ、人数多いのもあんまり好きじゃないし」
これは本当だ。
実は、ここに来る前、ちらっと茶道部の部室を見てきたのだが、
余りの部員の多さに、これは人間関係が面倒くさそうだぞ、
と心の中でバツ印を書いてきたばかりだ。
「それなら良いんですけど・・・
あ、ナギサさんは音ゲーの経験はありますか?」
私は部室のコントローラーを見る。
確か、中学生のころ、友達に誘われてゲームセンターで何回か遊んだことあったっけな。
簡単にゲームの説明をすると、音楽に合わせて上から謎の物体が降ってくるから、
画面下部にある線に重なったタイミングでボタンを押すゲームである。
好きな曲もちょっとだけできて、YouTubeで何度か聞いたことがあったっけ。
「これ、ポップンミュージックだよね。中学生のころゲームセンターで何回か遊んだことあるよ」
「ゲームセンターですか、すごいですね。私は家庭用でしか遊んだことがないんです」
コントローラーに繋がっているゲーム機はプレステ2だ。
この時代ならレトロゲームと言っても差し支えはないだろう。
「ポップンを遊んだことがある人が入部してくれて嬉しいです」
私もあなたに出会えて嬉しいです。
「早速ですけど、少し遊びませんか?」
「うん、5時までならいいよ」
「やった、ありがとうございます」
アユミちゃんがプレステ2の電源を入れると懐かしい起動音が流れた。
「そろそろ時間だから私帰るね」
「はい、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」
私はカバンを持ち、部室を出ようとしたところ、ちょっとした疑問が湧いた。
「アユミちゃんは帰らないの?」
「あっ・・・私はもう少し残ってます」
「そっか、じゃ、お先に」
帰路、私の抑えていた活火山が噴火を遂げた。
アユミちゃんって言っちゃったよ!
アユミちゃんって言っちゃったよ!
いきなりで変に思われてないかな!?大丈夫かな!?
遊んでる間、ずっと何て呼ぼうか迷ってたよ!!
向こうがナギサさんって言ってるから苗字呼びは変だし、
こっちもさん付けすると堅苦しくなりすぎるし、
呼び捨ては距離近すぎだし、うん、
アユミちゃんが最善手だよな、うん。
帰宅後、私は推しのYouTuberライブを見ながら眠りに付いた。
「こっちはこっちで幸せ~」