ルカ対カルロ
ベアトはメインホールに戻ると、メイドのミルコを探し始めた。この時間は恐らく料理の片づけをしているはず。王子アレミオの姿は見えなかった。
(王子さまはきっとまだご就寝されてはいらっしゃらない。早くシオン用の服を用意してご挨拶させないと…。ミルコはどこにいるのかしら。)
11時を過ぎてもなお、メインホールは賑やかな楽器の演奏や踊るゲストたち、そこに宝石のような美しい春の草花の幻想を重ねる魔術師たちの手によって、王子の誕生日を祝うのにふさわしい彩りある雰囲気であった。
「あれ、おかしいな。」
魔術師の一人がつぶやいた。
次の瞬間、魔術師たちが生み出した、ホールの全面を覆う光り輝く幻想の花びら、そして草花たちが音もなくフッと消えた。
そして魔法の明かりも消え、メインホールは一寸先も全く見えなくなった。楽器の演奏も、歌声も、話声も、床を踏み鳴らすダンスの音も、一斉に止んでメインホールは静寂に包まれた。
「誰か、火を。部屋の明かりに火を灯してくれ。」
どこからともなく声が聞こえて静寂が破られると、今度はざわざわと心配そうな話し声が徐々に大きくなっていった。
ドォォン!!
扉が破られるような音が聞こえ、ガシャガシャと動く金属音、ダダダッと走る音が聞こえた。やがて誰かが部屋の明かりに火が灯すと、そこには異様な光景が広がっていた。
「なんなの…これ?」
「きゃああああ」
「動くな!動けば命はないと思え。」
甲冑に身を包んだ大柄な男が低い声で叫んだ。
黒い服に身を包み弓を構えた男たちが、ずらりとメインホールの壁沿いに並んで立っていた。
「手を挙げろ!ゆっくりホールの中央に集まれ。」
その場にいた100名ほどは皆手を挙げて従った。カルロとベアトリーチェはじりじりと下がりながら、目くばせをすると話ができる位置まで近づいた。
(戦力になりそうなのはこのホールにいる魔術師だけか?)
(そうね。もう兵士はほとんど帰っているはずだわ。常駐は数名のはず。)
(ここにいない者は?)
(王子が見当たらないわ。メイドが数名も。シオ…ゲストも少なくとも一人。)
(なんとか俺たちでここを突破して、王子を見つけないといけないわけか。)
1人1人、黒服の男たちの手によって後ろ手で縄で縛られていった。もうあと数名でカルロとベアトリーチェにも縛られる番が回ってくる。
(くそっ…やるしかないのか)
カルロは立ち上がり、叫んだ。
「貴様ら、王国顧問魔術師が集うこの城に押し掛けるとはいい度胸だな。死ねぇ!!」
カルロが手をかざした次の瞬間、自慢の火炎魔法が…出るはずだった。カルロの声は虚しくホールに響き渡っただけだった。黒服の男たちは、何事もなかったかのようにカルロの存在を無視して作業を進め、カルロとベアトリーチェもすっかり縛り上げられてしまった。
「なん…だと?」
「ヒヒヒヒヒ。自慢の魔法が使えないかい?」
破られたメインホールの扉から、頭まですっぽりと入る黒いローブで全身を覆い、紫色の瞳に白い髭を生やした細見の男が、中央に集められ縛られた人々へ向かって歩いてきた。
作業中の黒服の男たちは、一斉に作業を止め、ローブの男に敬礼する。
「ワシの『反マナの結界』は、結界内のマナを全て無効化するのじゃ。つまり王国自慢の魔術師団含め誰も魔法を使うことはできない。ワシを除いてな!ヒヒヒヒヒ!」
ルカは指先に魔法の火を灯すと、カルロの目元に近づけ、頬をジリジリと焦がした。
「死にたくないなら、大人しくしていることだ。」
カルロは恐怖におののいた表情で、それきりうつむいてしまった。
「ルカ様!王子を発見し連れて参りました!」




