耳飾り
「君のフィアンセが来るんだろう?これを着けておくといい。」
王子アレミオはベアトリーチェの部屋に入ると、小さなダイヤが並んだ光り輝く耳飾りをベアトリーチェに手渡した。
「君の働きに報いる機会をずっと探していたんだ。」
「いえ…こんな高価なもの、受け取れませんアレミオ様。」
「いいんだよたくさんあるんだし。叔母からのもらいものだ。ほら、着けてごらん。」
ベアトリーチェの普段の働きぶりは城内の誰もが認めるものだった。アレミオ自身、狩りで深手を負った際にベアトリーチェの回復魔法に助けられたことがあり、アレミオからすればこのプレゼントは自然な気持ちからだった。
アレミオがベアトリーチェに近づくと、王冠の下から流れる橙の髪の毛が揺らぎ、
ほんのりと柑橘系の香りがした。
「…あ、ありがとうございます。」
少し屈んで背丈を合わせ、耳飾りを付けようと手を伸ばした王子から慌てて耳飾りを取ると、ベアトリーチェは自ら耳飾りで両耳を挟んだ。ここ数年、しばらく忙しく身を飾ることもなかったからか、なかなか上手く着けられず危うく落とすところだった。
「よく似合っているよ。君のフィアンセに会えるのを楽しみにしている。それじゃあ僕は行くね。」
「ありがとうございますアレミオ様。私もすぐに参りますわ。後ほどホールでお会いしましょう。」
ベアトリーチェは頬を赤らめたまま、横でメイドのミルコがにっこり微笑んでいるのにも気づかず、しばらく鏡の前でぼーっとしていた。
「とってもお似合いですよ、ベアト様。」
「あ、ああ。ごめんねミルコ。私もすぐに出るわね。シオンがこちらに先に来ることがあったらホールまで連れて来てくれる?」
そう言い残すと、ベアトリーチェは何かにつまずきながらドアを開けて、再びメインホールへと向かっていった。
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同じ頃、暗闇に紛れて城へと向かう複数の馬車があった。男たちが馬車から一斉に飛び降りると、最も大柄な男が低い声で言った。
「α地点、β地点、作業開始。全員配置に付け」




