ネロの怒り
メインホールでは、大柄のネロが他の黒服たちと共に、縛られて自由を奪われた人々に睨みを効かせていた。
すっかり元気を失って、先ほどから一言も話していないカルロが、ぼそりと言った。
「Aランク魔術師、『マナ殺しのルカ』だ」
「え、なんて言ったの?」
憔悴したベアトリーチェが聞いた。
「マナ殺しのルカ」と言えば、王国でも数えるほどしかいないAランク魔術師の一人に数えられる。特に対魔術師には滅法強く、相手の魔術師は一切の魔術を使えずに一方的にやられてしまうという。
(そんな大物が来ていたら、確かに私たちの手に負える相手ではない…せめて魔術に武器で対抗できる王国兵たちがいなければ。)
「ドサッ!」
突然メインホールからガラスで仕切られた中庭に、何か黒い物体が落ちてきた。目撃した者もしなかった者も、音のした方向へ釘付けとなった。鼓動が高鳴る。
ネロが黒服に命じ、中庭へ見に行かせた。黒服が戻ってきてネロに報告すると、何やら激怒し始めた。ネロも中庭へと行き、しばらくすると戻ってきた。目を真っ赤にし、泣いているようだった。
「うおおおお許さん!許さんぞおおお!!」
ネロは黒服たちにメインホールの監視を任せると、他5名の黒服を連れてメインホールの扉を蹴破って出て行った。
「何が…あったのかしら?」
「…奴らの仲間が死んでいたんじゃないのか?」
「でも一体誰が。まさか…」
苦々しい顔をしたある黒服の手には、血がべっとりと付いた、ベアトリーチェに見覚えのある、折れた樫の杖が握られていた。




