花火
「大丈夫、追っ手は来ていないな」
シオンは屋上へ駆け上がると、打ち上げ花火の筒を見つけた。ずらりと並んだ筒は導火線で繋がっており、火を点ければ連続で打ち上がる仕組みになっているようだった。
(もう打ち上げの時間は近づいているはずだが…誰もいないということはやはり皆捕まってしまったのか)
シオンは急いで花火の筒を屋上の北側の角へと運んでいった。屋上から身を乗り出すと、城下町が見えた。
(俺の推測が正しければ…あった!兵舎だ!)
王国は長年北方との戦が続いていたため、土地の形状次第ではあるものの、通常多くの城において城の北側に兵舎を配置して侵攻に備えているのであった。城で本日の勤めを終えた者や、城下の治安を守る者など多くの兵士がそこで休んでいるはずだった。
花火の筒を兵舎に向けて横向きにセットした。
「頼む、みんな、気づいてくれ…!!」
ドオオンドオオンドンドンドオオオン!!
シオンが点火すると、一斉に花火の筒から花火玉が飛び出していく…!
半分近くは目標の兵舎から逸れたものの、複数は屋根、複数は壁に着弾し炸裂した。
しばらく見ていると、慌てて出てくる兵士たちの姿が遠目に映った。
(火事にはなってないな、よかった…さすがに城で何かあったと気づいてくれるはずだ。早く駆けつけてくれ…!)
+++
花火の音は、城中に響き渡った。もちろんここホールにも。
大柄の男が言った。
「ちょっと待て。王子を除き城中の全員がこのホールに集められたはずだ。なぜ花火が予定通りおこなわれたのだ。」
「…」
誰も答えられない。
「マルコ、屋上だ見に行ってこい。」
「はっ!かしこまりましたネロ様」
大柄なネロにマルコと呼ばれた黒服は、大振りの剣を握りしめると屋上へ向かった。




