第六話 それぞれの変化
目を覚ました去時音は俺の姿を見て、驚いた様子で説明を求めてくる。そして、俺は気絶している間に俺が何をしたのか、男がどうなったのかを説明した。
「そうなのね。ごめんなさい、私はなんの力にもなれなくて」
去時音は申し訳なさそうに俺に謝ってくる。だがしょうがないことだと俺は思うし、去時音の魔眼の能力は戦闘向きではないだろうと思った。
「そんなこと全然いいよ。それよりも二人とも無事にこの戦いを生き残れたことを喜ぼう」
「………そうね、ありがとう。あなたの腕今、治すね」
去時音は顔を上げると俺の体に触れて、魔眼の能力を使う。すると一瞬で俺が戦う前の体に戻る。ついさっきまで自分が魔眼を使っていたのに、改めて自分の体に受けると目を疑ってしまう。
「じゃあ、帰ろっか!随分時間も遅くなっちゃったしね。明日学校で寝ちゃわないか心配だなぁ」
「ふふっ、授業はちゃんと受けないとね」
俺達はそんな会話をして、公園を出る。俺が倒した男の体はやった俺が言うのもなんだが、かなりグロテスクな状態になっているので避けて通るように誘導する。
公園を出て、しばらく話しながら歩いたところで俺は切り出す。
「あ!ヤベッ!公園に忘れ物しちまった。すぐ戻ってくるから、このまま歩いててくれ!」
俺は去時音にそう言うと背を向けて走り出した。その様子を見て、去時音は、
「暗いんだから、あんまり一人にしないでよね。早く戻ってきてよ」
俺に向かって不安そうな顔をしながら、見送ってくれた。
走って公園に戻ってきた俺は直視するのを避けたいような死体と化した男に馬乗りになっていた。
「お前に恨みとかがある訳じゃないけど、もらってくぜ」
男の両眼に指を突っ込む。冷めかかっている男の体温を感じながら、魔眼をほじくり出す。眼に繋がっている紐のようなものを力を入れて引き千切る。
「………じゃあな。後は静かに眠ってくれ」
俺は公園を再び出て、先に帰っている去時音に追いつく。残りの帰り道も話をしながら帰った。
家に着くと、去時音が夜も遅いから風呂に入って寝ようと言ったので、俺は風呂を入るのを譲り、自分の部屋に入る。試してみたいことがあったのだ。
「さて、やってみるか………」
俺はこれからやることで何かあってはいけないと救急箱とタオルを用意する。そして俺は男にやったのと同じように自分の眼に指を突っ込み、魔眼を取り出す。出血してもいいようにタオルと救急箱を用意していたのだが、あまり出血はせず、もう眼球は入っていない目から一筋血が垂れるだけで済んだ。
「ぐっ………………ぐあっ」
激痛が走る。だが去時音に悟られないためにも大きな声をあげるわけにもいかず、最大限声を抑える。
公園で獲得してきた男の魔眼を手に持ち、自分の眼の中に入れ込む。変な感覚だったが、眼がなくなっていた数秒よりはずっと正常に近い感覚だった。すると、耳からではなく、脳内にスマホの音声アシストのような電子音声が流れる。
《魔眼所有者補助用音声機能の解放条件が満たされました。よって"魔眼の中の小人"起動します》
「な、なんだ!?どうなってるんだ!?」
あまりにも突然の出来事に動揺を隠す余裕もないまま疑問を口にすると、電子音声がそれに回答するように流れる。
《私はあなたをサポートするための音声機能である"魔眼の中の小人"です。まずはあなたの魔眼の変化について報告します。あなたは今『回転』に加えて『銃器』を獲得しました。それにより一部の能力は制限されますが『銃器』の能力が使用可能となりました。そして、ある特定の能力の使用方法を識別音声と共に登録していただければ、私が音声認識のみでその方法での能力の行使を開始することが可能になりました。報告は以上となります。何か御用があれば私のことをお呼びください。では、失礼いたします》
いくつかの情報を一気に言われたので一つずつ整理していくことにする。
まず、男が持っていたであろう『銃器の魔眼』。その能力を制限付きだが使用できるようになったようだ。これはある程度こうなるであろうと予想して行動した結果なのであまり驚かないが使える能力が増えたのは喜ばしいことである。
次に音声認識による魔眼の能力の行使の自動化。半分は俺の推測になってしまうが、使用する度に魔眼の能力で何を、どのように、どうするのかという工程を省略出来るのだろう。これは例えば、今回の戦闘で使った「螺旋」は「頭の中で回転を生成し、その回転を一点に集める」という工程を考えて使用しているのでそれが音声のみで使用できるのはかなり戦闘において優位に立てるだろう。
そこまで考えたところで風呂から上がった去時音が風呂が空いたことを知らせに来たので、俺も風呂に入ることにする。つい魔眼を取り替えたことを忘れかけてしまっていたが、魔眼を取り替えた方の目はなぜか傷一つもなく、正常な状態に戻っていた。それに、これは後から知らさせたことなのだが、取り出した俺の右眼やいれなかった方の拾った魔眼のようなもう使い道がないような魔眼は情報統制のため消滅するらしい。どうやら魔眼は俺が思っていたより人知を越えた物体らしい。
風呂で体を洗うと、今日の戦闘でかいた汗が流され、気分が切り替えられる。そして、寝るまでの間は明日からやるべきことや試してみたいことを考えていた。さすがに今日は体が疲れていたようで、布団に入ると自然に意識が消えていった。
その時、去時音は廻人が公園に戻っている時に起きた出来事について考えていた。
「やあ、こんばんは。私は『未来』と『現在の魔眼』の所有者である時原という者だ。以後お見知りおきを」
白衣を着た中年後半くらいの男がいきなり声をかけてきた。突然の敵の襲撃に私は警戒を一気に高めた。でも、そんな私を見て男は言った。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。今日は君の魔眼を奪いに来た訳ではないからね。今日は挨拶だけして、後日改めてと思っていたが、君のその消費具合だと先も長くはなさそうだ。君も気付いているんだろう、自分の残りの時間がもう残っていないことには」
私は痛いところを指摘され、歯を強く噛み合わせて、男を睨む。実際男の言うことは当たっていて、それくらいしか私に出来ることはなかったのだ。
「おっと、そんな怖い顔をしては折角の美しい顔が台無しだよ」
そう言った男は既に私の前方からは消えており、私の背後から私の白く長い髪を触っていた。それに気付いた私は寒気と嫌悪感を感じ、男に向かって拳を振るう。だが、その拳は空を切り、またしても男は視界から消え、私の背後に回っていた。
「見ての通り、殴り合いは得意ではないのでね。今日のところはここで失礼しよう。また会うのを楽しみに待っているよ」
その言葉を最後に男の姿は現れた時と同様に消えた。私の肩の力が少しずつ抜けていくのが分かる。そして、私よりも「時間の魔眼」近い者がいることも私は思い知ってしまったのだった。
このすぐ後に廻人が戻ってきて、安心感を覚えたことを私は強く覚えている。
回想を終えた私はこれからに不安を感じながらも気持ちを落ち着け、寝ることにした。
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