第三話 共闘開始
次に目を覚ました時、時計を確認すると既に午後三時をまわっていた。この時には自分の頭の中で、昨日の出来事について大分整理が出来てきていた。
昨日の晩に気を失い、朝を通り越して午後まで寝ていただけあって、さすがに腹も減り、喉も渇いていたので部屋を出て、一階にある台所に行くことにする。自分の部屋は二階にあるので、自分の部屋を出て、階段を降りる。
料理は親の手伝いをたまにするぐらいだったが、やってみれば案外なんとかなるかもしれない。そう思いながらとりあえず喉を潤すために冷蔵庫から取り出した麦茶をコップに注ぎ、一気に飲み干す。
再びコップを満たし、それを持って台所と同じ部屋にあるダイニングの椅子に腰を掛ける。
昨日はここに両親が倒れていた。
その事を考えると、様々な感情や思考が湧き出てくる。
昨日の男がこの家に来て、両親を殺したのだ。だが、魔眼の所有者を追っていたのなら両親は関係なかったはずだ。なのに、殺された。まだ何も分かっていないに等しい状況だが俺にも魔眼が宿っているらしい。この力を使えば仇を取れるのだろうか。たとえ、両親がそんなことを望んでなかったとしても、あいつだけは許さない。あの男だけは俺の手で殺す、絶対に。
コップに入っている麦茶を飲もうとしたら、何も入ってはいなかった。その代わり、コップを持っていた手もその周りのテーブルにも麦茶が飛び散っていた。まるで、麦茶がコップを登って、放射状に飛び散ったみたいに。
なぜそうなったかは分からないが、飛び散っているのは確かなので俺は急いでティッシュを取り、その水分を拭き取る。
そんなことをしているとガチャッと鍵が開き、扉が開けられたような音がした。驚いて、警戒しながら玄関を見に行く。
「あれ?もう起きてたんだ。体は………何ともなさそうだね」
家に入ってくる少女を見て、警戒を解く。
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だよ。それより昨日、襲われたばっかりなのに外に出たら危ないんじゃないのか?」
少女は靴を脱ぎ、俺の横を通り台所へ向かう。その手にはレジ袋が握られており、中にはいくつかの材料が入っている。そして、その袋を台所の上に乗せる。
「もちろん危ないけど、ご飯作るのに材料が足りなかったからしょうがなく外に出たのよ」
その言葉を聞いて、自分の空腹感を感じる。
「確かにハラは減ってるな。俺は出来ないけど、料理って出来る?」
唐突な質問だったが、少女は自慢気な顔をして「もちろん!」と答えると、学校の制服である黒セーラーの上にエプロンを付けて、調理を開始する。
少女の手際には見事の一言だった。ただの材料たちが瞬く間に視覚、嗅覚の両方で食欲を誘ってくる料理へと姿を変えた。それらの料理を皿に盛り付け、机に並べるのだけを俺は手伝い、その料理に舌鼓を打つ。
四つの椅子があるダイニングテーブルに美味しそうな料理が並べられ、俺と少女は向き合って座る。
彼女の料理は実際とても美味しかった。ハラも減っていたということもあり、俺はいつもの倍ぐらいの速さで食べていたかもしれない。その様子を少女は微笑みながら見ていた。
そして俺達は食べ終わった後、皿を洗い、お茶を淹れて、再び向かい合って座っていた。
「すごく美味しかったよ。ごちそうさま」
俺はとりあえず美味しい料理を作ってもらったことに対して感謝を述べる。少女は「気にしなくていいよ」と軽く返事をして、話は本題へと入る。
「今朝も話したようにあなたにも魔眼が宿ってしまったの。だから、私で良ければその使い方を教えるけどあなたの返事は決まった?」
「ああ。ぜひ教えて欲しい。まだ自分がどんな状況にいて、何をするのが正解かは分からないけど、君と協力して生き残って、あいつに復讐する。それしかないと俺は思った」
俺は自分で下した決断とその理由を語り、少女の方を見る。少女はその顔を見て、頷く。
「私としても大歓迎よ。早速、今の状況について説明するわね。まず、私たちが今どんな状況の中にいるのかについてだけど、無作為に七人の人間の眼に魔眼が宿り、その魔眼所有者同士が殺し合う。そういうルールの元に行われる儀式。それが『魔眼戦争』よ。今のところ分かってる魔眼所有者は私とあなた、それに昨日の男の三人ね」
そこまで喋って、少女は言葉を切り、こちらを確認する。それに対して俺はコクリと頷く。
「次に『魔眼』についてだけど。それぞれの魔眼には、それぞれの能力があって、自分の体と視界の中でだけその能力を使うことが出来るわ。例えば私は『過去の魔眼』の能力で『過去を操作して』あなたの家族の中に自分という存在が最初からいたことにしたし、物体を『ある過去の状態に戻す』ことで、あなたの腕も治したわ」
そういいながら少女は俺の右腕を指差す。
確かにいくら腕を見ても、傷一つ見当たらないのだが、
「そもそも俺って腕を怪我なんてしてたか?」
そう俺の記憶では腕を怪我したことなんて覚えていない。果たしてどの時に怪我なんてしたのだろうか?
そんな俺を見た少女の顔はこの上なく呆れていた。ため息をつきながら少女は喋り始める。
「その様子だと本当に覚えてないのかもしれないけど、あなたの右腕、絞った雑巾みたいになってたのよ」
俺はその表現を聞いて、青ざめる。想像できないことはないが、想像したくはない。
「そ、そうなんだ。それは………ありがとね、助かったよ。でも、例えが………生々し過ぎる………」
「あ………ごめんね。………それとね、あなたが私のことに気付いたように魔眼所有者には『魔眼抵抗力』も宿るから、直接だとかなり魔眼の効き目が悪くなるの。それであなたの魔眼の話だけど、眼に意識を向けると、何か浮かぶ言葉はない?」
俺はとりあえずいわれた通りのことをやってみる。すると、確かに一つの単語が浮かび上がってくる。
「"回転"………。その単語が頭の中に浮かんできたような………」
その言葉を聞いて、少女は俺に告げる。
「じゃあ、あなたの魔眼は『回転の魔眼』で確定ね。でも、魔眼はあなたの解釈次第で無限に進化する可能性があるわ。だから、自分の魔眼に向き合って、解釈を広げていくことが大切よ」
そういうと俺達は現在の時刻を見て、夜が遅くなる前に寝ようという意見で一致し、寝る支度を始めた。風呂は俺が先に入り、彼女がその後に入った。そして、互いに寝る準備が出来たので、「おやすみ」と一言だけ言葉を交わして、寝るつもりだったが一つ、まだ聞いてないことがあったのを思い出し、声をかける。
「そ、そういえば、まだ君の名前を聞いてなかったから、教えてくれないか?」
「あ………ああ。そういうことね。私の名前は去時音。あなたの妹としてこの家にいた時もこの名前を使ってたけど、私の魔眼の能力が効かなくなってその間の私の記憶も所々消えてしまったのね」
「分かったよ。去時音だね。それで名字は?」
その問いには対しては少女は少し驚いた表情を見せた。
「伊崎でいいわよ。これからも一応外ではあなたの妹ってことになってるしね」
その理由を聞いて、俺は納得する。俺の記憶が正常に戻っただけで世間では、まだ俺達は兄妹なのか。
「じゃあ、明日から改めてよろしくね!お·に·い·ち·ゃ·ん!」
そう言い残して少女、いや去時音は自分の部屋に入っていった。
一人残された俺は少しの間立ち尽くしながら、頬を染めていた。
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