第二話 夜明け
俺の家族は自分と両親だけだったはずだ。それ以外に家族はいなかったはずなのになぜ俺は今までこの目の前にいる少女を妹だと思っていたのだろうか。
そこまで考えたところで体の限界がきたのか気を失ってしまった。
気が付くと自分の体はベットに横たわっていた。どうやらここは自分の部屋らしい。ベットと机と椅子が一つずつ置いてある。
そこで、微かな目の痛みにより昨日の出来事を思い出す。それにより状況が理解できず混乱しそうになった時、扉が開けられ、人が入ってきた。
反射的に俺は横になっていた体の上半身を起こす。
「あ、目が覚めたんだ。これで一安心ってところかな」
少女はそういいながら部屋に置いてある椅子に座って、こっちを見た。少女は俺が通っている学校の中等部の女子の制服である黒色のセーラー服を着ていて、その服の色とは真逆の白色の長い髪を背中に垂らしている。
彼女は俺の妹………ではない。いや、違う人だとかそういう意味ではなく、自分に妹がいた記憶などないはずなのだが、記憶を探ってみるとノイズが入るように彼女に関する記憶が出てくる。
自分の中だけでは整理できず、思いきって聞いてみる。
「君は誰なんだ?俺に妹なんていなかったはずだ………」
少女は少し驚いたような顔をしたが、すぐに表情を元に戻し、喋り始める。
「………やっぱり。その事が認識できるってことは魔眼を手に入れたのね」
少女は自分が俺の妹ではないということを否定しなかった。なら彼女は何者で、自分はどうして少女を妹だと認識していたのだろうか。それに今、少女の口から発せられた「魔眼」とは一体何なのだろう。
そんなことを必死で考えてる俺を見て、少女が再び話し始める。
「今何が起きているのか、あなたが何に巻き込まれたのか。それは今から私が説明するわ」
昨日起こった出来事を思い返しながら、俺はこれから真実を語るという彼女に視線を向けた。
「まず教えておくけど、私とあなたは赤の他人よ。今まで会ったこともないし、この家に来て、初めて会ったわ。それでも、あなたやあなたの家族が当然のように私と一緒に暮らしていたのは私の魔眼、『過去の魔眼』の能力を使ったからよ」
赤の他人となんの違和感もなく過ごすことを可能とさせる、そんな理解の範疇を越えたことが出来る「魔眼」というものが自分自身にも宿っているのかと思い、俺は目に手を当ててみる。
「昨日この家にいた男も魔眼所有者の一人。私たち所有者はそれぞれの願いのために殺し合いをしているの。私がこの家にいたばかりにあなたの両親を死なせてしまったことはとても申し訳なく思っている。でも、既にあなたにとっても関係のないことではなくなってしまった。これからはあなたもその目に宿る魔眼を狙われて、殺されそうになることがあるでしょうね」
その言葉を聞いて背筋に悪寒が走る。昨日起きたことのほとんどが鮮明に思い出される。昨日生き残り、今こうして生きていることを奇跡という他にないのは理解している。だからこそ………
「俺はこの先どうすればいいんだ………」
少女は俺の悩む顔を見て、少女は一つ提案をする。
「良ければ、私があなたに魔眼の使い方を教えるっていうのはどう?さっきも言ったけどあなた自身もいつ狙われるか分からない状態だから戦う方法を学んでおくのは必須だし、私自身も戦える仲間がいるのは悪いことじゃない。まあ、すぐに返事をしなくてもいいわ。とりあえず、今日は学校も休みみたいだし、十分に体を休んでおきなさい。家事とかは私がやっておくから」
「悪いけど今は君の言葉に甘えさせてもらうよ」
「全然気にしなくていいわよ。昨日はあなたがいなかったら、死んでたかも知れないんだしね。じゃあまた後で、ね」
そうして俺の部屋から出ていく時に見せた彼女の笑顔を見て、俺は少しドキッとしてしまった。彼女が階段を降りていく音を聞きながら、もう一度体を横にして布団を被る。
こうして一人になり、気持ちが落ち着いてくると、色々なことが頭に湧いてくる。自分でも分かっていなかったが、昨日の夕方から自分は興奮状態だったようだ。
何回目か分からないが、昨日のことを思い出す。大量の血を床に流しながら倒れている両親、傷を負いながら床に横たわった少女、それら全ての原因であろう雨合羽を着た男。一気に押し寄せる非日常の記憶に俺の脳は対応しきれず、俺は多少の吐き気を催す。そして、俺は現実から逃げるようにもう一度目を瞑って、意識を遠退かせた。
今回も読んでいただきありがとうございました。
よろしければ、ブックマークと評価お願いします。
引き続きよろしくお願いします。