手のひら
毎日、同じ道を5年間、行き来した。
雨の日も、晴れの日も。
毎日握って歩いたその手が少しずつ大きくなっていった。
ふわふわで壊れてしまいそうで、私の手の中にすっぽり包み込まれていたのに、今では丈夫になって、握り返してくる。
最初は歩けず、小さな身体を抱っこをされ、胸の前にあったのに、時間と共に、彼女はよちよちと歩き出し、階段を登って、今では私の手を引いて駆けていく。
突風が吹いて、目の前に薄桃色の花弁がひらり、ひらりと落ち、私は思わず手を離した。
その時、前を歩いていた彼女が振り返る。
「あ」
私は彼女の声をかけた先へ、視線を移すと眩いばかりに艶々の真新しいランドセルを背負った少年が娘へ駆け寄っていく。
「おはよう! 虹ちゃん」
名前を呼ばれた娘は嬉しそうに歯に噛み「おはよう」と少年に挨拶をすると、流れるように自然と、彼女の指先は私のそれではなく、彼女と同じ背丈の、同じように真新しいピカピカのランドセルを背負う少年へと移る。
彼女は満面の笑みで「行ってきます」と、私に告げる。
今日からは違う道。
繋いでいた、小さな手の先に私はもういない。
私の手のひらには、先刻、空から落ちてきた花弁が収まった。花弁を包むようにぎゅっと拳を握る。
成長した姿が嬉しくて、少しだけ切なくて、胸に熱いものが込み上げた。
「行ってらっしゃい」