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貴族の血 ~拾われ貴族は平民です~  作者: 甘党極(あまとうきわみ)
第一章 町村に蔓延る謎の魔物編
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第九話 明かされる過去

 シュタルトに着きソシアを治療した後、町の様子を見てみると、魔物が発生してるとは思えないほど活気に満ち溢れていた。とにかく情報収集が先だとフェイは動き、近くの商店の店主に話しかける。


「よぉ兄ちゃん! 美味いもん焼いてあげるぞ!」


 店主は笑顔でそう接客しながら、1人前弱の大きさの肉を大量に焼いている。香ばしい匂いでお腹が鳴りそうだが、腹を満たす前にフェイは尋ねる。


「あの~すいません。ここの領主様ってどなたですか?」

「ん? この町の領主はクノウ・ビルシアン様だぜ!」

「そうなんですね。では2つ頂いていいですか?」

「おう! 400ルークだぜ!」


 この町の領主の名前を聞き出せたフェイは、自分とソシアの分のお肉を頼んだ。薄切りにした肉を10枚近く重ねたものが串に刺さっており、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。


「ほらソシア、どうぞ」

「あ、ありがとう」

「とりあえず、今日は宿に泊まろう。本格的な調査は明日からだ」

「分かったわ」


 そうして2人は、今夜泊まる宿を探し始める。まだ日は沈みきっていないが、一旦体を休めることが大事だとフェイは考えた。




 次の日、まずは冒険者ギルドを訪ねる。


「ねぇカイト、なんで冒険者ギルドなの?」

「まず町の様子から分かるのは、魔物の出現は確認されてるけど、昨日の村のように多数ではなく1体かそこらだろう。だから事件扱いにされてると思ったんだ。役所だと過去の事件について調べられるらしいからね」

「なるほど」


 フェイがソシアに説明しているうちに冒険者ギルドにたどり着いた。


「タイアンガート第2ギルドにようこそ!」

「あぁ、過去の事件について調べたいんだが」

「でしたら、冒険者登録書をご提示ください」


 そう促され、フェイとソシアは冒険者登録書を見せる。受付嬢が確認した後、過去1か月分の事件に関する資料を受け取った。


「一応そちらはコピーですが、今日中に返却をお願いします」

「あぁ、分かった」


 資料を受け取ったフェイとソシアは冒険者ギルドを後にする。そして2人は、シュタルト大図書館に訪れていた。


「やはり、魔物は建物内に出現しているらしいな。だが、死傷者じゃなく行方不明者の割合が圧倒的に多い」

「一体どうして……」


 資料を読み漁り分かったことはあったが、同時に謎も増えた。そのことについて状況が理解できていないソシアにフェイは聞く。


「なぁ、ビルシアン一族が使う属性魔法ってなんなんだ?」

「さ、三大属性の中の光闇属性よ。ビルシアン一族は闇属性の方に傾いてるけどね」


 フェイの質問に、ソシアは少し困惑しながら答えた。


「なるほどな。闇属性の中に人体に影響を及ぼすことが出来る魔法ってあるのか?」

「無いことはないけど、禁忌魔法として取り締まってるわ。それに使いこなすのもすごく難しいから、そもそも使おうなんて人はいないと思うけど」

「だけど、貴族ならその2つの問題はどうにかなるだろうな。実行する場所も確保できるし、権力で証拠も消せるだろうしな。貴族レベルの魔法適性となると、使いこなすのも問題ないだろう」

「てことはもしかして、魔物を使って人を攫ってるってこと?」

「可能性としてはな」


 ソシアの中でも、少しずつ確信に迫ってきてるようだ。


「もう少し調べてみよう」

「わかったわ」


 結局、それ以上の情報を得ることはできなかったため、今後どうするか話し合う前に、フェイはソシアに尋ねた。


「この前も言ってたけど、三大属性ってなんだ?」

「三大属性っていうのはね……」


 ソシアはフェイに三大属性について説明し始めた。


 三大属性というのは、さまざまな属性がある中で最も強いと言われている魔法である。戦闘のみならず、この世界の文明発展にも貢献できる力があるようだ。三大属性自体に適性がある者は少なくないが、ほとんどの場合魔法適性全体評価がD以下になるようだ。それは属性の力が大きいため、保有できる魔力量に余裕が無くなってしまうからだ。なので三大属性を満足に扱える者は、貴族にしかいないようだ。


「じゃあ三大属性を使う貴族と戦闘になったら、苦戦は免れないな」

「もしかしてカイト、ビルシアン一族と戦うつもり?」

「裁くことはできないだろうしな。なるべく主犯のみを暗殺したい」


 突然物騒なことを言い出したフェイにソシアが反論する。


「ダメだよそんなの! できっこないってば!」


 席から立ち上がり大声を上げてしまったため、周りから注目を浴びてしまう。それに気付いたソシアは、頭を下げながら席に座る。そして先ほどと同じ質問をフェイに返す。


「ほんとにビルシアン一族とやりあうつもり?」

「そいつらの仕業だったらの話だがな」


 ソシアは頭を抱えるが、やがて自分の中でも決意する。


「……分かったわ。ここまできたら最後まで付き合うわよ」

「ありがとうソシア」


 そうして2人は大図書館を後にし、冒険者ギルドに資料を返却して宿に戻る。




 食事や風呂を終えた2人は部屋でくつろいでいた。


「そういえば、カイトはなんで冒険者になろうと思ったの?」

「ん? あー、おじいちゃんに聞いた話だと、実力次第では楽に稼げる職業の1つだと教えてもらったからだ。ハルトにこの話をしたときは、珍しい奴だと言われ笑われたがな」

「たしかにそれは珍しいね」


 フェイとソシアは、町で買った食べ物をつまみながら会話を続ける。


「でもそんな理由の割に、依頼には積極的だよね」

「今回の依頼、最初はめんどくさそうと思っていたが、魔法の能力が優れている貴族が関わっているとなると、無視はできない。魔法そのものには結構興味を持っているんだ」

「そうなんだ。じゃあさ、フェイはどうやって魔法を学んだの?」


 ソシアは身を乗り出してフェイに聞く。


「独学だ。おじいちゃんに教わろうと思ったが、あまり多くは学べそうになかったしな。なにより、残りの人生は楽してほしかったしな」

「え、じゃあ……」


 ソシアは察することができたようだ。フェイのおじいちゃんは、もうこの世にはいないことを。


「ごめん……」


 ソシアは下を向いて謝る。


「別に謝ることなんてないさ」


 長い沈黙が流れる。それは数秒ほどではなく、数分以上にも感じるものだった。気まずい空気の中、先に口を開いたのはフェイだった。


「他に聞きたいことはないか?」


 本当は、ソシアに何かを聞いて会話を弾ませたかったのだが、コミュニケーションを得意としないフェイは、相手に委ねるしかなかった。


「……じゃあ、あのナイフ捌きはどうやって身に付けたの?」


 少し表情が元に戻ったソシアは、フェイに質問する。


「昔から魔物や動物を狩ったりしてたから、その影響が大きいかもな。どうやったら効率よく相手を仕留められるか試行錯誤した結果、今の実力になったようだ。おじいちゃん曰く、対人でも冒険者ランクA~Bくらいのレベルらしい。あまり目立ちたくないから、人には言わないようにしてるんだ」

「そうなんだ、カイトってすごいんだね」

「別にすごくはない、俺がやりたくてやった結果、こうなったわけだからな」


 ソシアが元の表情に戻った様子を見て安心したフェイは、やっと考えついた質問をソシアに投げる。


「そういえば、ソシアはなんで冒険者になったんだ?」

「私? 私はね、お金持ちになりたいんだ」

「お金持ち?」

「そう、お金持ち」


 少しいたずらっぽく笑ったソシアは、そのまま理由を述べ始める。


「私の住んでた村はね、今はもうないんだ」

「え、それって……」

「いや、魔物のせいじゃないよ。うちの村は貧乏だったんだ」


 笑顔で話し続けるが、その裏には悲しい感情がこもっているようにも感じ取れる。


「うちの村の土地はね、33年前に領主様から借りたらしいの。毎年税を払わなきゃいけなかったんだけど、年々増していく税に追いつけなくて、村は貧しくなり、やがて餓死する人も出てきたの。領主様はそんなこと気にせず毎回近衛兵を連れて税を徴収しに来るから、断ることもできなくて、結局村の資金が底を着いた時に、領主様は税を払わせる代わりに、十数人もの村人を奴隷として連れて行ったんだ。村人たちを救うためには多額のお金が必要だから、一番短期間で稼げそうな冒険者になったってわけ。まぁ結局、その悪行がバレちゃって、領主様は王国に捕まったんだけどね」


 ソシアの過去を聞いて、フェイは表情を変える。先ほどのソシアほどでもないが、いつもより暗くなっている。


「そうなのか。結局村人たちはどうなったんだ?」

「みんな解放されたんだけど、村も無いし住める土地も見つからないから、教会で保護してもらってるんだ。精神的に疲弊してる人がほとんどだから、こうして働ける私が頑張らなくちゃね。土地を買うことができたら、みんなも安心して住むことができるし」

「そうか、大体どれくらい必要なんだ?」

「そうね……大体あと2500万ルークよ」


 想像してた金額より遥かに多いことに驚くフェイ。


「2500万……それは長い道のりになりそうだな」


 お互いの過去を話し少し距離が近くなった2人は、毛布をかぶり眠りについた。

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