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貴族の血 ~拾われ貴族は平民です~  作者: 甘党極(あまとうきわみ)
第一章 町村に蔓延る謎の魔物編
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第八話 ビルシアン一族

「ビルシアン一族っていうのはどういう貴族なんだ?」


 フェイの真剣な表情に少し気圧されるソシアだが、なんとか言葉を繋げる。


「ビルシアン一族っていうのは主に闇魔法に秀でていてね、生活する場所がない人のために、人間に対して友好的な魔物を召喚して、こうして村を作っているんだ。だから、ここら辺の村もきっとビルシアン一族が領主だと思うよ」

「なるほどな」


 顎に手を当て考えているフェイを見て、ソシアは尋ねる。


「ねぇ、ほんとにビルシアン一族なの? 私も一度お会いしたことあるんだけど、とてもそんなことをするような方には見えないよ……」

「あくまで可能性の話だ。それになソシア、そうやってみんなから信じられてきたから疑われにくくなるんだぞ」 

「それは……そうだけど……」


 理解はできるが、感情が追いついてないといった様子のソシア。彼女にも言わないでおくべきだったかもしれないと考えたフェイだが、過ぎたことなのでとりあえず今できることをする。 


「もう一度村長と話してくる。ソシアはゆっくり休んでくれ」

「うん、わかったわ……」


 先ほど失言しかけたこともあり、ここはフェイに任せるようだ。




「こんばんは」

「おぉ、お主はたしか……」

「カイトです。カイト・ラグニディオといいます」


 村長は笑顔でフェイを迎える。


「カイトか、休憩中に何かようかの?」

「実はここの領主様についてお聞きしたいのですが」


 フェイが質問をした瞬間、村長の表情が少し変化したがすぐに戻った。しかし、その変化をフェイが見逃すはずが無かった。


「それはなぜですか?」

「なぜというのはお聞きした理由ですか? それは今回の依頼は明らかに、Fランクのレベルではないと思ったからです。それに、こうして死傷者が出たのは今回が初めてではないんですよね? そうなりますと、やはり領主様に報告等をした方が良いと思います」


 少し緊迫した空気が流れるが、村長は気にせず答える。


「そうですか……ここの領主はクノウ・ビルシアン様でございます。ご存知かとは思いますが、この国八大公爵の者です。この村を作ってくれたのも、クノウ・ビルシアン様でございます」

「クノウ・ビルシアン様ですね。ちなみにですが今回の件について、領主様ななんと?」

「クノウ様は他の村や町も担当しており、いずれも今回のようなことが発生していて原因解明に向けて動いているようですが、町村に人手を回すことが出来ないため、冒険者ギルドに頼るか、自衛せよとのことです」

「原因解明ね……」


 フェイの言葉に村長が反応する。


「カイト殿は今回の件について何か手掛かりは掴んだのですか?」


 怪しむように聞いてくる村長に、フェイは落ち着いて答える。


「いえ、皆目見当がつきません。可能性としては知性を持っている魔物が、何かスキルを使用して襲撃したという説が、自分の中で浮き上がっています」

「そうですか……」


 少し沈黙が続くが、先にフェイが口を開く。


「聞きたいことは以上です。ありがとうございました」

「おぉ、分かった。それじゃゆっくりお休みください」


 フェイが帰っていく後ろ姿を見た後、村長は通信用のアーティファクトを取り出した。


「――様、1名怪しい者が……そうですね……幸い、まだ魔物の仕業と判断しているようですが……はい……分かりました。注意しておきます……それでは失礼します」




 フェイが住宅に戻ると、ソシアはまだ起きていたことに気付く。


「ソシア、まだ起きてたのか?」

「うん、色々頭の中でいっぱいいっぱいでさ、眠れないんだ」

「そうか」


 2人の中で静かな時間が続き、気まずさを感じだソシアが口を開く。


「そういえば、村長さんと何話してきたの?」

「色々と聞きたいことがあってな、だがあまり使える情報は手に入らなかった」

「そうなのね……」


 また静かな時間が生まれる。するとフェイは、ソシアが寒さで震えているのに気付く。


「寒いのか?」

「え? そんなことないよ」

「嘘なんてつく必要ないだろ。これでも羽織れ」


 この日はいつもより冷え込んでおり、≪体温調節≫が使えない人は、結構厳しい状況だった。それが使えるフェイは、ソシアにいつも自分が羽織っているマントを渡す。


「あ、ありがとう」


 ベッドに座っているソシアの隣に、少し距離を空けてフェイは座る。


「カ、カイト?」


 座ったまま何も喋らないフェイに、ソシアはおそるおそる聞く。


「明日俺は、依頼を中断して同じ状況の村や町に向かおうと思う」

「え、そんな急に……どうして?」


 突然のフェイの言葉に、ソシアは驚きながら聞き返す。


「他にも同じことが起きているなら、やっぱり自分で確認した方がいいと思ってな。それに、今日村長に少し探りを入れていたから、もしかしたら怪しまれてる可能性もあるし、早めに離れた方が良いと思ってね」

「でも、2人にはなんて説明するの?」

「それはさっき言ったことと同じように、自分で確認しに行きたいって言うしかないだろうな。あまり君たち3人を巻き込むわけにはいかないし、俺1人で行くことにするよ」

「そんな……」


 突然の別れを告げられ、ソシアは悲しい表情を浮かべる。


「まだ数日しか一緒に過ごしてないのに、ソシアは情が厚いな。迷惑はかからないようにするから、それじゃ、おやすみ」


 フェイはそのまま椅子に腰を掛け眠りにつく。


「違うって、ばか……」


 そんな言葉を残し、ソシアはマントを握りしめて横たわる。




 交代の時間、ハルト、ジグと合流すると、依頼から離れることを伝える。


「次の警備が終わった後、俺の代わりになる冒険者を呼んでおくよ」

「いやぁ実はさ、今回の件は、さすがに俺たちじゃ手に負えないだろうと思って、ちょうどさっき他のパーティに引き継ぎが終わったところなんだ。ちゃんと依頼難易度をEにランクアップさせといてな。だから、そもそも代わりを呼ぶ必要なんてないし、警備もしなくて大丈夫だぞ」


 ハルトが説明した後、ジグも答える。


「確かに、他にもこんなことが起こってるなら放ってはおけないよな」 

「カイトの近接戦闘は結構頼りになると思ってたんだけどな! まぁでも仕方ない、また機会があったら頼むぜ!」

「そうなのか、分かった」


 ハルトの言葉にフェイが答え、離れようとしたその時、住宅から飛び出てきたソシアに手を掴まれる。


「待って! カイト!」

「どうした、ソシア」

「あのね、あのね」


 言葉を詰まらせてるソシアを、フェイは待つ。


「私もカイトについて行ってもいいかな!?」

「は?」


 突然の申し出に、フェイは頭を悩ませる。


「でも、ブルーナイトはどうするんだ?」


 当然、そのことが気になるだろう。しかし、ジグが説明する。


「俺たちブルーナイトは数日前に作られたパーティでな、他のパーティに移った時のための修行というか、解散する前提だったんだ。だから問題ないさ、なぁハルト」

「あぁ話は聞かせてもらったぜ! 頑張りなソシア!」


 ハルトとジグの承諾を得たので、ここで引き取り願うわけにはいかず、フェイは渋々受け入れる。一方ソシアは、ハルトの言葉を聞いて顔を真っ赤に染める。そんなソシアに、フェイは小声で忠告する。


「ソシア、昨日も言ったと思うが、俺は怪しまれてる可能性があるし、これから危険が伴うかもしれない。それでもいいのか?」

「うん! 全然いいよ!」


 笑顔で即答するソシア。さすがのフェイもお手上げのようだ。


「仕方ないな、じゃあな! ハルト、ジグ。短い間だったがありがとう!」


 ハルトとジグに別れの挨拶をするフェイ。


「おうよ! またみんなで飯食おうな!」

「あぁ、2人とも元気でな」


 最後にハルトとジグに手を振り、村を後にするフェイとソシア。


「カイト、まずはどこに向かうの?」

「そうだな、ハルトに聞いたところによると、少し城下町の方向に歩いた先にあるシュタルトという町でも、少数ではあるが、屍食鬼≪グール≫が出現しているらしい。まずはそこに向かおう」

「分かったわ!」


 フェイの言葉を聞くと、腕に抱きつくソシア。


「ど、どうしたソシア?」

「町まで距離あるし、あれ使わないの?」

「そ、そうだな。それにしてもくっつきすぎじゃないか?」

「別にいいじゃないそんなこと!」


 困惑したフェイに、ソシアは笑顔で言った。


「まぁそうだな。それじゃあ、行くぞ」


 フェイは電光石火≪ライトニングアクセル≫を発動し、町に向かった。





 同時刻 


 豪邸と呼んでもまだ足りないと思わせるその建物では、高そうな装飾を着飾っている男性が、通信用アーティファクトで何者かと通信していた。


「そうか……分かった。行先は分かるか? ……そうか。じゃあ引き続き頼む。……他の2人?あー、確保出来たら報酬をやろう。……あぁ、では頼んだぞ」


 通信が終わると、アーティファクトをしまい、これまた高そうな椅子に腰を掛ける。


「カイト・ラグニディオか……別にそこまで問題にはならんだろう。原因についても分からなそうだったしな」


 そう安堵した声を出した後、男性は事務仕事に戻るのだった。

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