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貴族の血 ~拾われ貴族は平民です~  作者: 甘党極(あまとうきわみ)
第一章 町村に蔓延る謎の魔物編
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第七話 屍食鬼≪グール≫

 そろそろ交代の時間になる頃、フェイは起き上がり、まだ眠っているソシアを起こす。


「ソシア、そろそろ交代だ。」

「ん~? もうそんな時間……?」

「なんだ? あまり眠れなかったのか?」


 寝起きで呂律が回っていないソシアにフェイは聞いた。フェイは早くも準備を済ませる。


「もう少し休みたいなら俺1人だけでも十分だし、まだ寝てていいぞ」


 そう言いながらドアを開けようとするが、その腕を掴まれる。掴んだ手の主を見ると、目を擦りながらこちらを見てくる。


「私も行く……」


 その様子はまるで子供のようだった。




「それじゃ、そろそろ交代だ。」


 ハルトの声に2人が頷き歩き始めようとするが、ジグがニヤニヤとした表情を浮かべながらソシアに耳打ちする。


「2人で楽しめた?」

「ちょっ!? 何言ってんの急に!!」


 突然の大声にハルトとフェイが振り向く。


「どうした? 何かあったか?」

「おいおいどうしたんだ? そんな調子じゃ警備もままならないぞ」


 2人にそう言われると、ソシアはまた大声で言い返す。


「な! なにもないわよ! ほら行くよカイト!」


 顔を赤くしてカイトの腕を引っ張るソシア。その様子をまたもやジグは、ニヤニヤとした表情で見ていた。ハルトは何も状況が分かっていないようで首を傾げていた。




 そろそろ日が落ちる頃、2人は話しながら警備に回っていた。ソシアは、フェイが≪気配察知≫を使えることを教えてもらったため、先ほどより少し気を楽にしていた。しかしフェイは、ソシアから聞いていた話の中で気になっていることがあったため聞いてみることにした。


「そういえば、クリア一族っていうのはなんなんだ?」

「あぁ、それはね……」


 フェイは、ソシアからクリア一族について説明される。


「そしてガトロ・クリア様はね、他の世界から来たんだって。」

「他の世界?」

「そう、突然転生してきたらしいのよ。そして神様から色々な特殊スキルが与えられてるんだって。その中に≪不老不死≫のスキルがあるから350年前からずっと生きてるんだよ。」

「なるほど、それで優秀な子孫を残すためにクリア一族っていうのが生まれたわけか」

「そうそう! もしかして、カイトってクリア一族に興味があるの?」

「まぁそんなところだな。」

「だったら、冒険者学校に通い始めたら? 今まで話してきて思ったんだけど、カイトってこの世界のことについてあまり詳しくなさそうだし、それにクリア一族についても詳しく知ることができるよ!」

「冒険者学校か、今回の依頼が無事終えたら検討してみるよ」

「うんうん!」


 そんな感じで楽しそうに話しているソシアと違い、フェイは顎に手をあて深く考えている様子だった。だが、昨日と同じ魔力の気配をフェイは察知した。


「ソシア! 魔物だ!」

「ど、どこ!?」

「まずいな、村の中心だ!」


 反射的に聞いてきたソシアにフェイが答えた後、今から走っていてもさすがに間に合わないと判断したフェイは、ソシアの腕を掴む。


「行くぞ!」

「う、うん!」


 ソシアの返事と同時に、フェイは魔法陣を瞳に展開する。




 村にたどり着いた時、そこは戦場と化していた。魔物の種類は昨日と同じだが、数が多すぎる。避難する子供や女性、老人、剣を手に取り戦う男性。状況は最悪だった。そして、避難していく村人からこんな声が聞こえた。


「い、家の中に突然奴らが湧いてきたんだ!」


 その声を聞いたソシアとフェイは、驚きを隠せなかった。


「家の中だと?」

「そんな! 突然出てきたってことなの?」

「とにかく、今は目の前の魔物に集中しよう」

「でも、これだけの屍食鬼≪グール≫をどうやって……」


 魔物の名前を初めて聞いたフェイは、リュックから小さなナイフを取り出す。


「ハルトとジグに話したように、近接戦闘で戦う! ソシアは援護を頼む!

「え、えぇ分かったわ!」


 フェイはリュックを下ろし、目の前の魔物に立ち向かう。ナイフを逆手に持ち、数秒で10体以上の屍食鬼≪グール≫の首を掻っ切っていく。その速さにソシアは付いていけず、目で追うのに精一杯だった。それに気付いたフェイは、ソシアに指示を出す。


「ソシア! 村人の避難を頼む!」

「わ、分かったわ!」


 フェイの声でついに足を動かすことが出来たソシアは、村人たちの避難誘導に回る。




 フェイの戦闘開始から数分経った頃、避難誘導が終わったソシアはフェイの所に戻る。そこには、死体となった数十体の屍食鬼≪グール≫と、血まみれになっているフェイがいた。


「ちょっと! 何してるのよカイト!」


 フェイのもとに歩いていくと、やがてフェイがしていたことに気付く。なんと、屍食鬼≪グール≫の死体にナイフを通して解剖していた。


「もしかしたら、何か分かるかもしれないからな。それに、屍食鬼≪グール≫からは2種類の魔力が感じ取れた。おそらく屍食鬼≪グール≫のものと人間の魔力だろう」

「え、それって……」


 フェイの言葉に驚きを隠せずにいたソシアを気にせず、フェイは続ける。


「あぁ、誰かが故意にやった可能性が高いだろう」

「そんな、でも誰がどうやって……」

「とりあえずある程度は分かったから、ハルトとジグと合流して被害状況を確認しよう」

「そうね……」


 未だ状況に追いついてないソシアと共に、フェイは村長のもとに向かって歩き出す。




 村の集会所にたどり着くと、そこには村長とハルトとジグが頭を抱えていた。そしてフェイとソシアが来たことに気付いた3人はこちらに目を向ける。何も話しかけてこなかったため、フェイから話し始めた。


「被害状況は?」

「7名の死傷者と16名の行方不明者が出た」


 村の人口は85人なので、割合的に結構な被害が出ていることに驚いているソシア。フェイは質問を続ける。


「ハルトとジグは何してたんだ?」

「俺たち2人はずっと屍食鬼≪グール≫と戦ってたよ。避難誘導は途中でソシアと合流したから頼んでいた」

「そうか」

「カイトは?」

「俺も同じで屍食鬼≪グール≫と戦ってたよ。数は少なかったけどね」

「そうか……」


 ハルトとカイトでそんな会話をしていると、ソシアが言ってきた。


「え? 少なくはなかったと――」


 ソシアが発言している途中で、フェイの視線に気付き途中で止める。ハルトとジグは少し疑問に思っていたようだが話を元に戻す。


「村人たちから聞いてみたんだが、家の中から突然魔物が出現したところもあったそうだ」

「そうなんだ、あ! そのことなんだけどね! もしかしたら今回の魔物の出現は誰かが――」


 ハルトの話を聞いた後、ソシアが思い出して言うが、フェイに口を塞がれてしまった。そしてフェイはソシアに耳打ちする。


「そのことはまだ話さない方がいい。俺がタイミングを見て話すから」

「え、な、なんで?」


 ソシアもフェイに小声で聞き返す。


「可能性の話なんだが、もしかしたら村長が関わっているかもしれないだろ。だからここでその話はしない方がいい」


 フェイの言葉を聞き、納得したソシアは落ち着く。


「そうね、分かったわ」

 

 そんな2人のやり取りをハルトとジグは何回か見てきたためそこまで疑ってこなかった。


「それにしてもこうして2日連続で発生するとなると、休憩中も気は緩くできないな」

「そうね……」


 フェイとソシアがそんなことを話していると、ハルトが手を叩き注目を浴びる。


「とりあえず! カイトとソシアは休憩しよう! 後は俺とジグに任せてくれ!」

「そうだな」


 フェイがそう返事をすると、ソシアを連れて住宅まで戻る。




「なぁソシア」

「ん? 何?」


 突然改まった表情で尋ねてきたフェイにつられ、ソシアも姿勢を正す。


「俺はそこまでこの国についてもあまり詳しくないからさ、聞きたいんだけど貴族の人たちってどんな魔法が使えるんだ?」

「貴族の人たち? んー、一家によって使う魔法は違うから分からないんだけど、どれも高いレベルで使えると思うよ」

「じゃあ、今回のように魔物を召喚したりできる魔法を使える貴族はいるのか?」

「もしかしてカイト、貴族の仕業だっていうの?」

「可能性の話だがな。ハルトとジグの話を聞いてみると、屍食鬼≪グール≫ってそんなに弱い魔物じゃないだろ。そんなレベルの魔物を、一度にあんな数を召喚できるのは貴族ぐらいの魔法適性がないと難しいんじゃないか?」


 信じられないといった表情を浮かべるソシア。だが、フェイの言葉に納得していまい、自分の中でもその可能性が膨れ上がってくる。


「確かにそうだけど……」

「知らないか? 似た魔法が使える貴族でもいい。教えてくれ」

「いるわ。タイアンガート王国八大公爵の中に」

「八大公爵? それで、誰なんだ?」



「……ビルシアン一族よ」

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