第三話 冒険者登録
フェイが電光石火≪ライトニングアクセル≫を使用してから3分後、城下町が見えてきた。あまり目立たないようにするため、電光石火≪ライトニングアクセル≫の発動を止めたフェイは、そのまま足を進める。やがて城下町にたどり着くと、周りからの視線が気になり始める。おそらく先日と同じ理由だろう。そんなことを、フェイは気にした素振りを見せず冒険者ギルドに向かう。
目的の場所にたどり着くと、フェイは迷いなく扉を開ける。そこには、20歳を軽く超えている屈強な男が大勢いたが、魔術師と思われる女も数人いる。おそらく冒険者と思われる人たちは、男女数人で固まってくつろいでいる。そんな様子を見回しながら、フェイは受付に向かう。
「タイアンガート第3冒険者ギルドにようこそ! 依頼を受けに来たんですか?」
そう聞いてきたのは40歳を過ぎている女性だった。おそらくベテランの受付嬢だろう。そして、3年前に担当された女性はおそらく新米の受付嬢だ。
「いや、ここに来たのは初めてだ。まずは冒険者登録をしたい」
「分かりました! では、こちらに必要事項を記入してください!」
そうして渡された申請書に、フェイはペンを走らせる。必須と任意の記入欄があったが、フェイは必須事項のみ書き進める。内容は、名前、年齢、魔法適正、役職、所属パーティである。フェイは書き終えた申請書を受付嬢に渡すと、受付嬢は問題がないか目を配る。
「じゅっ! 15歳!?!?」
受付嬢の驚きの声に、冒険者たちは顔を向ける。フェイは昔から、年齢の割に身長は結構高い方だったため、たまに大人と間違えられることもある。そして、この国では20歳までは家族と過ごし、それを過ぎると、実家を出て自立し、冒険者や商人など、様々な道に進む者もいれば、それらの職業に就くために、一度学校に通う者もいる。それが平民のごく普通な人生なのだ。ここにいる冒険者も大多数は冒険者学校を卒業し、技術を身に付けた上でこの仕事をしているのる。なので、15歳という若い青年が冒険者を始めるというのはありえないのだ。
「おい、ここはガキが来る場所じゃねぇぞ」
登録を進めていると、後ろからフェイよりも二回りデカい大男が近付いてきた。男は侮蔑というよりは、本当に心配している目を向けながらそうフェイに詰め寄る。フェイも振り返り、大男と目を合わせる。異様な雰囲気が二人の中で漂うが、10秒ほど時間が経つと、大男は顔を背け、元の位置に戻る。そこには男の仲間と思われるものが3人いた。魔術師の女性、拳闘士の男性、治癒士の女性、そして、フェイと目を合わせた大男が剣士の4人パーティであるのが分かる。
「ダイズ、いいのか? 15歳だぞ?」
「ああ、少なくともすぐに死ぬようなことは無いだろう」
ダイズのお咎めなしに仲間だけではなく、周囲にいる人々も動揺していた。おそらく、ダイズのパーティはこのギルドで有名なのだろう。
「魔力適正は……全体評価Dですか……でしたら、パーティへの参加を勧めますが―」
未所属であることは申請書でもう分かっているため、心配そうな目を受付嬢はフェイに向ける。
「必要ない。手頃な依頼を受理して稼ぐから」
「……ちなみに、なぜ冒険者を?」
「楽して稼げそうだから」
「はぁ、では、冒険者登録書を作成するのには2日ほど掛かりますので、4月7日に、こちらをお持ちになってお越しください」
少し呆れた顔で言われて渡された番号札を、フェイは受け取り出口に向かう。扉を開けかけたところで何かを察知し、すぐに閉め、隙間から外を覗く。すると、馬車がものすごい勢いで目の前を通り過ぎた。それを確認したフェイは冒険者ギルドから退出するが、馬車が来た方向から、ローブを被った女性がこちらに向かってくる。
突然フェイが出てきたことに驚き、転びかけたところをフェイが手を取り支える。ローブが外れて、彼女と目が合う。右目が赤色で、左目が茶色のオッドアイで、腰まで伸ばした赤色の長い髪で少し縦ロールである。城下町を歩いて多くの女性を見かけるが、比べ物にならないほどの美少女である。自分の姿が外に曝されたことに気づいた彼女は、すぐにローブを被りなおす。そして、馬車がもう追いつかないと判断した時、彼女は膝から崩れ落ちる。さすがにここで、見て見ぬふりもできないフェイは彼女に問いかける。
「何か盗られたのか?」
「入学金...やっと貯めた500万ルーク……」
「なぜそんな大金を無防備に……」
ここで注意をしてもしょうがないと判断したフェイは、馬車に目を向ける。その目には魔法陣が浮かび上がり、瞬きをした瞬間、馬車の足元に同じ魔法陣が展開された。そして馬車の車輪に電気が走る。黒焦げになってボロボロにされた車輪は馬車から外れ、馬車はそのまま横に倒れる。
「あなた、もしかして魔眼を……」
女性がフェイにそう呟くが、フェイは倒れた馬車の方に指をさし、早く取りに行きなと、目で物を言う。それに気づいた女性はすぐに立ち上がり、馬車に向かって走りだす。後ろに振り向き、何か言いたそうな目をしていたが、フェイは気づかぬふりをして、反対方向に歩き出す。
夜になるころ、今日泊まる宿にたどり着いたフェイは、受付を済ませて、すぐに自分の部屋へ向かう。部屋に着くと、明かりは点けずにそのまま机に向かい、椅子に腰を掛ける。リュックを下ろし、中からガラス玉と、金属でできた糸を2本取り出す。ガラス玉の中は空洞で、2つの穴が対の位置にある。そこに先ほどの糸を通し、ガラス玉の中で器用に糸の形を整える。そして、糸の両端から魔法陣を展開し電気を通すと、ガラス玉の内側が、明るく発光し始め発光玉≪ライトボール≫というアーティファクトが完成する。フェイのオリジナルだ。発光玉≪ライトボール≫を専用の台座に置き、フェイはパズが昔よく読んでいた本を手に取り読み始める。
タイアンガート暦5085年 4月7日
ギルドに訪れたフェイは、受付嬢に番号札を渡して、冒険者登録書と冒険者ルールブックという本を受け取ると、すぐ隣に依頼が貼ってある看板に立ち寄る。今のフェイはGランク冒険者なので、GランクとFランクしか依頼を受理することができない。どの依頼を受けようか探していると、後ろから近づく気配を察知して振り向く。そこには、フェイよりも少し背が高い男性が腰に剣を差して、こちらを見てくる。突然振り向いてきたフェイに驚きながらも、男性はフェイに笑顔で話しかける。
「なあ兄ちゃん! 依頼を探してんのか? もし良かったら俺たちと一緒に受けないか?」
「俺たち……?」
「ん? あぁ! 仲間は今、宿でくつろいでてさ! 依頼を受けに俺が使いに出されたってところだ!」
笑顔を絶やさずに話しかける男性に、フェイは警戒心むき出しだった。それを見て勘違いした男性はすぐに、冒険者証明書を見せながら名乗り始める。
「ごめんごめん、まずは名乗らないとだよな! 俺はハルト! 見ての通り剣士だ!」
そういう意味じゃないんだけどな、という表情をフェイは浮かべるが、特に怪しさも感じてこなかったのですぐに警戒を解く。
「俺はカイト。カイト・ラグニディオだ」
そう言いながら、フェイはカイト・ラグニディオと書かれた冒険者登録書をハルトに見せる。おそらく、こうやってお互いに登録書を見せ合うのがマナーなのだろう。フェイは知らなかったが、その場の流れで合わせた。カイトというのはもちろん偽名だ。
「よろしくなカイト! じゃあ、俺たちが泊ってる宿まで来てもらってもいいか?」
「ああ」
もはや警戒をする必要はないと判断したフェイは、おとなしくハルトについていく。
冒険者ギルドから出て、宿に向かう2人。
「ははは! 楽に稼げそうだからとは、珍しい奴だな!」
「そんなに珍しいか?」
大声で笑うハルトにフェイは聞く。
「ああ! 少なくともここら辺で活動してる冒険者たちはみんな、何か夢を持っていたりしてるもんだぜ!」
「例えば?」
「伝説の秘宝とか、凶悪な魔物をその手で討伐するとかよ! 俺たちも似たような夢を持ってるぜ」
「そうなのか」
そんな会話をして数分後、ハルトが泊っている宿にたどり着く。中に入り、そのまま部屋まで進み、ハルトが扉を開けて中に入ると、2人の男女がくつろいでいた。フェイとハルトが入ってきたことに気付くと、2人はこちらに顔を向ける。
「おーい! 遅いぞハルト!」
「そうよ! お腹空いてきちゃったからもう2人で食べようかと思ってたんだよ?」
「悪い悪い2人とも」
部屋にいた2人に謝りながら、ハルトはフェイを紹介し始める。
「そうだ! 連れてきたぞ! 俺たちブルーナイトの魔術師候補!!」
パーティ名だと思われる言葉を発しながら、ハルトはフェイを部屋に連れ込む。フェイが2人に軽くお辞儀をし、よろしくと伝えると、2人の表情が大きく変わったことに気付いた。
「ハルト、お前本気か? ちゃんと登録書見たのか?」
「え? 何が?」
突然の質問にハルトは首をかしげる。
「その子はやめたほうがいいと思うよ?」
「え? その子?」
女性からの発言に少し違和感を覚え、オウム返しするハルト。
「だってその子、まだ15歳よ……」
「え? カイト、本当なのか?」
まだ信じ切れていないハルトは、フェイに聞く。
「ああ、なんなら、一昨日誕生日が過ぎたばかりだ」
「はああああああああああ!?!?」
ハルトが叫び声を上げ、後ろにいる2人は呆れた表情を浮かべてため息を吐いた。
誤字脱字に関するコメント承ります。
次回はそんなに物語が展開しないかもです。