第二話 旅立ち
賊が落雷により撃退された数分後、国の城下町から遠く離れた林に、平民の老人が訪れていた。先ほどの落雷が気になったようだ。
「このへんかの~」
数分ほど辺りを探索していると、小さな音が聞こえ始める。やがてそれが音ではなく、声であることを認識し始めた。そしてその声は話し声ではなく、赤ん坊の泣き声であることを把握し、老人は急いで声が聞こえる場所に向かう。そこにたどり着いて周りを見回していると、大きな一枚の布に包まれた赤ん坊を見つける。
「なんということじゃ、すぐ暖かいところに連れてってやるからの」
赤ん坊を抱きかかえ、老人は急いで帰宅する。
-12年後- タイアンガート暦5085年 4月5日
夜の城下町から離れた、小さな村のとある一軒家の、リビングと思われる部屋は暗くなっており、老人と少年の二人が、12本のロウソクが立ててあるケーキを挟んで座っている。互いに目を合わせた後、少年が頷き12本のロウソクに息を吹きかける。
「おめでとうフェイ。これでお前も12歳じゃ」
「ありがとうパズじいちゃん、まぁ俺を拾ってからだけどね。とりあえず、これで俺に魔法を教えてくれるんだよね。」
笑顔でそう聞いたフェイにパズは頷き、暗くなった部屋にパズが明かりをつけた後、ケーキナイフで二人分の大きさに切る。ちなみに、フェイは幼い頃パズに拾われこの家で暮らしている。詳しい年齢は分からないが、拾われた後日役所にて、その幼さから拾われた日が誕生日であることが認められた。短い金髪で、目は少し鋭く、年齢の割に少し高身長だ。
パズはフェイを拾った老人だ。年は84歳で、白いひげを少し生やしていて、温厚そうな見た目をしている。だが、元冒険者をしていたこともあり、当時の筋肉がまだ残っている。ちなみに、冒険者をしていた頃の役職は魔術師であり、適正は炎魔法である。
「約束だからの。まずはお主の適正を調べるために、冒険者ギルドに向かうとしよう。」
次の日、二人は城下町の冒険者ギルドの前まで訪れていた。だが、冒険者ギルドではなく、隣の建物に入っていく。そこにはフェイと同じくらいの少年少女が多数訪れていた。中には、宝石が付いた装飾を身に付けている者もいる。そんな中、二人が受付まで向かっていると、3人の子供が近付いてきた。そして、ニヤニヤとした表情で突っかかってくる。
「おい! おじいちゃまと一緒に何か用ですか~」
「貧乏野郎は村に帰って畑仕事でもしてろよな!」
「お前に魔法適正なんてあるわけねぇだろ!」
そう言いながらゲラゲラと笑う3人。周囲にいる他の子供たちも、同じように嘲笑っていた。おそらく、フェイとパズの服装を見て判断したのだろう。他の人と比べて装飾等は何もなく、町民というよりは村人や、農民というイメージだろう。そして、その容姿から、彼らはフェイとパズを見下していた。「俺たちより劣っている」と。
やがて、突っかかってくる人数が増え始める。だがそれは、大きなに打撃音によって静まる。音の中心を見てみると、パズの右足と抉れた地面がそこにあった。何があったかは言うまでもないだろう。それを見た3人は腰を抜かし尻もちをついてしまう。
「行くぞ」
パズの呼ぶ声にフェイが少し遅れて反応し、後ろについていく。受付までたどり着くと、パズは頭を下げ謝罪をする。
「騒がせて申し訳ない。床のことは弁償させてもらう。」
突然の出来事で驚いている受付嬢は、パズよりも深く頭を下げる。
「こちらこそご迷惑をおかけして申し訳ありませんアクト様!! お金なんていりませんよ!!」
どうやら、パズとこちらの受付嬢は顔見知りのようだ。おそらく、パズが冒険者時代の頃の時だろう。当時は相当の腕前だったため少し有名人だったようだ。町を歩いている時もすれ違った人々に振り向かれることが多々あった。それはフェイも知っている事であり、何度か話も聞いていたが、こうして町に来たことは無かったため、少し驚いていたが、それを誇りにも感じていた。だが、その感情はあまり表には出さない。フェイは昔から、あまり感情を表面に出さないで過ごしてきたため、他の村人たちともそこまで友好的な関係を築けずにいた。先ほど、年が近い者とも良い接点が持てなかったため、パズは少し抱え込む。フェイ自身それは全く気にしていないため、これまで口に出さずにしてきたが、自分の先が短いこともあり心配している。
「そうか。では、この子の魔法適正を調べたいのだが。」
「お孫さんですか?」
受付嬢が目を輝かせながら尋ねる。
「いや、少しの間預かっているのだ。」
「そうですか、ではこちらへどうぞ。」
少しがっかりとした表情を浮かべる受付嬢だが、すぐに改め、奥の部屋に案内する。そこには、水晶が乗せられた机がいくつか並べられていてた。フェイ以外にも数人の子供たちが集まっており、一人ずつ水晶に手を当てて少し時間が経った後、隣にいる女性から何かが記された紙を渡される。おそらく魔法適正に関することだろう。
「さあ、どうぞ」
この日は結構人が混んでいて、それぞれの水晶に行列が出来上がっていた。しかしフェイとパズは、人が全く並んでいない水晶の下に案内された。おそらくパズのおかげだろう。
「では、この水晶に手を当ててください。」
「はい。」
水晶の横に座っている女性にそう言われ短く答えたあと、フェイは迷いなく手を当てると、水晶は内側で虹色の光を出し始めた。十数秒すると光は消え始め、隣にいる女性が紙にペンを走らせる。それから2,3分すると、水晶は完全に光をなくした。
「もう大丈夫ですよ。」
女性の声に反応しフェイが手を放した後、担当の女性から紙を渡されながら説明される。
「フェイさんは雷魔法に適性がありますね。それ以外の属性でも、割と使いこなせるレベルになりそうです。」
「魔力の方はどうだ?」
紙をまだ見ていないパズは、女性にそう話しかける。フェイはそんな会話を耳に入れず、自分の適性が詳しく記された紙に意識を向ける。
「魔力の方は...そうですね...平均よりは低いです。」
「そうか。」
少しばつが悪そうに言うが、パズは間髪入れずに応答する。フェイは、一通り見終わった紙を女性に返し、出口に足を向けようとする。
「あの、持って帰らないんですか?」
「もう見ましたから。」
女性の声に冷たく返事をし、フェイはそのまま建物から出て、帰路に就く。そんな様子に、女性は心配そうな目を向けた後、パズに言う。
「決して魔法適正書が全てではありませんからね。フェイさんの長所を伸ばしていきましょう。」
「ああ」
そんな慰めのような言葉を、パズは短く返す。
城下町から歩いて数時間、そろそろ村に着きそうな頃、パズはフェイに問いかける。
「フェイよ、お主まさか魔力を抑えたか?」
「そんなことできないくらい知ってるでしょ? それに、あの水晶は触れた者の能力を測るんだから、どう制御したって筒抜けさ。」
笑顔でそう返すフェイの言葉に納得はしつつも、パズは疑いの目を向けるが、少しため息をついた後、話を再開する。
「まぁ、魔法適正も分かったことだし、早速明日から魔法を教えるとするかの。」
フェイはきっと喜んで返事をしてくれるだろう。そう思っていたが、予想外の言葉が返ってくる。
「いや、魔法の指導はもういいや。とりあえず、成人するまでは畑仕事を手伝うよ」
「そ、そうか」
突然の心変わりにパズは驚くが、少し安心した表情を浮かべた後、前を歩くフェイに隣に並ぶ。
それから二人は、畑仕事や狩り等をこなし、村人らしい生活をして月日が流れていく。
-3年後- タイアンガート暦5088年 4月5日
フェイが15歳の誕生日であるこの日、フェイは村の墓地に訪れていた。目的の場所にたどり着くとフェイは腰を下ろし、合掌して、目を瞑る。正面には、パズ・アクトと書かれた墓石が建っていた。数十秒すると、フェイは目をあけ大きく息を吐きながら立ち上がる。そして、数日分の食糧と3年間で稼いだ大金が入ったリュックを背負い、村を離れる。パズと住んでいた家は、「もしわしがこの世を去った時、あの家は手放しなさい。そして自分の好きなように生きてほしい」と生前に言われたことにしたがって売ったようだ。家を売って手に入れたお金は、パズの墓を建てるのに使ったようだ。
「よし、行くか。」
小声でそう呟いた後、フェイは墓地から出て周りに人がいないことを確認した後、目を閉じて、意識を集中させると、体に電気が纏い始める。そして目を開け、城下町の方に体を向けると電光石火≪ライトニングアクセル≫を使い、移動を始めた。
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