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第一話 襲撃

 この世界は魔法が存在し、血筋が全てである。生まれたその瞬間から、魔法を使える能力が決まり、その後の人生が決まってしまうのだ。努力では乗り越えることが出来ない壁が存在し、貴族に生まれた者は優雅な生活を送ることができ、平民に生まれた者は貴族になることは無く、普通に暮らし、普通に生涯を終えることになる。そして平民よりも血筋が劣る、劣等血族に生まれた者は奴隷にされるなど、普通の暮らしすら出来ないのである。



 このタイアンガート王国でも、平民や劣等血族の成り上がりはなく、貴族は優雅に生活していた。そして、雨が降り注ぐ夜の街で、貴族の中でも地位が高く、国の政治でも一部を任されている、アイク一族は血を残すために、第二子を出産しようとしているところである。



「あなた! 生まれたわよ! あぁ、なんてかわいいのかしら...」

「おめでとうございます! 奥様!」


 生まれた赤ん坊を見つめ、感動に涙を流しているのは、シリア・アイクであり、赤ん坊の母である。金色の長い髪を、腰の長さまで伸ばしており、宝石ような碧眼を持っていて、年の割に少し童顔である。

 そして祝福の言葉を送ったのは、助産師のマリス・クリアだ。彼女は、クリア一族という代々優秀な、医療関係者を出している一族の一人だ。この国の貴族が病にかかったり、今回のように出産等ということがあると、必ずクリア一族の者が担当することになっている。赤色のショートカットで、落ち着きのある表情から、医者というよりメイドを思わせる。


「ああ! 母親似でよかったぜ! はははは!」


 そして、高らかに声を上げて笑っているのは、父のクリス・アイクである。クリスは目の彫りが深く、シュッとした顔立ちをしている。そして、体格が良いため、魔法のみならず近接戦闘も、それなりにできそうだ。


「あなた、男の子が生まれたからあなたが名前を決めるんでしょ、どうするの?」


 男の子が生まれたらクリス、女の子が生まれたら、シリアが名前を決めるという約束をしていたようだ。


「そうだな! この子の名前はエミル! エミル・アイクだ!」

「エミル...良い名前ね...」


 こうして、エミルという名の子の優雅な暮らしが、約束された瞬間である。




 だが...




 パリーーーーンッッ!!!




  突然部屋の窓が、大きな衝撃によって割れ、窓枠よりも大きな穴が出来上がっていた。そこから黒いローブを被った、5人組の男が部屋に侵入した。突然の出来事に、驚きを隠せなかったクリスは、3人を守るように手を広げ、問いかけた。


「な、何者だ!!」 

「名乗るつもりはない。此度はアイク一族の血を奪いに参上した」


 そして5人組の中でも、がっしりとした体格を持ち、身長は190cmを軽く超えている、右目が緑、左目が青で、オッドアイの男がクリスにそう言い詰め寄る。


「そんな! 情報が洩れていたというの!? それに外の護衛は!?」


 そんな声をシリアが上げる。情報が洩れるといのは、上流階級に新たな血縁者が生まれることになったら、その子が3歳の年を迎えるまで、情報を公開しないようしているのだ。それは平民や、劣等血族に、血を行き届かないようにするためである。なので今回のように、出産のタイミングで襲われるというのはありえないのだ。外を見てみると、何かに痺れて倒れている護衛たちが数人いた。


「くっっ! このっ!」


 クリスは右手を前に出した。手のひらの前から魔法陣が浮かび上がり、青白く光る光弾≪ライトバレット≫を、数発目の前の敵に撃ち込む。アイク一族は、貴族の中でも魔法の能力が優れているため、そこら辺の賊複数人相手でも、魔法での撃ち合いとなると、圧倒的である。しかし...


パリンッ...


 撃ち出した光弾は、敵に触れる直前に、小さな破裂音とともにはじかれた。


「な! ...まさか、反魔法結界≪アンチマジックシールド≫!?」

「そんな!? 300年前に失われたアーティファクトが...なんで!?」


 驚きを隠せずにいたアイク夫婦は、体の力が抜けてしまい、口をぽかんと開けている。そして、敵が何を目的にして、ここに現れたかも頭から一瞬抜けていた。その隙を、敵が見逃すハズがなかった。いや、最初からここで、隙を作るのが狙いかもしれない。シリアがエミルを抱きかかえる腕を緩めた瞬間、賊の中で一番体が細く、顔もげっそりと痩せている男が、二人の目に見えない速さでエミルを奪っていく。そして、目的を果たしたことが分かった賊たちが、早々にその場から立ち去る。クリスも魔法でなんとか、足止めをしようとするが、例のアーティファクトにより、すべて無効化されてしまう。


「「エミルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」」


 そんな二人の叫び声は、無慈悲にも意味を成すことは無く、空に消えていった。






 エミルを手に入れ、空中歩行≪スカイウォーク≫を使い帰路につく賊たちは、念のため、≪気配察知≫を使いながら周囲を警戒していた。


「意外と楽でしたねぇ! メイスさん!」

「黙れ、任務中は偽名で呼ぶようにあれほど言っただろ。それに周囲の警戒を怠るなグライス」

「あ、フォックスでしたよね、すいませ~ん」


 陽気な口調で、リーダーと思われる人物に話しかけた小柄な青年は、リーダーに叱咤をくらってしまった。


「だが確かに、このアーティファクトのおかげで、楽な任務ではあったな。メグルド、現在周りに不審な影は見当たらないか?」

「はい。大丈夫でございます。フォックス様」

「よし、じゃあこのまま、アジトに戻るぞ」


 リーダーの質問に答えたのは、ひげを伸ばした老人だった。片手には、大きな水晶が付いている杖を持っており、いかにも魔法が得意と言わんばかりの風貌をしている。そして、任務開始から一言も喋らず、賊たちと共にしている最後の一人は、10歳にも満たない、幼い少年だった。周囲の安全が確認できたことで、そのまま自分たちのアジトに戻ることを決める。




 だが、賊たちの真上の雨雲が少し不自然に動き出した。その変化をメグルドは見逃さなかった。

「フォックス様! 上でございます!!」


 メグルドの叫び声に、反応したフォックスが空を見上げると、雲の隙間から大きな雷が落ちてきた。だが、5人にぶつかることはなく、そのまま地面に衝突する。


「なっ! 周囲に人影はいないか!!」

「か、確認できま――」


 フォックスの問いに、メグルドが答えようとしたその瞬間、今度は4発雷が落ちてきた。それはエミルを抱えているフォックスに落ちることはなく、周囲にいた4人に落ちた。そして、黒焦げになってしまった仲間たちは、意識を失い、そのまま地面に向かって落ちていく。さすがにリーダーのフォックスも、冷静さを保てずにいた。


「敵はいなかったはず、不審な影も見当たらなかった。自然の雷なわけがない、まさか、このガキが...」


 そう小さく呟いていると、もう一発フォックスの目の前で雷が落ちる。

「うわぁ!!」


 急停止をする勢いでバランスを崩したフォックスは、空中歩行≪スカイウォーク≫の発動を止めてしまう。そして抱きかかえていたエミルを放してしまった。


「くそおおおおおおおお!」


 悔しみながら叫ぶフォックスにも、無慈悲に追い打ちの落雷が衝突した。




 あの襲撃事件から3日後、タイアンガート王国の中央に位置する、王城の会議室と思われる部屋に、貴族の中でも地位が高い者たちが集まっていた。


「一体、どこから情報が洩れていたというのだ!」

「分かりません。敵は300年前に失われたアーティファクトを所持していたので、情報収集に特化しているものを使用した可能性があります」


 大人数に囲われている大きな円卓を力強く殴りつけながら、一人の貴族が声を上げた。それに対し、落ち着いた声で答えた者もいたが、内心では少し焦りを感じていた。


「このことが国中に知られれば、大変なことになるぞ。最悪、反乱の火種にもなりかねん」


 集まっている貴族たちも、似たようなことをそれぞれ口に出し始め、会議どころではなくなっていた。だが、集まっている者の中でも、高そうな宝石で作られた装飾を着飾っている貴族が言った。


「とにかく、アイク一族の血が外に流れてしまったことは、我々の中でとどめておくべきだ」


 そんな意見に皆は反対の声を上げることは無く、そのまま静かに会議は終わりへと向かっていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 族じゃなくて賊だろ…。
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