1話 交通事故
―― どうしてこうなったんだ…。なんでおれなんだ…。おれは…運はいい方なんだ。
そう思っていた。そうじゃなきゃこんな身体になっていないはずだ…。
おれの脚は動かない。
事故だ。あの事故がなければ…。
――おれは慶大学に通う大学生の長月雪人だ。大学三年の二十一歳になったばかりである。
機械の学科だからというわけではないが、パソコンでプログラミングしたり、機械とパソコンを繋いで動かしたりしている。
雪人は座学は嫌いではないが、実際にロボットなどを動かす方が好きである。
この日も課題のために残っていた。
「雪人、もう帰ってもいいよ。あとは俺がやっとくから!」
「分かった、佐賀宮。あとは頼んだよ!」
彼は同じ学科の佐賀宮だ。今は二人でチームを組んで課題をやっている。
帰ってもいいと言われたので大学の近くのバス停で待ち、バスに乗って家の近くで降りた。
バスは行ってしまった。ここまでは良かった。
時間的には夕方四時半ぐらいだった。
家の近くの公園で遊んでいる子供がいた。その子供はボールを蹴って遊んでいる。
何となく悪い予感がしなくもなかったが、その予感は当たってしまった。
子供はボールを蹴り公園の外の道路に出してしまった。子供がボールを追いかけた先にはトラックが来ていた。…だが子供は気づかない。
おれは助けるのに一瞬ためらったが足が勝手に動いた。運はいい方だったからなんとかなると思っていた。
だが、おれの願いは叶わず、かばう形でトラックにひかれた。
…だけど守れたんだ、子供を。
その子供はほぼ無傷だった。だが、おれは下半身不随になってしまった。
助けた子供の母親が「ありがとうございます!うちの子だけ助かってしまって、すいません…」と病室まで謝りに来た。
おれは「いえ大丈夫です!助かってよかったです!」と答えたが、本当は何も大丈夫じゃない。内心、複雑だ。
車いすでは歩いていた時と感覚が違う。立っていた時の身長の半分くらいになってしまう。これでは高い所の物が取れない。以前は出来ていたことが出来なくなるもどかしさに最初は困惑していた。
でもその後、リハビリを繰り返すうちに、前向きになれるようになった。歩行訓練はきつい。きついけど、これをやって歩けるようになるなら頑張れる。
何としても歩いてやる!雪人はそう決意した。