メインヒロイン面した謎の美少女ごっこ 4
今後の事。
それは正直あまり考えてなかった。
やりたいことややるべき事はそこそこあるが、優柔不断なのでイマイチ決まらない。
そこで親友の出番というわけだ。
「いろいろあるから、レッカの意見を聞きたい」
「何でもどうぞ」
「ありがとう。……まずはこのペンダントをどうするかなんだけど」
「……まぁ、一番大事なとこか」
俺が謎の美少女でいるためのアイテム──ここまで来るともう不要かもしれないが、この姿を好きになってくれた少女もいる。そのため、一概に男の姿が一番いいとは言えないのだ。
「これを手放せば私はいなくなって、この世界にはアポロだけが残る。アポロは多分しれっといつも通りに戻ろうとするし、二度と変身もしようとしない」
「そのまま持ってれば……逆にずっとコクでいるってことかな」
「うん。もう両立はしない。もう片方を完全にいないものとして扱う」
この決定に関しては、責任というより俺自身の心に区切りをつけるためだ。
ずっと繰り返してたらアポロとコクのどっちでいるべきなのか迷ってしまうし、もうそれで悩むのは終わりにしたい。
だからどっちかだ。
アポロか。
コクか。
「それをレッカに決めてほしい。俺か、私か──どっちに居て欲しいのかを」
そこで主人公くんへ提示する最後の選択肢だ。
セーブもロードもないこの世界でどっちのエンドを取るのかは、最初から最後まで俺という人間を見続けてきた彼が決めるべきだと思う。
ここまできて生きたい方を自分で選ぶのはズルすぎるから。
せめて最後のルート分岐の選択肢は、俺が振り回し続けた親友の手に委ねるべきだろう。
「責任だとか、あんまり重く考えすぎないで欲しい。自分としては、本当にどっちでも上手く生きていく自信があるから」
「それはそれで困るんだけど……うん、とにかく分かったよ。僕が決めていいなら、僕が決める」
わお。目に迷いがない。これが本編最終盤の頼もしい主人公くんってやつか。
ここまで乗り気なのは正直意外だったが話が早いのはこちらとしてもありがたい。
フッて、フラれて、俺たちを取り巻く感情の矢印はその全てがリセットされた。
ここから先は彼自身が進みたい未来を選ぶだけだ。
またコクを攻略するのも──二度目はきっと断れないので──ありだし、男友達として残りの学園生活や卒業後にバカをやってもいいし、これを機に俺と縁を切ってあの少女たちと今度こそ横やりのないラブコメをやり直すのも良い選択だ。
さあさどうするってんだい少年。
「……なぁ、僕ってさ。たぶん精神的には最初から、ずっと君の手のひらの上だったんだよな」
そうかな。そうかも。
少なくとも美少女に扮して関心を引きまくってた最初期は、手元にある情報量の多さから鑑みても、間違いなく俺の方が精神的には優位に立っていたと思う。でなけりゃ濡れ透けワンピースのまま夜の浜辺でスカートをたくし上げながら『思い出が欲しい』だなんてギリギリアウトなからかいは出来ん。
「そこで思ったことがあるんだ。騙されてた僕自身が悪いのはもちろんだけど、それはそれとしてムカつくなって」
微笑みながらそう言って、彼は俺の首元にぶら下がっているペンダントを優しく握る。
な、なんだなんだ。
……あれ、予想以上に怒ってるのかしらレッカくん。
優しい雰囲気を感じるけど俺は恐怖を感じてるよ、ヤバいよヤバいよ。
もしかして最後は僕の手でデッド・エンドだぜェーッてオチ? バッドエンドルート入ってるこれ?
「だから決めたよアポロ。僕は君を困らせたい。今度はこっちが精神的に優位な立場に立ちたい。だから……」
言いながらペンダントを俺の首から外すレッカ。
まだスイッチを押してないのとすぐ近くにあるから変身は解けず、俺の姿はコクのままだ。
まるで行動の意図が読めずに狼狽していると彼は──ペンダントを自分の首にかけてスイッチを押した。
「えっ。……まっ」
瞬間、発光。
親友が眩い光に包まれたかと思ったのも束の間。
ふと気がつけば自分はこれまでの戦いの蓄積で少々逞しくなった男の肉体に戻っていて。
「……おっ、うまくいった。やっぱり誰でも使えるんだね、このペンダント」
目の前には明朗快活ながら穏やかさも併せ持ったあの優しいイケメン男子とは似ても似つかない、ちんまくて艶やかな黒髪が特徴的でジト~っとした眠そうな赤い目の少女がベンチに座っていた。
そして少女は自分の指先に魔力を込めて自分の前髪をなぞり、いったい何の魔法を使ったのか分からないが自身の髪の一部に燃える炎を彷彿とさせる赤色のメッシュを入れて、イタズラっぽい笑みを浮かべた。
「どうかな、ポッキー? 第三の選択肢を選ばれた気分はさ。これで僕がメインヒロイン面してきみについていったら……いったいどうなっちゃうんだろうね──ふふっ」
…………それは。
その。
なんというか。
間違いなく、予想だにしていない展開で。
間違いなく、今日この場に置いて俺の全てを理解した、メインヒロインに相応しい立ち位置にいて。
だから。
えぇと。
つまり、あの。
「………………………………はぇ……っ」
ものの見事に──困らされてしまったようだ。
次回で最後になります。




