メインヒロイン面した謎の美少女ごっこ 3
「……もう気づいてるよね、レッカ」
というわけで今一度ネタバラシの時間だ。
実は前にも一回真実を告げているのだが、その時は様々な悪条件が重なって親友がそれを信じてくれないという結果に終わってしまっていたのだ。
お互いに落ち着いた精神状態で、言う事言ってスッキリした今ならちゃんと正面から受け入れてくれることだろう。
「私はアポロ・キィ。あなたが好きって言ってくれたコクという少女は、あなたの友人が被っていたただの仮面」
「……そうだね。流石にもう信じないわけにはいかないな」
苦笑いして頬をポリポリとかくレッカ。流石にもう、ってのはどういう事だろうか。
「もうこの際だから観念するけど、君に真実を告げられた時に僕は現実逃避したんだ。……で、いろいろあって嘘がそのまま真実になってくれたりしないかなって淡い……甘すぎる期待を抱きながら過ごしてた」
あの時マジで勘違いしてたわけじゃなかったんかい。
「君が僕の前で仮面を被っていたように、僕も君のことを騙していたんだよ。……お互い様だね」
「いや私の方が罪状重いと思うけど……まぁ、レッカが言うならそうだね。おあいこ」
親友だ何だと言っておきながら、俺たちは互いに互いを騙し合っていた。
自分のために相手を謀っていたのだ。
市民に対して、世界に対して、そして共に戦ってくれた少女たちに対してどれほど良い事をしようが、俺たちは親友に対してだけは永遠に不誠実だった。
だが、不誠実を貫くのもこれで終わりだ。
二人とも観念して、何より嘘をつき続けることに疲れた。
相手からの叱責だとか失望だとか、怖いものはたくさんあったがそれでも終わらせにかかった。
ずっとこうしたかったのだ。
俺たち二人だけで、何もかもぶっちゃけて話がしたかった。で、もう我慢するのはやめようと考えたのが二人同時だった。ゆえにこうなってる。
「……正直、コクとアポロがイコールだとどうしたらいいか分からなかったんだ。コクっていう少女に恋してるのか、それとも自分を理解してくれてる親友が女の子だから好きになったのか、何も判断できなくなっちゃうから。……でも、もう──」
「レッカ、フラれたかったんだね」
「……はは。まいったな、全部見透かされてる」
よく分からんことで懊悩するくらいならフラれて楽になりたい──そう考えるのはごく自然な事だ。
ましてや俺たちは思春期真っただ中の高校生。
自らの恋路なんぞ自分の感情と自身の都合で好き勝手に解釈して、都合のいい方向に運びたいに決まってる。
だからレッカを卑怯だとは思わない。
なにせ彼の百億倍は俺の方が卑劣なのだし、人のこと言えないとかそんな次元の話じゃないからだ。
「でもコクのことが好きだったのは本当だよ。それは今でも変わらない」
「うーん……変わってほしかったけど。まぁこれは私の責任か」
「少しはね。沖縄で濡れたワンピースで誘惑してきた事は忘れてないし、アレに関しては君がやり過ぎてたと思うな。どう思う?」
「その節は大変ご迷惑をおかけしました……」
場合によっては俺とレッカがくんずほぐれつの大運動会を始める世界線が発生するレベルでギリギリの美少女ごっこだった。アレはさすがに綱渡りが過ぎたと反省してる。
「……ははっ」
「なにレッカ」
「いや、別に。……ただなんというか、ようやくモヤモヤが晴れたなって」
「……それは確かに。……ふふっ」
小さな笑い声は白い吐息になって寒空に消えていく。
もうイブは終わりだ。
日付が変わってクリスマスの当日を迎える。
プレゼントをくれる白いひげのおじさんは現れなかったが、その代わりに俺たちは少しの憂いも無いさっぱりとした距離感を手に入れることができた。
非日常に身を置くレッカを妬み羨望していた頃に、喉から手が出るほど欲しかったもの。
互いの事情を理解し合っていて、言いたいことはなんでも言う。
守ったり守られたりしない、ただ隣に立つ関係性。
告白イベントを終えて遂にそれを獲得したのだ。
ようやく満足した。
いまの俺はレッカにとっての唯一無二だ。
「……で、君はこれからどうするんだい?」
「ん……」




