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ハーレム四号



「…………」


 正座、している。


「……ふむ」


 目の前には、同じように正座している、長い薄紫髪の女子生徒。

 この学園の生徒会長とヒーロー部の部長を兼任しているスーパー才女こと、ライ・エレクトロ先輩がいる。

 場所は学園内にある畳張りの和室。

 普段は茶道部が使っているその場所で、ライ先輩は俺のために、お茶を一服立ててくれていた。

 

「なるほど。風菜の想い、君はしっかりと受け取ってくれたんだね」


 先輩は優しく微笑んだまま、柔らかい雰囲気でそう続ける。

 清廉でおしとやかなその空気は、まさに大和撫子。

 落ち着き払った彼女を前にしていると、自然とこちらも穏やかな心持ちになることができた。



 ──昨晩、風菜という少女からあまりにもストレートな告白をされた俺は、自分がこれからどうするべきか分からなくなってしまっていた。

 好意を伝えられ、一人ではないと励まされ、逡巡している間も手を握ってそばにいてくれた風菜によって、たった一人で危険なイベントを押し進めることのリスクと恐怖を再認識した。

 端的に言うと、これまでのように自分を無理やり奮い立たせて、部員のみんなを置いて一人で戦いへ赴く勇気(蛮勇)がきれいさっぱり消え去ってしまったのだ。


 ゆえにこうして、昼休みの時間を割いてもらい、生徒会長であり部活の長でもあるライ先輩にお話を伺いに来た、というわけである。

 もう下手な隠し事は自分を苦しめるだけだと理解し、風菜のことや警視監との約束のことも、包み隠さず彼女に明かした。


「……俺はどうしたらいいんでしょうか、会長」


 年上で多角的な視野をお持ちのライ先輩にしか聞けないことだ。

 自分だけでなく、ヒーロー部のみんなにならいくらでも頼っていい──そんな風菜の言葉に動かされて、俺は今ここにいる。

 ようやく俺の選択肢に”相談”という項目が追加された、と言ってもいい。

 もうかっこつけてソロプレイを続けられるほど、俺の心は強くないのだ。


「……そうだな。……みんなで、戦おうか」


 先輩が点ててくれたお茶を差し出してきた。

 それを受け取り、手のひらの上で回す。


「みんなで、ですか」

「君がどう思っているかは分からないが、ヒーロー部は漏れなく全員君の味方なんだよ、アポロ」

「……味方」


 部員のみんなが俺の味方──その言葉の意味を、俺はこれまで半分も理解していなかったように思う。

 同じ部活のメンバーで、旅の中で一緒に戦っていたとしても、やはり俺にはみんなに対する隠し事が多すぎたから。

 自分一人が別の場所に立っていると、そう思い込んでしまっていた。

 けど、それはライ先輩曰く、間違った認識だった。


「想いを伝えた風菜はもちろん、他のメンバーにとっても君は大切な存在だ。見ていて気付かなかったかい?」

「……すみません。俺、見て見ぬふりをしていたかもしれない」


 きっと最初から気づいていたのだ。

 だが、知らないふりを続けていた。

 みんなに信頼されているだなんて、ただの一般人である自分がそう考えるのは、とてもおこがましいことだと思っていたから。


「アポロのためならどんな助力だって惜しまないさ。わたしたちは仲間なのだから」


 ライ先輩の穏やかな声音が、深く心に染み入る。

 簡単に言うと感動してしまった。

 なんだか普通に嬉しくて、表情がほころんでしまいそうになる。

 ニヤニヤしてる顔、見られたくないな。


「──それと、わたしも君のことが好きだ。……風菜には、先を越されてしまったようだが」


 あくまで余裕を崩さないまま、ほんの少しだけ頬を赤らめて、微笑みながら彼女は告げる。


「世界中の人々が悪の組織に洗脳されて、心が折れたわたしを守ってくれた。多分、あのときから。……吊り橋効果、だとか揶揄されてしまったら、反論が難しいな」


 あはは、と小さく笑うライ先輩。

 一言で表すと──かわいい。

 年上の先輩なのに、どうしてここまで守りたくなるような雰囲気を出せるのだろうか。

 好きだ……。


「でも、やはり君はわたしの中で大切な存在だから。頼ってほしいし、力になりたいと思っているよ」


 これまた直球の告白だった。

 ここで俺が取り乱さないでいられるのは、落ち着いて自然に話を続けてくれる、ライ先輩の巧みな話術と静かな雰囲気のおかげかもしれない。


「……あの、ライ先輩。俺──」

「今はいいよ、アポロ」


 答えというか、自分自身の想いというか、どんな言葉を口にするかは決まっていなかったが、とにかく彼女に返事を返したかった──のだが、それは受け取る本人であるライ先輩によって制された。


「風菜も、わたしも、すぐに答えが欲しくて伝えたわけじゃないんだ」

「え……」

「それよりも君の──いや、《《彼女の》》答えを待ち続けている相手がいるだろう」

「っ!」


 すぐに思い至った。

 ライ先輩が言っている、その彼女の答えを待っている相手という人物に、俺は一人しか心当たりがなかったから。

 お茶を飲み干し、ふちを拭って茶碗を返して、ゆっくりと立ち上がった。

 後押しされていることには気づいている。

 ここまでして背中を押されては、とぼけて時間を稼ぐのも不可能だ。


「君の親友は部室にいるよ。……たぶん、いまは一人かな」

「……ありがとうございます、ライ先輩」

「うん、いってらっしゃい」


 とても頼りになる先輩に背を向け、俺は和室を出てヒーロー部の部室へと向かう。

 その道中、首に下げたペンダントを一度触って。

 見目麗しい黒髪美少女に変身をして、俺は一番初めにウソをついた相手のもとへ駆けていくのだった。


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