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隠しヒロイン


 【速報】オレの親友、ロリコンだった。


 というわけでヒロイン三人の告白イベントがあったにもかかわらず、俺はメインヒロインの座をキープすることに成功したのであった。

 正直あそこまでされたら勝てる要素が無いと、話を聞いていた時はそう思っていたのだが、どうやらレッカがロリ体型好きの変態だったおかげでどうにかなったらしい。ばんざい。


 あとそれから、俺たちは遂に沖縄を出発することになった。


 悪の組織がもうすぐ激ヤバ装置を完成させるとのことで、それが発動されてしまったら世界中の人々が一瞬で洗脳されてしまうという、意外とめちゃくちゃに追い詰められている状況になっていたようだ。

 しかしこちらもただ手をこまねいていただけではない。

 組織の本部に殴り込みをかけるための潜水艦を用意し、ヒーロー部のみんなもしっかり能力を修行していた。戦う準備はバッチリだ。


 以前両親から聞いた警察に潜り込んでいる組織のスパイの正体も判明したのだが、ヤツを告発させるに至る程の証拠を掴むことは、終ぞ叶わなかった。

 スパイの正体は警視庁の警視監。

 上から数えた方が早いくらいのお偉いさんということもあり、証拠隠蔽はお手の物だったようだ。


 つまり、俺たちは未だ警察の手を借りることはできず、ここまできたヒーロー部のメンバーと俺の両親だけという、世界を救うにはいささか心許ない人数で巨悪に挑まなければならない──ということだ。普通にこわくて怖気づきそう。


 でもここでやらなきゃバッドエンドだし、なるべく全力でがんばるぞ。



「じゃ、私たちはこれで」

「また夕食の時にでも話そう、コク」


 俺の部屋に来ていた音無とレッカが、それだけ言い残して退室していった。かれこれ三十分くらいお話をしていたかもしれない。


 現在は潜水艦に搭乗しており、俺がいるのはその中にある一室だ。

 悪の組織の本部まではまだまだ遠く、少しの間はここで過ごすことになっている。


「……どうなるんだろうなぁ」


 ペンダントを操作し、コクの姿から戻ってから、ベッドに転がって呟いた。部屋の鍵は閉めてあるから、急な来客が来ても対応できるので問題ない。


 ……で、先ほどの音無とレッカとの会話なのだが、どう考えても最終好感度チェックのイベントだった。

 一番仲の良い仲間が部屋に来る流れになっていたんだろうけど、まさか二人も来てしまうとは。

 最初にレッカが来たときは、最終決戦前ってことで思い出作りに一発ヤられるんじゃないかとヒヤヒヤしていたのだが、程なくして音無も訪れたことで部屋の雰囲気は健全に保たれた。音無によるこの上ないファインプレーだ。褒めて遣わす。


 会話の内容は『戦いが終わったら』とか『今回の作戦は』など、当たり障りのないものだった。

 レッカも音無もいつも通りの態度だったし、特別何も起きなかったこともあって、良くも悪くも今後の展開が予測できなくなってきている。

 果たしてレッカに攻略されてしまうのか。

 それとも音無に美少女ごっこを止められてしまうのか。

 ましてや悪の組織なんて本当に倒せるのか──不安は拭えない。


 だが俺は俺なりに頑張るつもりだ。

 謎の美少女に変身できるこのペンダントを手に取ったあの日から始まった俺の物語が、どんな結末を迎えるのか。それだけはしっかりとこの目で見届けるつもりでいる。

 ちょっと怖いけど、やはり少しだけ楽しみだ。


「……ん?」


 コンコン、と部屋のドアがノックされた。


「──紀依、わたし」

「おう、今開ける」


 声の主は衣月だった。相手が彼女ならわざわざコクに変身する必要もあるまい。

 扉を開けると、そこには俺よりも頭一つ分くらい背が低い、白髪の少女が立っていた。

 その見慣れた姿に安堵しつつ部屋の中に招くと、程なくして衣月が正面から抱き着いてきた。なんだなんだ。


「どした衣月。急にくっついてきて」

「風菜やカゼコと遊んで汗をかいた。紀依、一緒にお風呂に入ろう」

「えぇ……」


 何でよりにもよって俺なんだ。そこは音無とかライ会長でいいでしょうに。

 出会った初日は衣月を風呂に入れたが、それでも二人で同じお湯に入ったことはない。血は繋がってないし兄妹でもないし、ましてや男女なのだから当たり前だ。


「紀依はイヤ?」

「逆に聞くけどお前はどうなんだよ。小5くらいなら、男に体を見られるのは恥ずかしいモンなんじゃないの」

「知らない」


 いや知らないてアンタ。

 確かにこれまで悪の組織に幽閉されていたわけだから、普通の小学生と同じ感性を得るのは難しかっただろうけども。

 それこそツイッターとか使ってたわけだし、この旅で身も心も文字通り成長してきたはずだ。

 なのに俺とお風呂か。

 普段は音無と一緒に入ってんのに、男の俺か。

 もしかして衣月には羞恥心ってものが無いのだろうか。


 ……ま、まぁ? 俺だってロリコンではないから?

 衣月の裸体を見ようが何とも思わないし、お前がいいなら別に構わないけどな。


「あれ、でもここってシャワー室しかなくね?」

「私の部屋には普通の浴槽がある。お湯も溜めてあるから、無問題」

「そっすか」


 無問題って、これまた変な言い回しを覚えたなこいつ。実際の歳に比べて、知識が偏ってるような気がする。

 マジでこの戦いが終わったら一般教育科目から順に、しっかり教え込んでいこう。





「……狭くない?」

「別に平気」


 十数分後。

 とりあえず簡単に身体を洗った後、そこそこ温かいお湯を張った湯舟に浸かると、衣月がそのまま膝上に乗っかってきた。

 二人で入っていることもあって、風呂の湯は溢れて零れてしまう。少し勿体ない。


「なぁ、衣月」

「どうしたの」

「その……なんで男のままじゃないとダメなんだ?」


 俺はコクに変身していない。衣月からの希望だったのだが、普通に考えたら女同士の方がいいと思う。なんでわざわざこっちで……。


「だって、そっちが本当の紀依だから」

「そりゃそうだが」

「どっちでもいいけど、こっちの紀依の方が、私は好き」

「うれしい~」


 お湯に髪を漬けないよう、タオルで頭を覆ってやった。

 奇麗な白髪なのだからもっと大事にしてほしい所だ。


「紀依」

「んっ?」

「もっとくっ付いて」

「今の時点でこの上なく密着してるだろ」


 クソ狭い浴槽で少女を膝上に乗せながら湯に入るなんて、相手が衣月だろうと、はたから見れば犯罪でしかない危険な行為だ。

 そのリスクを承知で一緒に浸かっているのだから、もっとくっ付けだなんて無茶なお願いは勘弁してほしい。


「だめ。後ろから抱きしめて」

「そんなに寒いか……?」


 もう十分温まってるはずなんだけどな。この子もしかして冷え性なのかしら。

 一応今回は彼女の希望を叶えるためにやっている事ということもあって断れず、俺は後ろから彼女の腹部辺りに手を回し、苦しくならない程度に抱き寄せた。

 サラサラで触り心地の良い少女の背中が、俺の胸板に密着される。

 相手が衣月じゃなかったらエロシーンに突入してそうな状況だ。


「んっ……」

「これでいいな」

「……うん」


 衣月はそっと俺の腕に手を重ねてくる。……なんだろう、もしかしてシリアスなターンだったりするのかな。

 もう、この際ハッキリと聞いてしまおうか。


「なにか話したいことでもあったのか」

「……あった。ある。今から話す」

「どうぞ」

「承った」


 独特な空気感での会話が続く。

 少し動けばお湯の揺蕩う音が耳に入ってくる。

 それほどまでに浴室は静まり返っていた。


「私、未来が見える」

「……えっ。俺のパクリ?」

「紀依のハッタリとは違って、私のは本当」


 普通に考えたら衝撃の告白なのかもしれないが、ここまで非日常に巻き込まれると、いろいろと慣れてくるらしい。

 多少驚きはしたが、動揺するほどではなかった。

 そんな俺の様子を知ってか知らずか、衣月は淡々と話を続けていく。


「能力というよりは、呪い。ごく稀に、一瞬だけ仮定の未来を見ることができる。紀依のペンダントを改良できたのも、その”改良される”という仮定の未来をあの場で見たから」


 どうやら彼女は特別機械に強かったわけではなく、先の事象を知る事で物事を解決させる力が元から備わっていたらしい。

 呪いというほどだから、きっとこれまで見てきたのは良い未来ばかりではなかったのだろうが。


「組織にいた頃は、いつも眠るときに未来を見ていた」

「……どんな未来だった?」

「世界が、救われる未来」


 お湯を手ですくって遊びながら、彼女は俺の膝上でその未来を語る。


「研究所から連れ出されて、私はレッカに保護される。いろいろあって悪の組織と戦うけど、ヒーロー部は勝利を収める」


 これまでの過去とは違う未来だ。

 やはりというか、最後のヒロインに相応しい衣月はレッカに守られ、最初から俺という存在は必要なかったらしい。


「私はレッカを好きになって、レッカも私を一番大切にしてくれる」


 れっちゃんマジでロリコンだったんだ。まぁそういう性的嗜好もあるよね。


「……でも、最後にヒーロー部の誰かが死ぬ」

「流れ変わったな」

「私とレッカは死なない。世界も無事に救われる。けど、仲間の内の誰かが必ず死ぬ」


 想像以上に重い未来を見ていた衣月。

 思わず茶化そうとしてしまったが、そういう雰囲気ではないと理解して、そっと彼女の頭に手を乗せた。


「何百回と見てきた。一番回数が多いのは音無で、その次は氷織。二人とも、私の見た未来では『自分は死んでもいい』って考えてた。だからいつも、最後には犠牲になる」

「……そうか」


 音無の場合は裏切者という罪悪感から。

 氷織に至っては、幼い頃に人の命を奪った負い目から、そういう感情を抱いてしまったのだろう。

 これだけを聞くと非常にこの先心配になるが──


「でも、僅かにだけど、死ななかった未来も見た」

「マジで?」

「まじで」


 希望が見えてきたと思ったら、衣月が体ごと振り返って、俺と対面した。

 浴槽の中で静かに見つめ合いながら、俺は少女の話に耳を傾ける。


「その未来を見たのはつい数日前。……そこにはいつも、紀依がいた」

「俺……?」

「おれ」


 何で俺?


「よく分からない。確実に言えることは、仲間が誰も死なない未来を見始めたのは──あなたと出会ってからが、初めてだった」


 自分が特異点になった可能性があると言われても、いまいちピンと来なかった。

 欲望に負けて物語に参戦した俺が、どうしてよりにもよって運命を変える歯車になってしまったのか、まるで想像がつかない。


「紀依と出会って未来は変わった。でもここ最近はまったく未来を見ていない。いつも研究所で受けていた注射を、長い間受けていない影響かもしれない。……私はもう、未来を見ることができない」

「……それでいいだろ。先の事なんかわかんないのが普通の人間なんだから」

「嫌。見たい。どうしても、いま見たい」


 珍しくワガママを言ってきた衣月は、そのまま正面から俺の頭を抱擁してきた。ちっぱいで前が見えねぇ。


「心配しないでも大丈夫だって。現状の最強メンバーで挑んでるんだし、死なない未来まで見たんだからそれこそ無問題だろ」

「そうじゃない。私の見た未来で、紀依だけが生死の結果が分からなかった」


 ……あれ、もしかして死亡フラグ立ってるのって、俺なのか。


「未来に紀依がいたのは間違いない。でも生きてるのか死んでるのか、判断が付かなかった。もし誰も死ななくなった代わりに紀依が死ぬのなら、そんなの意味が無い」


 めっちゃ強く抱きしめてくる衣月。痛い痛い。どんだけ俺のこと心配なんだお前は。


「やだ。……死なないで、紀依」

「死ぬわけないだろ、このアホ」

「いたっ」


 流石に苦しいのでポコッと頭を軽く叩き、彼女を少し体から離した。

 まったく、俺が死ぬ前提で話を進めるんじゃないよ。


「いいか。そういうフラグっぽい発言が俺のことを殺すんだよ。するならもっと素直に応援してくれ」

「……がんばれ、がんばれ……とか?」

「おぉ、いいなそれ。滾ってきたわ」

「児童ぽるの? ろりこん?」


 わかんねぇ。俺もしかしたらロリコンかもしれねぇわ。衣月のこと大好きだからな。


 まぁ、とりあえず余計なフラグ発言さえされなきゃ、俺は死なないってことだ。

 なんたって衣月曰く『運命を変えた男』だからな。これはもうレッカと並ぶ重要な人物と言っても過言ではないだろ。


 うおぉ、これこそメインヒロイン。

 実際に超重要な役割を担ってしまったぜ、ひゃっほい。


「俺に任せとけって、衣月。誰も死なない超絶ハッピーエンドを見せてやるからな」

「それ、フラグっぽい」

「お前が茶化してくれたならもう大丈夫だ」

「……やっぱり不安。ねぇ紀依、レッカにしようとしたように、私とも思い出を残す?」


 お前もあの夜の浜辺でのイベント見てたのかよ。もう両親とか会長が知ってても驚かねぇぞ俺は。


「今のうちに種を仕込んでおけば、バッドエンドでもいつか紀依の子孫が仇を討つ」

「ハッピーエンドにするって言ったでしょ。てか間違ってもお前に種は仕込まねぇよバカ。どんだけ下ネタ好きなんだ」

「おっきくしましょうか」

「小さいままでお願いします」


 ……本当に困った少女だ。

 


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