【序章】青ペン事件
事の顛末は、全てこの事件がきっかけだ。
二年前。
雨雲が太陽を覆い、電信柱の影は消え、港町は薄暗くなる。ちょうど五時に差し掛かり、ベストなタイミングで電灯が灯る。
蛾が群がる。
中学校の学生服を着た少年はその灯りに照らされ、目的のスーパーを見やる。
唾を飲み込む。
彼には、そびえ立つ魔王の城にでも見えただろう。
何故なら彼が目論んでいることが……。
「よし……行こう。」
スーパーの自動ドアをくぐると、彼はまず、文房具売り場の天井にある監視カメラを確認する。
買い物籠を持つ。
彼は平然を装い、目的のペン売り場の目前で佇む。
───────目的の品を睨む。
二千円のその青ペンは、持ち手が木製になっており、高級感がある。そこが気に入ったポイントだ。こんな馬鹿げた真似の原因も、たかがその程度のものだった。
小さなプラスチックの箱に入ったそれをとり、買い物籠に入れる。
そして、特に欲しくもない、ドリンクや菓子を入れ、ごく普通のショッピングのように見せかけ、レジに向かう。
彼にとっては、ここからが勝負だった。
ポケットには初めから手を突っ込んでいた。
そう、彼はたまたま頭が痒くなったのだ。
ポケットから手を出して、頭をコリコリかく。
そして、レジの列の手前、右手をポケットに戻す時に買い物籠に手を伸ばし、プラスチックの箱をとり、素早くポケットに入れた。
無事買い物を終え、スーパーから出る。
「はぁー……ヤバかったぁ……。」
彼は“万引き”の成功に溜飲を下げた。
「ヤバいのはここからだと思うがね。」
その一声に心臓が止まる。
気づくと隣には、下調べでは店長と確認していた人物の姿があった。顔は見れない。彼は震えながら俯いた。
「見てたぞ。大人を馬鹿にしやがって。んでお前名前は?学校は?っちょっ!」
逃げ出した。ペンを投げ捨てて。
どこまでもどこまでも走った。
────────やらかした!!
──────っ!!
腕を捕まれる、店長の筋肉質な右腕はいくら足掻いても離れてはくれなかった。
それが事件の全貌。
この物語の主人公、西川 開の人生が終わった瞬間だった。