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八郎という男

 

昨日の事件があって夜明けごろに眠りについた天丸は起きたらすでに昼頃になっていた。朝食兼昼食を適当に済ませるとトリングへ向かった。


「あ〜…今日も嫌われる俺。」


道の真ん中をゆっくり歩く天丸の周りには誰もいない。道行く人々はみんな天丸を避けるように歩いている。


「まぁ別に歩きやすいからいいけどな…。」


天丸が通信装置を取り出し犯罪者リストをチェックしながら歩いていると、ドンッと誰かとぶつかった。


「ぅお、悪い…。」


そう言って顔を上げると男と目が合った気がした。しかしよく見ると相手の男は目の焦点が合っていない。そのまま特に何を言うわけでもなくフラフラと歩いていった。天丸は不思議に思ったが、自分には関係ないと前を向いて歩き始めた。


 その時、ドゥン!!と銃声がした。


反射的に銃声がした方を振り返るとさっきの男が銃を持って立っている。その数メートル前方にはスーツを着たサラリーマンが腹を押さえて倒れている。サラリーマンの下には血溜まりが広がっている。周囲がパニックになる中、天丸は人の波を押し退けて2人の元に駆け寄った。


「大丈夫か!?」


サラリーマンに声をかけると唸り声が聞こえた。急所は外れているようだ。通信装置で警備隊に連絡をする。ついでに男の顔を犯罪者リストと照合したがヒットしなかった。男は撃った銃を見つめてブツブツ何かを言っている。


「…ほら見ろ……俺だってやれば出来るんだ……あの狐…適当な事言いやがって……。」


「狐…?おい、狐って…」


 天丸が聞こうとした瞬間、男はけたたましく笑い始めた。


「あはははははは!!」


やはり目の焦点が合っていない。天丸は刀に手をかける。


「なんだアイツ…。あ〜あ、俺殺さないの苦手なんだよなぁ〜。」


ため息をつきながら1人呟くと


「知ってる」


 という言葉と共に肩を掴まれた。天丸にはその声だけで八郎だとわかった。視線は男に向けたままいつもの調子で八郎に言う。


「相変わらずお早いこって…。」


しかし八郎は無言のまま天丸の隣に立つ。いつもなら嫌味で返してくるのにどうしたのかとチラリと八郎を見ると目の下にくっきりとクマが浮かんでいる。


「あら…ゾンビみたいだな…。」


天丸がポツリと言うと八郎はギロリと天丸を睨みつけた。


「誰のせいだ。」


普段よりずっと低い声。こういう時は大抵八郎が本気で怒っている時だ。


「すみません。」


天丸が謝ると八郎は前の男の方を見た。


「俺がやる。下がってろ。」


「御意のままに…。」


天丸は言われた通り数歩下がった。八郎は男との距離を詰めていく。すると後ろの警備車にサラリーマンを運び終えた1人の警備隊員が天丸の隣に来た。


「あの…八郎先輩1人で大丈夫何ですか?相手は銃を持っているんですよね?」


「あぁ〜でもあいつはリストにない奴だし、俺は手が出せないからな。」


「じゃ、じゃあ!自分が行きます!」


そう言って駆け出そうとする警備隊員の首根っこを掴んで止める。


「まぁ待て待て…。」


「何するんですか!?」


「お前が行ってもかえって邪魔。」


「でも…!」


「先輩の背中でも見てなさいよ。」


警備員が八郎の方をみると未だに笑い続けている男の目の前に八郎が立っていた。男は八郎に気が付くと今度は怒り始めた。


「なんだお前は…!お前も俺の邪魔をするのか…!」


「邪魔をしているのはお前だ。」


八郎が冷たく言い放つと男は激昂して八郎に銃を向けた。


「どいつもこいつも……邪魔する奴は全員死ね!!」


「八郎先輩…!!」


警備隊員が一歩踏み出した瞬間…ドゥン!と銃声が鳴り響いた。

思わず瞑った目をゆっくり開けると、目に入ってきたのは男を取り押さえる八郎の姿だった。


「はい、確保。」


八郎がそう言うと他の警備隊員数名が騒ぐ男を警備車に乗せてダーチースへ帰っていった。


「あの…今一体何が…?」


警備隊員が隣にいる天丸に話しかける。


「あ?見たまんまだろ?八郎が男を取り押さえた。」


「いや、そうじゃなくて…。だってあの至近距離で銃を向けられていたんですよ?銃声だってしたし…。どこか撃たれたんじゃ…。」


八郎の心配をする警備隊員に呆れた口調で言う。


「お前……さては新人だな?銃声がした時目ぇ瞑ってたもんな〜。いいか新人くん。あの距離でも銃を向けられていようがアイツより八郎の方が強い。もっと言えば速い。」


「でもそんなことがあり得るんですか?だって撃つよりも早く銃を払って取り押さえたってことですよね?」


「さすが新人くんだ!使えないにも程がある。銃弾を避けたんだよ。八郎の方が速いって言っただろ?」


「新人くんってやめて下さい!僕は新次郎です!銃弾を避けるなんてもっとあり得ないじゃないですか!」


「ただ避けるのは無理だな。でも相手の呼吸がわかれば撃つタイミングもわかる。そうなったら避けるのは簡単だ。撃つのよりも少しだけ早めに動けばいい。八郎は頭が良いからな。相手の目を見ればタイミングもわかるだろうし…アイツの分析能力ははっきり言って妖怪並だな。」


「そんなんでタイミングなんてわからないし、わかったところで避けるなんて無理です!」


天丸は深くため息をついて真剣な顔をした。


「新次郎くん…お前じゃあ目の前で起こったことをどう説明するんだよ。お前ができないことがみんなもできないなんて誰が決めた?生きている以上あり得ないことなんて当たり前に存在するんだ。警備隊員としてこれからやっていくならまず現場では、世の中の常識より、培ってきた経験より、今自分の目で見たものを信じろ。」   


「へぇ〜。随分と偉くなったもんだな、天丸。」


いつの間にか八郎が目の前に立っていた。相変わらず不機嫌そうな顔をしている。そんな空気を察して天丸は急に八郎を褒め始める。


「あ…、八郎さんじゃないですか!見事なお手前でしたよ。いやぁ〜さすがですね!」


八郎は無言で天丸の胸倉を掴んで引き寄せた。そして低い声で言う。


「俺は寝る。起こしたら殺す。」


「ぎょ…御意のままに…。」


引き攣った顔で天丸が言うとパッと手を離し、警備車に乗り込み帰っていった。

青ざめている天丸に新次郎が声をかける。


「大丈夫ですか?」


「新次郎くん、もう一つ良いことを教えてやろう。」


「何ですか?」






「八郎はキレるとヤバい。特に寝てない時は気を付けろ。」






さっきよりも真剣な表情に新次郎も真剣な顔で頷いた。



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