第4話 その男の名は
「ハァ……次の試験受けたくねぇなぁ……」
「そんなこと言わないくださいよご主人~~! 次は実技試験ですよ!? ご主人ならその銃の腕前でよゆーですよよ、ゆ、う! 実際ご主人は肉体は引きこもりニート(千年)でも銃を外すことはないでしょう? 大丈夫ですってきっと!」
スマホの上で10cm程の青いツインテールの電子でできている少女がピョンピョンしている、そんな様子とは裏腹に隣で机に突っ伏している青年は気だるげで、悲しみに包まれたような雰囲気をかもしだしている。
「でもよー俺以外の皆基本ムキムキじゃん? 俺と同じくらいに見えるやつでも俺の倍は握力とかあったじゃん? 正直俺が勝てるビジョンが全く浮かんでこねぇんだよなぁ……」
賢司はふぅ、とため息をつきながら再び机に突っ伏してしまった。
だがしかしそんな彼に対しても時間は平等に過ぎてゆき、ついにお姉さんがいっていた30分後……すなわち二次試験にあたる、実技試験の時間がやってきてしまった。
「みなさーん! 準備はできましたかー? 実技試験を実施するので、またVRルームに行きますよ!」
「はぁ……来ちまったか……行くか。」
賢司はとぼとぼとVRルームへ向かい、VRヘッドギアをつけ、VR空間へとダイブした。
そこは先程の体力テストの時のベンチプレス等が並んだジムの様な施設ではなく、ちょうど歴史の教科書に載っているコロシアムによく似た施設にいるようだ。
賢司の脳裏に嫌な予感がよぎる……
「すいません! もしかしなくてもこれって実際に誰かと決闘をするということですか?」
するとコロシアムの真上にあるぽっかりと空いた場所に受付のお姉さんの顔が映った、どうやら彼女がこの試験全てを管理しているらしい……
「その通りです。なお、射撃能力は別の試験で見るので今回の試験では使用禁止です。それでは実技試験『 近接戦闘』レベル1開始!」
「おいちょっと待――」
賢司が静止の言葉を口から放つ前に、目の前にモヒカン姿で学ランを身につけたいかにも昔のヤンキー、といった感じの青年が現れた。
彼の体は学ランに隠れて詳細は分からないが、身長が中々大きく、肩幅もでかい。
少なくとも自分よりパワーはあるだろう、と賢司は分析していた。
「おいおいおい……レベル1でも明らか強そうじゃねぇか。はァ……やるしかないか。」
賢司はじーちゃんに託された沢山のものの内から1本のコンバットナイフと『生きる』という気持ちを取り出すと、ナイフをもった左手で即座にモヒカンの首元へと襲いかかった。
当然モヒカンも避けようとするが……
「バーカ。フェイントだよそれはァ!」
――首元をかっ切りに行くと見せかけての腰に指してあるもう一本のナイフでの一撃。
腹を2つに割られたモヒカンは赤い血が吹き出した次の瞬間パリンッ、という音と共に粒子となって消え去った……本当になんだか昔やっていたゲームみたいだ。
「フーム、全く苦戦せずに一撃ですか。体力テストの結果の割にはやりますねぇ。では、レベル5との戦闘を開始!」
受付の人がそう叫ぶとモヒカンがさっきまで立っていた場所には、身長2メートル程の筋肉が隆起している巨人、しかも肌や爪などは、長く鋭くなっていたりしていて、賢司が目覚めたばかりにたたかった化け物に近く、人には到底持てそうにはない1メートル半程の大きさの大剣を装備している。
「ふふふっその子は半怪異化した人間を想定して作られているんですよ、硬さとかは人とは比べ物になりませんよ……」
「すまんアル、怪異とはなんだ?」
「放射能で変異したモンスターの事だと思っておけば基本大丈夫ですよ。それより戦いに集中してくださいね?」
「ごもっともだな。さて、この筋肉ムキムキ巨人マンをどう倒すかね……とりあえずさっきと同じ風に行ってみる……か!」
すると賢司は勢いよく地面を蹴りだし、巨人に接近していく。
そして巨人の腹を掻っ捌こうとしたが……
「ウォア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!」
ブォン!
懐に入る前に左側から勢い良く大剣が向かってくる、このまま突っ込んだ先にあるのは――死。
「これはダメだ!」
とっさに体の勢いを無理に止め、バックステップをした。
そして次の刹那、先程まで賢司が居た場所を大剣が通り過ぎる。
――間違いなく、1度たりともあたっちゃだめだ。
それを確信した賢司は、それでも反撃の策を興じた。
再び愚直にも巨人に突っ込み相手は大剣を振るう、そしてまた賢司もバックステップをして避ける。
ここまでは同じだが、相手が大剣を振り終わったスキをゲームで鍛えた視野の広さと注意力は見逃さない。
再び突っ込み、首元を切り裂きに行くが……
「――これも無理だ!!」
巨人が素早く膝蹴りの体制に移行しているのを感じ、賢司はそう判断を下した。
再び下がりながら巨人の大剣を持っている右手を斬って見るが、薄皮が裂けただけ。
やはり首を斬るしかない。
首は鍛えることはできない、だから首にまでナイフが通らないというのはありえないから、それならば通用するのは間違いない。
「……でもそれをするには懐に入らなきゃいけないんだよね。」
それを成し遂げるために賢司が取った行動は再三の突撃、再三のバックステップ、そして再び相手の懐に潜り込みにいった。
その手にはナイフはなく、素手である。
そして巨人もそれに対して先程と同じように膝蹴りで迎撃するが……
「所詮獣だなぁ? とっくに間合いは見切っちゃったね、そんなの。」
賢司は直前で下がるのでなく、寸前で止まった。
巨人の右膝が空を切ると、すかさず賢司は上がった右足の左側まで近づき巨人の反撃を封じた。
しかし巨人も馬鹿ではなく、ナイフが首元に近づいてくるのを見て左手でガードする。
「もう何をしようともチェックメイトだよ!」
巨人の肩に力をかけ、巨人の足が地に戻る前にもう片方の足を払う。
「ッグガァ!」
ズドンッ、という音と共にその巨体が地に落ちる。
巨人の大きい体による重量はそのまま巨人への衝撃へと変換され、巨人は一瞬無防備になり――
「これで、終わり!」
首元にナイフが突き刺され、巨人の首から青い血が吹き出した。
パリンッという音と共に砕け散った後に、再びお姉さんが画面に映し出され、突如パッパカパーッというファンファーレが鳴りだした。
「おめでとうございます! この戦いで実技試験の近接部門は終了です! 気になる宇都宮 賢司様のランクは……」
「アル、ランクも何か分かるか?」
お姉さんが、重要な発表をしているのに水を差されてしかめっ面をしている。
「えーっとですねー、S〜Eランクまであって,Eランクがハンターの底辺、Dが一般ハンターより低く、Cが普通でBがベテラン。あとはAが一流でSが怪物って感じですかねー。」
「さんきゅーな、アルペリア。」
「……よろしいでしょうか? では発表します。賢司様のランクはあの怪異をただのナイフで倒した、しかし楽勝だったわけではない。命の危険もあったリスキーな勝負でしたし、ついでに私の話を遮りました。よって……」
「おい、ちょっと待――」
「レベル5の討伐ランク、Bに+αでB+が妥当でしょうね。」
かなりボコボコに酷評や私怨が入っていたので覚悟していたが、評価は意外と基準より+だった。
どういう事なのか、と聞いてみると
「そのろくに攻撃が通らない弱装備で頑張っていましたからね。私達が貸し出す武器より弱いですが……それでも倒したのだからあなたは一般ハンターよりも全然強いですよ。」
「……っありがとうございます!」
賢司は千年後に来てからずっと強い不安を感じていたが、この時初めて認められた喜びを噛みしめていた。
「アルもうれしーですよ! ありがとーございますね! おばさん!」
「おいこれ以上はやめてくれ……」
受付のお姉さんは一瞬般若のような顔で睨んでいたが、すぐに元のニコニコ顔に戻している。
「それでは次は実技試験射撃部門でーす。次の会場に転移させますね。」
すると自分の周りの空間がブレて、マンションやアパートの立ち並ぶウツノミヤの住居地区のような街並みへと変わっていった。
さらに他の体力テストの時に見た様な人々もチラホラと見える。
「皆さん揃いましたね。では、次の試験の説明を始めます。今回はこの市街地に伸びる真っ直ぐに伸びた道を走りながら、突如出てくる人型のターゲットを撃ち抜いてください。 得点は頭等の急所の方が高いです。なお、使用する銃器はこちらで用意したグロック17だけとします。」
すると全ての受験者の手元にヒの字型の黒い拳銃が現れた。
その後もお姉さんは何やら点数がどうとかの説明を続けていたが、賢司は無視して拳銃の握り心地や装弾数等のスペックを確認していた。
「ご主人! 念願の射撃試験ですよ! 心躍りますよね?」
「まぁ他のやつよりはねぇ……装弾数は15発か。お姉さん! これをもう一丁とあとチェーン貰えますか?」
説明を邪魔されたようで、おばさんと呼ばれた時以上にキッと睨みつけてくる……またまずってしまった。
「いいでしょう……それは認めます。ではやる気が大変おありなようですし、早速やっていただきましょう。宇都宮賢司様。」
自らの名前が呼ばれた瞬間、突如会場がざわめきはじめた。
賢司が聞き耳を立ててみると、もしや宇都宮家の子孫か!? といった驚愕から、あいつは体力テストの時に見たがクソみたいな成績だったぜ? ただのイキったハリキリボーイだな! と言った侮蔑の声まで聞こえて来る。
「はぁ……鬱だ……まぁいいや、やなことはさっさと終わらせちまおう。」
チェーンで二丁の拳銃を腕に結ぶと、賢司はお姉さんに準備が出来たということを伝えた。
深呼吸をして格闘試験の時には外していたサングラス、黒いカウボーイハットを付けていくと、先程までの自殺しそうな憂鬱な顔は熟練の兵士の顔へと変貌していった。
賢司を馬鹿にしていた周囲の人々も、ナヨナヨしているように見えた人物の急な変化に同様が広がっていくが、もはや賢司は全く気にしていなかった。
「準備オーケーですよ。」
「わかりました……それでは、実技試験『射撃』部門開始!」
その瞬間賢司の意識は完全にトゥーハンドとしてFPSをプレイしていた頃の自分に切り替わっていた。
開始のコールと共に賢司は走りだすが、それ以上に早く動いていたのはその脳みそだ。
「いつも通りにいくか……脳内にミニマップ展開、地形把握、視認可能ターゲット配置。地形より仮想潜伏ターゲットを配置……」
賢司はまだ何も出てきていない序盤の内に、脳内のマップに情報をつらつらと追加していく。
自分がやっていた銃の打ち合いのゲーム、FPSでは必須だった事だ。
地形を理解し、敵を発見し、見えない敵も数と位置を予測し、そしてそれを頭の中にマップとして書き込む。
そしてそれを利用して敵に対して有利になるように動く『立ち回り』の技術が今ここで役に立っていた。
そしてすぐにガシャン! ガシャン! とターゲットが出始めるが――
「な!?」
その場にいた受験者達と受付のお姉さんは驚愕を隠せなかった。
ターゲットが出た瞬間に賢司は両手の銃をそれぞれターゲットに向けて発射しているが、全て頭がの真ん中を撃ち抜いている。
その彼のFPSで培った『エイム力』も驚くべきとのだが、その上賢司がたまにターゲットが出る前に発砲し、それに吸い込まれるようにターゲットが当たっていることも相まり、他の人々は賢司が未来を見ているかのように見えた。
パンッパンッパンッと銃を乱射している賢司が見ているものはそんなものではないのだが。
「ふぅ……案外ターゲットが出る時の音が大きくて助かるね。」
そう、『音』。
戦場を戦い抜く時に自分のミニマップの漏れと敵がどこにいるかを迅速に伝え、自分が銃を撃てばいい正確なタイミングが分かるそれに賢司は集中していた。
ガシャン! っと出る音でタイミングを、そしてミニマップで場所を判別できる賢司にはこの試験は造作も無いものだった。
「これは……想像以上ですね……Sランクと意外ありえない……」
これを感じたのはなにも受付のお姉さんだけではない。
その場にいた低レベルな受験者からハイレベルな受験者まで、賢司の命中率の高さと神がかったリロードの速さ、そして察知、撃破する能力を誰もが認めていた。
彼はなおも疾走し、休むことなく脳天を貫き続け、ついには用意された何百ものターゲットの脳天を全て破壊した。
彼が放つ銃弾の嵐と正確に脳天を撃ち抜く姿、ここから彼に崩壊した世界に来てからの初めてついた異名が呼ばれるようになる。
「百発百中……いやそんな数はとっくに超えてやがるしもっとすげぇ……」
「これが人なら全員脳天を撃ち抜かれて殺されてるところだぜ!」
自然と彼らは口を揃えて呼び始めるようになる。
千発千殺の2丁使い、と……
すみません、ステータス等はハンター試験が終わって賢司のステータスが確定してから載せることにします……(まだ終わりません。)




