第3話 甘くない現実と逆チート
「もうダメだ……既に2時間は歩いたのに街が見えねぇ。」
前回賢司はこれから生きる中での『覚悟』を決めていたが、精神はともかく千年動かなかった体は既に挫折しかけていた。
筋肉が足りない、持久力も無い。
千年前の剣道で鍛えた肉体は今となっては完全に失われていた。
体の節々が痛い、水も食べ物も全くない。
今のところ化け物には奇跡的に会っていない事が不幸中の幸いといったところだろうか。
「街に着く前に干からびて死ぬコースが見えるぞこれ。」
第一今もあるかどうかは分からないのに食料等の準備をしてこなかった2時間前の自分をぶん殴ってやりたい。
そのようにぶつくさ言いながらも賢司は前に進もうとした。
「そっ………ちがっ………ほうい……」
どこからか声が聞こえてきたきがした。
いい加減俺もちょっとおかしくなってきたのかな?
等と思いながらふと方位磁針に目を落とす。
やはりこっちが北西だ……やはり気のせいなのだろうとまた歩を進めようとしたが、
「……メモ……みてっ……もっか……」
……まただ。
先ほどと同じようにか細く、ノイズまじりの声が途切れ途切れに聞こえてくる。
嫌だな、そう言えば犬の化け物と戦ってる時にも聞こえてきたし、俺は最近頭がかわいそうな人になって来てるのかもしれん。
一応じーちゃんのメモを見直して見たが少し字は汚くてもやはり北北西。
もう声は気にしないようにしよう……北北西?
「あぁあああああああああああああ!」
その瞬間賢司は今までの努力の虚しさに絶望を感じる。
「そりゃーじーちゃんが研究室から歩いて2時間の場所にホイホイ行けるわけないけどさ……エリン達のメンテナンスをしに戻ったりはしてたと思うし。」
はぁ……っと賢司はため息をつき、そしてさっきから聞こえた幻聴(?)に感謝した。
下手したらエリン達を直す前に自分がゲームオーバーになる所だっただろう。
しかも死因が準備不足での遭難による餓死などと言ったらじーちゃん達が報われ無さすぎる……
「自分の命は自分だけのものじゃないってとこ、もーちょっとちゃんと自覚しとかなきゃな。」
その気持ちは賢司を生かすだろう。
「それじゃ、戻るか……」
とぼとぼと20分ほど東に移動してからじーちゃんの研究室に戻った。
これなら運が良ければ道中で街が見つかるかもしれないし、運が悪くとももう1回じーちゃんの家から北北西に行けばいいだけだ。
「じゃあまた歩くか……化け物がでませんよーに。」
そうして賢司は歩き出す。
それからは特にアクシデントは無く、1時間程で遠くに大きな街が見えてきた。
見た感じは核で1度滅びかけたとは思えない。
高層ビルがデフォルトだという程では無いが、それでもここから幾つかのビルのようなものや、なにかの塔が見える。
それらの見た目は賢司がいた研究室のように汚く、崩れかけているわけではない。
「よかった……!間違いない! ヒトが、千年後にもヒトが生きているんだ!」
賢司はいてもたっても居られなくなり、走りだした。
喉はカラカラで、飯も食べていない、筋肉もないし心と体の疲れは既に頂点に達しているが、それでもなお彼がずっと不安に思っていること、それを確かめたい気持ちが勝ったのだろう。
走って抜いた先には巨大な壁と門やそこから飛び出した巨大な塔、そしてその門の前には防弾チョッキ、ヘルメットやアサルトライフル――恐らく64式7.62mm小銃で武装した門番の様な人間が立っていた。
「よかった……人が、いる。まだ人が生きてるよ……」
賢司はその場で泣き崩れた。
それもそのはず賢司は未だにエリンと牙狼、後はモンスターとしか会っていない。
もしかしたら人間は皆滅んだんじゃ……なんてことは誰だって考えるものだろう。
しかしそんな賢司の事情など知るよしもない警備の2人組は疑いのまなざしを向けてくる。
「オーケイ落ち着け。ここはかの大都市『ウツノミヤ』だぜ? ここから人が完全にいなくなるなんざゴジラが来たってありえねぇ。それで、要件は?」
男の陽気で少し冗談めかしたようなトークで賢司は落ち着きを取り戻したが、今少し聞き捨てならないことを彼が言っていることに気がついた。
「ここは宇都宮なんですか? 千葉とか茨城の辺りだと思うんですけど……」
「チバ? イバラキ? なんかの村の名前か? 少なくともこの辺りにはないぞ。手がかりならあのでっかい塔の中の『ウツノミヤ大図書館』にあるかもしれん。入国するか? するならなんかしらの許可証か10万円で一般入国パスポートを購入すれば入れるぜ。」
「分かりました。パスポートを購入します。……これで大丈夫でしょうか?」
不可解な点がいくつかあったが今は置いといて、賢司は懐からじーちゃんの50万円の内の10万円を相手に渡した。
「ほう、随分と綺麗な紙幣だな。ひーふーみー……よし、入っていいぞ。」
「ありがとうございます。」
どうやら問題なく千年前の貨幣は使えるようだ。
これならエリン達の修理も案外簡単にいけるかもしれない。
賢司は心躍らせながらその門に足を踏み入れ、超えた。
そこで賢司を待ち構えていた光景はおっちゃんや売り子の人がその場で物を売っている商店街、渋谷とまでは行かなくとも十分都会と呼べる程の人の往来、そして真ん中の道路には昔に使われていたという自動車らしきものが走っていた。
「すげぇ! 使ってる機械は少し古臭くても昔と比べても悪くない! これはあれだなぁ、2000年くらいの日本みたいな感じだなぁ」
賢司はかなり発展していて驚いたが、それよりも昔の日本のような光景、ロボットに物を作らせロボットに運ばせロボットが売る。
そんな社会は便利だったが、どこか寂しく感じていた賢司にとって、これはとても好ましいものに感じた。
「デミセ?ってやつもいってみたいなーショクニン?が物を作ってるところも気になる……」
しかしエリンや牙狼を早く直してやりたい、という気持ちが強かったので、賢司はひとまずさっきの門番の人がいっていた高い塔『ウツノミヤ大図書館』に向かってみることにした。
「ふぅ……結構走ったな……ここが門番の人が言ってたところかぁ。とりあえずこの世界がどうなってるのか、常識とかは知っとかないと。それに『ウツノミヤ』の地理を調べないとどこでエリン達を修理すればいいか分からないしな……」
そう言って賢司はその建物に入り、看板に書いてある7F『図書館』へエレベーターで向かった。
ガウン、ガウンと不安になるような音を出しながら上昇を続けるエレベーターの先には、辺り一面の本、本でできた世界と形容するのがしっくりくる光景が広がっていた。
「こりゃすごいな……初めて見た。」
賢司がいた千年前も図書館はもちろんあったが、大半はデータ化されている以上ググれば事足りたので行くことはなかった。
「じーちゃん達と行ってみてもよかったかもしれないな……ゲームは好きだけど案外他はアナログな感じの方が性に合ってるのかもな。」
賢司はそう呟きながら受付の人にウツノミヤの地理や、歴史についての本の場所を聞き、その本を机に運び、読み始めた。
時間はもう2時、早く読み終わらなければ日が暮れてしまうだろう……賢司は急ぎ足でページをペラペラとめくりだした。
ペラッ……ペラッ……と本のページと共に時間は過ぎ続け、すぐに1時間半が過ぎてしまったが、分かったことがある。
『ウツノミヤ』という名前はこの街の根幹たる『ウツノミヤ防衛軍』の先駆けとなった『ウツノミヤ解放戦線』という部隊の名から付けられたようだ。
そしてそのリーダーの名字は『ウツノミヤ』らしい。
まぁ、正確な『ウツノミヤ解放戦線』ができた日時は分からないが、少なくとも資料を見る限り1000年前という程では明らかにない。
よってじーちゃん等よる仕業ではないだろう……元々期待していないが。
そして肝心のウツノミヤの地理だが、円形状に形成され、その外側を城壁に囲まれている。
そしてある程度施設にまとまりを持たせ、区画に分けている。
見た感じ主要なのは北東に位置する商業区画、ここでは常に誰でも自由に開ける自由市が開催されていて、武器以外のものは基本ここで手に入る。
また、ロボット等の販売、修理を受け持つ工房もここにあるので、まず俺が目指すべき場所はここだろう。
他には商業区画から南の、ちょうど中心に位置するここから真東にある軍事区画。
軍の施設がある都合上国営武器店等の信用ができる施設が集まっている。
「まーとりあえずエリンの修理ができる場所も分かったし今はこれくらいでいいか。さっそく商業区画に――」
「その計画は全然ダメですよ! すぐさま南東の『ハンター区画』に行くべきです! 時間が無いのですぐさま向かってください!」
……スマホから何やら女性の声が聞こえてくる。
気味が悪いと感じた俺はすぐさまスマホをその場に置き、商業区画区画に向かうためエレベーターに向かって――
「痛てぇ!」
行く前にスマホがこちらに向かって飛んできた。
ますます怖い、今すぐこの場で破壊すべきだろうか……そう思い賢司はスコーピオンを向けた。
「お前じーちゃんの悪霊かなんかが乗り移ってるんだな!? 今ここで成仏させてやる!」
「わーー! ちょっと待ってくださーい!」
スマホからまたそのように音声が流れて来ると、スマホがガタガタ震えだし、光ったり変な音がしたりとどう考えてもヤバい状態になっている。
賢司が逃げようとした次の瞬間、スマホから白と青の粒子と光が放たれたかと思うと、それは人の形を型どっていった。
まず裸足の足から制服の黒スカートやブレザー、その後に青のツインテール、小さな口や目を形成してゆき、10秒後にそこにいたのは――
「ARUPERIA起動完了! 気軽に『アル』って呼んで頼ってくださいね?」
美少女だが、胸も身体も何もかも含め色々とちんまい。
そう、ちょうど……
「小学生かな?」
「はっ倒しますよ?」
またスマホが飛んできた……今度は華麗にかわしたが。
「怖! それどーやってんの?」
「スマホに内蔵させられた重力制御装置ですよ!でもそんなことはどうでもいいんです。南東のハンター区画、そこに急いで行ってください!エリンちゃんを助けられなくなりますよ?」
「それこそ商業区画に行って直しに行くのが近道何じゃないの?」
賢司は至極真っ当な疑問をたたきつけた。
ハンター区画はあくまで『ハンター』という職についた人が主に利用する場所。
たしかに安価な武器店等も揃っているが、それは『ハンターライセンス』というものが必要らしいし、今の俺には関係ないと思っていたが……
「かーっ! 全然分かってませんよご主人! とりあえず私が入ってるスマホと図書館にあるコンピュータを繋げてください! 相場とか色々調べてあげますよ。」
「なんたる横暴……」
電子でできたその存在アルペリアは、頭をかかえて少し馬鹿にしたかのようなポーズをとると、賢司にコンピュータを持ってこさせ、コードで繋ぐと次の瞬間、
「ほら!見てくださいご主人!大破したロボットの、それも人に近づけた『自動人形』の類の修理費は桁が全然違いますよ!」
「どれどれ……安くて、500万……? 嘘だろ……?」
賢司はそのページを見て項垂れた。
それもそのはず、賢司は40万しか持ってない上に、稼ぎ口もない。
「万事休す、か……」
「そうならないためにさっさとハンター区画に行けっていってるんですーー! ひとまず私自身やハンターについての説明は走りながらしますから、急いで外出てください!」
「わかった、わかったよ! 押すなって! あとでお前についても聞かせろよ?」
スマホに文字通り背中を押されながらエレベーターに押し込まれ、そしてそのまま近くのレンタル自転車屋で自転車をレンタルさせられた。
そしてそのままスマホにどつかれながら賢司は南東に向かって全力でチャリをこぎだした。
「くっそ! どういうことなんだよアルペリア! なんでハンター区画に急ぐ必要があるんだ? 金はいるのは確かだが、何でも屋じみてるハンターになる必要はないだろ!?」
アルペリアはスマホから自分のことを空中に映し出すとやれやれ、とでも言いたげなポーズをとっている。運転の邪魔なんだが……
「邪魔だからどいてくれ。」
「まーそれは置、い、と、い、て! ハンターはご主人の銃の腕前があれば比較的稼げる部類だと思いますよ? それにご主人は千年のグータラ生活のせいで肉体が貧弱、専門知識はなしですのでまともな職にはつけませんし?」
「好きでやってたわけじゃないやい!」
「はいそうですねー。それでですね、ハンター試験が6ヶ月に1回、ちょうど今日に開催されると本にかかれていたのですが……お気づきでない?」
賢司はハンター区画の説明にそんなものもあったなぁ、と思い出していた。
そして同時にそれは思い出したくないものも思い出してしまった。
「もしかして開始時間って……」
「はい!4時からです!あと20分ですから頑張ってくださいね?」
「あぁあああああああああ!」
彼の絶叫が中央区にひびきわたる……
それと同時に青年の自転車はグングンとスピードを上げ、彼の姿は南東への消えていった。
「ハァ、ハァ……クソッ間に合ったよな?」
「ばっちしですご主人! ささ、受付まで走ってください!あと1分です!」
賢司はもはや言葉を発する余力すらない貧弱となった体に鞭をうち、ドアを乱暴に開け『ハンター連盟』と看板が付けられた7階建てのビルに押し入った。
「すいません! ハンター試験を受けたいのでエントリーシートを書かせてください!」
受付のお姉さんは受付終了10秒前にギリギリで突っ込んできた俺に困惑しているようだ……
驚いたひょうしにずれた彼女の赤いメガネを直している。
「えーと今回のハンター試験への参加申し込みですね? それではこの紙に必要事項を御記入し提出した上、急いで他の受検者が待機している2階のゲストルームにお越しください。」
「ありがとうございます!」
「頑張ってくださいねー!ご主人!」
賢司は紙を受け取ると急いで宇都宮 賢司という名前、生年月日……はまともに書くと病院行きになりそうなので適当に書いた。
……使えるESP? 頭がおかしいのか? まぁその項目は放置して置き、特技……銃の扱いと知識、またナイフを用いた近接格闘技術やグレネードや火薬等の扱い等を書いて提出した。
「FPSのVRゲーム内の話しだけど多分現実でもできるよな……?犬の化け物には問題なく当てられたし。まぁそれよりとりあえず今は急いで2階に行くか……」
賢司は階段をダッシュで上がって目の前のゲストルームにドアを勢いよく開けながら入った。
中は人でごった返していて、皆緊張しているのか険しい表情をしている……
「もーちょっと目立たないように入ればよかったな……くそ、皆ムキムキだったり刀とかアサルトライフル持ってるじゃねぇか……」
自分と他人との違いに泣けてくる、他の人が力強い肉体を様々な装備で武装してる中、いくら防御性能は高いとはいえコートやハンドガンのみで武装し、挙句の果てには肉体も貧弱そうだと見られているだろう。
実際その通りだ……
賢司がうなだれていると、さっきの受付のおねーさんがやってきた。
「それでは皆さんの受付が完了しました! これより第一次体力テストをVR空間でまとめて行いますので、皆様VRルームまで私に着いてきてください!」
そう受付のおねーさんがいった拍子に全員一斉に立ち上がり、ゾロゾロとアヒルかなにかみたいについていった……
少し歩いたところでおねーさんはVRルームの扉を開けると、そこにはVRゲームに使うヘッドセットが大量に用意されていた。
「では、皆さんこのヘッドセットをつけて、向こうのVR世界で出される体力テスト試験を受けてきてくださーい!」
賢司は指示に従いヘッドセットをつけ始める……
ここから俺のハンター生活が始まるのか、っと少しウキウキした気持ちでヘッドセットをつけ、体力テストに臨んだ――
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「皆様お疲れ様でしたー! 次の実技試験は30分後の開始になっています。それまで各自休憩をとっていてくださーい!」
その言葉をきいた賢司は手に持っていたヘッドセットを机に置き、ため息をつきながら机に突っ伏した。
「ハァ……おかしいだろ千年後の人々……」
ここで少し体力テストの最初に実施した握力テストの結果を見て欲しい。
このテストでの賢司の握力は35kg まぁ高校生なら悪くはない数値だ。
そして、それに対して参加者の平均は――なんと90kg、賢司の全盛期でも50〜60kgほどしかない。
そう、賢司は全200人の参加者の内、ワースト2位、最低クラスだったのである。
次回から最後に持ち物等を表示するとこを最後につくりますー。
(毎回全てを載っけるわけではありませんが。)




