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プロローグ もう戻れない日々

 FPSというゲームがある。

 それは多種多様だが、銃を撃ち合って人と戦うものが多く、実際俺がやっているものもそういう類のものだ。


 そして俺が今どハマりしているのは、FPSのVRゲーム、ガンボットオンライン。

 そこでは黒の二丁使い(トゥーハンド)という二つ名が付けられる程度には有名なプレイヤーとして活動している。


 そして今日も俺はいつも通りゲームの中で黒のロングコートと黒のサングラス、そして黒のカウボーイハットを身につけた青年のアバターになり、路地裏を進んでいると、早速6人の武装したパーティーと正面から遭遇した。

 当然相手も気づいたようで、両者の間に緊張が走り、互いに銃を構えようとするが……

 

「遅い……遅すぎるよ君たち。」


 6人組が構えるよりも数瞬だけ早く銃を構えた青年は、相手の防弾チョッキなどに守られていない顔に狙いを定めて撃ち、そして横の路地に飛び込んだ。

 ドパパパパッと両手のサブマシンガン(スコーピオン)から吐き出された6発の弾丸は、2人のHPを一瞬で削り切り、パリンッと言うガラスが割れたような音と共に2名がこの場から消え去った。


「リーダー! さっきの銃撃で既に2名、殺られましたぁ!」


「はァ? ちゃんとした装備与えてやったのにこのザマかよクソが! 殺ったやつは誰か分かるか?」


「恐らくトゥーハンドだと思われます。大手のギルドであまりにも強すぎるから賞金がかけられてるレベルの奴ですよ……にげますよね?」


「ここまで近いと逃げれねェよ。はァ……。とりあえず路地に逃げ込んだバカにグレネードをお見舞いしてやれ。」


 残った4人が反撃の算段をたてていると、不意に青年が逃げ込んだ路地からコロコロと細長い物体が飛来し、そして破裂音と共に白色煙が吹き出してきた。


「ゲホッオホッ! まずい、スモークグレネードだ!早く煙の外にでましょう!」


「いや、突っ切った方が逆にいいでしょう! そうでしょリーダー!」


 仲間の間で様々な意見が飛び交い、残っている動揺4人は青年にとってはただのカモと化していた。

 それでもリーダーが周囲を警戒し、弾丸をバラ撒かせようとしたがもう遅い。

 青年は姿勢を低くし、煙の中を突っ切りながらレーザーナイフを振り回して切りつける。

 相手も青年が突っ込んで来ていたことに気づいたが対応する前に煙を抜けられ、そして青年は感触があった所にスコーピオンの残弾をありったけ叩き込んだ。


 ……パリンッという音が3つ聞こえた。


 嗚呼……楽しいなぁ。実に楽しい。このVRゲーム特有のリアルと遜色ない世界で人を追い詰め、殺すのは冗談抜きで楽しい 。


 さぁ、最後のご馳走だ。残った1つの影に向かって腰のホルスターから抜いた44口径ハンドガンフォーティーフォーマグナムを構え、数秒後の敵を撃ち抜く瞬間を思い浮かべ、恍惚に浸りながら引き金を引いた―――



「賢人様。もう7時半ですよ。」

 その瞬間俺は誰かにVRメットを取られてしまい、その瞬間俺の意識は戦場から自分の部屋に引き戻された。

 そんな俺に淡々と時間を告げるたのは喋ったことから分かるだろうが時計では無い。

 銀色に輝くポニーテールが背中の辺りまで伸びている。

 それと可愛く、大人びている理性的な顔とメイド服のコンボはやはり美しい……

 そう、この子は家のメイドさんだ。名前はエリンとじーちゃんが名付けた。

 俺たち宇都宮一家のガードマン兼家政婦で、人と見た目は変わらないが……こう見えても100%ロボットだ。


「あぁぁ……今いいとこだったのに……今行くよ。」


 何の警告も無くいきなりゲームを切られたのには、かなりの不満があるがまぁ可愛いので許すことにした。


 そうしてこの俺宇都宮 賢司(うつのみや けんじ)はベッドから起きると、短い黒髪をいつも道理にセットしてもらった。

 次に服を脱いで、エリンに適当な服を着せてもらい、電動ローラーシューズでリビングまでオートで向かった。


 ……自堕落な奴に見えるかもしれないが、2200年となった 今ではごく当たり前のことだ。


「おお……ようやくそろったようじゃな。まったく、わしがエリンを作ってからますます自堕落になりおって……」


「はは……その分勉強も部活もゲームも頑張ってるから許してくれよ」

 一つ余計じゃろうが。などと悪態をついているこの頑固そうな目をした白衣のハゲジジイは宇都宮(うつのみや) 源五郎(げんごろう)

 もう年齢は70には到達しているだろう。

 だが、未だに170cmよりは高く、俺は身長面では完全に敗北してしまっている。

 俺にとっては祖父にあたるが、父と母が蒸発した現宇都宮一家にとってはこれでも一家の大黒柱だ。

 実は、髪の割には世界でも有数の科学者らしい……

 まぁじーちゃんの発明に感謝したことなんてエリンとうちの番犬の牙狼(ガロ)を作ってくれたことぐらいだがな。


「おにぃはそういうところはいつまでたってもかわんないね」


「みんながいじめてくる……」


 こいつは俺の妹の宇都宮 加蓮(うつのみや かれん)。黒髪のツインテールと今の純真な笑みが特徴的で、随分なお兄ちゃんっ子に育ってくれた。

 正直ゲームしか能のない俺には過ぎた妹だ。

 部活を始めて、勉強もそれなりには頑張ってるのは彼女にいいとこを見せたいから、というのが主な理由だ、……


「まぁそれはそれとして……今回の朝食は賢司様好物のお好み焼きにさせていただきました。それでは皆様いただきます。」

 

「「いただきます」」


 何故急に俺の好物を出してくれるのだろう? と思ったが、特に気にせずたわいの無い会話をしながらいつも通りの朝食を食べ、その後俺と妹はすぐに学校に向かった。

 玄関を出ると、家の番犬がこちらに気づいたようで、挨拶してきた。


「おはようございます、賢司様。 今日もお供させていただきますね。」


 こいつは家のペットの牙狼(ガロ)だ。

 ペットと言ってもその体は機械的で、歩く時にはガシャガシャと音を建てている。

 家の過保護のじーちゃんが俺と加蓮の通学路の安全を守るため作ったロボットで、その用途の為か背中には小型のガトリング砲がついていて大変物騒だ。

 しかし俺達にとっては子供の時からずっと一緒に遊んできたペットであり、家族と言っても差し支えない存在だ。 

 牙狼に送ってもらった後は、いつも通りの授業にいつも通りの合気道の部活だったのでここは省略しておく。




「はぁー、もう六時か。学校と部活やっただけでこんなに時間がとられちゃうんじゃ、やってらんないわ……」


 朝死んだ分を取り戻さねばと、俺はすぐさま船橋市立高等学校から家に帰り、自分の部屋でまたガンボットオンラインを起動しようとしたその時、


「You got mail ! You got mail ! 」


 自分のスマホからの着信音がメールが来たことをやかましく主張し始めた。

 送り主は……祖父からだ。

 

「今日は8時には家に着くじゃろう。帰ったらちょっと重要な話をするから、それまでVRはエリンに没収させておくからな。」


「えぇ……」


 ガンボットオンラインやらないと家に帰った気がしないのに……と俺はガックリとうなだれた。

 そしてすかさずリビングで掃除をしているエリンの元に向かった。


「たのむよ~じーちゃんが帰って来るまではやらせてよ~~」


「どうせマスターが帰ってきても賢司様はすぐ辞められないでしょう? その場合また朝の様なことになりますがよろしいでしょうか? 」


 俺のゴネにも冷静に、正論で返されてしまった……なんも言えねぇ。メイドさんってもっと甘やかして甘やかしてくれるのをイメージするんだけどなぁ。

 

「せめてここまでする理由は教えてくれないか? 普段は話だけじゃここまでしないよな?」


「ええっと……誤魔化しルーチンを起動します。〜♪♪」


 どうやら口止めされているようだ。誤魔化しのつもりなのかは知らないが、口笛を吹いて誤魔化そうとしている……まぁ可愛いし、どうせ1時間程で直接聞き出せるからいいか。だがゲームしたい……


 そんな事を考えながら悶々としていると、不意にドアを開けるが鳴った。


「ただいまー。 おにぃはもう帰ってる?」


「おかえりなさいませ加蓮様。既に帰っておられますが、見ての通りVRゲームが出来なくて軽く発作を起こしそうです。」


「あーー、おにぃはゲームほんとに好きだもんねー。 私達と一緒に居る時間よりゲームしてる時間の方が圧倒的に長いよねーー。 ワタシハオニィトズットイッショニイタイノニ。」


 なんだかお付のメイドさん(最も主はじーちゃんが登録されているので、自分に付いているわけではないが。)と妹の俺への態度が冷たい。

 俺はゲームしてただけなのに。

 ……妹の最後にボソッと言った言葉は聞こえないことにしよう。

 ただ普段通りの態度の中に、少しだけ悲しいような、辛いような様子が見え隠れしている気がした。


 その調子のままくだらない会話を三人で楽しんでいると、約束の8時になったことを時計が告げた。

 それと同時にじーちゃんも帰ってきたようだ。


「皆そろってるな……じゃあ早速賢司についての重要な話をするとするか。」


 そういうじーちゃんの顔は非常に真剣だ。なにか一世一代の決断でもするかのように。

 何故だか急に寒気を覚えてきた……こんな表情は見たことがない。


「単刀直入に言うぞ……お前は死ぬ。 」




 ――――は?


 意味が分からなかった。冗談やドッキリだと思ったが、他の二人に変わった様子はない。

 むしろ驚いた様子さえない。

……もしかして知ってたのか?


「そういうのいいから。」


 震える声でその暴虐無尽な話を否定した。

 信じたくなかったし、信じられるものじゃなかったからだ。



「おにぃ……本当のことなんだよ……」


 妹も悲痛そうな顔を浮かべながらそういった。妹はこんな質の悪い冗談なんか言うわけない。…>じーちゃんだって言わないだろう。


「おい、じーちゃん……本当なのか? 本当だとしたらもうどうにもならないのか。」


 胸の鼓動と呼吸の速さは加速した。声も震え始めた。

 今までの言葉を聞いたなら当然だ。

 この質問だってしたくない。

 前者が肯定されれば、俺は日常を失う。

 詳細は自分でもまだ知らないが、病院生活はきっと避けられないだろう。

 そして後者まで肯定されれば……言わなくても分かるだろう?


「落ち着くのだ。過呼吸になる必要はないじゃろう……言ったことは本当じゃが、どうにも出来ないことはない。」


 前者はやはり肯定されたが、後者は否定された。

 俺は少しだけ安堵のため息をこぼしたが、すぐに気を引き締めた。どの道今までと同じ生活など出来るはずがないと悟ったからだ。


「まずお前の体には癌がいくつも転移しているのじゃ。正直自覚症状がないのは奇跡……いや、不運か。そのせいで発見されなかったのだからな。」


 ―――癌 それは昔から日本で最も多い死因として知られている。

 医療が発達した今でも、全身に転移するまで進行すると、もう助からない。

 つまりこれは実質的には余命宣告のようなものだ。


「助からないじゃんかよ! 気休めはもういいよ……」


 呼吸は更に加速し、涙や鼻水を堪えることが出来ない。

 既に俺の頭は死ぬまでにこれをしておけばよかった。

 後どれぐらい生きれるのだろう? 等の後悔や、これからの真っ暗な将来で一杯だった。


「だから落ち着けと言ったじゃろう! まだ助かる道はある。着いてこい。」


 言われるがままに俺、加蓮、エリン、牙狼はじーちゃんについて行くと、今までじーちゃんが入れさせてくれなかった地下への階段を降った。

 それは螺旋階段となっていて、深さは落ちることを考えるとゾッとする程度にはあった。

 そして降りきった先には、鉄骨製のドアが待ち構えていた。

 ……それは核シェルターのドアのようにも見える。そしてそれをじーちゃんはなんの躊躇もせず開けた。


「着いたぞ。わしの研究室じゃ。」

 

 そこは白一色の殺風景な部屋だった。

 よく分からない機械が沢山あるが、その中でも一際目を引くのは、中央のそびえ立つ大きなカプセルだった。


「これはわしが開発したコールドスリープの機械じゃ。この中に入り、医療が発達するのを待て。この機械は、その時まで肉体を全く変化させずに保存してくれるじゃろう。」


 正直そっちの方が信じられなかった。だが皆は全員真剣な表情をしているし、こんな時に冗談を言うとも思えなかった。


「わかった……そうすれば助かるんだよな? でもその時までどんくらいかかるんだ? まさか起きたら皆死んでるだなんて、俺は嫌だぞ。」


 じーちゃんは一瞬悲しそうな顔をし、その後笑顔で取り繕って答えた。


「まぁ儂が生きてる内にはなるとかなるじゃろ。そうだ、餞別をやろう。」


 そう言うとじーちゃんな黒い肩掛けバッグを渡して来た。結構重く、何が入っているのかがとても気になる。


「それをお前が起きた時に開けるのじゃ。きっと役にじゃろう。今は絶対開けるなよ?」


 フリかと思ったが、開けようとすると睨まれたのでやめた。

 そして俺はじーちゃんに促されて、カプセルの中に入り寝そべった。

 妹が泣きながらまた会おうね、と声をかけてくる。

 牙狼とエリンもこころなしか悲しそうだ。

 なんやかんや言って結構エリン達にも慕われてたんだなぁ。

 あぁ…結構嬉しいや。

 そう思いながら目を閉じた。

 カプセルが閉じられ、噴射されて来るガスを吸うと、俺の意識は急激にぼやけていった。

 だが眠る直前に外から信じられない言葉が聞こえてきた。

 

「これで本当にいいんじゃな? お前がこの中に入ってもいいんじゃぞ? 賢司だって賛成するだろう。これから世界規模で核戦争が起きることを伝えれば……」


「それは私がいやなの。おにぃには核の汚染が無くなった世界にいてほしいよ。平和で健康に、長生きして欲しいんだ。」


 ―――どういうことだ?


 その疑問の言葉を口にすることはついぞ出来ず、賢司の意識は闇に落ちていった……。

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