009【幸せもの】
私の体の痛い所が少しずつ治っていく。擦り傷なんかはもう完全に回復してる様。でもさっきまで、炎で焼かれてた皮膚なんかは何百倍、何千倍も痛くて死にそうで。
凰華が目を覚ますと目の前に救護用に来たのか、治癒してくれている妖精が汗かきながら私の傷を癒していた。
「ぁ…の…。」
私はその妖精に話しかけた。すると、その妖精は少しほっとしたような顔を見せた。それでも、ほっとした顔からすぐに焦り顔に変わった。
「喋らないでくださいね…。今すぐに僕が治してあげますから…」
今すぐに治る傷ではない事を私は、その妖精の顔を見てわかる。この妖精は首に凰華と同じ形の宝石を掛けていることから魔法少女だとわかる。回復してくれるってことは、回復が得意な水属性なんだろう。
凰華は少し目を横にやると建物内で血だらけになっている人が何人も見え、自分のさっきまでの気持ちを取り戻す。
「まって…。とめて…」
「えっ…?でも…」
私一人の傷を癒す為に、この妖精の魔力を奪ってしまうのは嫌だ。何せ、通常の人間がボロボロになっていてその時に使う魔力が1としたら、魔法少女は100倍以上も高い。
長年魔法少女をやっていくにつれて、小さなダメージでも膨大な魔力が必要になる。
それに妖精の魔力量にも限界がある。
「貴女…、残りの魔力量は…?」
「えっと、残り603です…」
603という文字を聞いて察した。私は死ぬかもしれない、と。だから最後にせめて、使命だけでも果たしたい。
「じゃあ…、残りの魔力量…地域の人達に使ってあげなさい…。私はそれからでいいわ…」
「でも…」
一度言っても聞かない妖精に凰華はこう言った。
「たった一人の…魔法少女を助けるより、残りの魔力量で…皆を助けれれば…、沢山の人…が、幸せな家庭に、戻れるのよ…。私だ…けが、生き残っても後悔だけだわ…」
「…」
妖精はきっと納得言ってないだろう。それでも凰華の志に則った。
妖精は泣きそうな顔で凰華の元から離れ、建物へ入り、皆の治癒に回った。
後ろの方から、足音が聞こえた。痛い体をその方向へ向けさせ、足音の聞こえる方を見た。そこには金髪の少女がたっていた。
一瞬お嬢様かと思ったが、すぐに違うことがわかった。吸血鬼にとって大事な羽がない。自慢のアホ毛もない。背丈だってお嬢様より、ずっと高い。ずっと見つめていると、小さな口を少しずつ動かしてこう言った。
「わらわは、お主の志、昔からずっと好きじゃった」
何処か聞いた事のある声だった。でも、凰華には見た事のない少女。
そこで、凰華は瞼が重くなるのを感じ静かな眠りに入った。
目が覚めると真上には大きなシャンデリア。エクシルアの部屋。目を人影のある方に向けると、小さな小さな妖精が、エクシルアを見ながら泣いていた。
何があったのかと、エクシルアは少し首を傾げた。すると、妖精は自分の服をぐっと強く握りしめた。
「ごめんなさい!!!!」
妖精はエクシルアに深いお辞儀をした。ずっと頭を下げたまま、体が小刻みに震えていた。
エクシルアは妖精がいない方、いつも凰華が居てくれる方を見た。そこには誰もいなくて。窓とそこからの景色だけがただ見えていた。
少しだけエクシルアは物事を察しとることができた。でも、信じたくなかった。
「ねぇ…。凰華…は…」
それを頭を下げたまま聞いていた妖精が「ごめんなさい」「ごめんなさい」と何度も何度もエクシルアに言っていた。
信じたくないけど、信じなきゃいけない事実。
エクシルアは静かに凰華を思いながら泣いた。ずっと朝も昼も夜もずっと泣き続けて、地域の方から心配して貰ってもずっと泣いてて。
エクシルアは子供のように、その日は泣き疲れて寝てしまった。
寝たエクシルアの横に、一人の人影。黒い髪の毛の少女だった。その少女はエクシルアの頭を撫でた。エクシルアは凰華に撫でられた時のように、笑顔でぐっすりと眠りに入っていった。
「お主は幸せものじゃのう…。わらわにとっては羨ましいぐらいじゃ…。でも…」
黒髪の少女はエクシルアの頭を撫でるのを辞めた。
「わらわも幸せじゃ…。礼を言う。ありがとう。わらわと“姉さん”を助けてくれて…」
少女はそう言い、部屋を退室した。ドアが閉まり、少女は廊下の奥へ奥へと消えていった。
朝になって外にいる鳥や自然の音がエクシルアを朝だと迎える。エクシルアが目を少しずつ開けるとともに、お腹の部分が少し重くなっているのを感じる。
窓が空いていたから、猫などの動物達がお腹の上に乗っているのかな、とそう思い、エクシルアは自分のお腹の方を見た。
するとそこに小さき黒髪の少女が笑顔でこちらを向いていた。
「おはよう幼き少女よ!昨日はぐっすりと眠れたか?」
少しの沈黙の中エクシルアは黒髪の少女を部屋から追い出した。黒髪の少女は「え?」という顔で、部屋のドアを叩き、ずっと叫んでいた。
「私が何をしたっていうんだ!勝手に部屋の中に入ったのはごめんだから、中に入れさせておくれ!!」
ドアの叩く音と、黒髪の少女の声が屋敷中ずっと響いていた。
あとがきです。
段々と新キャラが
目立つ話になっていきます。
ちなみに、自分としては、
黒髪の少女が一番好きです。
あ、次の話から名前がわかります