006【お嬢様】
一瞬こんなのが見えた。
辺り一面真っ赤で、私の体から血が出てる。黒い雲に私一人だけ。
気のせいかな?大きな岩の塊が私と凰華めがけて降ってくる。建物が崩れて落ちてくる。
もしかしたら、さっきのは今この後の景色を予知しているんじゃないかな…?
“wind wall!!”(ウィンドウォール)
私の目の前に、緑色の壁が一面張られた。これは、魔法少女の防御の技?昔、絵本で呼んだことある。確か、風属性の魔法少女は防御が一番強いって。
こんな国にも魔法少女なんていたんだ…。
「お嬢様大丈夫ですか!」
「えっ…?」
凰華がいない。でも、凰華の声が前から聞こえる。でも、目の前に居るのは風属性の魔法少女。
姿かたちも全然違う。お洋服も違う。
もしかして…。
「凰華っ…!」
私は目の前の魔法少女の名前を呼んだ。凰華はにこっと笑って返事をした。
「お嬢様、ご無事でしたか。」
そんな凰華の声に私は足を崩してしまって、座り込んでしまった。
「そ、それより凰華、貴女、魔法少女なの!?」
「ええ。そうです。知らなかったでしょう?」
「し、知らなかったも何も―…」
私は吸血鬼だから、私は凰華の寿命を取ってしまったんだから。
「いいんですよ。今朝の事は」
「でも…。」
凰華が張っていたwind wallを改造して、その魔法から建物の修復にかかる。みるみるうちに、建物が直っていく。
「私は死ぬの承知で血を分けたんですから、悔いはないんですよお嬢様」
凰華は寿命が無くなるの知ってて私に分けたの…?なにそれ私、馬鹿みたい…。いつもいつも凰華に甘えちゃってて…。
少女は、ハッとしてなにかに気づいた顔で再び凰華の方を向く。
「ちょっと凰華!悔いはないって何よ!そんなこれから死にに行くみたいに…」
「そうですね。死んでしまうかも知れません。…女神族の“匂い”がします」
「!?」
凰華から女神族の匂いがする。そう言われて、辺りを見渡した。他の周りにいたお客様たちも一緒。なにかに怯えるようにこの場から立ち去ろうとしていく。
「おい!皆逃げるぞ!!」「死ぬの嫌だー!!」「誰か他の魔法少女を呼んでくれ!!」
顔見知りの方も、知らない人も、皆逃げていく。呆然としている少女に、
「〇〇ちゃんも逃げなきゃ!このままだと死んじゃうよ!!」
誰かから腕を引っ張られた。腕が千切れてしまいそうな力だった。
「い、嫌だ!私は凰華と一緒にいるの!!」
「だ、ダメだ!!〇〇ちゃ…」
「お嬢様、逃げてください。」
「っ…!」
凰華の背中越しでも分かる。今とても真剣な顔をしてる。
「そこのお兄さん。お嬢様をどうか安全な所へ逃がしてください。」
「ああ。わかった…」
「い、嫌だ…!私だけじゃなくって、凰華も逃げてよ!!」
凰華の中の何かが切れたような音がした。そして、凰華が後ろを振り向いた。怒られる、そうおもった。
「行けません。お嬢様。」
でも凰華は泣いていた。何処と無く、寂しそうな顔で。
「私は魔法少女なんです。この地域のみんなを守らなくちゃいけないんです。」
「凰華…」
凰華は泣きながら私の頬をすっと、触れてくれた。
「私は隠れてずっと魔法少女をやってきました。お嬢様が就寝した後、深夜中ずっと女神族の奴らと戦ってきました。だから、大丈夫です。信じてくださいお嬢様」
「でも…死んじゃうかもって…。」
「そうですね。死んでしまうかも知れません。」
私は少し涙ぐんだ。何かに怒っている気持ち。悲しんでいる気持ち。悔しい気持ち。いろんな気持ちが重なり合った。
「わ、私…。凰華が居なくなったら、一人で生活出来ない…。私、いじめられる…」
「そんなことはありません!!」
凰華は泣くのを辞めて、少女に笑って頭を撫でてくれた。
「へ…?」
「お嬢様には、親切な地域の方たちがいます。さっきだって、そこのお兄さんがお嬢様を助けようとしていたじゃありませんか。」
「ぅっ…!」
「それに、お嬢様が吸血鬼なのも皆さんご存知です。今まで羽は隠していたんですが、私の不自然な行動で吸血鬼だ、ってバレてしまいました。
それでも地域の皆様はわかってくれました。こんな可愛い子が悪さをするはずがない。みなさんはお嬢様を信じています。ですから―、
お嬢様はひとりじゃありません」
そう言いながら凰華は女神の匂いがする方を向いた。
「凰華!!!」
「っ!」
私の少しの大声にびっくりしてる。
これがもしかしたら最後かもしれない。だったら、私は―。
「凰華、だいすき。帰ってきたらまた美味しいご飯作ってね」
「ふふっ。フラグですよ、“エクシルアお嬢様”。私だって大好きです。今日の夕飯は、エクシルアお嬢様の好きなオムライスは如何でしょう?」
「いいわよ!一分でも遅れたら承知しないんだから!」
凰華が私の方を向いて、「大好き」って言ってくれた。嬉しい。凰華と最後になるかもしれないこの時間を私は笑顔で送ってあげたいと思った。
「それじゃあ、シルアちゃん行くよ」
「ええ。」
私は地域の人と一緒に逃げた。後に色んな方とも合流した。
本当に私のことを吸血鬼ってわかっていてこう優しくしているのかわからない。怯えて優しくしているだけかもしれない。だけど今は皆を信じないと。
私が走ってきた先から、魔法で攻撃し合う音が聞こえる。たまに、建物が破壊する音も聞こえる。凰華と女神族の人が空高く飛んで戦っている姿も見える。ちょっとだけ押されてる感じがする。凰華は大丈夫なのだろうか。ちょっと心配だ。
でも凰華は強いから大丈夫。きっとまた、私と笑顔で一緒にご飯を食べてくれる。
すると、みんなが集まった先の近くのガードレールが人の大群になる。大人の人達がこんな事を言っているのが聞こえた。
「凰華ちゃんが火達磨になって空から落ちていくぞ!」
と。
あとがきです。
地域の人から「シルアちゃん」と、
呼ばれているエクシルアお嬢様ですが、
これには結構深い意味があったりします。
あと受験終わったので、
ばんばん出していきます。