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_思い_

 中学校編_思い_

 

 どうして、父さんは来てくれないの…どうして、どうして…。


       お願いだよ、誰か…僕を……助けて…。


 僕は気づけば、家に居た、さっきまで何をしていたのかいまいち覚えていない。今日は、何をしていたのだろう…病院に行って……そこから、覚えていない…。何のために、病院に行ったのかも…。

 家には、いつもの様に、母さんが居て、キッチンでご飯を作っている光景がそこにはあった。

「母さん、今日病院に行った?」

 そう聞くと、母は、少し目を見開き驚いたような反応をした。僕には、母が、何故そんな反応をするのか分からなかった。どうしてそんな悲しそうな顔をするのかも。

「母さん…?」

 そう声を掛けると、母は、声をあげて泣き始めた。どうしたら良いのか分からなくて、僕はただただ、泣いている母を見つめた。

「…ごめん、僕今日は、ご飯いらないや…。」

 僕はそう言って、リビングから、自分の部屋へ戻った。

「何かいけないことを言ったかな…?」

 僕は、まだ早いけれど寝ることにした。そう思い、布団に寝転がると、すぐに眠気が来たので、その眠気に逆らうことなく、瞼を閉じた_。

 翌朝は、いつもより、早くに目が覚めた。母は、まだ寝ているようで、僕は、特にすることもなく、どうしたものかと考えていたが、荷物を持って、家を出た。行先は、あの公園だ。

 いつの季節でも、朝方は寒く、家を出て、身震いをした。そしてすぐに、足を公園に向けて、歩き出した_。

 学校に行くには、まだ早い時間なので、しばらく時間を潰すために公園の中のドーム型の遊具の中で暖をとるが、一向に暖かくなる気配はない。

 最終的に、どうしようもないので、カバンから、ボロボロの小説を取り出した。

 ふと、僕は、その小説を見つめ、どうしてこの小説を、こんなに大切にしているのか、”分からなくなった”。しばらく、その小説を眺めていた。

 気づけば、学校に行く時間を過ぎていた。完璧に遅刻だ。どうしよう…。

…もういいかな……。

 学校休んでしまおう、そう思い、再び小説に目を落とし読み始めた。

 日暮れの公園から、誰かのすすり泣く声が響いている。

その声は、ドーム型の遊具から響いていた。

 遊具の中では、冬貴が小説を手に、声を殺して泣いていた。ただ、ただ、悲しかったのだ、何がと問われれば、それは…少しでも、現実を受け入れられない、自分が居たことに対してだった。

 日が暮れ、しばらくしたころに、冬貴は意を決したように小説を直し立ち上がった。そして、ある場所へと歩き出した。

 しばらく歩いて辿り着いた場所は、”病院”だった。そして、とある病室の前で立ち止まり、一度大きな深呼吸をして、取っ手にかけた手は、少し震えているが、しっかりと、その取っ手を、横へとスライドさせ、扉を開いた。

 その先には、一人の少女が、ベッドに腰かけて、小説を読んでいたのか、小説から顔を上げ、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

「誰?」

 やはりその少女は、冬貴のことは、覚えていないようだった。

 冬貴は少し寂しそうな顔をしたが、しっかりと、その少女の瞳を見つめ、自己紹介を始めた。

「初めまして…えっと僕は君のクラスメイトの、桐陽冬貴です。これから、よろしくね。」

 あえて、友達ということは、伏せた。

「うん、よろしくね!私の名前は、知ってるかもしれないけど、河野裕奈だよ!」

 初めて彼女の名前を聞いた。

「君は、私の友達なのかな?」

「え…なんで…?」

 不意に彼女の質問に、驚きを隠せなかった。

「実わね、私の同級生って誰も来てなかったんだ…来たのは、君くらいだし…私ね、知ってるんだよ、君、私が事故にあった日に、急いで駆け付けてくれたこと…。ありがとうね。」

 そう言って、少女は、笑った。

「僕は…僕は…友達と呼ばれるっ様な人間じゃないよ、そんな資格なんてない…」

 気づけば、冬貴は瞳から、大粒の涙を流していた。すると、少女は…

「友達に資格なんていらないよ!…うーん…なんて言えばいいのかなぁ……」

 あーでもないこーでもないと、少女は腕を組んで悩みだした。それを見た、冬貴は、笑い出した。

「アハハハハハ…!君らしいね、そういうバカっぽいところ…フフフ…!でも、ありがとうね。」

 少女は、一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに笑顔へと変わり、「どういたしまして!」と言った。そして、お互いの顔を見て、二人で笑い出した。

 すると、病室の扉が開き、そこから、看護師さんが、もう少し静かにするようにと、注意してきた。そして、二人して、「はーーい」と返事をして、看護師さんを呆れさせた。それがまた面白くて、二人でまた声を殺しながら笑った。

 笑いが収まり始めた頃に、面会時間の終了時間が来ていたので、「また来るよ。」と言って、冬貴が部屋を出た。

 そして、冬貴はまっすぐ家へと帰った。そして、いつもの様に、ご飯を食べ、自分の部屋へと帰っていった。

 それを見た母は、何事かとずっと考えていた。

 翌朝、いつもどうりの朝を迎え、元の生活が戻ってきた。やはり、裕奈の存在は大きい。学校に行っても、笑顔な冬貴を見たクラスメイトは、恐ろしくなり、いつもより、彼から距離をとっていた。

 放課後。

 終わりのチャイムが鳴った瞬間に、急いで、病院へと向かった。そして、息を整え、病室の扉を開いた。

「お、来たね!」

「お、おう。」

 冬貴の顔は、ほんのり赤い。これは、走ってきたからなのか、それとも…?

   


  _思い_ 完


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