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_友達_


~家族って。中学校編_友達_~


 僕は彼らが消えた日のことをよくは覚えていない。だけど、あの日、あの場所で、僕ははっきりとこの目で、死んだ筈の”___”を見た。


 あの時、それは本当に、数秒間の出来事で死んだ筈の”父”が僕の目の前に姿を現した。あの時の彼らの驚いた顔は思い出すだけで笑えてくる。そして、父は、彼らの足を掴み上げ、あの引き裂かれた小説のように彼らを簡単に”引き裂いた”そして、彼ら”だった”モノを掴んだまま、”消えた”のだ。これは、文字どうり、その場から、一歩も動かず、消えた。その時の父の顔は、あまりにも恐ろしく、眉間に皺が寄り、それはまるで、絵本の中の地獄の閻魔様のようで、でも去り際に見せた安心したような微笑みを今でも鮮明に覚えている。そして、彼らは行方不明となった。

 その日から数年が過ぎ、”俺”が中学生になった今日でも彼らは見つかっていない。噂では、俺が彼らを殺し、遺体をかくしたのではないかと言われており、俺に近づく者は居らず、陰では、殺人鬼とも呼ばれているらしい。そして、何故、死んだ筈の父が目の前に現れたのかは、今でも俺には分からないけれど、きっと父が助けてくれたのだと思っている。

 しかも、母は、働きすぎによる過労と、ストレスで、精神的な疾患を患い、俺が小学校の卒業式の日に職場で倒れ、入院中だ。ついに家に居るのは、俺一人だけになってしまった。かつては幸せと笑顔で満ち溢れ、周りの人に羨ましがられていたのに、今では、笑顔どころか感情自体が薄くなり悲しみも怒りですら感じなくなってきている、そして周りの人には、指をさされ蔑まれ、殺人犯や疫病神とも言われている。

 これからの中学校生活をどうするか、考えなくてはいけないのだが、母が今まで働いてくれていたおかげで、貯金はそれなりにあるようなので、今のうちは、なんとかなるだろう。だが問題は、中学校を卒業してからどうするかなのだ。進学か、就職を考えなくてはいけない、まあそこは、中学校の3年間で考えれば良いか。

 今日が入学式で中学一年生になったが、誰一人として話しかけてくるものは居なかった。クラスはA組、全員で42名のクラスで、新校舎の3階一番隅の教室、二年生の教室は、その下の階のようだ。明日転校生が来るらしい、まぁ、俺にはあまり関係のない事だが、そろそろ寝るかと少しの期待と不安の中で、1日が終わった。

 朝目覚ましの音で目が覚めた、4月の朝はまだ少し肌寒い、布団から出たくなくて数分間布団の中で団子になって居たが、そろそろ起きなければ、朝食を食べ損ねるので、のそのそと起き上がる、そして、布団のそばに置いてある、新しい制服へと腕を伸ばす、まだ固い少しヒンヤリとする制服にゆっくりと腕を通していく。着替え終わると、少しの緊張感があり、それが高揚感へと変わり学校へ行くのが少し楽しみになる。

 朝食の準備をするために、リビングへと移動しトースターにトーストを入れ、小さなポットに水を入れ、カップの中に、インスタントコーヒーと少量の砂糖を入れ、焼けたトーストを取り出し、ナイフでラーマを塗っていく。その頃にお湯が沸き、カップへと注ぐ、注ぐとともにコーヒーの香りが、鼻腔を刺激し、空腹を感じさせるこれが俺の朝のルーティーンである。

 食べ終われば、食器を洗い、荷物を持って家を出る。俺の通う中学校は、家から徒歩15分の所にある。

 学校に着くと、朝練を始める準備をしている2・3年生の人がちらほらいるくらいで、同級生はまだ誰も来ていないようだ。一人教室に向かうために、階段を上っていると、二階から2年生の男の先輩が降りてきた、陸上部か、なんて考えていたが、その先輩は急いでいたのか、階段の真ん中位で足を滑らせた、落ちると覚悟したのか、その2年生の先輩は、体を強張らせ目を固くつむっていたが、俺の身体がとっさに動き、その俺より少し大きな先輩を、受け止めたのだが、その重さに耐えきれず、少しの浮遊感に思わず目を固く閉じ、階段の踊り場に、しりもちをついた。俺の口から「イテッ!」と声が漏れ、次に目を開けると、先輩の焦った顔が見えた。

 そして俺が「大丈夫ですか」と聞く前に、「だいじょうぶか!!?」と声を掛けられ、「大丈夫です」と答える前に「保健室行くか!?」と声を掛けられた。とりあえず俺は立ち上がり、先輩に問いかけた。

「いえ、大丈夫です。先輩こそ大丈夫ですか?」

「俺は、君に助けてもらったから大丈夫だが…」

「それでは、俺の事は気にせず、部活の朝練の方に行ってください。ほんとに俺は大丈夫なんで。」

 そう言い、スタスタと、階段を上っていった。下から先輩の声が聞こえたが、先輩には悪いが、知らないふりをして教室に向かった。

 そして自分の席に着き「ふう…」と息を零した。久しぶりに誰かと話した、最近は誰とも話していなかったから、少し嬉しいと思った。

 しばらくすると、階段の方から数人の人の話し声が聞こえ始めた、「俺ら一番乗りじゃね?」すると、後ろの教室の扉が開いた。

 だが、俺の姿が見えたとたんに、顔を歪ませ、隣のクラスの人に会いに行くのか、何も言わず教室から出ていった。

そして、俺は、静かに顔を机に突っ伏し眠りについた。

 周りの騒がしい声で目が覚め、しばらくは、その話声に耳を傾けていたが、顔を上げ、姿勢を正すと、クラスが、一瞬にして、静まり返ったと思えば、今度は小さな声でこそこそと話す声が聞こえ始めた、が、すぐに元に戻り、普段どうりの会話をし始めたが、何処かぎこちない様に感じるのは、気の性ではないだろう。本当面倒くさい奴らだと思った時に、チャイムが鳴り、前の扉から、担任の先生と思われる人が入ってきた。

「おはよう!今日は、昨日居なかった、転校生を紹介する。それじゃ入って!」

と、扉に向かって言うと、前の扉が開き、一人の女の子が入ってきた。かわいいのかよくわからないが、クラスの男子が少しざわついた、その時俺は、一時間目にある理科の教科書とノートを取り出し、準備をしていた。

「えっと…今日からよろしくお願いします!」

 もう自己紹介は終わっていたらしい。名前を聞きそびれたが、周りの席の女子と話しているから、あの子も俺に話しかけてはこないだろう。もともと興味は無かったので、一時間目の授業に集中する事にした。

 正直言って、面倒くさい。勉強なんて将来使う事の方が少ないだろ、なんて、考えながら授業を受けていた。そうして、一時間目は終わった。

 お昼、うちの学校は、給食なので、給食当番というものがある。面倒くさいと思いながらも、準備を進めていく。俺の出席番号は、早い方なので今週一杯は、やらなければいけない。

 俺の当番は…牛乳当番だった。しかも、給食棟からここまでは、一番遠い教室なので、余計に面倒くさいが、誰かがやらねばいけないことなので、いやいやながらも、遂行した。

 給食を食べ終わり、昼休憩になったが、何もすることが無い。周りの奴らは、外で遊んでいたり、クラスの奴らで話したりしているが、俺にそういう存在は居ないので、静かに立ち上がり、図書室へ行ってみる事にした。

 図書室の場所は、旧校舎の三階にあり、少し遠いが、暇よりかはいいだろう。

 …人が多い…図書室ってこんなに騒がしかっただろうか…。戻ろう…。そうして教室へ戻ってきた、昼休憩は、後十分程ある。 

 考えた末、小さいころに買った小説を読むことにした。色々あってボロボロだが、結局捨てられないまま、今もずっと、大切に持っている。所々セロハンテープで補強して、読みずらいところもあるが、読めないことはないので、今も読み続けている。すると、転校生が、その小説を見て、こちらに近づいてきた。

「君もその小説持ってるんだね!!私もその小説家にあるんだ!」

「へ、へぇ…」

 俺は、びっくりして、引き気味に答えた。すると、さっきまで、その転校生と話しをしていた女子が、顔を真っ青にして、焦ってその子の腕を引っ張って、教室から出た行った。

 しばらくすると、その転校生と話していた子たちが帰ってきて、深刻そうな顔で、俺の前に来て、頭を下げた。「ごめんなさい…。」「どうか命だけはぁ…」なんて声が聞こえてきた、俺はつい面白くて、声をあげて笑った。その声にその子たちは、ビクリと肩を震わせた。

「どうして謝るのさ、命なんて要らないよ…!フフフ…!君たち噂を信じすぎなんじゃないか?アハハ!」

 そして、その子たちは、顔を真っ赤にして、自分の席へと戻っていった。

 なんて面白いのだろう、あんな噂を信じているなんて、未だに、顔がにやけているのが自分でもわかる。その光景を見ていたクラスメイトはなんだか複雑そうな顔をしていた。それはまるで、噂をみんな信じているような感じだった。それさえも面白くて、笑いをこらえるので必死だった。

 そうして、チャイムが鳴り、午後の授業は、体育館に移動してクラブ活動の説明だった。いろんな部活があるが、イマイチピンとくるものはない。強制ではないので、入らない。

 陸上部の説明の時に、朝助けた先輩の姿があったので、やっぱり、陸上部だったんだなぁ、なんて考えていた。そうするといつの間にやら、部活の説明が終わり、全校集会も終わっていて、教室に移動する時間になっていた。

 そして教室に戻り、終礼をし、下校する事になった、それと、今日から二週間は体験入部の週らしい…行かないけど。それじゃあ、帰るか、よっこらしょと、椅子から立ち上がり、荷物を持って教室から出ようとした時に、あの転校生が、大きな声で、「またね!!」と叫び、手を振っていたが、それを無視して、教室から出た。

 あまり初対面の人間に、馴れ馴れしくされるのは、好きじゃない。俺は、あの転校生の事が、苦手だ。あまり話しかけられたくはない。そう考えながら、家へ帰った。

 家について、ただいまを言う、誰も居ないので返事が返ってくることはない。母が倒れて、数週間がたったが、まだ、目を覚ましていない、もう目が覚めてもいいころなんじゃないのか、なんて、思ってはいるが、きっと俺が居るから、なんて、自分の事を悪く思ってしまう。いっその事死んでしまいたいとも思うようになってしまった。

 明日は一度、顔出しに行こうかなんて考え、家事をする。其れも終わり、今は夜の9:03そろそろ風呂に入るか。

「うはぁぁ…。」

風呂の湯船につかると、一日の疲れが吹っ飛ぶ気がする、そういえば、誰かが、風呂は、人生の洗濯だ、なんて言っていたことを思い出す。

 そうして風呂を出て、寝る準備をする。電気を消して、布団にくるまり瞼を閉じる、するとすぐに眠気が襲い、深い眠りに落ちた。

 翌朝、いつものように起き、支度をして家を出る。

学校に着くと校門の前に、昨日助けた先輩の姿がそこにはあった。

「おはよう!!」

そう声を掛けられたのは、久しぶりで、「おはようございます。」と、少し小さくなってはしまったが、挨拶を返した。

「昨日はほんとに助かったよ!ありがと!あ、後部活どこに入るか決めたか?」

と聞かれたので、「いいえ…それに、どこにも入るつもりもありませんから。」と答えると、先輩は、困ったような顔をして、「そうか…」と答えた。

「用は、もうありませんよね。それではしつれいします。」

 先輩は、そのあと何も言わず、去っていく俺の背中を見つめていた。

 そして俺は一人、教室に入り、自分の席に座って、小説を読み始めて、数分後位に、教室の前の扉が開き、ふと視線を上げると転校生が入ってきた。

「あれ?冬貴君一人だけ?」

 ……なんでこんな早い時間に、俺の苦手な奴が来るんだ…!?しかもなんで俺の名前を…!!なんて考えながら、その言葉を無視して、小説へと目線を戻した。

「おーい、無視ですかー?」

 その問いも俺は無視する。

「……。」

 ようやく黙ったか。早くどこかへ行ってくれと思っていると、小説が、俺の手元から消えた、驚いて顔を上げると、そいつが、俺の小説を持っていた。

「ようやく、こっちをみてくれたね!」

 いや、そんな事より小説返せよ。なんて思っても相手には伝わらない。「はぁ…」とため息を吐いた。まったくこれだから女子は…なんて偏見を持ちながらも、それを言わない俺は易しい奴だろ。まぁ、実際のところ、女子が何を考えているかなんてわかりたくもないがな。

「小説を返してくれ」

と言うが、相手は、話してくれたことが嬉しかったのか、その場で飛び跳ねているのだが、俺は、少し焦り始めていた。小学生の頃の脳裏に焼き付いて離れないあの日の事を思い出し、冷や汗が止まらない。その状況に相手も違和感を感じたらしく、心配そうな顔を覗かせる、さっきから「ね、ねぇ、大丈夫?…気分でも悪いの?」なんて話しかけてきているが、俺の耳には全く届いていない。

 そして、転校生の手にはまだ小説を持っており、それが見えたとたんに、転校生へと掴みかかった、その時の俺は、相手が、あの時の彼らと被って見え、本気で、首を絞めに掛かっていた。転校生が抵抗して、周りの机が倒れても変わらず、首に手を置き、無表情で徐々に力を込めていく。

 クラスの子たちが、登校し三階にたどり着き教室からすごい音がしたので、急いで教室に駆け付けると、転校生の首を絞めつける冬貴と、クラスの子たちに助けを求める転校生が居て、数人が急いで職員室に先生を呼びに行った、残りはその首を絞める冬貴を止めに入った。

 冬貴は、周りの子たちに羽交い絞めにされ、ようやく自分のしている事の重大さに気づいた。あぁ、やってしまった…。転校生は、噎せ返り乍ら、クラスの子たちと保健室へとむかった。その時の転校生の手にはもう、小説は無かった。

 小説は、知らぬ間に机の上へと置かれていた。

 その日、先生に説教をされ、今日は帰るようにと言われたが、真っすぐには帰らず、母の入院している、近所の市民病院へと向かった。

 母が入院して居る病室に着くと、母が眠っていた。眠っている母の顔は、前よりも痩せているように見えた。それでも、本当に俺の母なのかと疑うような、美しい顔のままだった。

「”母さん”、俺ね、今日転校生を殺しかけたんだ、ホントに申し訳ないって思ってる、でもね、今回は、父さんが助けてくれなかったんだ。あの小学三年生の時のこと覚えてる?同級生の子が行方不明になったの。あれね、父さんがやったんだよ。僕を助けるために…。」

 唇をかみしめ、涙をこらえながら、今日あった事を話した。

「ごめんね、俺のせいで母さんを不幸にした。生きててごめん。生まれてきて…ごめんなさい…。こんな姿になるまで頑張ってくれてありがとう。」

 ポツリポツリとこらえていた涙が溢れ出す。そして、それは、だんだん激しくなり、嗚咽を漏らし始めた。母の手を握りしめ、涙を流した。まだまだ俺も子供だなぁ…なんて。

 知らない間に寝ていたらしく、起きれば、頭に違和感があり、顔を上げると、母が優しい笑顔で俺の頭を撫でていた。

 俺は驚いて、開いた口がふさがらなかった。

「母さん…?」

「どうしたの?」と母は優しい声で、問いかけた。小さい頃に聞いた、あの優しい声が聴こえ、固まった心が、解けていくような、体中に浸透していくような感覚を感じた。そして、止まっていた涙が、また溢れ出し、母は、何とも言えないような顔をしていた。その後、担当の先生が、今日はまだ帰れないが、明日には退院できそうだ。と言っていた。

 なので、俺は母の退院するための支度を手伝って帰ることにした。

「じゃあね母さん!また明日の朝むかえにくるから!」

と手を振ると、母も振返してくれた。それが嬉しくて、顔がにやけていたが、気にせず帰って、家事をこなし、明日の事を考えながら、眠りについた。

そして翌日俺は走って、母を迎えに行った。病室に着くと、病院の先生と看護師さんが何やら話をしていたので、急いでいで見えないところに移動した。すると、聞こえてきたのは

「もうあまり長くはないでしょう。」

「えぇ、でもいいんです、息子には、今まで寂しい思いをさせてしまったので、これからは、息子と大切な時間を過ごしたいと思います。」

…母は死んでしまう…そう感じた俺は、その場に居るのがつらくなり、走って病院を出た。

 その音に気付いた、母たちは、顔を青くして、母に至っては、泣いていた。

 そして俺は走り付かれて近所の公園へと来ていた。もうすぐ正午になる。お腹がすいてきたが、きっと今また母の顔を見れば、泣いてしまう。まだ帰りたくはないが、母との残された時間は少ないだろう。こんなところで見栄を張っている場合では無いのは分かっているのだが、どうしても、体が動いてはくれない___。


 中学校編 友達 _続_

文字数多すぎました。

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