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DAISY  作者: rei
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作者には兄弟がいません。なので兄弟ってこんなものじゃない、と思われる方がいるかもしれません…すみません。

理想の家族ってどんなだろうと考えながら書いています。


小説というほどの文章ではありませんが、お読み頂ければ嬉しいです。


✳︎登場人物よみ

﨑木 凌 (さき りょう)

﨑木 優 (さき ゆう)


鶴田 美沙子 (つるた みさこ)


森川 澪 (もりかわ みお)


﨑木 昇 (さき のぼる)

正反対な性格のきょうだいを持つと、たいてい損をするのはマジメなほうだ。



「全く…なんで私がこんな所掃除しなきゃいけないのよ」


GW明けのある放課後。﨑木優は、菫高校3年E組の教室にぶちまけられた、色とりどりの紙吹雪をただひたすら片付けるという作業に時間を費やしていた。隣に落ちているのはくす玉だ。たれ幕には、「先生Happy Birthday」という文字が汚い字ででかでかと書かれている。

優は、斜め後ろの机を見つめてため息をついた。割るのに失敗したくす玉を担任の頭に直撃させ、激怒させた張本人の席はすでにからっぽだ。


3年E組のクラス担任である秋元先生は、とても教育熱心の素晴らしい教師だが1つ難点があった。冗談が全く通じない。

たまたま教室の前を通りかかっただけの優は、紙吹雪まみれの秋元先生と目が合ってしまった。


『﨑木!良いところに。お前の兄貴がやらかしてくれた!コレ、片付けてくれ。俺は今から職員会議なんだ』

『…』


(もう…これだから3年の棟に行くのイヤなんだよね)


学級副委員長である優は、担任に頼まれた書類を運び終えて帰る途中だった。

「相変わらずだよねー、﨑木先輩は」

「…いいよ?別に、美沙が手伝わなくても」

「いーよいーよ。だって今日帰りにミスド行く約束だし。優のノート写させてもらわなきゃ、明日の小テストさっぱりだし私も困るからさ(笑)」


隣で一緒に紙吹雪を片付けてくれている心優しい少女、鶴田美沙子とは、今年も同じクラスだった。高校というのは、割と仲の良い者同士を同じクラスにまとめてくれるものらしい。主要行事の多い2年次は特に、クラスの空気が出来上がっている方が、教師側としても都合が良いのだろう。

優と美沙子は中学も同じだったが、ソフト部のエースで部活に打ち込んでいた美沙子と、成績は学年トップだが帰宅部だった優の間には、ほぼ共通点がなかった。

そんな2人が意気投合したのは、高校1年の夏休みだった。普段であれば行くはずのない補講に、テストの日に体調を崩したことにより参加していた優と、普段から補講常連の美沙子が隣の席になったのは、運命だったとすら思える。今ではいわゆる親友。いわゆるニコイチ。


美沙子は活発で友人も多く、サバサバとしている。少しのハプニングでは動揺を見せない、男気のある性格。優は勉強面に関しては、毎日のように美沙子のフォローをしていたが、そういった彼女の性格に助けられることも多いのだった。



「…はー。もうこれで良いでしょ」

「そーだね…秋元先生呼んでくる?」

「…黙って帰ろ。あの人やけに神経質だし…やり直しとか言われたら嫌じゃん」

「それもそーか!じゃ、箒だけ片付けてくるね」


ありがとー、と美沙子を見送ると、反対側から足音が近づいて来るのが聞こえた。

焦っているようで、全く焦っていない。聞きなれた足音。



「優ちゃん!」

「…遅いんだけど」




✳︎




「ホントごめん!もー片付け終わっちゃった?」

「片付いた頃を見計らって来たんじゃないの」

「……バレた?やっぱ優ちゃんには敵わないなあー」


2つ上の兄、﨑木凌は本来ならとっくに卒業しているはずだが、去年度満を持して留年が決まったため、現在菫高校3年。

クラスに1人はいる、大変な問題児だった。


まだ優が中学2年だった3年前。ちゃらんぽらんだった彼が進学校であるこの高校に入学を決めた時は、誰もが隠れた秀才だと褒め讃えた。が、そんな評判は2ヶ月もたてばすっかりと消えうせた。

入学してすぐ、凌はサッカー、バレー、バスケ、軽音部を兼部するという暴挙に出た。

成績で足を引っ張ることはなかったが(むしろ引っ張りあげていたという噂もあったが)、練習をサボることに加え、部費を使い込む、キャプテンの彼女であるマネージャーに手を出すなどの問題行為が相次いだため、どの部も早々に退部を言い渡されることとなった。

それで機嫌を損ねたのかどうかは定かではないが、そのうち授業にも出なくなり、成績も想像の通り。今となっては、彼の最初の評判を誰もが忘れている。



(集団行動に向いてないのに、兼部なんてできるはずないでしょ)

と、最初から優は思っていた。まあ知ったことではない。

ただ1つ、軽音部だけは、今も続けているようだったが。



優が入学してからは、なぜあの兄の妹がこんなに優秀なのかと物珍らしがられ、他の学年にまですっかり名前が知れ渡ってしまった。

だが、優は別にそこまで気にしてはいなかったし、兄を嫌ってもいなかった。



「まさか、秋もってぃー優ちゃんに片付けやらせると思わねーじゃん。ほんと、ゴメンね」

「もう、いいよ」


兄の特技は人に許してもらうこと。とりわけ、妹の優はこのお願いに弱かった。


「ありがと!でさ、ついでにもう1こお願いがあるんだけど…」

「…………何」


「お金、貸してくんない?」




✳︎




ミスドで美沙子と話し込んでいた優は、ずいぶん帰宅が遅くなってしまったことに少し焦っていた。ギリギリ21時前だからセーフだとは思うが…今日の兄はお金を持っていない。

(今日は叔父さん帰ってくる日だったっけか…)

頭を働かせながら、取りあえず急いで自転車を走らせる。


美沙子との話が長引いた理由は、彼女が中学の頃から付き合っていた彼氏と別れたという、衝撃の事実を聞かされたからだ。

(まさか…高野先輩が人妻と浮気を…)

優は美沙子の元彼には1度しか会った事はなかったが、人は見かけによらない。男の人って怖い。恋愛経験がそれほど多くない優にとって美沙子の話はショッキング過ぎたが、当の本人は明るく振舞っていた。ああいう所が、健気で美沙の好きな所だな、と優は思う。せめてもの励ましにと、ドーナツは全部奢った。100円セールだったけど。


「ただいまー」

「おう、帰ったか」

「叔父さん!ごめんね、遅くなって」

「いや、構わないよ。丁度今夕飯が出来たところだから」

「わー!やったあ、叔父さんの料理の中で、ビーフシチューが1番大好き」


優と凌の叔父、﨑木昇。普段は絵画販売の仕事で海外を飛び回っており、1週間に1回程度しか帰って来ない。海外で働いているせいかやけに日に焼け、長髪を束ねたその風貌は、一見破天荒なミュージシャンか何かにも見える。しかし、内面は温厚で甥っ子姪っ子想いの優しい叔父さんだ。


凌と優の父は普通のサラリーマンで、母はピアノ講師だった。数年前まで、母が営むピアノ教室を兼ねた自宅で、4人でごく普通に平和に暮らしていた。


凌が中1、優が小5の秋、事故は起こった。

自宅から間もない大通りで母がトラックに引かれそうになった所を、父が飛び出しかばったのだ。母は即死、父は病院に緊急搬送されたが、まもなく息を引き取った。

当時まだ幼かった兄妹は、言わずもがな大きなショックを受けた。


事故の後、2人のことを心配した母方の叔父・昇が東京に戻り、3人での生活が始まった。しかし2人が高校生になってから、叔父は本来の仕事に本腰を入れ始め、海外出張も増えた。

そのため、実質は凌と優、2人で生活しているようなものだった。家事はそのほとんどを、優が担っていた。



「…お兄ちゃんは?」

「まだ帰ってないよ。何か用か?」

「…別に。いないならいいんだけ」

「優ちゃん!帰ってたんだ」


優の気配を察知したかのように、凌が部屋から出てくる。


「なんだ、お前いたのか?俺が帰ったら挨拶くらいしろよ」

「ゴメン叔父さん、寝てた。それより優ちゃん、おか」

「ちょっと来て」


優は兄を2階の彼の部屋に引っ張っていく。お金の話はできるだけ叔父さんの前ではしたくない。

今となっては家族同然の存在である叔父だったが、優はどことなく気を遣っている所もあった。

だから信頼していないという訳では、ないけれど。



「先週も渡したわよね?全く…何に遣ったら3万が1週間で無くなるのよ??」

「昨日、パチンコ大負けしてさあ…」

「はあ?!だから弱いんだから行くなって、あれほど叔父さんに言われたでしょ?!」

「ゴメンって。頼むよ。2人っきりの兄妹だろー?」

(出たよ…)



お兄ちゃんの決まり文句だ。

我ながら優しすぎるな、と優は思うが、これを言われると、断る気になれないのだ。いつも。


「…月末絶対返してよ」

「月末?バイトの給料日のこと言ってんならゴメンね。あのライブハウス、辞めちゃった」

「はあ?!辞めたあ??」

「まあ、辞めたってゆーか、クビになっちゃったんだけどね。」



悪びれない兄に気の抜けた声が出る。

軽音で知り合った先輩に紹介してもらったというライブハウスのバイトは、確か4月に始めたばかりだ。ギターをやっている凌には都合のいい条件のはずで、今回ばかりはいくらか続くだろう、と予想していた優だったが、読みが甘かった。


「…バカじゃないの?バイト辞めた直後にパチンコ行かないでしょ、ふつう」

「辞めたから、じゃん。ここで一発当てとかないと、持ち金ゼロになっちまうって思ったんだもん」

もんじゃないわよ、と思ったが突っ込むのが面倒くさいので、優は1万円を無言で渡す。今月は空気清浄機を買おうと思っていたが、また1ヶ月先延ばしだ。



「おーい、冷めるぞ、降りてこいよ」

「「はーい!」」


2人で顔を見合わせる。

1階からは美味しそうな匂いが漂ってきていた。


「ハモったな?」

「…早く食べよ」

「あー俺、叔父さんの料理の中でビーフシチューが1番好きなんだよなー」

「…」

「何笑ってんの?優ちゃん」



正反対の性格のきょうだいを持つと、たいてい毎日退屈しない。


2人の絆は固かった。優は、それを誇りに思っている。

昔から、ずっと。



「今年は梅雨入り早いみたいだなー、優、修学旅行はいつだ?」

「んーと、21日からだったかな…」

「優ちゃんたちどこ行くの?俺んときは北海道だったけど」

「韓国」

「え!何それ海外??なんで今年そんな豪華になってんの」

「…北海道より韓国の方が近いよ」



春は終わり、既に暑い日が続いている。2年目の高校生活はどのようなものになるだろうか?期待とも不安とも表現できない感覚。


「だけど今年は、なんだか空気がいつもと違うな」

「え?」


しかしその感覚に混じって、優の胸にはざわめきがあった。


「大気が不安定なんだよ。温暖化の影響もあるだろうけど…さっきもテレビでやっていたな」

「…そだね」


叔父に笑顔を返すと、優は頭の中にある、何かモヤモヤしたものを同時にかき消した。

きっと今年も、いい1年になる。



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