『第八話』
はいっ!
お待たせいたしました。
前回の続きになります今回はっ。
”阿 夜潮”さんパートです。
てな訳でっ!
始まり始まりっ!
放課後忙しいのは生徒だけとは限らない。部活動に勤しむ生徒を横目に先生方も忙しなく動く。
放課後の職員室はいつものパキッとした冷たい空気とはうって変わって、ぐるぐるとした熱気がこもっている気がする。
そんな職員室の中で、私は侮蔑した目を担任に向けていた。
「うーん、倍率が高かったら危ないかもしれないなぁ。阿久津、もう少しだけ努力しようか」
先生は言葉巧みな道化師だと思う。本音をぼやかして言葉を紡いで、いかにもといった台詞を吐く。私たち生徒はその言葉を信じなければならない。言葉の裏に隠れた心理なんて知らないまま。
「国立も公立も似たようなもんだからな。あと……滑り止めの大学は決めたか?」
遠回しに、お前は落ちるんだと言われているみたいで嫌な気分になる。地元の私大です、と小声で答えると担任は笑顔で頷いた。
手にしていた成績の書かれた資料をファイルに戻しているから、ようやく解放されると心の中で溜息を吐き出した。
「阿久津、お前はクラスでも模範的な生徒なんだし、成績も平均的なんだ。部活で大変で部長だから責任を感じているのもわかるけど、進路のことも頭にいれとけよ」
悪意はない。担任は私を心配しての一言なのは十分に理解していた。
でも。
この底知れぬ嫌悪感はなんだろう。
「それ、お前は普通なんだから突発的なことをするなってことですか。部活のことになると先生方も嫌そうな顔をするし。文芸部がなにかしたんですか。普通とか平均的とか、そんな主体性のない言葉……」
そこまで口走ってハッと我に返る。私はとんでもないことを言ってしまった……?
ちらっと担任を見ると豆鉄砲をくらった鳩みたいな顔をしていた。微妙な罪悪感から私は足早に職員室を出る。
だから先生は苦手だ。先生、っていう肩書きが苦手だ。権力みたいなこの感じが、苦手だ。
なにより、それを言っている自分も――。
無言のまま廊下を早歩きで進み部室へ向かう。
今日は活動日ではないから、誰もいない。いないはずなのに、部室前に行くとなぜか扉が開いていた。普段は鍵を閉めている部室の扉が開いているということは誰かが部室にいることを示している。
夏目君ではないことは確かだ。活動日で活動時間までしかいない人間がわざわざ来るはずがない。
鳴九亜先生とも考えにくい。そもそも部室に来ること自体稀なのだから誰もいない部室に来るほうがおかしい。
じゃあ、今部室にいるのは、誰?
「えっと、どなたですか……」
恐る恐る部室をのぞき込む。そこにいたのは、見慣れた女性。
「おっ! やっぱり来たね、阿久津」
後ろにニコリという効果音が付きそうなくらい、胡散臭い笑顔を浮かべた蘭先生が古びた部誌を手に立っていた。
ちゃんと話をするのは一年生の時以来なのに、なんだか親近感を覚えるのは最近蘭先生の学生時代を見てしまったからだろうか。
どっちにしろなんだか気まずい。顧問になる予定だったのを鳴九亜先生に押し付けたという噂を聞いて以来、なんだか蘭先生と話をするのは気が引けていた。
「そう怖い顔するなって。別にとって食うわけじゃないし、私だってここのOGだよ?」
カラカラと笑う先生は手にした部誌の発行年数をみせてきた。1993年。確か先生が部員だった年。緊張をほぐそうとしているのか蘭先生の笑顔は優しいものに変わる。
「最近先生がここの卒業生だって知りました。あと文芸部だったってことも。……知らなかったです」
部室に入り、手近にあった部誌をめくりながら会話をする。何の用だろう、なんて少し疑いながら。
「まあ言ってないしな。それにしても、活動日も内容も変わるもんだなぁ。ああ、時って恐ろしい」
「OGなら顧問になってくれてもよかったのに……」
「まあ私にもいろいろあるんだよ。阿久津にもいろいろあるようにね」
なんて小さくウインクをする。
そのウインクを見た瞬間、ドキっと心臓が動いた気がする。背中に冷や汗が流れる。
この先生には心を見透かされているようで、ある意味苦手だ。でも、この先生の言葉の裏に嘘は見当たらない。だから余計に、苦手だ。
自分が発行した部誌をめくる手を止めて、蘭先生は私の方を向いた。その顔はいつになく真剣で、思わず唾を飲む。
「それより、私は阿久津に良いニュースがあってここに来たんだよ!」
その一言が、私の高校時代の中で最も良くない出来事の始まりになるとは、この時の私は思いもしなかった――。
――――
月 日( ) 記録者:阿久津 真夜
欠席者
活動日ではないため、未記入。
活動内容
・特になし
記録者コメント
もし今、過去に戻ってやり直せるとしたらあなたはどんな選択をするだろう。あの時友達を止めていたら。あの時もっと勉強していたら。あの時あんな事を言わなかったら。
なんていう後悔はやった後に気付くもの。
もし今、私が過去の自分に会えるとしたら多分こう言うだろう。
部活選びはちゃんとしよう。
そんな訳で、次回は再び一周周りましちっ。
”眼くん”パートを
お楽しみにっ!