1-4 初依頼
先の騒ぎでギルド長直々に尋問という名の昼食をしている。ギルド長曰く、大変興味深いとのこと。魔法の相乗効果も突き詰めるとここまで来るのかと感心していた。
さて尋問が昼食に様変わりしているのはギルド長の独断ではないことを先に明かしておく。何でも魔法の相乗効果については試そうにも試せないためらしい、理由として、タイミングが合わないこと、また始めるタイミングが合っても詠唱速度に多少なりとも差があるため相乗効果があまり望めないことなど、とにかく難しいようだ。
「とにかくそういうことなのだ」
「わかりました、それでどうしろと?」
「何、そんなに面倒な話じゃない、君にこちらから一人パーティーに加えてやって欲しいんだ」
なるほど、それなら俺らの戦闘を確認できるし拘束するようなことにもならない。こちらとしても土地勘のある人が欲しかったので悪い話ではない。
「なるほど、因みに注文なんかはできますか」
「いいだろう、どうしたい?」
今のところ戦力に関してはライム達を量産すればどうとでもなる、ならば欲しいのは作戦の立案、並びに効率的な運用の出来る人材だ。つまり参謀が欲しい。
「土地勘があって参謀としてもやっていけるような人がいいですね」
「なかなか厳しい注文だな、土地勘はどうとでもなるが参謀か…参謀というにはまだまだだがなかなか鋭い者がいる、それでどうだろうか」
「わかりました、後それなりに広い場所を貸してもらえませんか」
「む、何故だ?」
その問いに視線でライム達を向ける、どうやらギルド長はそれでわかったらしい。中々察しのいい人だ。
「わかった、少し外れの方になるがそこでいいか?」
「それで結構です、しばらくいることになるのでお願いしますね」
「そうか、俺はギーベックだ、よろしく頼む」
ギーベックギルド長とはそれなりに長い付き合いになるだろう。
「さて、早速ですけどパーティーに加えようというのは誰です?」
「まぁ、待て、今から呼んでくる」
そう言って腰を浮かす、そのとき息も絶え絶えに目が覚めるような明るい金髪が印象的な少女が転がり込んで来た。
何事だ?。
「ギ、ギルド長!、ななな何で勝手に決めたんですか!?」
決める?…まさかパーティーの話に出てた人ってこの人か。
「いや、お前も苦労してただろう?、お前の場合、戦闘においては悲惨の一言に尽きるからな」
「悲惨は余計です!、何故スライムをぞろぞろと引き連れた人と同じパーティーになるんですか!」
半ば悲鳴に近い声で問い詰める、しかしこうして必死になっているのを見ると中々面白いな。
対してギーベックは非常に生き生きしている、この手の人種はまさしく今この瞬間こそ生を感じるのかもしれない。
「あなたもなんでそんな事を言い出すのよ!」
…なんでこっちに矛先が向くんだ?、そこでにやけているおっさんが元凶だろうに。
「なんでって思ったことを言っただけだぞ、普通の奴だとあまりに合わないからな」
「わ、私が普通じゃないですってぇ!?、馬鹿にするのも大概にしなさい!」
「まぁまぁ落ち着け、呪文使って自身が弾になる奴は十分普通じゃないから」
「うるさいうるさいうるさーい!、あんた達なんか死んでしまえ!」
言うが早いか元来た扉に体当たりするようにして出て行った…本当に何だったんだ?。
「…さてどうします?」
「…うむ、どうしたものか」
ギーベックはやりきったかのように清々しい顔で聞き返してきた…こいつその辺考えないで焚き付けてたのか?。
「まぁ、依頼を先に済ませて来るといい、その頃には収まるだろう」
なんだか引っ掛かるがそのままでもしょうがない、さっさと依頼を片付けるべきだろう。
そんな訳で昨日ライムを配下にした森にいるが薬草が見つからない。あれってその辺に生えてるもんじゃないのか?、
「無いな、十時の方向に向け移動する、陣形を組みなおせ」
「ギャ!ギャギャ!」
「お前らは先に逃げろ!、ここは俺が食い止m、ぎゃあぁぁ!」
まさしく十時の方向より聞こえてきた、しかし何という自己犠牲精神、途中で途切れなければもう少しよかったと思う。
「先に邪魔な奴を排除する、行くぞ」
茂みを抜けるとたった今負傷したとおぼしき冒険者とそいつとパーティーを組んでいると思われる四人がいた、いずれも消耗している。
対するは緑に近い肌の色をしたゴブリンと思われる1メートルに届くかどうか位の奴が30体いた、これくらいいるのが普通なのか?。
…しょうがないか。
「お前ら、援護するから後退しろ!」
「あ、あぁ、すまない、助かる!」
「ギャッギャ!」
冒険者達が後退するのを逃がすまいとゴブリン達が追いかけこん棒を振り上げ襲い掛かる。
ガンッ
明らかに硬いもの同士のぶつかる音がし、こん棒が折れる。
勿論、防御部隊によるものだ。
いい機会なので説明しよう、防御部隊が使用するのは硬化と障壁の二つだ。また基本となる四属性の部隊は各攻撃魔法と各属性の壁を憶えさせている。他の光と闇、並びに召喚と回復と空間の部隊は各一種類のみとなっているがそっちはおいおい進めて行くつもりだ。
因みに今回使用したのは実を言うと何も使っていない、と言うのも硬化を使っても劇的に効果がある訳ではないからだ。余談だが防御魔法が冷遇されているのもこれが原因だったりする。
さてそんな不憫な硬化だが劇的な効果が無いだけで使い続ければ使った分だけ硬くなる、早い話が強化系にはあるはずの限界が無い、時間を掛ければ掛けるほど下手な金属よりも硬くなる。因みに今の防御隊は鉄とかと同等なレベルだと思われる、昼のランクEの男のロングソードをへし折っていたので大体そのくらいだろう。
さて、話を戻して今は目の前のゴブリンだ。
「防御部隊は後退、水属性隊、撃ち方用意…撃て」
防御部隊の後退に合わせ俺の掛け声と共に放たれるは氷の槍、それらがゴブリンを確実に貫く、二発分余っていたのかこん棒を折られたゴブリンとその隣にいた哀れなゴブリンは頭だけでなく心臓も貫かれていた。
…南無三…。
「いやぁ、助かった有難う、俺たちは蒼天の爪ってパーティーだ、あんたはギルドの前で派手にやった奴だろ?」
自己犠牲が不発に終わった男から話しかけられる。それにしても物騒な憶えられ方だ、もう少し何かあるだろう。そうは思ったが一応口にはしなかった。
「…派手にやろうとした訳じゃないんだがな…、それにしても連中はあんなにぞろぞろいるもんなのか?」
「ぞろぞろて…あんたが言うのか、それ、まぁいい、普通はあんなにいないさ、せいぜい6体がいいところだろう」
「そうすると異常だということか、面倒な話だ」
ゴブリンは通常、1on1なら子供でも相手にできるくらいの強さらしいのだがそれが多くいるとかなり勝手が違うらしい。まず通常の個体に比べ知力に勝るらしい。らしいというのは毛が生えた程度にしか違わないためだ、はっきりいってあんまり変わらない、というより分からない。
しかし今回の群れは明らかに多いし行動も違ったらしい、まず激しい自己主張という名の威嚇をしないで先制攻撃を仕掛けた。これに加え会敵と同時に持っていた投擲用と思われるこん棒を各2~3個投げ、牽制して時間を作り包囲したという。通常はありえないためそれに驚いていたら見事にしてやられたらしい。
さて、それはさておきゴブリンの話ばかりだとどうしても飽きるので別な話をしたりした。
まず、この辺に出没する魔物だ。勿論図鑑でも見てはいるが所詮は本、現地で直接見聞きしている者のほうが当然詳しい。それで分かったのはもう少し奥にいるはずのブラッドグリズリーなる魔物が大分手前まで出張ってきているらしい。そんなのとは会いたくないものだ。
次にこの辺の植物の事情だ。なんでも薬草なんかの利用価値の高い植物は年中無休で依頼が出ているらしくそれで少ないとのこと。取ろうと思ったら幾らか奥に行く必要があるそうだ。そのせいか新米冒険者がブラッドグリズリーと遭遇、良くて大怪我、最悪そのまま熊さんのお腹に収まることになるらしい。森の熊さんは非情である。
「こんなものか、他に気になることはあるか?」
「いや、このくらいで十分だろう」
「そうか、多分大丈夫だと思うが気を付けろよ?」
「言われるまでもない、最悪森ごと吹っ飛ばすさ」
実際にやらなければ分からないが全属性の一斉射ならば十分に可能だろう。
「……」
「ん?、どうした?」
「…いや、何でもない…」
なんだ、そのあり得ないものを見たような顔は、そんなに非常識なことを言ったか?。
「そういえばもう少し先に行ったところにブラッドグリズリーが出たらしいから気を付けろよ?」
「わかった、憶えておく、世話になった」
さて、蒼天の爪の面々と別れたのだがパーティー名はともかく、個人の名前を一切聞いてなかったのは失敗したがこの辺の地理的な情報を得ることが出来たからそれ程問題ないだろう。
依頼の薬草は残り十束から全く変わっていない。しかもそろそろ日が沈もうかという時間に差し掛かっている。今日のところは引き揚げるべきか。
「時間が時間だから今日はこれで帰還するぞ」
指示一つでライム達が陣形を組みなおす。思えばこれ一つ取っても中々出来るものではない。元が一体のライムだったからこそ出来るのかもしれないな。
そんな事を考えながら帰ろうとしたのだが今現在、喜ぶべきか落ち込むべきか非情に悩ましい状況になっている。
喜ばしい方から言えば薬草が十束以上群生していた、これを採取すれば依頼は達成となる。
落ち込む方はなんとその薬草のすぐ傍に森の熊さんこと件のブラッドグリズリーがいたことだ。しかも何気に聞いていたのより二回り程でかい。蒼天の爪のやつが言っていた感じではせいぜい2~3m位らしいのだがこいつは5~6m位はある、何で俺の行く先々でおかしいのばかりいるんだ?。
「グルアァァァ!!」
しかもかなりご立腹の様子、一応まだ見つかってはいないがどうしたものか。今現在奴とは30m位の距離を木を数本挟んで背後を取っている、しかし幾ら木を挟んでいるとはいえ奴が振り返れば視界に入るのは間違いない。俺はともかくライム達が目立つのだ、160体もスライムがいれば目立つだろう。因みに空間部隊から1体出張に行ってもらっている、何をしているのかは後のお楽しみだ。
「ガアァァ……!グルルル」
思考が脇道に逸れている内に見つかったようだ、気を付けねばなるまい。反省は後にして今はこの妙にデカい熊をどうするかだ。
「ガアァァァ!!!」
ブラッドグリズリーが立ち上がって威嚇してくる。…でっけえなぁ…じゃない!?何だアレ?!10mは軽く超えてんぞ、あ、枝に頭ぶつけた。これが動物園なんかの熊なら可愛いなどと言う奴もいるだろうがこうもデカいとそんな気持ちも沸いては来ない。
少し怯んでいた奴が立ち直り走ってくる。30mの距離もそう掛からずに詰まるだろう。故に先手を取らねばならない。
「土属性隊、撃ち方用意、斉射後防御隊で抑える。撃て!」
バシュン!
カタパルトか何かから打ち出されたような音をさせて石が途中でぶつかり合い岩石となってブラッドグリズリーに襲い掛かる。
ガコンッ!!
「そんなのありか!?」
ぶつかると同時に岩が砕ける、対してブラッドグリズリーには外傷が見られない。効果はいま一つのようだ。
「防御隊、あの熊公を抑えろっ!」
防御隊が前に出る、ブラッドグリズリーとの距離はもうほとんどない。防御隊とブラッドグリズリーが接触したとき、ケイタの視界に入ったのは真っ二つにされ体液を撒き散らしたスライムだった。
大変遅くなりすみません。
今回の投稿に合わせて1-1 1-2 1-3を見やすくします。1-4と書き方は同じですのでさほど気にしなくても問題ないかと思います。
今後もよろしくお願いします。
ライム達の数 161体