ネクストステェジ
タイトル変更。さすがにアンコウはメスの方が強いなんてネタタイトルはなかったですね。
私たちはこの世界が刺激もなくつまらないものだと思うことがあるだろうか。
そう言われればあると答えるだろう。だが、実際にそう考えるのはごく稀なときだ。そんなこと考えたって無駄なことだからだ。
だが、そのつまらないことを真剣に考え必死で何かに抗い続けるバカなやつの話である。
こんな説明したらあいつがかっこいいみたいだなぁ。
さて、前の話では私は入学式前だったが無事にそれもなにも面白いこともなく終わり休みを挟んでとうとう学校へ行くというところだ。
すでに入学式でしか学校に登校したことがないがもう3時間のもかかるこの登校時間を億劫に感じていた。最初は五時に家を出れば学校に着くんでしょ不可能じゃないわ。とか思っていたのに理想と現実は常に食い違うものである。多分私が最初に覚えるのは降りる駅で寝過ごさない方法なんだろうなぁ。
今日もそんなことを考えながら必死で3時間の暇を潰して行くのだった。
〜高校〜
やっとついた。私は乗り物酔いしやすいタイプだから電車の中で本を読むスマホをいじるなんてことをしたら口の中から何かリバースすることになる。その何かとはアンコのことじゃないからね。この話をしたらそうやってからかわれたことがある。憎きあんこ。絶対食べてやんない。
と、まあこんなことはどうでもよくて、今日は体育館にまず集合して仮クラスで並んで上級生との対面式があるんだった。その後にクラス決めからの担任発表だ。というかクラス決め遅すぎと思う。
私は入学式のときも使った体育館に入る。一年生は入り口から左側で私は3組だから手前から3番目の塊だ。
私は実にスムーズな動きで3組の塊の場所へ移動して行く。そしていざ3組の前に来たところで反射的にピタッと足が止まった。また真ん中だ。また真ん中の目立つ場所に金色の波動を放つ男がいた。彼の放つオーラは「俺高校から髪の毛茶髪にしたんだ」的な高校デビューした男子「私マニキュアとかして学校来ちゃった」的な高校デビューした女子が弱く見える強さのオーラだ。
彼の名前は新生ワタル。名字は「しんじょう」と呼ぶらしい。そしてその彼は入学式前と同じように髪の毛は金に染められており耳にも金のピアス制服はダボダボに着崩していた。まじ不良。
取り敢えず彼とは近づきたくない。幸いにも今回は自由席のようだ。離れて座ろう。
「お、アンコじゃん。お前髪が赤いからすぐわかったぜ」
憎い!自分の髪の色が憎い!どうしてこうも簡単に見つけられてしまうんだ。
「まあ、どうせだから隣座れよ。てか、この最初の誰が誰だかわからない時期に自由席ってのは辛いよな」
私は仕方なく新生の隣に座る。するといきなりバカなことをいい始めた。
「なにが辛いのよ。別に適当に座ればいいじゃない」
「あー、お前結構サバサバしてそうだもんな。てか、ツンツンしてるよな。デレろよ」
「求めてるものは次元を越えないとてに入らないわよ」
「別に俺ツンデレ好きじゃねえし。ヘソだしジーパンで首のあたりで髪の毛を一本にまとめたお姉さん的なやつがいいし。実は年上萌えなんだ…」
「ほらだんだん本題からそれてるわよ。で、自由席のなにが辛いの?」
私は本題に戻しつつ。きちんと新生の趣味を記憶する。何か使えるかもしれない。てか、なんか具体的でマニアックなのがちょっと気持ち悪い。
「ああ、そのことか。いや、別に普通に考えればわかるだろ。人間誰しも居場所が欲しいものさ。だから自由席にすると仲良くなれそうなやつを探すだろ。ぶっちゃけそれにとらわれる。自由という不自由ですな。まあ、趣旨は違うかもしれないけどテーマが自由の作文みたいなものだ」
んー、確かに作文は自由と言われるとなにを書けばいいのかわからなくなる。まあ、私たちは何かの枠組みに入れられないと安心できない生物なのかもしれない。
「ん?でもあんたは誰もいないど真ん中陣取ってるじゃない。全然居場所探してないじゃない」
そう言うと新生バカにしたように鼻で笑った。今時そんな大げさにバカにしたように鼻で笑う奴がいるとは…。
「居場所を求めているのは普通の人間だけだ。別に俺は居場所を求めてるわけじゃないからな。逆に周りのやつがそんな風にしているなら俺は逆のことをするよ」
なんか、新生は誇らしげにそう言った。
「じゃあ、私は居場所求めてるからあっちの女子に話しかけてくるから」
「まあ、待て。まだ慌てるような時間じゃない」
新生はまた誇らしげに言った。いや、なんでこいつこのセリフを誇らしげに言ってるんだろう。
「例の部活の件について進展はあったか?」
「あるわけないでしょ。その話持ち上がったの少し前のことじゃない。しかも私入るとか言ってないし」
するとあんなに無駄に誇らしい新生が驚いた顔で私の方をみてくる。
「え、おま、入んないのか?」
「いや、最初に言ったじゃない。気が向いたら入るって」
「いや、俺アンコのことツンデレ的なやつだと思ってツンツンしてたけどああ言ってデレただけなのかと思ってた」
「だから私ツンデレじゃないって。現実世界にツンデレなんているわけないじゃない」
「まあ、言われてみればツンデレなんていないか。いや、あまりにもアンコが奇抜すぎて現実と仮想が結構ごちゃごちゃしてたわ」
うん、やっと彼は納得してくれたらしい。よし、じゃあ先日も言ったようにこいつと一緒にいるとろくなことになりそうに無いからあそこのちょっと根暗そうな女子に話しかけよう。多分話は合わないだろうけど合わせようとしてくれるだけこんな奴より百倍ましだ。
「じゃあ、私はあそこの女子とガールズトークしてくるかろ」
「まあ、待て。話は終わってない」
そう言ってまた引きとめられた。
「クソッ…うぜぇ…」
おっと気持ちが表面に出てしまった。まあ、小声だから聞こえないだろう。
「おいお前。今うぜぇって言っただろ」
チッ、こいつ案外地獄耳だな。適当にごまかしておこう。
「いや言ってないわよ。少ししか」
「少しは言ったのかよ」
私は少しだけあげていた腰を仕方なくまた下ろす。また逃亡失敗。新生に看守をさせれば脱獄なんて絶対させない気がする。
「で、部活のことだけど私はもちろんなにも進展してないし、今は入る気もないわよ。新生はなんか進展あったの?」
すると新生はバッグの中からなにやら紙を取り出して私に渡してきた。それに私は目をとおして見る。
それは入部届けだった。
「あの、これをどうしろっていうの?」
「ああ、実は部活を作ると意気込んで早速土曜日に学年主任の先生に相談に行ったんだ」
「うん、その行動力が怖い」
「そこで聞いてみたところたったの二人じゃまず部活は作れないらしい」
「まあ、普通はそうよね」
「だけどな。なんか、既存の部活に入るなら全然OKなわけよ」
「うん、そうね」
「で、ちょうど去年で卒業して部員がゼロの写真部という部活があってだな。俺たちはそこ入部するというわけだ」
「え、その場合どうなるの?」
「俺たちはその写真部に入って取り敢えず部活する場所の確保だ。そもそも活動内容なんて建前だし顧問なんか知らん。つまり、写真部という名前を借りて俺部活に改変するのだぁー!」
いや、俺たちじゃないでしょ。あんた一人でしょ。というツッコミは心の中におさめておいて、こいつ写真部を変えるとか非凡求めて部活を作るとか言ってたはずなのに意外と普通なことをやってきたなぁ。てっきりこいつのことだから己を曲げずに意地でも部活を作るかと思ったのに。さらに言うと部活のメンバーが足りないからそのメンバーを探す話が数話あってキャラの濃ゆい奴らが出てくると思ったのになぁ。
私はそのことを新生に言ってみた。
すると彼は悲しそうな顔をして
「ふっ、俺の行動は理解されないことが多いからな。人生妥協だよ」
と言った。なんだか悲しい過去が新生にはあるようだ。まあ、むしろあの性格で無い方がおかしいというものか。てか、悲しい過去だったら私の方が辛い。
「ともかくだ。俺たちはその写真部に入ってノルマ達成だ。そのあとメアドを交換しよう」
いや、だから俺たちじゃないからね。あんただけだからね。
「はい、話し終わりどっか行っていいぞ」
話が終わったらすぐに手放すのか。結婚したらこいつ絶対亭主関白だ。
まあ、実際のところ早く離れたかったのでゴキブリのような動きで端に行った。
そして、隣の地味目な女の子に話しかけようとした瞬間に前の司会の先生が式の開始の言葉を言った。
結果私は誰とも話さず式を迎えてしまったということだ。え、新生と話しただって?ごめんあれを会話だと言ってしまったら暴言を一方的に言うことが正当化されてしまうからやめて欲しい。
〜まだまだ体育館〜
さて、対面式も終わった。普通こういう上級生が絡むイベントではやはりキャラの濃い先輩方が登場してきたり昔の知り合いが生徒会長してたりするものだが、ここは現実でノーマルだからそんなことは全く起こらない。しかもそんなにキャラの濃い人が出てこれるのは二次元とかだけで現実じゃハブられて挫折して普通に生きようとしても前科があるから今更みんなから認められず悲しい学校生活を送るのがオチだ。リアルがこうじゃないと世界は回らない。
「なあ、アンコ。生徒会長男だったな。この学校マジでなんもわかってねえよ」
だからこんな風に非凡を求めるとかいうわけのわからない男もいずれは現実というもの知って挫折するはずだ。
「そういえば新生はいつから非凡を求める痛々しいやつになったの?」
ふと気になって聞いてみる。こいつが万が一、本当に一万分の一の確率で変な高校デビューしてるなら力ずくで止められるかもしれない。
「フッ…生まれたときからさ…」
「あんたマジで早く挫折しなさいよ」
「えぇ!なんでェ⁉︎」
こいつは絶対高校デビューじゃない。てか、本当に生まれたときからと言われたら納得してしまいそうなくらい彼の存在の異質さは自然なように見える。異質が自然ってそれこそなにを言っているかわからないけど…。
「まあ、取り敢えず今日活動場所となる部室に行ってくだらない一眼レフカメラとかを整理しに行こうぜ。部室大改造計画だ」
「いや、私それ行かないし」
「えぇ!またなんで?俺たちの友情はこんなところで消え失せるのか」
「いや、私対面式前に入らないって言ったばかりじゃない」
「え、そうだっけ?でも、前に確か気が向いたら入るとか言ってたよな」
「それでどうやったら入った気になるのよ」
「新手のツンデレかと思ってさ」
「それもさっき話題に上がってたわよ。全く…年上萌えのくせに」
はぁ、と心の中でため息をする。こいつは都合の悪いことは全てシャットアウトしてしまうみたいだ。
「そっかツンデレじゃ無かったのかぁ。てか、あれでしょ気を向かせればいいんだろ」
「まあ、そうね」
すると新生は顎に手を当てて考えるそぶりを見せたかと思うとすぐにいたずらな笑みを浮かべて私の方を向く。
嫌な笑みだ。とてつもなく嫌な予感がする。
「じゃあさ、山でも登りに行こうか」
「は?」
これは予想外。登山部でもないのに山に登るなんて…。でも実は私運動は嫌いじゃない。山に登るくらいだったら普通に楽しんで登るよ。まあ、確かに急に山に登るなんて非凡っちゃ非凡だけど思ってたより軽い。
「じゃあ、今夜また会おうぜ」
…今夜?
「え?夜に登るの?」
「当たり前だろ。昼に登るなんて邪道なこと誰がするかっての」
私の普通は邪道扱いですか。
彼はまたいたずらな笑みを浮かべて去って行った。
そして、ポカーンとしたままクラス発表と担任決めが始まった。ただクラスと担任は実は仮クラスと同じクラスで担任も入学式のときに擬似HRをした人でしたというわけのわからないサプライズだった。
新生のこと、山のこと、そもそも夜に登って帰ると3時間の移動時間が重く突き刺さることを考えた後に私は一番重要なことに思い当たった。
仮クラスの仮っていらないよね。
そうして私、赤毛のアンコは非凡を求める金髪の少年と今夜山に登ることになったのだ。
さて、小説の投稿の間隔が長くなっているのは勉強を頑張っているから?いいえ学校に行く時間が減ったからです。