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赤毛のアンコ!  作者: @
11/15

ある梅雨

うーんネタがつきますね。

時期は六月の初めあたり。もうこんな時になると高校でできた友達と一緒にカラオケやショッピングなどをして楽しんでいたりする時期だ。ちなみに私はそれらで友達と楽しんだ記憶はない。友達いない。

今、ちょうど帰りのHRが始まるというのに確か今日口を開いていた時間は三十分もない気がする。まあ、普通の人もこんなものだろうけど。え、違うって?それは新生と同類なのかもしれない。


「こんな憂鬱な時に外は雨模様。私の心は窓の景色と鏡写しだわ」


そんなことをつぶやく。

そう、外は見事なまでに雨が降っていた。週間天気予報を見てもこれから先雨が続くらしい。今が六月なので今日がおそらく梅雨入りで間違いないだろう。

そんな感じでぼーっとしている間もHRはスムーズに進んで行く。

因みに今の私の席は窓際の真ん中の席だ。入学から規定の場所に座ってからはや数十日。やっとのこと席替えがあってこの席になったのだ。ついでに新生は窓際から離れたところの前の席だ。席替えをした時は今まで目の前にいた新生と離れることができてラッキーなどと思っていたが、今日みたいに人との交流がほとんどないときは新生のありがたみが分かる。あんたみたいに適当に口を開く才能が欲しいよ。


「はい、これでHRを終わります」


あ、またいろいろ考えてたらHRが終わってしまった。まあ、うちの担任は良くも悪くも普通の男教師なのでたいしたことも言ってないだろう。

私は登下校に三時間もかかるためさっさと帰る準備をする。他の人はなんか友達と駄弁っているけど私の下校事情は厳しいから駄弁れないのは仕方ないね。

私はそれこそ誰にも気づかれずに下の昇降口までたどり着いた。


「やっぱり結構降ってるなぁ」


外を見ると目の前のアスファルトを穿つかのような激しい雨が降っていた。教室にいる時から思っていたけど今日の雨激しい。


「傘さしても濡れそう…」


はぁ、とため息をつく。


「なにため息ついてんだ?」


「雨の時にセンチメンタルになる大人な女性なのよ私は…ってなんであんたがここにいるのよ」


後ろには金髪少年新生がいた。誰にも気づかれずにここまで来たはずなのに…もしかしてこいつ忍者の末裔か。


「もっと驚くかと思ったのに意外と驚かないのな」


「驚いたわよ。てか、質問に答えなさいよ。なんであんたがここにいるのよ」


「いや、俺がアンコと一緒にいちゃダメみたいな言い方やめてくれよ酷すぎるだろ」


「実際あんまり一緒に居たくないし」


「俺の心にクリーンヒット。ガラスのハートがブレイクダウン!あーぁ、一緒に帰ろうとしただけなのになんでこんなに死ぬ思いせにゃならんのだ」


「一緒に帰るってあんたと私は帰る方向違うじゃない」


私は駅に向かって帰るが、新生は一人暮らしのため私とは逆の方向に帰るのだ。


「どーせ家帰ってもやることねーしな。気まぐれだ」


「ふーん」


新生の考えていることを理解することは不可能なため適当に返事する。


「雨が降っているのに遠回りなんて変わった性格ね」


「非凡だろ!」


「そうね」


そういうわけで私たち二人は一緒に帰ることとなった。

一度屋根のある場所から抜けると雨が容赦無く傘を叩く。


「うわぁ、思った以上に降ってるわね」


「確かにすげえ雨だ。でも風がなくてよかったな。風があったらお前なんて飛ばされてるぜ」


「飛ばされないわよどんだけ非力なのよ。山登りの時パワフルな登りを見せたじゃない。忘れたの?」


「あぁ、無駄に運動神経あったな。そういえばアンコは体育の時間とかで目立たないのか。運動出来るんだろ」


「んー、この頃バスケとかしたけど、つい遠慮しちゃってあんまり目立ってない」


「そうか。まあ、プレイで目立たなくても髪の毛ですでに目立ってるんだよなぁ」


「うるさい」


二人一緒に帰ると言うものすごくカップルっぽいシチュエーションにもかかわらず話す内容は平凡そのものだ。新生と付き合ってないから当たり前のことなんだけどね。いや、新生と話してる内容が平凡って奇跡なんじゃないか。


「雨って嫌よね。濡れちゃうしいいことないわ」


私は話題を切り替える。学校の話を継続されると私の精神ライフがガリガリ削られるからだ。


「は?なに言ってんだ。晴れより雨の方がいいに決まってるだろ!雨の方がいいに決まってるだろ!!」


「2回言うとかどんだけ雨好きなのよ」


「台風の方が好きだけどな!」


「それだけ聞くと人の不幸を願ってるみたい」


どーせ滅多に現れない稀有な天気だから好きなだけだろうけど。


「実はお前について来たのも雨のせいだからだからな」


「ふーん。なんで?」


「ほら、俺の家って学校から近くてすぐ着いちゃうじゃん。だから傘を使う時間が少ないわけだ。傘ってのは長く使えば使うほど価値が出る。だからわざわざ遠回りして時間稼ぎしてるんだ」


「考え方が稀有すぎてついていけないわ」


「それにこの雨が傘を叩く音も好きだしな」


「私もそれは好きよ」


よく考えたら雨のせいもあってか新生の調子がいつもよりおとなしい。

いつもならこのタイミングで発狂して街を駆け回って最終的には全裸になるくらいしそうなのに。いや、流石にここまではしないか…。…やっぱしそう。


「ねえ、新生…」


「なんだアンコ。この雰囲気なら告白しても構わないぞ」


「好きじゃない人に告白なんてしないわよ。それよりそろそろ発狂しないの?」


「え、俺しょっちゅう発狂するようなやつに見えてんの!」


「いや、頻繁には発狂しないけど。ほら、なんか今日おとなしいじゃない」


「そう見えるか…。まあ、この雨が俺の気持ちを沈ませるのは自然なことだ。いつも元気に振舞っているがこういう時も必要なのさ。あぁ、ようこそセンチメンタル」


「なにがようこそセンチメンタルよ」


そうか、分かった。普段修羅や桐島との交流が多くて私のキャラクターじゃ満足できなくなってきているんだ。非凡な新生は同じ非凡とつるむ。私はその非凡になり切れてないということなのだ。ここはしょうがない。この重たい空気も続くと辛いしちょっと私の方がテンション上げて見ましょうか。


「新生…」


「なんだ?」


受け取れ私のテンション!


「ギャアアアアア!ギャアアアアア!ギャアアアアア!」


私はその場で発狂した。


「えぇぇぇ!ちょ、アンコなにしてんだ」


「ギャアアアアア!ギャアアアアア…ギャ……」


「ふぅ、止まった」


「…アァァァアア!」


「また始まった!おいちょっと、やめろってアンコそんなキャラじゃないだろ。おい!」


「…黒歴史だわ」


「当たり前だ!」


基本私はテンションそんなに高くないけど上げようと思ったらこんなことになるらしい。恐ろしい。人間の闇を見た気分だ。


「てか、マジで急にどうしたんだよ。雨になるとはしゃぐって。ガキか!」


「あんたにだけは言われたくないわ。あんたがいつもよりテンションが低いから私なりに盛り上げようとしたのよ」


「ふーん。まあ、俺がテンションちょっと低いのはただ古傷が痛むだけでお前のせいじゃないぞ」


「古傷?」


「そうだ。雨になると痛むんだ」


「へー、ちなみにどこが痛むの?」


「えーと、背中かなぁ」


「なんで自信なさげなのよ」


「自信ねえからだよ!くそったれが!雨になると古傷がいたんで傷を負ったあの日を思い出すがアンコの前だから必死に明るく振舞おうとする少年ってかっこ良くね?って思ったんだよ」


「ネタばらしするとかっこ悪いを通り越して憐れね」


「うるせえ!」


フンと言って私の前をズカズカ歩く。ガキかあんたは。


「あ、そうだアンコ」


と思ったらもう機嫌を直して私に話しかけてきた。


「ほらもう梅雨入ってきたしさ。アジサイとかもう咲いてるんじゃね」


「んーどうだろう。もうちょい先でしょ」


「いや、わからないぜ。というわけでどちらが先に花の咲いたアジサイを見つけられるか勝負しようぜ。罰ゲームありな」


「え、いきなり始まるの」


「じゃあ、始めるぞ。はい、よーいどん!はいみつけたー!」


新生はちょうど差し掛かった小さな十字路の横の道に咲いているアジサイを指差した。


「せっこ!」


前を歩いていた新生がもちろん先に見つけるわけであって、多分新生の家から近所ということもありここの道は通ったことがあるのだろう。完璧に勝てる条件下で勝負を持ち出したのだ。せこい。


「じゃあ、罰ゲームな。んーそうだなぁ。じゃあ、にゃーって言ってよ」


「はあ?にゃー」


だいたい勝負の過程から気に入らないので適当に言う。


「ちげえよ!お前猫舐めてんのか!」


それに対し当然怒る新生。


「もっと猫らしくいけよ!猫になり切れよ!お前は猫なんだよ!」


猫じゃねえよ!


「じゃあ、俺が手本を見せてやるから見とけよ。こほん。にゃあ、にゃあにゃあ。にゃー」


「…あんたが罰ゲーム受けてどうするのよ」


「ほんとじゃん!ええい!うるせえ!罰ゲームなんだからさっさねこになれよ!」


「にゃー」


「惚れた。結婚しよう」


「猫と結婚する趣味があるの?」


そんな感じで私達はテクテク歩いて行く。もう最後らへんアジサイとかどうでも良くなってたし。アジサイもっとじっくり見たかったなぁ。


「おい、アンコなにぼーっとしてんだ?」


「ぼーっとしたっていいじゃない人間だもの」


「お、おお…。まあ、そうだな。でも、ほら駅着いたぞ」


「え、もう?」


思ったより早く着いた。多分新生の歩きが速かったから早く着いたのかもしれない。


「じゃあね。電車来ちゃうからさっさと行くね」


私は普通に駅にむかって歩き出す。


「おい、まてよ」


しかし、新生に引きとめられてしまった。


「なによ」


「今、雨の中で男女2人が向かい合うというシチュエーション。俺がこれからなにをするか分かるよなアンコ」


あ、雨の中二人で向かいあってすること?一体なんだろう。


「じゃあ、いくぞ」


そう言って新生はゆっくりと近づいてくる。なにをするかはわからないが不思議と私の鼓動は早くなっていった。

そうして、新生は私の目の前で立ち止まる。呼吸の音が聞こえそうだ。


「なあ、アンコ」


囁くように新生は言った。


「なによ」


なぜか私は早口になってしまった。鼓動の音が相手にも聞こえそうだ。


「どっちが死ぬ役する?」


「どういう状況よ!」


私はドン!と新生を突き飛ばす。そりゃドキドキするわ!命の危険が迫ってたんだから。


「もう私帰るからね。あんたも馬鹿みたいなことせずさっさと帰りなさい」


そうして命の危険のあるデスゾーンを抜ける。後ろから『待てぇアンコォォォ』なんて聞こえるが気にしない。


無駄な茶番があったけどなんとか駅にたどり着いた。早めに着いたと思うので変な新生の茶番があっても余裕で間に合うだろう。


「あれ?」


そう思っていたのだが、いつも乗っている電車はとっくに発車していた。


なるほどそうか。確かにあれだけ変なことやっていたらそりゃ遅れる。

では、なぜ私はいつもより早く着いたと思ってしまったのか。


「ふふっ」


私は少し笑ってしまった。


楽しいことをすれば時間が過ぎるのは早い。私は新生との下校が楽しかったのだ。


「明日も雨降るといいな」


この日私はあんなに嫌いだった雨がほんの少しだけ好きになった。











〜駅のホームにて〜


『雨天のため運行見合わせ…』


もう、雨なんて2度と降るんじゃねえ!

アンコ発狂は僕にとっても黒歴史です。次は定期試験の話でも書こうと思ってます。

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