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落下恋

作者: かいむ

リハビリがてら。

 学校に先生が来たのは私が2年生に進級した春だった。

 まだ大学を出たばかりだという先生は緊張した様子で始業式にいたのだ。

 私はその姿を見た瞬間心を奪われた。少しこわばった顔に短く切った髪。校長のどうでもいい話など耳に入らずただただ彼を見ていた。


 先生は私のクラスの担当をすることはなかった。すごく残念で校長に講義しに行こうかとも思ったけれど、私にはそんな勇気などあるはずもなかった。

 たまに廊下で見かけては喋りかける事もできずに眺めているだけだった。

 他の女の子と喋っていたら嫉妬して。

 あくびをして油断した顔が見られたらそっと笑い。

 なにやら悩ましげな顔をしていたら影で心配し。

 そうしてただ遠くから眺めていただけだったのだ──その日までは。



 その日は、いやその日も私は放課後一人で自分の席に座っていた。窓際後ろから二番目。

 何をするでもなく、ぼんやりとしていたのだ。

 帰宅部の私は誰かと放課後に遊びに行く約束でもしていない限りこうやって一人赤く染まる空を眺めている。

 別段いじめられているとか、家に帰りたくない理由があるわけではない。なんとなく先生のいる学校という空間に長く居たかっただけということはあったかもしれないけれど。

 頬杖をついて、窓の外に目をやりながら消しゴムを手で転がしていた。

 ──あっ!

 と思った時には開いた窓から消しゴムはスッと落下していった。

 焦って窓から覗きこむも4階の教室からは小さな消しゴムは見えなかった。

 4階。そう4階なのだ。1階は職員室や保健室があり、2階には3年生。最上級生はなにかと優遇されるのだ。3階には1年生、まだ慣れないだろうからと。そして割りを食うのが私たち2年生なのだ。毎日4階まで上がるのは何気にしんどかったりする。

 私はそんなどうでもいいことを頭に浮かべると教室から出て消しゴムを探しに行った。


 上履きから履き替えて教室の下まで来ると地面を見渡し消しゴムを探す。

 だけど見つからない。確かにここに落としたはずなんだけど。

 すると突然目の前の窓が開いた。

 そこから出てきた顔を見て私の呼吸は一瞬止まった。いや、世界が停止したようにすら感じた。

 先生、だった。

 先生は私にどうしたのと声をかけた。

 とっさのことに何も返せない。何か言わなくちゃと焦燥は募るばかりで肝心の口は動かない。

 ん? と不思議そうに首を傾げる先生に悶そうになりながらもなんとか声を絞り出す。

 落し物を探していると伝えるのがこんなに大変だとは思わなかった。しどろもどろになりながらなんとか伝えきり(無駄にイレイザーと英語で言ってしまった)先生は職員室から出てきて一緒に探してくれた。

 私は恐縮しながら夢の様な時間を過ごした。

 消しゴムはすぐに見つかったが、むしろ助かったのかもしれない。これ以上一緒に居たらどうにかなっていたかもしれないし、話しかけてくる先生に上手く答えられた気がしなかった。


 先生が見つけてくれた消しゴムは箱に入れて机に大事にしまった。



 それからしばらくは特に何もなく過ぎ去った。

 あとで知ったことだが先生の職員室の席はちょうど私の教室の真下辺りの窓際だという。それで私を見つけて手伝ってくれたのだろう、なんて優しいのだ。

 何もなく過ぎていたのだけれど、それは先生と一緒に消しゴムを探すまでとは何かが違った。

 一度身近に感じてしまった先生は、今まで白馬の王子様だと関わることも出来ないと思っていたのが、急にどこにでも居る村人になったようだった。だけれどもそれは不思議と今まで以上に魅力的に思えたのだった。

 そのせいで先生が他の子としゃべっているのを見かけた時の嫉妬は大きくなり、もっと近づきたい、またしゃべりたいという思いも膨れ上がっていったのだった。



 いつものように放課後の教室。

 私はいつかのように消しゴムを窓から落とすのだった。

 故意に、いや恋に惑わされ。先生とまた話せますようにと願うようにそっと消しゴムを窓の外へと手放した。

 そうして教室の下まで来て消しゴムを探し始める。それはすぐに見つかった。だけどそれでは意味がない。

 私は足でそっと押し落ち葉で隠した。

 しばらくウロウロと消しゴムを探しているふりをしていると、窓が開くのだった。

 先生は心配してくれて、また一緒に探してくれた。

 今回はちゃんと先生と会話ができたそれが嬉しくて、いつも放課後で何をするでもないのに残って勉強してるなどど見栄を張ってしまった。



 それから何度かそうして消しゴムを落として先生と話すのだった。

 消しゴムだけではなくシャーペンや筆箱などモノ変えたりした。モノが大きくなると落ちてきたことを先に気づいて先生が拾って待っていてくれることもあった。私のために先生が待っていてくれるなんてそれだけで嬉しかった。

 こうして会うたびにだんだんと先生は私のことを気にかけてくれるのだ。なんでも相談にのるぞ、と。なにか悩んでることはないか、と。

 先生が一人の生徒に肩入れしたらダメなのに。私はなんだか浮かれた気分になるのだった。



 邪魔モノが現れたのはすぐのことだった。

 その女が先生と話しているのを最初に見たのは職員室の前で。やけに親しげに二人は喋っていたのだ。それから何度かそうしてその女と先生を見かけるのだった。

 あろうことかその女は私の一番親しい友達、親友とも言える存在だったのだ。2年生になってからはクラスも違いそんなに話すこともなくなったが、確かに一番親しい友人だったのだ。

 なのに、それなのに私から先生を取ろうとするなんて……。信じられなかった。


 すると彼女が私に話しかけてくるのだった。

 私は話すことなどないと突っぱねるのだけれど、強引に話しかけてくるのだ。

 彼女は先生が私がいじめられているんじゃないかと心配しているなどと言ってきた。

 私はいじめられてなどいない。意味がわからなかった。

 それから彼女は色々と言っていたが、ようするに私と先生がもう関わらないようにと言っているのだ。やはり私から先生を奪っていくつもりなのだ。

 私は我慢ならず、もう私と関わらないでと言い放ち彼女を突き飛ばすのだった。






5月20日(火)

許さない!

私と先生を離そうとするなんて。

あいつにそんな事させない。明日もまた先生としゃべるのだ。

先生は私と居るべきなの。

私と居ないといけないの。

私と先生。

先生……。

そうだ明日は先生にいち早く気づいてもらうためにもっと大きなものを落とそう。



5月21日(水)

先生はやっぱり先生だった。

あの女はあんな事言っていたけど、先生は変わらず私を気にしてくれる。

今日はカバンを落とした。

大きいだけあって先生はいち早く拾ってくれた。

私に声をかけてくれて顔を覗きこんでくれた。

明日も先生と話したい。



5月22日(木)

嫌だ嫌だ嫌だ。

先生は私を見てないと。

先生は私に話しかけないと。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

ありえないありえない。

あのおんなだ。あの女のせいだ。

カバンを落としたのに先生が来ないなんておかしい。

なにかしたのだ。あのおんなが。

先生が離れていく。

先生としゃべれない。

嫌だ嫌だ嫌だ。

あしたはもっと大きいモノを落とさないと。

あと私のもので大きいモノは何もない。

そんな、これ以上大きいモノはない。

先生が奪われえる。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

先生は私のもの。

先生は私に話しかけて私に笑いかける。

なにか私のもので大きなもの。

なにもない。

あとはワタシくらいしか……。




































 ──ぐしゃり



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