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奇術師は鼠を連れて

1


「行ってらっしゃいませ」

透き通るような声の主は天地桜。白髪赤眼でメイド服の少女だ。彼女は人形のようという言葉が当てはまるような雰囲気が表れている。

「行ってくる。情報があったら教えてくれ」

少女の見送りに応えたのは、寝癖が直しきれていない少年。髪の質が硬いのか、ついた寝癖が僅かに髪型を歪めている。これでも学業は優秀で稀代の天才と呼ばれる素質のある1人だ。

彼等は世界中で問題になっているドラゴンを製造したという秘密がある。その責任から事態の沈静化を図ったが、一昨日に失敗したばかりだ。

(あのブレザーはもう捨てるしかないな。昨日買い換えて正解だった)

ドラゴンとの戦闘により学校の制服は見るに無惨な状態だった。擦り切れたところはまだましで、焼け焦げた痕や血痕まであったのだ。

歩みを進めると、4人の男女が赤月を待ち構えていた。その中の金髪碧眼の少女が赤月に声をかける。

「おはよう。赤月君」

「おはよう。如月。何で他の皆んなも一緒なんだ?」

「何でじゃないだろ。ドラゴンが世界的に問題になってんだ。お前に訊きたいことが沢山あんだよ」

茶髪の少年は黒瓜といって、この赤月を含めた5人の所属するオカルト研究部の部長だ。

「ちなみに昨日はドラゴンの写真を沢山撮りました。なぁ、玉城はん」

「ヒメリー、余計なことは言わなくていいさ」

この4人は赤月がドラゴンを生み出したことを赤月本人から聞いた。なので彼等もドラゴンについて深く関わっている。

「で、訊きたいことって?ドラゴンの超能力についてか?」

「ええ、あの炎はそうなんでしょ?それより、これからドラゴンはどうするのよ?」

如月は携帯端末の画面に描かれている記事『東京に続き、世界各地でドラゴンが出現』を見せてくる。

「今は一時休戦。各国の軍隊が倒してくれれば儲けもの。できなかったときの為に今はデータの解析をしているよ」

「そうなら今わかってる情報は教えなさい」

赤月は学校に到着するまでの20分。13に及ぶ項目の質問と闘った。


その200メートル後方。一人の少年が登校している生徒を眺めていた。

その少年は血が通っているのかと思う程に赤い髪を肩まで垂らし、まるでオオカミを思わせる瞳をギラギラと輝かせている。

「『へー、アイツがドラゴンの。確かに同じ匂いだ』」

言葉は北欧系の言語で周りにいる人間には彼の言葉を聞き取ることも難しい。

それよりも少年が放つ狂気にもにた雰囲気に周囲の人々は恐怖を感じて近づくことを躊躇っている。

「それじゃ、あとでお邪魔するよ」

そう言い残すと少年は風の如く姿を消した。


2


「マサ、なんで先週の木曜と金曜休んだんだよ」

赤月はやっと質問攻めから解放され、教室に入ると染めた金髪の少年から問われた。

「ドラゴン」

「お前あれを追いかけてたのか!?危ないんじゃねえの?確か自衛隊でも歯が立たなかったって言われてるだろ!」

するとその声にクラスの40人が一斉に喰らいついた。

「ドラゴンなら昨日飛んでるところ写真に撮ったよ。ホラ」

「昨日俺も探したら見れたぞ」

「私はニュースを見るまでわからなかったなー」

近所で不思議な生き物が空を飛んでいたら話題にもなる。既に学校中がドラゴンの話で持ちきりになっていた。

「『おはようございます。出席を取るから席に着いてくださいネ』」

クラスに金髪の眼鏡美女が英語で注意しながら入ってきた。

2年3組の担任のフィーリア・アリソンはイギリス人で母国語の英語が担当教科だ。そのスタイルは女子が妬み、男子が二度見するほど良い。三つ編みと赤縁の眼鏡がトレードマークになっている。

「Mr.赤月」

「はーい」

「『先週の件のことがあります。この後で職員室に来なさい』」

「『わかりました。できるだけ手早くお願いします』」

「『貴方次第です』」

フィーリアは赤月の態度に憂いていた。担任としてもだが、オカルト研究部の顧問としても心配していた。

(成績は良いのにね。もっと真面目に…真面目に勉強もしてくれてはいるのに。後で話をちゃんと聞かないといけませんね)

次々に出席の確認を取っていく。今日は2年3組に欠席はいないようである。元気でない生徒もボーッとしている赤月を除いてはいなさそうだ。

(やっぱり怒られるのかな。今日はドラゴンは飛んでいるかな?…ん、あれはコウモリか。珍しいな昼間にコウモリが飛んでいるなんて)

赤月が向ける窓の向こうにはコウモリが宙を舞っていた。翼はドラゴンそっくりなので見間違える人だっているかもしれない。

「今日も皆さんがいて良かったです。Mr.赤月は来てください」

フィーリアについて生徒指導室に行くとオカルト研究部が集結していた。

「皆さん、警察から連絡がありましたヨ。なんであんな危険なことをしたんデスカ?」

「「「「「興味本意でやりました」」」」」

まるで事前に合わせていたかのような返答にフィーリアは顔をしかめる。

「下手したら皆さん死んでいたんデスヨ。これからはしないと神に誓ってください!」

「「「「「………」」」」」

「何で黙るんデスカ?ワタシは皆さんに怪我なんてして欲しくないんデス。だから誓ってください!」

「「「「「はぁ、わかりましたよ」」」」」(((((多分))))))

「聞こえましたヨ!何でこんなに言うことを…」

フィーリアの言葉を遮るように、

「「「キャー!!」」」

下の方から複数の女子の悲鳴が聞こえた。その声は止むことはなく響き続けている。

「皆さんはここにいてくださいネ!」

フィーリアは教室から出て廊下で他の教師と状況を確認している。もしも緊急事態ならば生徒を避難させる必要があるからだ。

「キャー!」

「うわっ、なんだ!?」

「ね、ネズミ!」

廊下にいる教師達も悲鳴を発する。その声が聞こえたかと思うと、教室にネズミが床を埋め尽くして侵入してきた。

「「「キャー!!!」」」

「ヤバい!逃げろ!」

教室から数人の生徒が逃げ出そうとするが、時既に遅く、廊下も一面ネズミで溢れていた。

「机に上がれ!早く!」

黒瓜が指示するよりも速く全員机に登る。

(なんだこれ?何で急にネズミがこんなところにこんな数いる?何で登ってこない?人を襲ってないのか。まるで操られているみたいに…)

赤月は冷静にネズミの行動を観察し、ネズミ達の目的を探ろうと試みる。

「うわぁッ!何やアレ!?」

今度はバチバチとコウモリの大群が窓に突撃している。

(ネズミは上の階を目指している?コウモリも学校の上に集まっているみたいだ。もしかすると屋上に原因があるのか?)

赤月はネズミだらけの床に足を降ろし、扉に手をかける。

「おい!どこ行くんだ!」

「ちょっと行ってくる」

「待って!私も連れていって!」

予想外の発言の赤髪の動きが止まる。

「何で?如月はコレの中を歩けるの?」

「無理よ!だから運んで連れていって、私も興味あるの!」

理不尽な頼みだが、赤月は1人よりも2人なら罪は軽くなると考え、

「はぁ、仕方ねぇな。俺を減刑しろよ」

「わかってるわよ。キャッ」

赤月は如月をお姫様抱っこの形が抱えて、廊下に跳びだす。まだネズミが大行進を続けているので、殺しはしないものの数匹踏みつけてしまった。

(やはり上に向かっている。これがもしもドラゴンが原因なら俺が対処しなければ)

足下にまとわりつくネズミなど蹴り飛ばして、赤月はネズミの行き先に追っていく。窓から見えるコウモリの大群もどうやら学校を囲むように渦を巻いていることがわかる。

「面倒くせえ。邪魔だ!」

廊下を走る自分を誰も見ていないことを確認すると赤月は目の前にいるネズミを風で吹き飛ばしていく。宙に浮いた数匹が体に飛んでくるが、更に風を起こしてなぎ払う。

「凄い…これが超能力…」

「舌噛むなよ」

赤月は全速力で駆け出していく。


赤月が半開きのドアを蹴り開けると、

「コンニチワ」

屋上には血で染めたような赤髪の少年が佇んで、赤月達におかしな発音の挨拶をしてきた。

「Can you understand English?(英語がわかるか?)」

「…Lettle(少しね)」

赤月の質問に答える赤髪の少年はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべ名を名乗る。

「I'm Anred Andersen.(僕はアンレッド・アンダーセンだ)」

「What is the purpose?(目的は何だ?)」

アンレッドと名乗った少年を中心にネズミが集まり、コウモリが竜巻のような巨大な筋を形成している。彼は赤月を指差して、

「You.(君だよ)But good-bye.(でも、さよならだ)」

少年は言葉を言い終えると駆け出して、躊躇なく屋上から飛び降りる。その直前に一瞬だけ振り返り、

「Let's see again if you live!(生きていたら、また会おう!)」

その言葉を合図にしたかのように屋上に集合していたネズミとコウモリが赤月を襲った。

「上等だ。次会ったときは俺の番だ」

赤月の周りを旋風が覆い、土埃の如くネズミとコウモリを吹き上げていく。しかしネズミは屋上から落としても一向に減らず、コウモリは飛び直してくる。

「ちっ、面倒だな。やっぱり燃やすか」

赤月は一度大きく風の防壁を大きくし、その防御を解く、

「燃えろ!」

赤月達の近くネズミやコウモリは数秒で灰と化していく。だが、数が多過ぎて対処が追いつかない。

「キャッ!あっちいって!」

超能力を潜り抜けた1匹のコウモリが赤月の腕の中へ飛び込んでくる。抱えられていた如月は振り払おうとするが、

「おい!静かに、しまった」

集中が乱れた赤月は多くのネズミとコウモリを逃してしまう。そしてネズミたちが赤月達に飛びかかってきた、


「いや!!!」

ネズミが波のように、コウモリが雨のように迫る直前、それらは見えない手に弾かれたように屋上から押し出された。同時に骨が軋み擦れる音も雨音のように鳴る。全てのネズミたちは屋上から落下していく。

「なんだ?俺の風じゃない。風は吹いてない」

「はぁはぁ、もう…いや…」

赤月の腕の中で如月が気を失ってしまった。直ぐに呼吸を確認する。

「良かった、問題なし。今のでネズミも全部死んだみたいだな」

屋上から落ちたネズミもコウモリもピクリとも動かなくなっている。

(まさか、如月がやったのか?超能力…俺の周囲の人間の覚醒。いや、それよりあの赤髪か)

赤月は襲撃者の顔を思い浮かべて、奥歯を噛み締めた。


3


(…う、私はネズミに襲われてたはず、気を失って、)

如月が目を覚ますと、そこはいつも訪れる教室だった。隣にいた見慣れた顔を見て確信する。

「大丈夫デスカ?Ms.如月」

「気を失ったらしいさ。ここは部室さ」

玉城は騒動のショックで気を失ったり、気分を悪くした生徒が大勢いたため、保健室ではなくオカルト研究部の部室に連れてきたことを説明する。

「赤月君。あのネズミは?」

「全部死んだよ。それよりお前達に話さなきゃいけないことがある」

「あの、フィーリア先生。ちょっと職員室に…」

会話を遮って少し髪が薄い教師が部室に入ってきた。

「わかりました。皆さんはここにいてもいいデスけど、できれば教室に戻ってくださいネ」

フィーリアはそう言って部室から出ていき、そこにはオカルト研究部のメンバーのみが残った。

「で、話は何だ?かなり重要そうだけどな」

「ああ、これはまだ確信が持てなかったから伝えてなかったことなんだ」

赤月の表情が曇る。その暗い表情のまま、淡々と超能力の覚醒について説明する。

「じゃあ、私は超能力を使ったの?」

「ああ、それも屋上中のネズミとコウモリを吹き飛ばして、その命を刈り取った」

「それはかなり凄いことどすえ」

須佐は嬉々とした顔で興奮している。それは超能力への憧れがあるからだろう。

「じゃあ、俺にもチャンスはあるのか?魔術の方はわからないか?」

「知らん。この能力が超能力なのかかも定かじゃないんだ。ただ覚醒しても使用しないでくれ。暴走してしまうこともあるかもしれない」

赤月の扱う能力は強力である。その気になれば家一軒を上空に吹き飛ばし、ものの数分で焼き尽くすことが可能である。偶然に発動した如月でさえ、数千匹を越える対象を骨まで破壊したほどだ。暴走すれば多大な被害が出ることは間違いない。

「ええ、気をつけるわ。でもどうやったのかわからないのよ」

「そう言えば玉城、如月から何か感じるか?」

玉城は霊能者だ。霊を視るだけでなく、人のオーラの類いも視ることができるらしい。赤月が超能力を発現したとき、オーラの変化からそのことを見抜いたのだ。

「ううん。変わってないさ」

「そうか。わからないことばかりだな」

「なあ、その襲撃者も超能力なんだろ?そいつなら何か知ってるんじゃないか?」

このとき赤月と如月は赤髪の少年を思い出した。何かドラゴンを知っているようだったが、超能力のことは語ってはいなかった。

「ネズミは何かに取り憑かれてたさ。もしかするとその人も霊能者じゃないかや?」

「ネズミを使役しなはるなら何かの術かもしれまへん」

「どちらにしろ何処に行ったかがわからないから話を聞くのは無理だろう。それに黙って話しをしてくれるほど大人しくはしてくれないだろ」

突然校内放送が響く。

『今日はもう下校となります。皆さん下校の用意をしてください』

「やっぱりそうなるわね。私はもう大丈夫よ。早く教室に戻りましょう」

しかし如月が立ち上がると、ふらりとバランスを崩してしまう。

「無理するな。あの能力は何があるかわからない」

「そう言えば如月はんはあのとき、お姫様抱っこしてもらてましたよね?」

今現在も赤月に体を支えてもらっている如月の顔が耳まで赤くなる。突然のことだったので自分の状況が理解できてなかったのだろう。自らの醜態を思い出して顔を覆ってしまった。

「あの…別にそういうことじゃないわよ。あのときは精一杯で、ねぇ赤月君」

「ああ、あのときは如月のお陰でどうにかなったんだ。如月がいてくれて良かったよ」

赤月が素直にお礼を言ったので、顔が更に紅潮する。如月としては好意などでやったことではないと否定して欲しかったのだ。

「なら、今日は家まで送るよ。あいつにはお前も顔が割れてるからな」

赤月のその言葉は如月にとっての止めとなった。お姫様抱っこ、共に命の危機を乗り越える、登下校を共にするといった行動は恋人同士の行為であることを知っている如月からすれば、穴があったら入りたい気持ちなのだろう。

「赤月君、本当にデリカシーの方向がズレてるのよ」

その言葉の意味がわからず首を傾げてしまう赤月に如月は溜め息を零した。

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