竜は伝承を呼び起こす 後編
4
火を吹く生き物。そう訊かれれば大半の人はドラゴンと答えるだろう。しかし、その誰もその存在を否定する。では、1人の少年の瞳に映る光景はどう言い表すべきだろう。
「これが、自衛隊を全滅させた一撃か!」
ドラゴンは必殺の一撃を外したことなど気にせずに、空中にいる敵をもう一度焼こうと咆哮をあげる。
「ギャアアアアアア!!!!」
(ヤバいな。俺は空中歩行なんてできるほど風は操れないぞ)
そんな焦る赤月などお構いなしに、熱の塊が光を放ちながら赤月へと迫る。
「なろっ、このぁぁあああああ!!」
火炎は赤月の身を焼くことなく、空気の塊により吹き散らされる。その風の中心から降下する人物はドラゴンに向かい鉛の弾を放つ。
「クソっ、外したか」
赤月が着地したとほぼ同じタイミングで、ドラゴンは空中えと飛び立つ。ここで形勢が再び元に戻る。ドラゴンは空に戻ると地を這う時とは比べ物にならない程に動きに速さがある。
(マズいな。こっちが圧倒的に不利だ。まだ炎の仕組みがわからないのによ。ドラゴンにそんな器官はないはずだ、いやない。なら、どうやって火を吹くなんて…)
ドラゴンの姿が歪む。また空間が炎に満たされていく。凄まじい上昇気流が火炎を空中に霧散させる。
(どんなってやがる。本当に炎を吐いているようにしか見えねぇ。?違う、ドラゴンの口から出てるわけじゃない…)
赤月は全力で走り、ドラゴンの側面へ回り込もうとする。それは攻撃のためではなく、ドラゴンの生み出す炎を観察するために。
(見えた!吐いているんじゃない、ただ前に炎を発生させて…どうなっ…て、超能力か!)
赤月は視認して得た情報と頭をフルに使い推理する。そして打開策を練ようとするが、ドラゴンはそんな暇を与えない。
ゴウ!そんな音と共に空気が爆ぜる。赤月は身を放り出して回避する。熱が赤月の衣服の端を焦がしていった。
5
数十分前。
「今日は土曜だからって、部活する必要はなくね?昨日は赤月から首突っ込むなって言われたろ」
オカルト研究部のメンバー、黒瓜、如月、玉城、須佐はとある喫茶店に集合していた。
「確かにそうは言われたけど、これはチャンスなのよ!」
「チャンスってどないな?」
須佐はジュースを飲むのを止めて如月に尋ねた。
「未確認生物は赤月君の担当だけど、きっと写真なんて撮っている暇はないはずよ」
「写真?なんのことさ?」
如月は何やら苛ついている。
「私たちはオカルト研究部よ。今までは生徒会からも予算を削られる的になっていたけど…」
「そりゃ、何も成果らしい、成果を出していないからだろ」
だから、と如月は声のボリュームを上げる。
「今回、ドラゴンの写真や動画を撮って意義を示すのよ!これで何とか生徒会に対抗できる」
「「「あー、なるほど」」」
やっと他の3人も如月の意見を理解した。
「でも、手は出すなって言ってたさ」
「危険なことにならなければいいの。飛んでいる姿を撮るだけでも充分なんだから」
「あてはありまへんやろう?」
すると如月は携帯端末を取り出して画面をみせる。するとそこには、
『ヤバい、ドラゴンが空飛んでる』
『この写真マジなの?』
『マジだよ。私も見た』
『なんか自衛隊とか機動隊なんかが出てるみたい』
様々な書き込みがされていたが、そのほとんどがドラゴンに対するものであったのだ。
「なるほど、そいつらの証言通りなら目撃するのは簡単そうだな」
「そう言うこと。それじゃ探しに行くわよ」
その頃、赤月はドラゴンと戦闘を繰り広げている時。
「おい!いたぞ!速く撮れ!」
「わかってはるよ!」
4人は空を見上げながら街中を走り回っていた。彼等の他にもドラゴンを捜している人物もいるようだが、即時新しい情報を手に入れているオカルト研究部は群を抜いて撮影に成功していた。
「あれ!ドラゴンが3体もいるさ。なんか同じ方向に飛んで行ってるば?」
「追うわよ!あの写真はレアなはず」
その方向にある人工林には赤い揺れる光があることなど4人は知らず、駆け出した。
6
バン!一瞬で弾丸は数百メートルまで飛んでいく。しかしその道筋にはドラゴンの身体は入っていない。
(やっぱり銃じゃキツい。ど素人には無理だろ)
赤月は苦し紛れで弾丸を放ったが、当たる気配がないので諦める。
(本当にゼロ距離じゃないと当たらなそうだ。それより炎のタネを暴かないと、本当に死ぬ!)
完全に赤月は押されていた。人工林の中をグルグルと駆け回り、何とかドラゴンに狙い撃ちされないようにするのが精一杯だった。
(ただ何となくだけどわかってきた。炎は超能力、なら、俺にも使えるはずだ。けど隙がない。一か八か!!)
赤月は木の枝を踏み、大きく跳躍する。ドラゴンは赤月の姿を見ると空かさず炎を放つ。しかし赤月の肉体は一つの火傷も負わない。
赤月は空中を跳ねたのだ。
気流によって急上昇した赤月はドラゴンの上を行った。ドラゴンは獲物の姿を見失い、大きな隙を作ってしまう。
(炎、いや、熱!圧倒的な程の熱!!)
ドラゴンが上方を見上げると同時、ドラゴンの身体は火に包まれた。
「ギャアアアアア!!」
空中で暴れ狂いながら、ドラゴンは地面へと墜ち、這い回る。
「終わりだ!!」
赤月は体で銃を固定し、真下のドラゴンを狙う。
「ギャ!!ギャッ、アア!」
ドラゴンの膜のような翼には穴が開く。攻撃はそれで止まない。赤月は引き金を引き続ける。
バン!バッバン!!と音よりも速く、弾丸はドラゴンの身体に傷を付けていく。
(あと4発、3発だったか?リロードなんてしたくないな。次で止めをさす!)
ドラゴンの翼には2つの穴、身体も2個所血が流れ出ている。痛みで動くことを止めているドラゴンに赤月は近づいていく。ドラゴンが逃げるために地を這おうとすると、
「動くな」
ドラゴンの硬い皮を銃弾が貫く。しかし、まだ致命傷にはならないようでドラゴンは赤月を睨みつけている。
赤月はそんな眼を銃口に合わせる。距離は2メートル、一般的な射的ゲームと同じくらいだろう。
銃の引き金が引かれ、音よりも速くドラゴンが絶命する。
直前、赤月はその場を飛び退いた。
気づいたのは音だったのか、殺気だったのか、同じ因子に反応したのか、赤月のいた付近をドラゴンの恐爪が過ぎる。
数秒前まで死が迫っていたドラゴンを守るように、3体のドラゴンが立ち塞がったのだ。
(クソっ!!あと少し速ければ!)
こうなってしまっては無闇に引き金を引くことはできない。たが、赤月は攻撃を始める。
(纏めて焼き殺す!!逃げてもそいつは死ぬ!)
赤月の周りから炎が噴き出し、ドラゴンの集団を襲う。炎はドラゴンを大きく呑み込むように覆い被さる。
その熱の波は風の爆発により吹き飛ばされる。渦を巻くように全方位から炎が迫るがドラゴン達を焼くことができない。
(!!やり返してくるか!)
赤月は自分を襲う熱を感じとる。
(仕組みは理解している。空気に熱エネルギーを与えてプラズマにしている。同時にその熱の伝達も操作はできる)
赤月の身を焼き尽くすはずの炎は、赤月の目の前で見えない壁に当たったように弾き返された。
「次は俺の番だ!!」
赤月が火炎を生み出そうと熱を発し始め、
「いた!ドラゴンが3、4匹もいるぞ!」
聞きなれた声を耳にした。その方向から4人の高校生がカメラや携帯端末を持って木々の中から現れた。
(何でここに!?まさか、そいつらを追ってきたのか!!?)
焦った赤月は火力が不十分なままドラゴンにぶつけてしまった。その炎は風によって消し飛ばされる。
「しまた!逃げられてまう!」
4つの影が飛び立った。
「何で、」
赤月の口から驚愕の声が漏れる。何故なら、瀕死寸前だったはずのドラゴンは傷痕すらなくなっている。
「「「「ギャアアアアァァァ!!」」」」
ドラゴンは同時に方向し、各々の方向へと飛び去ってしまった。